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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
10話
 あれから、リリアの硬直が解けたところで、また二人は仲睦まじくゆったりと歩き始める。
 なにやらリリアの密着度が先程よりも増して、スレイとしてはその感触にやはり役得だと感じる。
 ストーカーも相変わらず嫉妬の気配を思いっきり発しながら後をついてきていた。
 まあ、せいぜいリリアとのデートを思いっきり楽しみ、その上でストーカーをからかってその反応も思いっきり楽しんでやろうと、スレイは考える。
 歩調は相変わらずリリアに合わせたゆったりとしたもの。
 その気遣いに気付き、リリアは淡く微笑む。
 その微笑に見惚れるスレイ。
 なんというかバカップル丸出しであった。
 そしてやはりストーカーからは歯噛みするような気配が滲み出ていた。

 都市の商店街。
 朝早くから賑やかな声が響き渡る。
 その中を仲睦まじく腕を絡め歩く二人。
 そして店の主人やおばちゃん達などからリリアに対し冷かしの声が頻繁にかけられていた。
「ふむ、ここらじゃ有名人なんだなリリアは」
「まあ、色々と買い物したりもするし、それにこういったお店の人達も私の情報網の一部だからね。まだ一般の人にあまり顔を知られてないスレイ君よりはまだ今の所はね。でもまあここの人達も情報に敏いから、すぐにスレイ君の方が有名人になると思うけど」
 冷かされ、顔を赤く染め俯かせたリリアが呟くように言う。
 その手にはスレイが買ったジュースを持っている。
 聞いた事もない果物の味のジュースだ。
 リリアが飲みたそうな顔を見せていた為買ったのだが。
 その時は自分がそんな顔をしていたのに気付いてなかったのか、やはりリリアは恥ずかしそうにしていた。
 出費は1コメルである。
 とにかく軽く口を付けられたそのジュースの味に、多少興味が湧く。
「一口いいか?」
「え?」
 軽くリリアからジュースのカップを取ると、一口だけ飲んでみる。
 もちろんわざとリリアが口を付けた口紅の痕が残った部分に口を付ける。
 酸味も爽やかなほどよい甘さのジュースであった。
「ああ、なかなか美味いな」
 そしてそのままリリアの手へとジュースのカップを戻す。
「あ、か、間接キス」
「うん、どうかしたか?」
 恥ずかしそうに呟くリリア。
 勿論聞こえていてわざと聞き返すスレイ。
「な、何でもないわ」
 ますます恥ずかしそうに頬を赤らめるリリア。
 だがちゃっかりとスレイが口を付けた、リリアの口紅の痕が残っている部分からジュースを飲む。
 そんな姿も可愛く思い、軽く微笑むスレイ。
「な、なに?」
「いや、可愛いなと思ってな」
 スレイの笑いの意味を問いかけるリリア。
 スレイは軽く恥ずかしい事を言ってのける。
 ますます頬を赤く染めるリリア。
 ちなみに、ストーカーの気配は、ぐぎぎっ、などと言っていそうな気配であった。

 デートスポットとして有名な公園へと歩いて来た二人。
 初心者探索者のアルバイトだろう。
 水氷魔法の使い手が売っているアイスを買い、軽く舐めながら歩く二人。
 出費は2コメルだ。
 このように魔法が軽く日常的な事に使われているのも迷宮都市ならではだろう。
 スレイは勿論リリアとそれぞれ別の味のアイスを買っていた。
 そしてリリアに提案する。
「ちょっとそっちの味も気になるから、俺も一口食べてみていいか?俺のも一口食べさせるから」
「え?」
 またしても頬を赤らめるリリア。
 スレイは当然わざと狙ってやっていた。
 そしてアイスを持ったリリアの手に自分の片手を重ねると軽く口元へと持ってきて舐めてみる。
 やはり程よい甘さで良い感じだった。
「ん、これもなかなか美味いな」
「そ、そう?」
「それじゃあ、次は。ほら」
 そしてリリアの前へと自らのアイスを差し出す。
 ますます頬を赤らめるリリア。
 スレイはとことん狙ってやっている。
 というか、スレイはもう今日はとことんバカップルに徹する事に決めていた。
 恥ずかしそうにしながらも、スレイのアイスを軽く舐めるリリア。
「あ、こっちもおいしい」
「だろう?」
 そしてスレイは目敏くあるものを見つけ行動に出る。
「リリア、頬にアイスが付いてるぞ」
「え、うそ?どこ……」
 スレイはリリアの言葉の途中でリリアの頬のアイスが付いた部分を軽く舐め上げた。
 硬直し言葉を止めるリリア。
「うん、これで取れたな」
 軽く告げて笑うスレイ。
 当然狙ってやっている。
 リリアは頭から蒸気が出そうな程に顔を赤くしている。
 当然ストーカーの気配も臨界寸前といった感じだ。
 だがスレイは気にしない。
 見ている者からすれば口から砂糖を吐きそうな甘過ぎるバカップルぶりだが、それがなかなかに楽しい。
 完全にスレイはこのデートを楽しんでいる。
 リリアとはもう深い関係だというのにリリアの初々しい反応が楽しいし可愛くてしょうがない。
 ストーカーが一々反応して気配を変えるのも意地悪な意味で楽しくてしょうがない。
 なんというかもう、完全にスレイは好き勝手絶頂に振る舞っていた。
 ここまで来ると行き過ぎな気さえするほどだ。
 だが、まだスレイは攻め手を止める気はなかった。

 暫く歩くと、脇にベンチがあった。
「ここで一旦休もうか」
「ええ、そうね」
 リリアはほぅ、と吐息する。
 先程からのスレイの攻勢に、もう精神的に限界に達していた。
 嫌な訳ではない。
 逆に嬉しいくらいだ。
 ただ甘すぎて、恥ずかしくて仕方ない。
 なんというかスレイがここまで甘くイチャついて来るとは予想外であった。
 完全にストーカーの事など頭から消えている。
 少しは心を休ませないと心臓が持ちそうにない。
 今日は朝からずっとドキドキさせられっぱなしである。
 スレイが見せる僅かに意地悪な微笑から、それをわざとやっていると知れる。
 それに乗せられているというのは癪だ。
 癪だがスレイの事が好きだから一々反応してしまう。
 全く以って悪循環である。
 いや、自分にとって悪い事では無いので、この言い方は違うだろうか。
 ともかく一旦休憩するのはいい機会だった。
 この機会に立て直しを図らねば。
 そして今度は自分が攻勢をかけるのだ。
 そう思いベンチに座る。
 するとスレイがちょっとした指定をしてきた。
「悪い、リリア。もうちょっと端の方に座ってくれないか?」
「端に?まあ、いいけど」
 軽く答えて端に座る。
 途端リリアは失敗を悟る。
 いきなりスレイがリリアの太ももを枕にして、ベンチに横になって来たのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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