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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
29話
 先程から相手を馬鹿にするような事ばかり言うスレイだが、決して本気で言ってる訳ではない。
 相手に主導権を取らせず、その上で挑発し、場のイニシアティブを取る為の一種のパフォーマンスだ。
 スレイにしてみれば相手は敵の可能性が高いのだから、このぐらいは当然だと思っている。
 そして思惑通り相手は激昂し、冷静さを保てていない。
 そんな中、ようやく笑いを収めたシャルロットがグルスに問い質す。
「グルス、お主。人の城で好き勝手したのみならず、いずれ魔王となる、だと?正気かのう?狂ったのではあるまいな?」
 シャルロットの問いに、グルスは何とか冷静さを取り戻し、悠然と告げる。
「そこの卑しい人間族の男はともかく、貴女まで失礼ですな。私は正気ですよ、ええ、常にね」
 スレイを馬鹿にしつつ、シャルロットに答えるグルス。
 だがスレイは気にも留めていない。
 悠然と周囲を見渡し、興味深そうに眺めている。
 思わずまた激昂しかけるグルス。
「ゴホンッ」
 だが何とか咳払いして、怒りを抑え込む。
 そんなグルスにシャルロットは問い詰める。
「まさか、お主程度の力で陛下に敵うなどと、阿呆な妄言を吐くつもりではあるまいのう?」
「やはり失礼な方だ。その言葉にも、今の私であれば陛下にも勝てる、と異論を唱えたいところですが。まあ、とりあえずの策としては、貴女が過去に進めていた『魔造“天才”製造計画』の産物を使っての陛下の暗殺を考えていますよ」
 あっさりと自らの策をばらすグルス。
 なんというか自分の策をわざわざばらすあたり、物語の典型的な悪人のような奴だな、と感心する。
 それになんとなくこの説明口調には覚えがある。
 しかし“天才”か。
 またしても自分が関わっていそうなキーワードに眉を顰めるスレイ。
 どいつもこいつも“天才”“天才”と煩い限りだ、と肩を竦める。
 だがシャルロットはそれどころでは無い様だった。
「お主が何故その計画を知っておる!?」
「教えて頂いたのですよ、とある方にね。いや、実に面白い計画だ。何故この計画を途中で凍結したのか分かりませんが、本当に素晴らしい計画だと思いますよ」
 グルスが笑うのにシャルロットは尚喰ってかかる。
「計画を凍結したのは、“天才”の本質が肉体では無くその魂に在ると分かったからだぞえ。許容量に限界が存在しない、まさに無限の器たる魂。それがあってこそ初めて“天才”は無限に成長し続ける“天才”たり得るのだ。そしてその無限なる魂を創り上げる素材であるかの超神ヴェスタの遺体は神々が全て使い果たしておる。故に“天才”を創る事はもはや絶対不可能と既に結論が出ておるわ」
「ええ、それも既にあのお方から教えて頂いておりますよ。しかし、私はこうも聞いています。確かに“天才”の本領たる無限の成長力、それを再現する事は絶対に不可能だが、かつての“天才”オメガの細胞から、オメガの戦闘力の一部の再現は成功した成果が存在するとね」
「なっ!?」
 シャルロットは驚愕する。
 いったい誰がそのような事をグルスに教えたのか。
 それは決して誰にも明かしていないシャルロットだけが知っている事実だった筈だ。
 だが、今はそれどころではないと、動揺を押し殺すシャルロット。
「お主、何故陛下に叛意など抱いたのだ?」
「決まっているでしょう」
 シャルロットの問いに大仰に肩を竦めてみせるグルス。
「卑しく愚かな人間族などと協調路線を取ろうとする愚かな魔王。そのような愚劣な行い、許せるはずもありますまい」
「そういえばお主は主戦派のトップであったのう」
 納得したように頷くシャルロット。
 スレイもなるほどな、と頷く。
