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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
3話
「ふむ、フレイヤ、オグマと知り合いなのか?」
「ええ、まあね。私の方が年下だけど、探索者としては先輩だったから昔色々と面倒を見てあげたのよ」
 スレイの問いに答えるフレイヤ。
「その節は大変お世話になりました、お会いできて嬉しく思います!!」
 どこか嬉しそうな表情のオグマ。
 その表情になんとなくオグマの感情を察して、面白くない顔をするスレイ。
 我ながら心が狭いとは思うが、こればかりは仕方がない。
 スレイは独占欲も人一倍強いのだ。
「おい、店の迷惑になるだろう。積もる話があるにしてもそれは今度にして、席に戻った方がいいんじゃないか?」
「ふふ、そうね。お店の邪魔になるわよね」
 スレイが言外に、邪魔だと言っている事に気付き、嬉しそうに笑うフレイヤ。
 男の嫉妬も、相手が好いた男ならば、かなり嬉しいものだ。
 オグマは初めて気付いたようにスレイを見る。
「き、君はスレイ君?」
「なんだ、お前気付いてなかったのかい?」
「しょうがないんじゃない、この女の人見て凄い鼻の下伸ばしてたもの」
 ホークとリリィがオグマをからかうように笑う。
 だがオグマはそれどころでは無い様だった。
「し、失礼ですがお二人はどのようなご関係でしょうか?」
「そうね、私は彼の恋人の一人よ」
 オグマがフレイヤに尋ねると、フレイヤはあっさりと答えを返した。
 慈悲も何も無くただ事実のみを。
 瞬殺である。
 オグマはガーンとしたような表情で、後ろによろけて倒れかける。
 慌てて数人掛かりで支える鷹の目団。
「おい、大丈夫かオグマ!傷は深いぞ」
「致命傷ね」
「どうしようもないのう」
 クルト、レイナ、ダインまでもが面白そうにオグマをからかっている。
 だがオグマの反応は無い。
 完全に自失しているようであった。
 そのままオグマを席へと運んで行く鷹の目団。
「そいじゃ、またな“黒刃”スレイ。また迷宮ででも会おうや。それとSS級相当探索者に昇格おめでとさん。そっちの美人さんと仲良くなー」
 ホークが軽く祝いの言葉と別れの言葉を告げ、そして全員がオグマを引き摺り引き上げていく。
 そして鷹の目団の席では、オグマが昼間から酒を呷り、散々に他のメンバーからからかわれ、遊ばれるという珍しい光景が繰り広げられるのだったが、それはまた、別の話である。

「あららー。瞬殺だったわねー。ライオンの人、かわいそうに」
「だって事実だもの、仕方ないでしょう?」
 いつの間にやら、注文の品を持って来ていたキャルが面白そうに笑っていた。
 そのまま注文の品をテーブルに並べていく。
 フレイヤは苦笑しながらキャルに答えていた。
 だがそんなフレイヤの言葉も嬉しく思えてしまうスレイ。
 そして最後に置かれた大きなグラスのジュースを見て、スレイは疑問の声を上げる。
「このジュースは何だ?注文した覚えが無いんだが」
「あら~、決まってるじゃない。恋人同士ならお決まりのアレよアレ」
 言うと同時にグラスにストローを差し込んだ。
 ただのストローではない、飲み口が二つに分かれた、恋人同士が同時に口を付けるあれである。
「キャルッ!!」
 流石に顔を赤くして抗議するフレイヤ。
「私の年で流石にコレは無いでしょう!?」
「いや、いいんじゃないか?」
 楽しげに笑ってスレイが言った。
「え!?」
 スレイの言葉に驚いたような顔をするフレイヤ。
「おーおー、いいねキミ。ささ、二人ともババッと行っちゃってちょうだいな」
 嬉しそうに見守るキャル。
 どうやら肝心のシーンを見るまでは離れるつもりはないようだ。
「し、仕方、ない、わね」
 どもりながらも少しずつ口をストローに近づけていくフレイヤ。
 ちなみにスレイはとうにストローに口を付けていた。
 そしてフレイヤの口がストローに付き、二人で同時にジュースを吸う。
 ほんの僅か吸って、フレイヤの口が離された。
「フレイヤ?」
 スレイも口を離し疑問の声を上げる。
「や、やっぱり恥ずかし過ぎるわよ、コレ」
 顔を赤らめて告げるフレイヤ。
「ひゅーひゅーやるねー、お二人さーん」
 キャルが横から冷かしてくる。
「キャルッ」
 思わず怒鳴るフレイヤ。
 キャルはフレイヤの怒りを避けるようにそのまま離れていこうとするが、何時の間にかキャルの服の裾がサリアに掴まれていた。
「サリアもジュース一緒に飲むー」
「あら、サリアちゃんも?」
 面白そうに笑うと、キャルはちょっと待っててね、と言って服の裾を離させると、普通のストローを一本持って戻ってくる。
 そしてそれをジュースにさして、飲み口をサリアの方に向ける。
「ごめんねサリアちゃん、今回はこれで我慢してくれる?」
「うん、分かった」
 サリアは頷くと、スレイとフレイヤに向かって言った。
「三人で一緒にジュース飲むのー」
 無邪気な言葉に顔を見合わせ苦笑するスレイとフレイヤ。
 そして二人は再びストローに口を付け、サリアと一緒にジュースを吸うのだった。
 やはりフレイヤが恥ずかしがって、時々口を離した所為で、逆にその羞恥の時間は長引いたのだが。

 鷹の目団の団員達は、相変わらず酒を呷り酔ったオグマをからかい楽しんでいた。
「く、くぅー。ふ、フレイヤさんとあんなラブラブな事を。頼む、後生だから俺を行かせてくれ!!」
「おいおい、馬に蹴られて死んじゃうぜオグマ」
「そうよねー、人の恋路を邪魔しちゃ駄目よ」
「流石に儂でもその程度はわかるぞい」
「そうねー、同じ女としてはここは優しく見守るべき場面だと思うわね」
「僕もアレを邪魔するのは人としてどうかと思うぞ?」
 オグマがスレイ達の様子を見て、邪魔に入ろうと席を離れようとするのを鷹の目団の面々が全員で押さえつけている。
 そしてホーク、リリィ、ダイン、レイナ、クルトの順で、おちょくってるのか、真面目に諭してるのか分からない事を言う。
「く、くぅーーー!!ふ、フレイヤさーん!!」
 悲しげに叫ぶオグマ。
 そこには獅子王などと呼ばれた威厳は欠片も存在しなかった。
 ちなみに隣席の者達は、鷹の目団のその騒がしい様子に顔をしかめている。
「しかたねえなあ」
 そう呟くと、ホークはいきなりオグマの口へと何かの粉を大量に突っ込み、強引に水を流し込んだ。
 思いっきり飲み込んでしまいむせるオグマ。
「ゴホッ、ゴホッ。ホーク、お前、なにぉ……」
 そのまま意識を失うオグマ。
「ほ、ホーク。今のって対モンスター用の睡眠の粉よね?しかも風の魔法と併用して散布するだけであっさりと大量のモンスターを眠らせる」
「そ、それをあれだけの量、直接飲ませるとは」
「仕方ないだろう、あまりに騒いで人様に迷惑を掛けてたんだし。それにオグマなら大丈夫さ」
 戦慄する鷹の目団の面々。
 だがホークは気軽に言ってのけた。
 どうやら個性派揃いの鷹の目団の面々を纏めるリーダーとして、十分な資質をホークは持っているようであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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