ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
11話
「なっ!えっ?」
 突然の事にあたふたするリリア。
 またも顔を赤く染める。
「くっくっくっ」
 そんな様子に笑ってしまうスレイ。
「スレイ君!!」
 怒ったように怒鳴るリリア。
「いや、すまない。あまりにリリアの慌てた様子が可愛くてな」
「なっ!?」
 あっさりと放たれた可愛いという言葉に絶句するリリア。
 そんな様子を見て、やはり可愛いな、とスレイの口元に笑みが浮かぶ。
 その鋭敏なスレイの感覚は、ストーカーの気配が激昂に変わった様子を感じ取り、そちらには心の中で意地悪な笑みを浮かべていた。
 リリアの全ては自分の物だと優越感を以って主張するよう、また見せ付けるように、ますます深く頭をリリアの太ももに沈める。
 リリアはますます赤くなり硬直し。
 ストーカーの気配はますます激昂に染まる。
 そんな中で悠然とリリアの太ももの感触を堪能するスレイ。
 暫し経ち、やっと硬直から回復したリリアが、まだ顔を赤く染めながら、スレイに言った。
「スレイ君、この格好は恥ずかしすぎるから、止めない?ほら、周囲の人も見ているし」
「イヤだ」
 リリアの言うように、公園内を歩く家族連れはなにか微笑ましいものをみるような温かい眼差しで見つめてくるし、カップルなどはスレイ達の姿に対抗心を刺激されたようにそれまで以上にイチャイチャし始めている。
 逆に独り身の者達は、視線で人が殺せたら、といった凄い眼で睨んできていた。
 だがスレイはあっさりと子供の様に拒否する。
「い、イヤだ、って!」
「リリアの太ももの感触は最高だし、天気も良いし、リリアの反応は可愛いし、このまま眠りたい気分だ」
「ちょ、ちょっと!」
 焦ったようなリリア。
 その様子にやはり僅かに意地悪そうに笑いながらスレイは言った。
「冗談だ、眠るつもりはないさ。それよりリリアの太ももの感触を存分に堪能したいからな」
「なっ!?」
 もうリリアは完全に唖然と言った様子だ。
 反撃どころではない。
 スレイの攻勢を凌ぐのすら限界に近かった。
 表情からしてこれを全て分かってやっているのだろうから性質が悪い。
 はっきり言ってこんなスレイなど予想外だ。
 と、言うか、初めにこの迷宮都市を訪れ、探索者ギルドにやって来た時の初めて会ったスレイ。
 そのスレイの印象から完全にかけ離れていた。
 確かに少しずつスレイの印象は変わっていっていた。
 だが、たかが約2ヵ月半でここまで性格が変わるものだろうか?
 リリアにとってはたかが約2ヵ月半でスレイがSS級相当探索者に昇格した事よりも衝撃的であった。
 鑑みるに、恐らくはこちらのスレイの方が地に近いのだろう。
 本性が出てきたと考えれば、僅かな期間での変貌にもまだ納得がいく。
 嫌な訳ではない。
 こういうスレイも嫌いじゃない。
 むしろ自分に地を見せてくれて嬉しいくらいだ。
 だが納得がいっても、嫌じゃなくても、嬉しくても、恥ずかしさが減る訳ではない。
 周囲の視線が気になって仕方が無い。
 と、言うか幼少時からこの迷宮都市で育ったリリアには、この迷宮都市に知り合いが多いのだ。
 実際、何人か知り合いを見掛けた気もする。
 リリアのこのデートの様子は知り合いに広まる可能性が高い。
 それは恥ずかしい。
 あまりに恥ずかし過ぎる。
 きっと凄くからかわれる事だろう。
 いままでリリアは男と一度も付き合った事が無く、常にからかう立場だった。
 それが逆転してからかわれるのを想像すると、羞恥心が全開で働く。
「い、何時までこのままでいるつもりなの?」
「んー、あとちょっとー」
「あとちょっとってどのくらい?」
「ちょっとはちょっとさ」
 リリアの問いかけをのらりくらりと躱すスレイ。
 そんなやりとりは何度も繰り返され。
 リリアがこの嬉しくはあるが羞恥の時間から解放されたのは昼近くなってからのことであった。

「さて、それじゃあ昼食はどこで取ろうか?」
 悠然と、僅かな羞恥すら感じさせず、ゆったりとした足取りで歩きながらスレイは問いかける。
 リリアはスレイの左腕に腕を絡めながらも、ひどく恥ずかしげな様子で顔を赤く染め身を縮こまらせて小さな歩幅で歩いていた。
 今日のリリアは顔を赤く染めっぱなしである。
 スレイ君ばっかり平気そうで狡い。
 小さくそのような呟きを零すリリア。
 ちなみにスレイは身を縮こまらせる事で、ますますスレイに密着したリリアの身体の感触を堪能中である。
 実に神経の太い男であった。
 顔を僅かに上げて見たそんなスレイの姿に、今度こそは反撃してみせようとリリアはそれじゃあ、と告げる。
「私の知ってる良いお店があるんだけど、そこで良いかしら」
「ああ、どこでも構わないぞ。リリアと一緒ならな」
「なっ!?」
 またこの男は。
 リリアは心中で僅かに罵る。
 どうしてこう、こっ恥ずかしい台詞を臆面も無く言えるのか。
 時も場所も選ばず繰り出されるスレイの攻め手に、リリアは翻弄されっぱなしであった。
 今度こそは何とか逆にスレイを恥ずかしがらせてみせる。
 本来の目的であったストーカーの事など忘れ去り、リリアはスレイに対する攻め手を考える。
 スレイにとってみればリリアがストーカーの事を忘れているのは良い事だ。
 と、いうかスレイの独占欲からすれば、恐怖という負の感情とはいえ、リリアの思考が他の男に向く事にすら嫉妬する。
 どこまでも心の狭い男であった。
 ともあれ、リリアがストーカーの事を忘れ、ストーカーがスレイとリリアのイチャつく姿にますます苛立ちを募らせているのを感じ、スレイは良い気分である。
 そのまま、スレイはリリアの案内に従って、リリアとしっかりと腕を絡めながら、道を歩いていくのだった。

 なんとなく途中から気付いてはいた。
 歩いている道順の覚えがあったのだ。
 そしてその勘は正しかった。
 辿り着いた店。
 そこは3日前にフレイヤと共に訪れた食事処“来々軒”であった。
 偶然と言うべきか、良い店という点で必然というべきか。
 だがまあ、僅かに眉を上げただけで、スレイは特にそれ以上の反応を示さなかった。
 そんなスレイにリリアが呼びかける。
「それじゃあ入りましょうか」
「ああ」
 スレイは何と言う事もなく頷いた。
 そしてリリアと共に店に入る。
 相変わらず様々な種族の客が居るお店だった。
 その雰囲気の良さも変わらない。
 賑やかで活気のある店である。
「いらっしゃいませー、2名様でしょうか?ってリリアちゃんじゃない、それに君はスレイ君?」
 相変わらず店を走り回っていたキャルが走り寄って来ると、驚いたような声を出す。
 その反応に自分を見つめるリリアの視線をスレイは感じていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。