「パーティ?」
「ええ、お母様の知り合いの男爵夫人が開くパーティなんですけど、是非スレイさまにわたくしをエスコートして頂きたくて。一人ですと殿方達の誘いが煩いものですから」
思わず問い返したスレイに答えるルルナ。
以前も訪れたグラナリア家の邸宅。
そのリビングである。
今回席についている面子はアッシュとルルナ、それにスレイという気心の知れた三人のみだ。
ちなみにディザスターとフルールのペット組は宿で留守番である。
「ペット差別はんた~い」
『主はもっと我等ペットを大事にするべきだ』
などとごねていたが、何とか説得し、宿に置いてきた。
席に座ってない人物としては、アッシュとルルナの背後に、以前訪れた時にも居た、あの完璧な仕草を備え絶妙なタイミングで紅茶を注ぐ、使用人の中でも特別な立場と思われるメイドが佇んでいる。
相変わらず周囲の風景と同化したような自然な佇まいであった。
それに目立たない様気配を消し、なかなかそうとは悟らせないが、かなりの美貌を備えている。
腰まであるウェーブのかかった金髪に碧眼の20代半ばほどの美女だ。
スレイがそんな所にまで目をやったのは、そのメイドについてある疑惑を抱いたからだが、一先ずそれは置いておく事にする。
ちなみに扉の外からは、相変わらず室内の様子を伺う使用人達の声が鋭敏な3人の、いや4人の聴覚に届いていたが、スレイの評価は以前から激変していた。
なにせ最も新しいSS級相当探索者。
SS級相当探索者への昇格の最短記録ホルダー。
“黒刃”の二つ名持ち。
家の財産の事などを踏まえてもアッシュよりもずっと上という意見が大勢になっている。
それを聞いてアッシュはズーンと落ち込んでいた。
ちなみにやはり室内に静かに佇むメイドのこめかみには青筋が浮かんでいた。
「しかし貴族の集まりなのだろう?ただの探索者の俺なんかが行ってもいいのか?」
「問題ありませんわ、何せその男爵夫人の夫も探索者から一代男爵となった方ですから。私達一代貴族の家の者は、元々の由緒正しい貴族の家のパーティに賑やかしとして呼ばれる事はあっても、その逆はありませんから」
「なるほど、集まるのは一代貴族の者だけ、という事か。しかしそれにしても俺が貴族でない事に変わりは無いと思うが」
そんなスレイに、アッシュが告げる。
「それこそ問題無いだろう。なにせ集まるのが一代貴族だけってことは、ホストもゲストも一家に一人は必ずその一代爵位を得た元探索者って事だ。その中にまだ爵位を得てないとは言え、仮にもSS級相当探索者が訪れるなんて逆に大歓迎されるだろうさ」
「ふむ、そうなのか?」
ルルナに尋ねるスレイ。
「ええ、間違いありませんわ。もしスレイさまがパーティに参加なされば、場の話題はそれこそスレイさま一色になるでしょうね。なにせ普段の同じ様なパーティではお兄さまでさえ一代貴族の令嬢方に囲まれる程ですから」
「ルルナ~」
「なるほどな」
情けない声を上げるアッシュ。
ふむ、と考えるスレイ。
まあ、服装については今持ってる預金額でも、黒一色の上等なスーツを上下揃える事は可能だろう。
それにルルナに他の男が寄ってくるというのは気に入らない。
ならば参加するべきだろうな、と考えながら、全然関係無い事をスレイは口にする。
「ところで以前からそのメイドさんは只者じゃないと思ってたんだが、もしかしてアレか?あの今一部で流行の、使用人でありながら探索者として高いランクを得ているという戦うメイドさんや執事って奴なのか?」
「今流行りというのは良くわかりませんが、探索者というのはその通りでございます。私は恥ずかしながら旦那様と同じくA級相当のランクを得ております」
あっさりと頷く完璧なメイドさん。
「ふむ。ふと疑問に思ったんだが、一代貴族の位っていうのは何をした場合に与えられるんだ?高ランク探索者でも爵位を得ていないものは多いようだが」
「あー、それはな」
「大体は、国にとって有益な功績を上げたものに与えられるのが慣例ですわね。例えば父の場合はとある難病を治す特殊な効能を持つ薬草とその使用法を発見したのが評価され与えられましたわ。後は戦争で活躍するですとか。これは特例ですけど国王が独断で気に入った探索者に爵位を与える事もありますわね」
アッシュが答えようとするも、ルルナが遮り全て説明してしまい、またしても項垂れるアッシュ。
「ほう」
スレイは感心したように頷いている。
「それで、どうでしょう?パーティへは参加して頂けますでしょうか?」
どこか心細げに言うルルナ。
ルルナにそんな顔をさせてしまった事に、話題を脱線させた自分を責めながら、スレイは頷いた。
「ああ、構わないぞ。他の男がルルナに言い寄るなど考えただけでも気に入らないしな」
「スレイさま」
感動したように瞳を潤ませるルルナ。
そこへ水を差すようにアッシュが告げる。
「ところでスレイは貴族のパーティでの礼儀作法や、ダンスは身につけているのか?」
「あら?」
「あ~」
ルルナが忘れていたというような声を上げ、スレイが気まずげな表情をする。
「正直、本で読んだ事などはあっても、全くそういうものは身につけてないな。パーティというのは何時なんだ?」
「今晩……なんですけど」
困惑したように言うルルナ。
流石に無理がある、と思っているのだろう。
やや悲しげな顔をしている。
「よし、分かった。それじゃあ今晩までに覚えよう」
「え?」
「おい」
スレイが言うとルルナは驚いた表情を、アッシュは呆れたような表情をする。
「と、言う訳でだ。とりあえずはパーティ用の服装を買いにいって、その後全部覚えようと思う。なので服を買うための店の案内と、俺が全部教わる為の教育係として、このメイドさんを借りて構わないか?」
「え?それでしたらわたくしがお付き合い致しますわ」
ルルナが言うのに、しかしスレイは否定した。
「いや、パーティともなれば女性の準備は時間がかかるものだろう?それにルルナと踊るのはパーティまでの楽しみに取っておきたいしな」
「そ、そうですか。そういう事でしたら、ヒルデ。スレイさまの事を頼みますわ」
「承知致しましたお嬢様」
ヒルデに案内された迷宮都市に住む一代貴族御用達の店。
なるべく安めのものを選んだが、それでも上質なスーツの上下を揃えるのに10000コメルはかかってしまった。
そして現在。
グラナリア家の邸宅に戻り、まずは使用人用の広い食堂で様々な礼儀作法を学ぶ。
教えられた事を次々とあっさり吸収していくスレイにヒルデは呆れたような表情をしていた。
次に邸宅内にある広大なダンスホール。
恐らくはこの邸宅でパーティを催す場合には会場として使われるだろう広間で、スレイはヒルデからダンスを習う。
そしてダンスについても、様々な種類のダンス、簡単なものから複雑なものまで、スレイは一度教えられたのみで容易く習得していく。
その習得の速さに、相手役をしているヒルデがますます呆れたような表情をする。
そして少し休息を取る為に壁際に寄って立つ二人。
スレイはヒルデに話し掛けた。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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