キャルはフレイヤの左手の指輪を見る眼差しと、スレイが見せた表情に、あっさりと状況を看破したようであった。
「ふーん、これは本気も本気って訳ね」
多少驚いたような表情すら見せているキャル。
そんな時、店の奥から声が掛けられた。
「おい!キャル!!何をサボっている。お客様がお待ちだぞ!!」
店の中を見ると、注文を決めたらしい客や、追加注文したそうな客がキャルの方を見ていた。
「はーい、ごめんなさーい。それじゃあ三名様、席へご案内しまーす!」
そう告げるとキャルはスレイ達に向かって告げる。
「それじゃあ、席に案内するから付いて来て頂戴ね。詳しい話は後でじっくりたっぷりねっとりと聞いてあげるから、食事が終わったからってすぐに帰らないようにね」
キャルの言い草に苦笑するスレイとフレイヤ。
サリアは意味がわからずきょとんとしていた。
そのままテーブル席に案内され、サリアを中心に、左右にスレイとフレイヤが座る。
「それじゃあ注文が決まったら呼んで頂戴ね。ごゆっくりー」
そう告げると、キャルは他の席の客の元へと向かっていく。
「お客様大変お待たせしました、それでは注文をお伺いいたします」
悪びれないキャルに、その客も苦笑していた。
どうやらいつもの事のようだ。
「随分と愉快な知り合いだな」
「まあ、昔からの知り合いでね。あれでも色々と頼りになって、私も一時期は彼女に助けられたものよ」
「なるほどな」
サリアにメニューを広げて見せてやりながら、スレイは頷く。
「無造作に踏み込んで来るようでいて、きちんと境界線の見極めは出来ている。あれは天性の感覚かな?」
「ふふ、そうでしょうね」
笑うフレイヤ。
「ねー、ママー。私コレー」
メニューを見ていたサリアは迷い無くお子様ランチを選んでいた。
大してメニューを見ずに決めたサリアにスレイは尋ねる。
「サリア、ここには良く来るのかい?」
「うん、外で食べる時は大体ここだよ。キャルおば……お姉ちゃんも面白いし、私このお店好きー」
無邪気に答えるサリア。
だが途中で呼称を呼び変えた事には子供ながらの処世術を感じてしまう。
「そうか……」
そしてスレイはメニューを見ると、自分も注文を決める。
「フレイヤは決まったか?」
「私は結構来ているからいつものものでね」
笑うフレイヤ。
その笑顔に暫し見惚れると、スレイは自分も決まった旨を告げる。
「それじゃあ、キャルー!」
フレイヤが呼ぶと店の中を動き回っていたキャルが寄って来る。
「はいはーい。注文が決まったの?」
「ええ、私は何時もの大角牛のステーキ定食で、サリアも何時ものお子様ランチで。あとスレイは?」
「俺はこのコカトリスの照り焼き定食で頼む。というか随分とモンスター系の肉料理が多目だな?」
スレイは疑問に思って尋ねる。
確かにモンスターの肉は美味いものも沢山存在しているが、その強さもあって通常はなかなか手に入り難い筈なのだ。
これだけ豊富なのには疑問が残る。
「まあ、この迷宮都市の場合探索者ギルドから仕入れられるからねー。君、スレイ君ってフレイヤが呼んでたわね、ともかくその格好からするとスレイ君も探索者でしょう?そういう系統の依頼とか見た事無いかしら」
「生憎、まだこの都市へ来てから2ヵ月半程度なのでな、そういう依頼はちょっと掲示板で眺めたりした程度なので良く知らないな」
「へぇー、そうなんだ。雰囲気とかから、それなりに経験ある探索者かと思ってたんだけど」
不思議そうにキャルが言う。
フレイヤが苦笑して言う。
「それなり、なんて言ったら失礼よ。スレイはこの若さでSS級相当探索者なんだから」
「へぇー、って嘘!?SS級相当探索者!?冗談……はフレイヤは言わないわよね。スレイ……スレイ!?ってあの今話題の、ぶっちぎりの最短記録でSS級相当探索者になったっていう“黒刃”スレイ!?」
キャルの大声に周囲から注目が集まる。
迷宮都市にある店だけあって、探索者の客も多いのか、先程から視線を感じてはいたが、その視線が一気に増えた事を感じる。
キャルもそれに気付いたのか、申し訳なさそうに告げてくる。
「ごめんなさいね、騒いじゃって。でも驚いたわ、あの“黒刃”スレイがこんな優男だったなんて。昨日から探索者の客の間で話題になってたんだけど、てっきりもっとゴツイ大男を予想してたもの」
フレイヤは苦笑する。
「探索者に関しては見た目は当てにならないって知ってるでしょうに」
「それはそうなんだけど、ねえ?」
スレイをじっくりと見つめ、キャルは尋ねる。
「“黒刃”スレイって言うと、昨日からの噂話を聞くと、やたらと女関係が派手って言われてるんだけど、フレイヤの事、遊びじゃないわよね?」
やや鋭い視線で聞いてくるキャル。
どうやらなかなか友人思いの女性のようだとスレイは微笑を浮かべる。
「笑ってないで……」
「本気だ」
キャルが問い詰めようとしてくるのを遮りスレイは告げる。
「フレイヤだけじゃない、俺は全員に対して本気だ。それが不実というならそれに関しては否定できないがな」
本気で告げるスレイをポカンと見つめるキャル。
だが暫くすると面白そうに笑い出す。
「いい、いいわキミ。ほんと面白いわね。そういう事なら問題ないわ、ただせいぜいフレイヤのことも沢山かまってあげてね」
「キャル」
困ったような声を出すフレイヤ。
その時、また店の奥から声が聞こえてくる。
「おーい、キャル!また何を遊んでるんだ!!さっさと仕事に戻れ!!」
「はいはーい。それじゃごめんなさいね、家の旦那が煩くって。注文は承りました、それでは少々お待ちくださいませ、ってね。それじゃあ仕事に戻るわね」
そう告げると軽い足取りで店の奥、キッチンの方へ去って行くキャル。
「なんというか、本当に面白い女性だな。ただ、どうやって彼女だけで接客してるのか少々疑問に感じるが」
「あら、彼女ああ見えて凄く仕事は早くて優秀なのよ?だから常に余裕があってこういう事もするんでしょうし」
フレイヤが言うのに、暫くスレイはキャルの事を観察してみた。
すると確かにその仕事は完璧でしかも早かった。
暫く話し込んで溜まっていた仕事を一気に片付けていっている。
「ほう、本当に大したものだな」
人は見かけによらないな、などと失礼な事を考えながらスレイは言った。
その時、突然背後から声が掛けられた。
「おう?おい、スレイじゃないか!」
背後に立つ人の気配には気付いていたが、話しかけられるとは思っていなかった為、多少驚きながらスレイは振り返る。
するとそこには【欲望の迷宮】で知り合った鷹の目団の一同が立っていた。
「あんた達か」
「おいおい連れないな、もうちょっと反応してくれよ」
ホークが軽い口調で告げてくる。
ふと見ると、何故かこのパーティでも一番の戦力である筈のあの獅子王オグマがしゃちほこばって立っていた。
その視線はフレイヤに向けられている。
「お、お久しぶりです、フレイヤさん」
「あら?お久しぶりねオグマ」
どうやらオグマとフレイヤは知り合いのようであった。
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