上空からスレイ達の背後へ落ちて来る巨体。
いくら天井が高いとは言えその巨体に今まで気付かなかったのはおかしい。
何らかの迷彩機能でも備わっているのだろうか。
気配に関しては、同じ無機物故に、清掃用などの、雑用をさせる為の魔神と変わらず薄い。
その為に気配には気付かなかったのだろう。
繰り出される斬撃。
スレイは指先一本にエーテルを込めて軽く止めてみせると相手を見た。
ロビーに居た魔神兵とは全然構造が違う。
その流線型の姿はどこまでもスマートで、オリハルコンで構成されたその外観は洗練された美が感じられる。
それでいながら戦闘に特化され、様々な兵器を内臓し、外付けされたその姿。
今の一撃も、鋭利さは通常のディラク刀に勝り、その重さは山を叩きつけられたような衝撃であった。
だがエーテル強化により、自らを高めているスレイにしてみれば、その鋭利さも、重さも大した物では無かった。
いくら鋭利と言っても、スレイの得物であるアスラとマーナに比べれば、その鋭利さは数段落ちる。
また山の如き重さを持った一撃といえども、それこそ神話の巨人の如く世界そのものを支える事すら可能だろう、エーテル強化されたスレイの筋力にしてみれば大した重さではない。
故に同じ速度域へと思考も身体も加速させているディザスターとフルールに命じる。
「お前達はシャルを護ってろ、コイツは俺が片付ける」
「うん、わかったよ」
『承知した』
スレイの命令に従い、シャルロットの護衛に入るペット二匹。
ディザスターが張ったエーテル膜の結界と、フルールが張った次元断層の結界。
あれほどのものが二重に張られていれば、このガード魔神兵がどれほど強力であろうとまず破れまい。
その事に安心すると、スレイは目の前の敵へと意識を集中させる。
ふと、目の前の敵の胸部の宝玉が光っていることに気付く。
「ちっ」
概念操作などする暇は無かった。
咄嗟にスレイは防御魔法の結界を多重魔法で無数に重ね掛けして発動した。
そこに襲い掛かる光速の数百倍の速度域の中でさえ尚高速を誇る巨大な光線。
スレイの全身が巻き込まれる。
後方へと吹き飛ばされるも、無数に張った防御魔法の結界が僅かに数枚残って何とか直撃は避けられた。
だがすぐさまスレイに襲い掛かって来る魔神兵。
すかさず“動作”の“固定”、“機能”の“停止”“静止”の“命令”、などシャルロットの希望通り、敵を傷つけずに止める為の概念を無数に込めた鉄球を無数にこの速度域の中でも尚高速の指弾でぶつける。
鉄球により多少穴など開いてしまうかも知れないが、そのような事を気にしている場合ではない。
しかし鉄球が確かにぶつかり、概念操作が発動したにも関わらず、何かが割れるような音が響き渡ると、そのまま魔神兵はスレイに胸部からの光線を繰り出した。
どうやら低位の概念操作は軽く力ずくで破られたらしい。
なるほど、これが魔導科学の産物、その力の結晶かとスレイは感心すると、魔神兵の破壊を決意する。
シャルロットには文句を言われるだろうが、壊さないように加減などして倒せる相手ではない。
スレイは軽い概念操作で、光線を“掴み”取ると、そのまま“折り”曲げて、魔神兵へと返す。
それを容易く腕を振り掻き消す魔神兵。
どうやら防御能力も並大抵ではないようだ。
今度は目から二本の光線を放つ魔神兵。
「喝!!」
スレイは強化された筋力を以って、声のみで光線を掻き消してみせた。
周囲の形状保持魔法の結界が掛けられてるらしい壁や床、天井にひび割れが入る。
果たして自己修復魔法は掛けられているだろうかと、またしてもシャルロットの文句を想像し、ちょっと憂鬱になるスレイ。
だが今はそれどころではないと気を取り直す。
僅かに距離を置いて静止した魔神兵。
その身には傷一つ付いていない。
何という頑丈さだと呆れ果てるスレイ。
いくら何でも城の中にこんなものを設置するとは、とスレイはシャルロットに文句を言いたくなる。
だが仕方ない。
スレイは少し前、賢者と呼ばれる男の魔法を見て思いついていた融合魔法を使ってみる事にする。
今までは融合魔法の特性が無かった為試す事も出来なかったが、クラスアップし融合魔法の特性を手に入れた今、テストも兼ねてのいきなりの実戦での使用である。
スレイはまず炎の魔法を発動させた。
蒼白い超高温の炎が魔神兵を包み込む。
だがその温度をものともせず、魔神兵は動き出そうとする。
