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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
1話
「えへへ、お出掛けお出掛け、嬉しいなー」
 両手を大きく振りながら楽しそうに笑うサリア。
 その両手はそれぞれスレイの左手とフレイヤの右手につながれていた。
 サリアの様子に笑みを零す二人。
 スレイの落ち着きとフレイヤの容姿の若さも相まって、まるで両親と子供のお出掛けといった風情である。
 周囲からはどこか微笑ましげな視線が向けられ、ただスレイのみには男性からの嫉妬の視線が向けられる。
 今のフレイヤは思いっきり上品かつ色っぽく着飾って、その元々の大人の色気もあって、実に男の視線を引く姿であった。
 もっともフレイヤがその姿を見せたいのはスレイ一人なのだが。
 今日は、色々な出来事が重なって、あまり相手をしてやれなかったサリアの為のお出掛けである。
 ちなみに宿の方は学園の方にごり押しして、いつも学園の臨時講師をする時に宿を任せてる人材を呼び寄せて任せてある。
 人脈、コネ、というのはこういう時に使うのよ、などとフレイヤは言っていた。
 サリアは大好きなフレイヤお母さんと大好きなスレイお兄ちゃんと一緒に出掛けているというだけで既にご満悦な様子だ。
 しかしこれだけ家族の団欒の風景を演出している三人が、出会ってまだ2ヵ月半だとは見ている誰にも想像が付かないだろう。
 それほどに、彼らの間には絆が感じられた。
 ちなみにディザスターやフルールといったスレイのペット達はお留守番である。
 彼らは非常に空気が読める邪神であり時空竜なのだ。
 しかし、全体的な微笑ましげな視線と、一部の嫉妬の視線に加えて、さらにかなりの割合で鋭い視線がスレイに注がれている。
 探索者達の視線だ。
 迷宮都市というだけあって探索者の数は多いので、かなりの割合となるのである。
 迷宮都市にやってきて僅か2ヵ月半。
 ぶっちぎりで最短記録を更新し、SS級相当探索者となった“黒刃”スレイは、その目立つ黒尽くめの服装もあって、既にその顔は探索者達、そして探索者を目指す者達などには広く知られていた。
 さらにスレイ自身が有名となったことで、その女性関係の派手さまでも有名になっている。
 故にそのかなりの割合の探索者の視線の内の一部には、一般男性と同じ様に嫉妬の視線を注いでいる者も数多くいた。
 いや、女性関係だけでなく、ただSS級相当探索者というだけで嫉妬の視線は多いのだが。
 それはともかく、都市を歩くだけでこの有様か、とややスレイは肩を落とす。
 有名税、というものであろうか。
 こんな事ならSS級相当探索者だなどと有名にならない方がいいのに、と他の探索者が聞けば怒り出しそうな事まで考えている。
 だが、とスレイはかぶりを振り、余計な考えを追い出した。
「どうかしたの?」
 フレイヤが尋ねてくる。
 フレイヤとてこの視線は気付いてるだろうに、敢えて聞いてきたのは大人の気遣いという物だろう。
 自分は何も気にしていない、そう主張しているのだ。
「いや、何でもない。それより昼食は何処で取る?」
 スレイは気遣いに応えフレイヤに尋ねる。
 午前中いっぱいは、サリアの服を買うのに使った。
 そして着せ替え人形のように、フレイヤと二人でサリアを着飾らせている内に、大量に買い込んでしまったのだ。
 フレイヤは自分がお金を払うと言ったのだが、スレイは男の顔を立ててくれ、と言って費用を全て出した。
 1000コメル。
 ただ子供の服を買うだけにしてはあまりに高すぎる金額である。
 流石に質も良いものを選び、量も買いすぎていた。
 だがスレイにしてみれば何ともない金額であったし、魔法の袋もあるので持ち運びにも何も不自由しない。
 まさかこんな日常の事で魔法の袋の利便性を実感するとは思わなかった。
「そうねぇ、私の知り合いがやってる結構良いお店があるんだけど、そこで構わないかしら?」
「ああ、俺は構わないぞ」
「ああ、わたしもかまわないぞー」
 サリアがスレイの口調を真似してみせ、スレイとフレイヤの二人を笑わせる。
 そしてそのまま仲睦まじく、フレイヤの案内に従い、三人はその店を目指すのだった。

「ほう」
 辿り着いた店“来々軒”に入ると同時、スレイは思わず感心したような声を出す。
 店の中にかなりの人以外の種族が居たからだ。
 人間とそれ以外の種族が半々であろうか。
 これはいくら迷宮都市といえども珍しい比率である。
 そして誰もが種族差を気にした様子も無く食事を取って賑やかで活気があった。
 良い雰囲気のお店だな、と思う。
「いらっしゃいませー、ってあら?フレイヤじゃない」
 そこに店を一人で走り回っていた従業員らしき人物が、声を掛けて来ると同時にフレイヤの存在に気付き驚いたような声を出す。
 見た目から判断するとどうやらフレイヤと同じく猫科の動物のライカンスロープのようである。
 だが豹のライカンスロープとは違う、そのもの猫のライカンスロープ、ワーキャットかと耳の形状からスレイは看破する。
 そう、その従業員はライカンスロープとしての本性を隠してはおらず半獣化していた。
 と言っても人との違いと言えば耳と目と尻尾ぐらいのものだが。
 年の頃はフレイヤと同じ位であろうか。
 栗毛のショートカットに猫目も茶色く、中々色っぽい女性である。
「それにサリアちゃんにー」
「こんにちわー、キャルおばヒゥッ、お、お姉ちゃん」
 サリアが無邪気におばちゃんと言おうとして、ジロっと睨まれお姉ちゃんと言いなおす。
 大人げないな、などと呑気に観察していたスレイに目をやると、キャルというらしいその女性はフレイヤを問い詰める。
「あらあら、なになに?あの人が亡くなってからアンタが男連れなんて珍しいじゃない。若いツバメをゲットしちゃった訳」
 随分と遠慮の無い事だ、とスレイは苦笑する。
 フレイヤは僅かも動揺した様子を見せず肯定してみせた。
「まあ、そんなところね」
「へぇー、ふぅーん、ほぉー」
 じろじろとスレイを眺めやるキャル。
 本気で遠慮が無い。
「おっと失礼、私はキャル。フレイヤとは昔からの友人で、この店の主人の妻よ、つまり人妻ね。どう?未亡人のフレイヤとどっちがそそられる?」
「キャル……」
 頭が痛そうなフレイヤ。
「あら?あの人の事をネタにしても怒らないなんて、これはフレイヤってば本気かしら?」
「ほう、それを確かめるつもりでそんな話題を振ったのか?」
 感心してみせるスレイ。
「ええ、それが半分、後は私の性格ね」
「……」
 あっけらかんと言ってみせるキャルに流石に黙り込むスレイ。
「キャルってば……」
 流石に、昔からの友人というだけはあり、慣れているのか、苦笑してみせるだけのフレイヤ。
 と、ふとキャルがある事に気付く。
「あら?指輪、変えたのね」
 フレイヤの左手の薬指には真新しい指輪が嵌められていた。
 先程、店先で見かけスレイが買い与えたものである。
 9000コメル程度の、飛び抜けて高価という訳ではない代物だ。
 だが指のサイズを聞いた時、フレイヤが古い結婚指輪を外し、左手の薬指を差し出して来た時には驚いた。
 スレイは我ながら小さい男だと思うが、買った指輪をフレイヤが左手の薬指に嵌めた時には何か独占欲を満たされた気分になったものである。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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