探索者ギルド本部、一階角部屋にある転移の間。
魔王の居城に向かうというシャルロット達と別れたスレイは、特殊な飛翼の首飾りを使って転移の間へと転移していた。
そしてそのまま転移の間を出ると、転移の間の扉の両脇で警護を務めるギルド子飼いの探索者達に軽く挨拶し、すぐ近くにある受付へと向かう。
そして受付の者にゲッシュに会いたい旨と用件を伝えると、何やら受付の者は非常に慌てた様子でゲッシュに魔法の通信機で通信し、すぐにゲッシュの部屋へと行くように伝えてきた。
ギルド本部の受付の者がこんなに慌てたのは初めて見る。
SS級相当探索者になった報告だ、という用件が用件だからだろうか?
どこか楽しげにそんな様子を眺めた後、スレイは悠々とゲッシュの部屋へと向かう。
頭の上にはフルールが乗り、後ろにディザスターが付いて来るが誰も止めない。
もう探索者ギルド本部を訪れるのも何回目かになるし、探索者ギルド本部の者達も慣れたのであろう。
そのまま階段を昇り、通路を歩き、ゲッシュの部屋、ギルドマスターの個室の前へと立つと、スレイはノックをした。
「入りたまえ」
中から聞こえた声に従いそのまま入室する。
中ではゲッシュが執務用のデスクに座り、やや頭が痛そうにこめかみを押さえて待っていた。
スレイがその前に進み出るとぼやくように語りかけてくる。
「まさか昨日の今日で、いきなりSS級相当探索者になった報告とは。クラスアップをしたことが原因かね?」
「まあ、確かにクラスアップしたのが理由でSS級相当探索者にランクアップしたのだが、『原因』という言い方はあまり良い印象じゃないな」
肩を竦めるスレイ。
ゲッシュは溜息を吐いてみせる。
「君には色々と驚かされてばかりだからね」
「そいつはすまないな」
軽く笑ってみせるスレイ。
ますます深く溜息を吐くゲッシュ。
「それでは、間違いなくSS級相当探索者になっているかどうか、確認させてもらってもいいかね?」
「ああ、探索者カードに能力値を表示して見せればいいのか?」
「いや、そのまま探索者カードを渡してもらえるかい?」
ゲッシュに言われたように、そのまま探索者カードを手渡す。
ゲッシュは執務机の上にあった何かの機械の端末の様なものにカードを通すとすぐにスレイに探索者カードを差し出してきた。
「それでは、返させてもらうよ」
受け取るスレイ。
そのままゲッシュが端末を色々と操作すると端末の上空にいきなり映像が浮かび上がり、スレイの能力値の全てと、その横に『SS』という小さな映像が浮かぶ。
「ふむ、間違いなくSS級相当の能力値へと至っているようだね。このLvでSS級相当探索者になるとは、ぬっ!?」
ふと、ゲッシュはある項目に目を留め、いきなり机を叩き立ち上がると、スレイを問い詰めてきた。
「だ、闇殺し(ダーク・ブレイカー)の称号だと!!スレイ君、君は闇の種族のどの種族かの長を殺したのかね!?」
「ああ、確かグルスとか言ったな。魔猿王と言っていたか?確かに殺したが」
スレイの言葉にゲッシュは絶望したように吐息すると乱暴に椅子に腰掛け、頭を抱える。
「なんて事だ、要人も要人、ヘル王国の宰相じゃないか。これは国際問題になるぞ」
「その心配は無いと思うが」
「何を言うのかね!!君は自分が仕出かした事を分かっているのかい!?」
あっさりと告げるスレイに再び怒鳴るゲッシュ。
だがスレイは落ち着いて説明する。
「そのヘル王国の宰相殿だがな、邪神の使徒となって、魔王に叛意を持っていたんだがな」
「なに!?」
驚愕の表情をするゲッシュ。
だがスレイは自らのペースで淡々と説明を続ける。
「その事に関してはシャルが直接魔王に報告すると言っていたし、特に問題は無いと思うぞ」
「シャル、とは誰かね?」
「ああ、“吸血姫”シャルロットと言えば分かるか?」
スレイに対し、今度は呆れたような視線を向けてくるゲッシュ。
「何時の間に愛称で呼ぶ程彼女と親しくなったのかね?いや、君の女性に対する手の早さを考えればさもあらん、か。どうせその邪神の使徒となったというグルス殿を討ったのも彼女関係なのだろうね」
「まあな」
段々と落ち着きを取り戻してくるゲッシュ。
ゲッシュの言葉を肯定するスレイ。
まあ、流石にゲッシュもそれが今日一日の話だなどとは思っていないだろうが。
「ふぅ、確かにそういう事なら問題は無いだろうね」
最後に吐息すると、ゲッシュは、端末をまた弄り始める。
「まあ、他にも色々と突っ込み所が満載な能力値なんだが、君に関してはもう諦めているので、特に尋ねたりはしないでおくとしようか。それでは君がSS級相当探索者となるにあたって、幾つか説明させてもらうよ」
「その前に一つ質問をいいか?」
ゲッシュが説明を始め様としたところに、スレイが待ったをかける。
「俺は昨日フィーナ、ああ職業神の巫女の一人の事だが、彼女から説明を受けて始めて知ったんだが、SS級相当探索者というのは自己申告制だったんだな」
「ああ、そういえばそういった説明もまだ受けていなかったのだね。まあ、そういう事は暫く探索者を続ける内に自然に先輩探索者やギルドの職員などから説明されるものなのだが、君の場合はまだ探索者になってから僅か2ヵ月半といったところだし、ソロ専門らしいし、知らなくて当然か。それで質問とはそのことかね?」
納得したように頷くと、ゲッシュはスレイに確認を取る。
だがスレイは頭を振ると否定した。
「いや、質問は別だ。ふと思ったんだが、自己申告制という事は、SS級相当の能力に至っても申告していないような探索者も居るのではないかと思ってな。そこのところはどうなんだ?」
なるほど、とゲッシュは頷く。
「確かにそういう者もいるだろうと我々探索者ギルドも予想しているよ。特に裏の業界に関わりのある探索者の中にはそういう者が多いのではないかとね。表に居る者にとっては有名になることはメリットが大きいが、裏に居る者にとってはデメリットにしかならないだろうからね」
例えば、とゲッシュは続ける。
「以前我々を襲ったライナなんかも、そういう意味では裏の業界では小物かな?裏での大物となるとそれこそ名前すら我々に掴ませていないだろうしね。どうだい?裏の業界から邪神との戦いに役立ちそうな人材の発掘でも君がやってみるかい?」
「いや、止めておこう。そういうのはアンタ達に任せるさ。もし戦力になるとしても、あまりに屑だったらついつい殺してしまいそうだしな」
なにげなく放たれたゲッシュの軽口。
それに対するスレイの反応は苛烈であった。
静かに、凍り付いたような声音で、絶対零度を幻視させる雰囲気を身に纏い、死を口にする。
思わずゲッシュは黙り込んだ。
いつでも飄々とし、戦いに関しては楽しんでいるように見える青年。
スレイがこのような雰囲気を出したのは初めて見る。
何か自分が地雷に触れたのかと戦々恐々とするも、スレイはすぐにその雰囲気を何時ものものへと戻していた。
「スレイ」
『主』
彼らも驚いたのだろう、フルールとディザスターがスレイに声をかける。
「うん、どうかしたか?」
だが、スレイは何事も無かったかのように返事を返すのみだった。
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