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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
7話
 ルルナと腕を組み、エスコートして会場入りする。
 ちなみにアッシュは一人での入場だが、エリナが居れば、などとぶつぶつぼやいていた。
 ついでにガルードとリリーナはもう先に会場入りしているらしい。
 ともあれ、会場入りすると同時、会場中の視線がスレイに集まる。
―あれって例の。
―最も新しいSS級相当探索者?
―“黒刃”じゃないか?
―何故ここに?
―エスコートしてるのはグラナリア家のルルナ嬢だよな?
―あ、一人だけどアッシュ殿も居るぞ。
「ルルナ、何故俺はこんなに注目されてるんだ?一部の者ならともかく殆ど全員というのは予想してなかったぞ」
「あら?お忘れですの。ここに居る者達は皆、探索者である一代貴族とその伴侶それにその子女ですわよ。一代貴族はほとんどの方が現役探索者ですし、その子女はだいたいが探索者養成学校、しかもほとんどがエルシア学園の生徒か卒業生ですわ」
「なるほど」
 言われてみれば、とスレイは納得する。
 そしてスレイはルルナに連れられ、挨拶回りをする事になる。
 なんでもここでコネを作っておくことは、スレイにとっても損にはならないし、逆に相手にとってもSS級相当探索者の知己を得る事は望ましい事なので、どちらにとっても理に適うという事らしい。
 だがその前に、先に会場入りしているガルードとリリーナの元へと赴く。
「お父様、お母様」
「親父、お袋」
「おお、お前達。それにスレイ君か。ふむなかなか良いスーツだね、それにやはり君には黒が良く似合う」
「ありがとうございます」
「ほう」
「あら」
 完璧な一礼をしてみせるスレイに感心した様子のガルードとリリーナ。
 ただ仕草が完璧というだけではなく動きが洗練され、華があった。
 とても今日一日で詰め込み教育されたとは思えないほどである。
「ルルナ、今日はスレイさんにエスコートしていただいたのね。アッシュ、エリナ皇女との事は分かったけれどせめてこういう場には令嬢の一人でも誘ってエスコートしなさいな、それとその言葉遣いはなんですか。スレイさん、あなたこういう場に誘われた経験が?」
「仕方ないだろう、相手が居ないんだから」
「いえ、今日が初めてです。作法については今日一日御家のメイド長ヒルデ殿にご教授いただきました」
 ぼやくアッシュに、丁重に答えるスレイ。
「あらまあ、たった一日で?アッシュ、本気で将来一代公爵位を叙爵されたいのなら、貴方も少しは見習いなさいな」
 スレイの答えに驚くと、リリーナはアッシュに注意する。
「わかったよ、いえ、分かりましたお母様。これでよろしいでしょうか?」
 嫌々答えながらも、リリーナの睨みに言葉遣いを変えるアッシュ。
 それに満足したように頷くと、リリーナは言った。
「それじゃあわたくし達も挨拶回りがありますので、これで失礼いたしますわね」
「ふむ、スレイ君、ルルナを頼むよ。アッシュ、リリーナの言うとおり、将来の為にもお前もこういう場での評価を上げておいた方がいいぞ。それでは失礼させてもらうよ」
 そう言って立ち去って行く二人。
 早速スレイ達は挨拶回りに行こうとする。
 だが、その必要は無かった。
 スレイ達の周囲には何時の間にか一代貴族の令嬢達が囲むように集まってきていた。
 そしてガルードとリリーナがいなくなった事を確認すると、スレイとルルナの二人に控えめで上品でいながら勢い良く詰め寄ってくる令嬢達。
 そして挨拶と質問の嵐が飛び交った。
 ちなみにアッシュは輪の外に追いやられ、一人憮然と壁の華となっている。
 いつもは一代貴族の令嬢達に囲まれているらしいが、今回はそれを全てスレイに奪われた形だ。
 いくらエリナ一筋とはいえ、流石に面白くないのだろう。
 そして一代貴族の令息達は、ルルナをエスコートし、令嬢達の話題の中心として周囲に令嬢達を集めるスレイを苦々しく見ている。
 そして一代貴族の大人達は、SS級相当探索者の知己は得たいが、今の状況を見て、状況が落ち着き、相手から挨拶回りに来るのを待つ事にするのだった。

 令嬢達の質問は多岐に渡った。
 ルルナとの関係と馴れ初め。
 SS級探索者としてのあれこれ。
 伝え聞く数多くの恋人達の事など。
 スレイはそれらに差し障り無く、無難な答えを、完璧な礼儀作法で返していく。
 ルルナもそんなスレイを援護した。
 そんな事を繰り返している内、ふとスレイはある人物に目を留める。
「すまないルルナ、暫く頼む」
 そう告げると、スレイは令嬢達に当たり障り無い言い方で場を外す旨を告げると、軽やかな風の如く、令嬢達の間を縫うように、輪の外へ出る。
 そして目に留めた人物の元へと歩み寄る。
 そして声を掛けた。
「ジーク、久しぶりだな」
「あ、お久しぶりです先生。それと遅ればせながらSS級相当探索者への昇格おめでとうございます」
 ふっ、と苦笑するスレイ。
「いや、こんな場でまで先生と呼ばないで、スレイと呼び捨てにしてくれて構わないぞ?」
「いえ、先生は先生ですから」
「そうか」
 ジークの素直な言葉に軽く微笑む。
 本当に素直な少年だった。
「ところでグランド家は武術の大家という話は聞いていたが、お前の父親は一代貴族でもあったのか?」
「ええ、というかここ何代かの当主は皆一代伯爵の位を頂いていますね。一代貴族の爵位なのに世襲制みたいな変な事になってます」
「なるほどな」
 納得し頷くスレイ。
 国としても無視ができない程の家という事だろう。
 恐らくはこの場でも飛び抜けて家の格は高い事になるのだろうな、と納得する。
「ところで先生はどうしてこちらに?」
「ああ、グラナリア家のルルナ、って知ってるか?彼女のエスコート役でな」
「勿論知ってますよ。有名な先輩でしたし、それにこういう一代貴族のみが集まるパーティでは常に一番人気のご令嬢ですし」
 なるほど、とスレイは頷く。
 確かにこの場ではルルナが飛び抜けて美人だな、と得心する。
「ところでそのルルナさんなんですけど、今、他の男達に絡まれてるようなんですけど、よろしいんですか?」
 なに?とスレイは振り返る。
 すると確かに令嬢達の輪を押し退けて、複数の令息達が、ルルナへと言い寄っていた。
「すまない、積もる話もあるがそれはまた今度にしよう、それじゃあ失礼する」
「はい、先生。頑張って下さい」
 ジークのエールに軽く手を振って答えると、スレイはまたも軽く令嬢達の間を風のように軽く通り抜けながら、中心での会話を聞く。
「いいじゃないか、俺達と踊ってくれよルルナさん」
「そうだ、あんな男なんて放っておけばいいじゃないか」
「そうそう、あんな一般市民より、同じ一代貴族の家柄の俺達の方が釣り合いが取れてるだろう?」
「ですから、わたくしはスレイさまと踊るのだと何回言えば」
 そのような会話が、しつこく、繰り返し交わされているようであった。
 令嬢達や大人などは、そんな令息達を呆れたように見ている。
 一代貴族その人ならばともかく、爵位を継ぐ権利も無い、たかがその息子が何を言っているのか、と言ったところか。
 だが、その令息達は、そんな周囲の視線に気付かない。
「だからあんな男よりっ……」
 そしてスレイは場の中心にあっさり辿り着くと、軽くルルナの腰に手を回し、抱き寄せていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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