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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
4話
 あれから食事が終わった後も散々にフレイヤはキャルにからかわれ、ようやく会計までこぎつけ、フレイヤは安堵の吐息をしていた。
「それじゃあ、お会計は50コメルになりまーす。けどフレイヤに新しい恋人が出来た記念にサービスしておきましょうか?」
「いや、問題無い。大した金額でもないし俺が払うさ」
 そういって探索者カードを差し出すスレイ。
「わーお、流石太っ腹ー。最も新しいSS級相当探索者で、ぶっちぎりの最短記録保持者だけはあるわねー“黒刃”スレイ君。まあ、探索者にとっちゃ確かに大した金額じゃないんだろうけど」
 スレイが念じて預金額を表示したカードを受け取り精算用の機械に通すキャル。
 このように支払いの際には預金額を表示する必要がある為、本人以外が不正に使う事はできない事になっている。
「流石の預金額ね、と言いたい所だけど、SS級相当探索者としては逆に少なすぎるくらいかしら?」
「まあ、探索者になってからの期間が期間だし、色々と出費も激しいからな」
 返された探索者カードを受け取りながら軽く答えると、スレイは僅かに顔をしかめて尋ねる。
「ところで、俺の事はもうそんなに広まってるのか?」
「うーん、そうねー。探索者の人達があちこちで騒いでるから噂話としては相当にね。ただ、実際顔まで知ってるのは、今の所は探索者や探索者を目指してる人達ぐらいじゃない?私だってほら、フレイヤに言われなきゃ気付かなかった訳だし」
「なるほどな」
 納得するスレイ。
 まあ都市の中での視線やこういった店でまで噂されている事を考えると、都市中に広まるのも時間の問題かと考える。
 まあこれも有名税かとスレイは肩を竦め、諦める事にした。
 ふと、キャルが自分をじっと見つめてる事に気付く。
「どうした?人妻との一時のアバンチュールで修羅場に首を突っ込む気は俺には無いんだが」
 軽口を叩くスレイに、キャルは首を傾げる。
「不思議ねー。そういう性格とかは全然似てないのに、それでも雰囲気とかはあの人に似てるように感じるわ」
「あの人?」
「キャルッ!」
 フレイヤの怒鳴り声に肩を竦めるキャル。
「あー、はいはい、ごめんなさいねー。余計な事は喋らない事にするわね」
 そう言うも、ただ、とスレイを見つめてキャルは続ける。
「絶対にフレイヤを悲しませるような事はしないでちょうだいね。私にとっちゃ大事な友達なんだから。探索者だからって死別なんて許さないわよ?」
「キャル」
 キャルの真剣な表情に、どこか潤んだ瞳をするフレイヤ。
 スレイはただ笑って告げる。
「それこそまさか、だな。俺が死ぬ?ありえないな」
「そういう過剰な自信は身を……」
 忠告しようとしたキャルは、途中で口を噤んだ。
 スレイの笑みに呑まれる。
 死神さえも、その笑いの前では逃げ出しそうな凄みがあった。
 キャルはごくんと喉を鳴らす。
「キャル?」
 不思議そうなフレイヤの声に、キャルは我に返ると続けた。
「と、ともかく、そういう過剰な自信で以ってヘマなんかしないようにね、フレイヤが悲しむのはもう見たくないのよ」
 ふっ、とスレイの笑いの質が変化した。
 どこか柔かい口調で告げる。
「ああ、分かった。忠告、ありがたく受け取っておこう」
 キャルはほぅ、と吐息すると続ける。
「次はもうちょっと空いてる時間帯に来てちょうだいね、家の旦那も紹介したいから」
「わかった、フレイヤに聞いて、空いてる時間帯に来るようにしよう」
 頷くスレイ。
「それと、フレイヤ。今度はスレイ君とあーん、って食べさせ合ってるところみせてちょうだいね?」
「キャルッ!」
 再び怒鳴るフレイヤ。
「サリアも、サリアもあーんするー!」
「サリアったら」
 サリアの無邪気な言葉にフレイヤは困った顔をして苦笑した。
 そして和やかな雰囲気で3人は店を出るのだった。

 最後に紹介したい人が居るという事でフレイヤはスレイを郊外へと案内する。
 なんとなくその雰囲気から紹介したい“人”というのが誰の事なのかスレイは悟る。
 そしてスレイの想像通り、辿り着いたのは都市郊外にある墓場であった。
 迷い無くフレイヤは進み、一つの墓場の前で足を止める。
 そこにはグレイという名が記されていた。
「あのねー、ここにねー、スレイお兄ちゃんと似ているパパが眠ってるんだよー。でももう起きないんだって、お寝坊さんだね」
 サリアが無邪気に告げる。
 フレイヤはそんなサリアを軽く抱きしめると、スレイに言った。
「あなたに、この人の事を紹介したいなんて言ったけれども実際は逆ね。この人に貴方の事を紹介したかった、だから連れて来たの。ごめんなさいね、私の我侭で」
「いや、俺は嬉しいと思うぞ。俺が出会って恋人になったのは色々な過去も含めてのフレイヤだからな。フレイヤの過去で特に大きなウェイトを占めるだろう人物なら、俺も会ってみたかった。ただもし本当に会っていた場合は、フレイヤを巡っての争いになっていたかもな」
 スレイが軽く言うと、フレイヤはふっと儚げに笑う。
 そしてサリアを離ししゃがみ込むと、フレイヤは手を合わせ、墓に向かって語りかけるように聞こえない程に小さな声で囁く。
 スレイはサリアの肩に軽く手を置いて、僅かに目を閉じ黙祷した。
 サリアは疑問顔だ。
 ただ、敏感に空気を察してか、声を出して騒ぐような事は無かった。
 暫くそのまま時が過ぎる。
 ふ、とフレイヤは立ち上がると、スレイとサリアに告げた。
「それじゃあ、宿に戻りましょうか」
 そうして三人は宿屋“止まり木”への帰路へつくのだった。

 宿に戻って、宿を任せていた人物を学園に帰し、サリアを寝かしつけるとすぐ、スレイはそうだ、と尋ねる。
「そういえばすっかり忘れてたんだが、俺は暫く宿代を払い忘れてなかったか?」
「あら?いいのよ、スレイはもう家族みたいなものなんだから」
 だがスレイは反論する。
「例えそうだとしても、いやそうだからこそケジメはしっかりしておかないとな。これから当分の分と今まで払い忘れてた分を含めて合計で300日分、30000コメルを精算してくれないか?」
 探索者カードを差し出すスレイ。
 フレイヤは仕方ないわね、といった様子で、探索者カードを受け取り、30000コメルを精算し、スレイに探索者カードを返す。
「ところで、何で300日分なの?」
「うん、まあキリがいいというのもあるしな、それに」
「それに?」
 スレイはフレイヤの腕を軽く握り、スッと引き寄せると耳元で囁く。
「そのくらい先には、もう宿代を払わなくていいような関係になっていることも希望している」
「えっ?」
 顔を赤らめるフレイヤ。
「今晩、仕事が片付いたら俺の部屋に来てくれ。今日は凄くフレイヤを抱きたい気分だ」
 そう告げると、そのままスレイは、ディザスターとフルールにまた暫くどこかに行ってもらわなきゃな、と考え宿の自室に戻って行く。
 残されたフレイヤは、暫く顔を赤らめ固まっていたのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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