ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
6話
「本当に大したものだな。高ランク探索者でありながら、メイドとしての仕事も完璧にこなし、貴族の礼儀作法にも通じ、これだけの種類のダンスも踊れるか。歌って踊って戦えるメイドさんだな」
「SS級相当探索者であり、さらに貴族の礼儀作法やダンスを、こんな僅かな時間でほとんど完璧に習得していく貴方に言われましても……。といいますか、なんです、それは?私は歌った覚えなどございませんが」
 スレイが言うと嘆息するヒルデ。
 最後にちょっと不思議そうにする。
「いやまあ、気にしないでくれ。ノリで言ってみただけだ」
「そうですか?まあ、構わないのですが」
 ノリで言った言葉に、真面目に返され、肩を落とすスレイ。
 ヒルデはスレイの様子を疑問に思ったようだが、そのまま流してくれた。
「ところで、ヒルデは休日はあるのか?」
「ええ。不定期ではありますが、きちんと休日は頂いております」
「それじゃあ次の休日は何時になる?」
 スレイは何気なくヒルデの休日について聞き出そうとする。
 ヒルデは不思議そうにしながらも、答えてくれる。
「不定期なので次の休日が何時になるかはまだ分かりませんが、それがどうかいたしましたか?」
「いや、次のヒルデの休日に、一緒に迷宮探索でもしないか?と、誘おうと思ってな」
 スレイは軽く誘いをかける。
「別に探索に付き合う事は問題ございませんが、A級相当の私ではSS級相当の貴方にとって足手纏いにしかならないと思われますが」
「あ~、一応探索者流のデートの誘いのつもりだったんだが」
 真面目に答えるヒルデに、スレイは頭を掻きつつ告げた。
「で、デートでございますか!?貴方は、自らの恋人の家に仕えるメイド長にデートの誘いをかけるのですか!!」
「まあな、何せ俺の女癖の悪さは天下一品だからな。というかヒルデはメイド長だったんだな。なるほど優秀な訳だ」
「なっ!?」
 スレイの開き直りに絶句するヒルデ。
 その表情が唖然としたものから、呆れたものへと変わっていく。
「確かに噂話などで伺ってはいましたが、本当にとんでもない女癖の悪さでございますね」
「俺の噂は、そんなに広まっているのか?」
 思わず尋ねるスレイ。
「ええ、今この迷宮都市では一番の話題でしょう。この都市の支配者は探索者ギルドと言っても過言ではございませんし」
「そうか、なるほどな」
 納得したように頷くスレイ。
 少しばかり有名税として自らの関係者が危険に晒される可能性を考える。
 だがディザスターとフルールにフォローを頼んでおけば問題無いだろうと結論する。
 特にディザスターは何せ邪神、つまり全知にして全能たる“真の神”だ。
 スレイの関係者全部を離れた場所からその保護下に置くことさえ容易く可能にするだろう。
 そう考え、スレイは問題無いと判断する。
 実に他力本願である。
「それで、どうだ?デートの誘いは受けてもらえるのかな?」
「承知しました。その誘い受けさせて頂きます。SS級相当探索者の戦いをこの目で見る事ができるなど、またとない機会ですし」
「そうか、助かるよ。何せ俺にとって女を惚れさせる為の最高の武器は戦闘力こいつだからな」
 言うなり、軽く双刀の鞘を叩くスレイ。
 僅かに振動し、双刀がスレイに応える。
「私を惚れさせるのは難しいと思われますよ?自分で言うのもなんですが、私は男を見る目が厳しく、告白されても全て断り、今まで一度も男性と付き合った事はございませんし」
「そうか、それは落とし甲斐がありそうだ」
 楽しそうに笑うスレイ。
 やはり呆れた表情をしたヒルデは何て事にないように言う。
「それでは一応、ルルナお嬢様にこの件について報告させていただいてよろしいでしょうか?雇い主の家族の恋人と黙ってデートをするなど、私としては許容できない事ですので」
「ああ、寧ろヒルデから言ってくれるというなら助かるな。流石に俺から堂々と言うのは憚られるしな」
