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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
31話
「なるほど、その娘には私を傷つける事ができないという事ですか」
 おかしそうに笑うグルス。
「むぅ」
 むくれたような顔のアルファ。
「と、いうことはだ」
 スレイは悠然と前に進み出ると、そのまま両腰の双刀の柄に軽く手を添える。
「ここは俺の出番かな?」
 軽く笑ってグルスを見やる。
 グルスは笑って答えた。
「いいでしょう。ここで貴方達を全員殺し、私自身で愚かな魔王を殺し、新たな魔王となる事に致しましょう」
 ふっ、と笑うスレイ。
「何がおかしい!?」
 怒鳴るグルス。
 まるっきり小物だな、とスレイは思う。
「いや、何。お前がどうやらシェルノートに、大して期待されてないようだと思ってな」
 なにせディザスターの事すら知らないようだし、と心の中で続ける。
「くっ、たかが人間が何をほざくか!!」
 ますます激昂するグルス。
 普段は丁寧な言葉遣いで取り繕ってるようだが、やはり本性はまるっきりの小物だな、と確信する。
 これほど使い捨て易い駒も無かろうな、とスレイは思った。
「しかしシャル。さっきからこいつは魔王になる魔王になる、などと何度もほざいているが、魔王というのはそんなに簡単になれるものなのか?サイネリアが出てくるまで魔王の座というのはずっと空位だったのだろう?」
「うむ、魔王の座に就けるのは闇神アライナ様の力の一部を持って生まれた者のみ、そして闇の種族の長き歴史においてもそれはサイネリア様だけ。故に邪神の力を借りそやつが力で魔王の座を簒奪したとしても、ただの僭王に過ぎぬ。アライナ様を信奉する妾たち闇の種族がそのような者を魔王と認める事はあるまいて」
「なるほどな」
「き、貴様らっ!!」
 シャルロットの説明に納得したように頷くスレイ。
 グルスは顔を真っ赤にして怒り狂っている。
「まあ、猿は猿らしくお山の大将を気取っていろ。という事かな?」
「スレイ。それでは他の魔猿族の者達に失礼であろう。こやつが愚かなだけで、魔猿族というのは闇の種族の中でも智に長ける者達であるぞえ」
「そうか、それは失礼な事を言ってしまったな。こいつと一緒にしては他の魔猿族に失礼に過ぎるな」
「ええい、どこまでも馬鹿にしおってっ!もう構わん、今すぐ殺してくれる。自らの愚かさを地獄で後悔するがいい!!」
 スレイとシャルロットの会話に乗せられ、ますます怒り狂うグルス。
「いや、どちらかというと邪神に力を借りているお前の方が地獄に落ちるんじゃないか?」
「それもそうじゃのう」
「ぐぎぎっ!」
 どこまでも口の減らないスレイとシャルロット。
 もはや何も言えずグルスの顔はすさまじく歪み、歯を噛み締めている。
「かあっ!!」
 そして咆哮を上げる。
 ビリビリと振動が場を走り抜ける。
 そしてグルスの顔の側面に二つの顔が浮かび上がる。
 更に肩から、そして肩甲骨の下から新たな腕が四本生えてくる。
 グルスは三面六臂の姿となっていた。
 そしてどこからともなくツーハンデッドソードを六本取り出すと、それぞれの手で一本ずつ握る。
 その輝きからオリハルコン製と知れる。
 そして振るわれる剣。
 グルスの膂力は容易くツーハンデッドソードを一本の腕で軽々と振り回していた。
「ほう、六刀流と言ったところか」
 楽しげに笑うスレイ。
 そうして一度しゃがみ込むと、アルファに語りかけた。
「それじゃあパパがあのお猿さんを退治してくるから、アルファはママの事を護っててくれるかな?」
「うん、分かった!パパ、あんな猿なんて格好良く倒しちゃってね」
「ああ、わかったよ」
 アルファに優しく笑いかけるとスレイは立ち上がり、今度はシャルロットに語りかける。
「それじゃあ、まあ、行ってくるよ“ママ”」
 顔を赤く染めるシャルロット。
「す、スレイ!!」
 怒鳴り声を軽く流し今度はディザスターとフルールに視線を向ける。
 二匹は何も言わずとも分かったと言うように頷いていた。
 これでシャルロットとアルファについては問題なかろう。
 そう判断するとスレイは一歩踏み出し、そして次の刹那、一気に光速の数百倍の領域へと突入していた。
 そのスレイの動きを視認するアルファとペット二匹、それにグルス。
 先程アルファが攻撃した時点で既に分かっていた事ではあったが、この速度域に付いて来る事はできるようだ。
 伊達に邪神の力を与えられた訳ではないな、とスレイは多少気を引き締める。
 一気にグルスの懐に踏み込んだスレイに、グルスの六つの巨大な剣の斬撃が時間差で襲い掛かる。
 だがスレイは回転するように二刀でそれぞれ一つずつ剣を弾き、弾いた剣が他の剣の動きを阻害するようにしてグルスの攻撃を防ぐと、そのまま斜め回転し、空中に逆さまに概念操作し“着地”する。
 そのまま更に回転しマーナで斬撃をアスラで刺突を繰り出す。
 一時的に剣が止まったグルスは後方に跳んで何とか躱すも、斬撃が僅かに掠り、刺突は先が刺さり、怪我を負う。
 瞬間、その輝きを強めるアスラとマーナ。
 血を啜り、精神を喰らったのだ。
 だがスレイはまだ止まらない。
 回転の勢いをそのままに、更にまた斜め回転するスレイ。
 “回転”の概念を付与し、回転の速度はこの速度域の中でさえ異常な速度まで高まっている。
 そのまま今度は地面に向かって足下から落ちながら、二刀で同時に斜めの斬撃を繰り出すスレイ。
 その圧倒的な威力に、巨大な剣を六本全て使って防ぐも吹き飛ばされるグルス。
 後を追うようにスレイは、地を蹴り今度は完全に前方に縦回転すると、上空から二刀を思いっきり振り下ろす。
 ますます回転の速度は速まり、威力は高まっている。
 六本の剣全てで受け止めるも、そのまま地に膝を着くグルス。
 だがまだ止まらない。
 反動を利用しスレイは今度は後方に斜め回転し、空中に再度概念操作し“着地”して、また大上段に、グルスにとっては下方から思いっきり二刀を振り下ろすスレイ。
 グルスは何とか反応し六本の剣で受け止めるも、やはりこらえきれず、空中へと浮き上がる。
 先程からグルスは時系列や空間に次元、存在する位相までもずらし何とか回避しようとしているのだが、それにすらスレイは完全について行き、グルスは逃れられない。
 浮き上がったグルスに、スレイの奔放な刀撃が襲い掛かる。
 自由自在にして多彩で奔放、刀技の本質は紛れも無く守りながら、全く型に囚われない刀撃。
 グルスはただ戦慄を覚える。
 必死になって受けきろうとするも、剣の数では勝っているというのに、圧倒的にスレイの手数の方が多かった。
 そして容易くグルスの防御は崩れ去る。
 概念操作により“切断”の概念を無数に纏ったアスラとマーナは、ついにはグルスの持った邪神の力により強化されたオリハルコン製のツーハンデッドソードを“切断”すると、無防備になったグルス自身を怒涛の如く切り刻んでいく。
 断末魔すら上げる暇も無かった。
 その身を構成する素粒子の果てまでも斬り刻まれ、グルスの肉体は完全に消滅していった。
「やはり、クランドには遥かに及ばなかったな」
 地に降り立ったスレイはただそう告げると、双刀を振り払い、鞘へと納刀するのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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