本気で対魔法能力も桁外れだな、などと考えながら、スレイは時間魔法を発動させた。
“始原”の“刻”へと全てを巻き戻す時間魔法である。
発動した炎の魔法と時間魔法を“融合”させる。
「『始原の炎に焼かれて沈め』」
以前、火の純元素と火の精霊の助けを借りてシェルノートの一部相手に使った魔法を発動させようとする。
何時の間にか、魔神兵を包み込んでいた炎が立体型かつ積層型かつ移動型の魔法陣を創り上げていた。
どのように動いても、もはや魔法陣が魔神兵を逃す事は無い。
そして炎は宇宙開闢の時へとその刻を巻き戻す。
炎そのものの刻を巻き戻しても宇宙開闢の始原の炎に至る事は無い。
“炎”という概念そのものの時を宇宙開闢の刻へと巻き戻しているのである。
融合魔法に加え概念操作までも併用した大魔法である。
そして炎は始原へ至る。
ソレは果たして炎と呼ぶのが正しいのかは分からない。
純粋なる熱量の塊。
圧倒的なエネルギーを持った空間そのもの。
魔法陣の内側で爆発的に熱量が膨らんでいく。
あらゆる意味で万全な防御力を誇った魔神兵の装甲が、圧倒的な熱量に歪む。
しかし、信じられない事に、始原の炎、その無限大熱量を以ってしても、魔神兵が蒸発どころか融解することも無かった。
いったい如何なる技術の産物か。
宇宙開闢の熱量にすら、魔神兵の装甲は歪みながらも耐えてみせている。
流石にこれにはスレイも驚いた。
コレを創り上げたシャルロットの知識には脱帽するしかない。
だが、それだけだ。
今、その装甲の歪みにより、魔神兵は動きが鈍り、明らかな隙が出来ていた。
そしてスレイは今、エーテルを極限まで高め、アスラとマーナに注ぎ込んでいる。
アスラとマーナの鞘は、その刀の許容量を超えた力の奔流を強引に押さえ込み、刀の中へと強引に溜め込ませている。
今にも爆発しそうなほどの、エーテルの高まり。
スレイは笑う。
とことんまで自分の力を出しつくせる事に。
概念操作、多重魔法、融合魔法、そして今から繰り出す、鞘の力を利用しての、極限まで高めたエーテルの斬撃をアスラとマーナから放つ居合い斬り。
今、スレイが持つ強大な力の殆ど全てを、スレイはこの城に辿り着いてから扱っていた。
剣士同士の技巧の限りを尽くしての戦いも楽しいが、このようにとことん威力を追求しての戦いもまた楽しくてたまらない。
スレイはディザスターとフルールに命じる。
「ディザスター、フルール。俺は今から全力の攻撃を放つ。周囲に被害が出ないよう結界を頼む」
この場合の周囲とはそれこそ世界規模の話だ。
それほどに今スレイは力を高めていた。
「わかったよ」
『承知した』
そして無数の時空間を歪めた次元断層と、無数のエーテル膜による結界がスレイと魔神兵を包み込む。
そしてスレイは現時点での最強の威力である居合い斬りに、さらに“切断”の概念を無数に乗せて、双刀をクロスさせ、斬撃を放つ。
魔神兵は素粒子までをも全て“切断”され尽くす。
それだけではない、スレイの攻撃はディザスターとフルールの結界を越え、僅かながらも周囲の通路や壁、天井にダメージを与え更に罅割れさせていた。
「えぇっ!?」
『なんと!?』
これには流石のフルールとディザスターも驚愕する。
今の結界は二匹が全力で張ったものであった。
まがりなりにもそれを突破したと言う事は、世界の一つや二つ軽く滅ぼせる程の威力が今の一撃にはあったという事になる。
スレイの成長に驚く二匹。
だが驚愕は続く。
「なっ!?」
「そんなぁ!?」
『これはっ!?』
その素粒子の果てまでも破壊し尽された筈の魔神兵。
確かにほぼ全体が素粒子の果てまで“切断”され、もはや役に立たないていと成っていたが、僅かに腕一本が残り、跳ねるように動いていた。
今の一撃を受けて、僅か腕一本たりと言えども形を残すとは、いったいどれだけの強度を誇っていたというのか。
一人と二匹は驚愕する。
しかし、流石に腕一本に何が出来る訳でもない。
そのまま腕は沈黙し、完全に静止した。
それと同時に通常の時系列へと回帰する一人と二匹。
もともと通常の時系列に在った、静止していたシャルロットが動き出す。
「な、なんだの、これはーーー!!?」
そして周囲と魔神兵の無残な様子を見たシャルロットの悲痛な叫び声が響き渡った。
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