 ふぅ、と溜息を吐くヒルダ。
 やはり本気で呆れた表情である。
「それでは次の休日の日程が決まったら、どうやってお知らせすればよろしいでしょうか?」
「ああ、俺は宿屋“止まり木”に宿泊しているから、そっちに手紙でも送ってくれれば助かる」
 ほう、とヒルダは僅かに感心した表情をする。
「良い宿屋に泊まっているのですね。無駄にお金をかけたりしていないので料金もそれなりの中級の宿屋ではありますが、その道のものには実に管理が行き届き、お客様への気遣いも厚い、評価の高い宿と聞いています」
「へぇ、なるほどな」
 初めて聞いた情報に、納得して頷くスレイ。
「ご存じなかったのですか?」
「ああ、少なくとも最初に選んだ時は、何となく良さそうだ、程度の直感で選んだからな」
「今は違うのですか?」
 スレイの言葉に含みを感じたヒルデが、何となく尋ねる。
「ああ、あそこの女主人、フレイヤと言うんだが、彼女も俺の恋人だ」
「そうですか」
 ヒルデは僅かに眉間を押さえ黙り込んだ。
 おそらくはまた呆れているのだろう。
 さて、とスレイは腕を伸ばし、軽く身体をほぐすと言った。
「それじゃあ、ダンスのレッスンの続きを頼む」
「わかりました」
 ヒルデはすぐに顔を上げ、表情を真面目なものに変える。
 そしてダンスのレッスンは続き、スレイはヒルデが知る全てのダンスを完璧にマスターしてみせ、ヒルデをますます呆れ驚かせたのだった。

「ヒルデを迷宮探索を山車にしてデートに誘ったそうですわね?私達の迷宮探索には付き合ってくれませんのに」
 馬車の中。
 同じ一代貴族の邸宅で行われるパーティという事で、会場はすぐ近くである。
 だが一応貴族としては徒歩で向かうなどと言う訳には行かず、わざわざ馬車に乗っての移動である。
 そして出発するとすぐに、ルルナはむくれたようにスレイに尋ねてきた。
「え、おい嘘だろ?あのヒルデをデートに誘ったのか!?」
 アッシュが驚いた顔をする。
「ああ、ちゃんと受けてもらえたが、それがどうかしたのか?」
「どうかしたも何も」
「ヒルデはお兄さまの初恋の人ですのよ。ちなみに8年前、ヒルデがまだ18歳で屋敷の一メイドだった時ですわ。まあお兄さまに限らず昔から結構な男性がヒルデに言い寄っていますけど、常に鉄壁のガードを誇っていたヒルデが、迷宮探索といえどもデートに応じるとは意外ですわ」
 あっさりと自分の過去を暴露され、頭を抱えるアッシュ。
 それを無視してスレイは答えた。
「なんでもSS級相当探索者の戦いを見れるなら、などと言っていたな。しかしそんな昔から彼女はルルナ達の邸宅でメイドをしていたのか。最近の戦う執事やメイドさんの流行に乗った訳では無かったんだな。ところでどうやって探索者ランクを上げたんだ?」
「なるほど、確かにそういう理由なら納得できますわね。ちなみにヒルデの場合メイドになった時点から探索者でしたけど、探索者としてのランクを上げたのはお父様とお母様の迷宮探索に付き合う事が多いからですわ。なのでメイド長とはいえ、スレイさまが家を訪れた二回とも、ヒルデが邸宅に居たのはかなりの偶然ですのよ。本当に女性関係に関しては運に恵まれた方ですわね。それでどうして運勢:Gなのでしょうか」
「いや、俺は迷宮に潜っていて、まだ一度も宝箱や財宝に遭遇した事が無いしな」
 なにやら哀愁を漂わせるスレイ。
 地雷を踏んだらしいと気付いたルルナはあっさりと話を終わらせる。
「ともかく、ヒルデは私達にとっても大事な家族のようなものですので、どのような関係になるにせよ、きちんと誠意を持った扱いをお願いしますわね」
「ああ、分かった。しかしルルナは嫉妬はしてくれないのか?」
「あら、嫉妬はしていますわよ?ただスレイさまの女性関係はもう諦めてますわ」
 淡々と放たれる温度の無いルルナの言葉、それに乾いた笑いを返すスレイだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。