誰かに後をつけられ監視されてる気がする。
そのような相談を持ちかけて来たのはリリアであった。
戦闘能力を持たないリリアにはいざという時に備え魔法のアクセサリをプレゼントしてある。
そしてリリアはその首飾りを首に掛け、指輪はやはり左手の薬指に通している。
なんでも男避けの役目もあるらしい。
もっともスレイに対するアピールでもあると思うが。
さらにその上で、この強固すぎる世界ではある程度力が制限されるとはいえ、全知にして全能を誇る“真の神”たるスレイのペット、欲望の邪神ディザスターに、この世界に在るスレイの恋人や友人達に何か問題が起きそうな時には知らせてくれるように頼んである。
磐石過ぎるほどの態勢だ。
だが、スレイはリリアを精神的に安心させる為と、何よりリリアとの楽しいデートを兼ねて、その監視者、というかストーカーであろうか、そいつを捕まえる事にした。
そして今はそのストーカーへの誘いを兼ねての、都市の中でのデートの真っ最中だ。
思いっきりイチャイチャして、それに対するストーカーの反応を気配から察してスレイは楽しんでいた。
まず朝早くにリリアを出迎えに行く。
ちなみにルルナをエスコートしパーティに出席した2日後の事である。
勿論ペット達はお留守番だ。
「う~、ストライキしてやる~」
『我もグレるぞ主』
連日の留守番攻勢にペット達はストレスが爆発寸前なようであった。
まあ、その内何かで埋め合わせをしてやればよかろう。
そのように軽くスレイは考える。
リリアの自宅については最近になって知ったがなかなかの豪邸である。
流石はギルドマスターの邸宅という事であろうか。
デートでは外での待ち合わせが定番ではあるが、なにせ今回は目的が目的である。
リリアを一人にするような時間はなるべく無い方がいい。
相変わらず黒一色の、スタイリッシュな普段着を着たスレイは、邸宅に備えられた魔導科学製の呼び鈴を鳴らし、魔導科学製の通信機から聞こえてきたリリアの声に名前を名乗ると、そのままリリアが出てくるのを待つ。
過去の遺物を利用するしかない人間の魔導科学の現状。
この、設備の整いっぷりにも、流石はギルドマスターの邸宅か、と再度感心する。
暫く待った後、出てきたリリアは、普段と同じように活動的でありながら、普段よりも一段上等な服を纏い、かなりのお洒落をしてきていた。
「ごめんなさい。待たせちゃって」
「いや、大して待ってないさ。それよりもその服良く似合ってるぞ、綺麗だなリリア」
恥ずかしげも無く褒め言葉を口にするスレイ。
「な!?お、お世辞なんか言っちゃって!」
「いや、お世辞じゃない、紛れも無い本心だ」
動揺して恥ずかしげに頬を染めるリリア。
だがスレイはどこまでも真面目にリリアを見つめながら、本気だと告げる。
あまりに真っ直ぐな視線に落ち着かなげなリリア。
その時、スレイは先刻から感じ取っていたストーカーの気配も揺らいだ事に気付いていた。
どうやら今のスレイとリリアの仲睦まじい恋人同士のような雰囲気が気に入らなかったのだろう。
実際スレイとリリアは本当に仲睦まじい恋人同士な訳だが。
ストーカーはその事実を認めたくないらしい。
なにやら苛立たしげな気配が感じられる。
その反応が面白く、思わず邪悪な笑い顔を浮かべてしまうスレイ。
「どうしたの?」
不思議そうにリリアが聞いてくる。
「いや、なんでもないさ」
笑いの質を明るく優しいものに変えると、スレイはついっと左腕を差し出した。
リリアがきょとんとする。
「せっかくの恋人同士のデートなんだ。腕くらい組まないとな?」
軽く言うスレイに、ようやく意味を察し、恥ずかしげにしながらも、スレイの左腕に抱きつくように腕を絡めてくる。
リリアの胸がスレイの腕に軽く当たる。
役得だな、とスレイはその感触を楽しむ。
「は、恥ずかしいわね」
「そうか、俺は嬉しいがな」
どこまでもストレートなスレイに、ますます頬を赤く染めるリリア。
先程からの二人のやり取りに、ストーカーの気配は悶絶する寸前のようであった。
今度は顔に出さず、心の中で邪悪に微笑むスレイ。
「それじゃあ行こうか」
「ええ」
軽く告げるスレイに頷くリリア。
そして二人は歩き始める。
スレイはゆったりと、リリアの歩調に合わせ、リリアが歩き易いよう常に気遣い、エスコートする。
そんな気遣いに微笑むリリア。
最初は、こういう恋人同士、という雰囲気丸出しのデートに戸惑いがあったようで、口数が少なかったが、段々と慣れて来たようで、リリアの口数も普段のように多くなり、活動的な感じになる。
そんな二人の様子にも、ストーカーが一々反応する様子が感じられて面白い。
スレイはリリアとは恋人同士の会話を楽しみ、分割した邪悪そのものな思考でストーカーの挙動を楽しんでいた。
「ところで」
ふとリリアが真面目な表情になり尋ねてくる。
「その不審者、ストーカー?を捕まえるって具体的にどうするの?」
やはりリリアとて女性。
しかも多少裏まで通じるような情報網を持つとは言え、戦闘能力はからっきしの一般人の少女だ。
探索者ギルドのギルドマスターの娘とはいえ、そういう意味ではそこらの都市の娘と変わらない。
まあその優れた容姿はそこらの娘とは段違いだが。
ともあれ、やはり誰かにつけられ監視されているという事には恐怖を感じるのだろう。
その話題になるとどこか落ちつかなげに、微かに震えるリリアを見て、スレイは先程までのストーカーの挙動を楽しんでいた感情から、ストーカーに対する怒りが浮かび上がるのを感じる。
ビクンッ、と、ストーカーが恐怖の感情を抱くのを感じる。
どうやらついつい指向性の殺気を放ってしまったようだ。
スレイは精神制御で自らを落ち着かせる。
そして一度立ち止まるとリリアに顔を向け答える。
「まあ、色々とタネは蒔いてある、その事については心配ないさ」
スレイに合わせ立ち止まったリリアは、スレイの言葉に疑問顔をする。
「それに安心しろ。リリアは俺の恋人だ、絶対に守ってやる。どんな相手にだって手を出させないさ」
「えっ?」
スレイは真剣な表情で強くリリアを見つめながら力強く宣言した。
思わず疑問の声を零すリリア。
次の瞬間スレイの言葉を完全に咀嚼し理解してボッと頬を燃えるように赤く染める。
そんなリリアに、優しげで、それでいながら自信に溢れた笑みを向けるスレイ。
ますますリリアは顔を赤く染める。
スレイはペット達の言うところの誑しの本領を思いっきり発揮していた。
リリアは思いっきり顔を赤らめたまま硬直している。
その硬直が解けるまで待ちながらスレイは考える。
ストーカーの気配は、やはり二人の雰囲気に思いっきり怒りを発していた。
だが、とスレイは思う。
怒っているのは俺の方だと、思いっきり指向性の殺気を再び叩きつける。
理由も分かっていないだろう、突然恐怖に襲われたようにストーカーの気配が変わる。
そう、俺の恋人には誰にも手を出させない、それこそ相手が邪神であってもな。
スレイは心の中で力強く、そう呟いていた。
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