 人間の中にも、ヴァレリアント聖王国の聖王イリュアが闇の種族との講和を唱えているにも関わらず、特にヘル王国と国境を接する中央の中小国家群では、闇の種族との戦いを尚継続しようと言う勢力が多いのと同じ事であろう。
 種の溝とはこれほどに深いものかと、呑気な心地で得心する。
 まるで他人事である。
 実際スレイには自分にとっては他人事だと思っているのだが。
 そういう国家間や種族間の問題などは偉い人間が考えればいいことだとスレイは思っている。
 自分がやるべき事はただいずれ邪神と戦う事だと。
 力を持ち、通常なら持ち得ないような人脈も築きつつある立場でありながら、この無責任さ。
 やはり駄目人間である。
「しかし『魔造“天才”製造計画』についてそれ程詳しい事といい、この城の魔導科学の産物達を自在に操作していたことといい、お主にそれほどの魔導科学の知識は無かった筈。お主にそれほどの知識を与えた“あのお方”とは何者だの?」
「クククッ、知りたいですか?良いでしょう、教えて差し上げましょう。私にこの知識と力を与えて下さったのは、上級邪神たる“智啓”の邪神、シェルノート様ですよ」
「なんと!?」
「あ~」
 驚愕するシャルロット。
 対しスレイは、またあいつか~、などといった緩い反応であった。
「つまり、あれか。お前もまた邪神の使徒って奴なのか?」
「ええ、その通りです。愚劣な人間の分際で良くご存じでしたね。しかし私を並大抵の邪神の使徒と一緒にされては困ります。何せ私に力を与えて下さったシェルノート様は三柱の上級邪神の一柱なのですから」
「そうか」
 スレイは溜息を吐く。
 ディラク島のクランドといい、大陸中央にも邪神の尖兵が現れているらしい事といい、そしてこのヘル王国の宰相までが、と、最近の邪神は良く働いてるなー、などと的外れな思考をするスレイ。
「スレイ、お主、何を呑気に溜息など吐いておるか!!お主が言ったようにこやつは邪神の使徒なのだぞ、分かっておるのか!?」
「いや、まあ。分かってはいるんだけど、何となくこの猿の性格的に、クランドほど戦いを楽しめそうに無いと思ってな」
「僕もそうおもうよ~」
『我も主に賛同するぞ』
 実に戦闘狂染みた台詞を吐くスレイ。
 そのスレイにペット二匹も同意する。
 そんな一人と二匹にシャルロットは顔を引き攣らせて絶句する。
「お、お主らはっ……」
 そしてまた、グルスは激昂し猛っていた。
「き、貴様!!私をたかが元人間、しかも下級邪神の絶望のクライスターなどと契約を交わした者より下だとほざくか!!」
「ほう、良くクランドの事を知っているな」
 まあ、どうせシェルノートの入れ知恵と言ったところだろうが、と内心思う。
「くっ、これだから愚劣な人間はっ!よほどに死にたいと見える。良いでしょう、それでは貴方達に死を与えてあげましょう。アルファ!!」
 ふと気付くと、複数ある培養槽、その中の一つに満たされていた培養液が全て抜き去られていた。
 そして円筒形の透明な培養槽のケースが床の中へと潜っていく。
 培養槽が完全に開かれたそこには、一人の少女が裸で立っていた。
 外見年齢的には5歳程であろうか。
 黒いストレートの髪を腰まで伸ばし、子供とは思えない程均整が取れた肉体だが、とても戦闘に適しているとは言えないだろう。
 顔にはあどけなさが宿る。
 しかし、その少女の深紅の瞳が開かれたその時、そんな考えは吹き飛んだ。
「ほう!?」
「これはっ!?」
「ええっ!?」
『これは昔の主に近い?いや、だがそれよりはやや弱いか』
 圧倒的な力の波動に二人と一匹は驚愕する。
 そんな中、ディザスターのみは過去を思い出し、少女の力を冷静に推し測っていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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