襲い掛かって来る床の清掃用の魔神を“固定”の概念を込めた小さな鉄球を軽く当てて止める。
あれから、様々なタイプの魔神が出てきた。
今回の床清掃用の床を這う魔神。
壁や天井の清掃用の壁や天井を自在に這う魔神。
照明用の魔神なども居ただろうか?
ともかく様々な役割を持った魔神が、どれも暴走し、スレイ達に襲い掛かって来ていた。
それら全てをスレイは“固定”や“停止”などの概念を、鉄球を通して付与し、一時的に動作を静止させていた。
しかし、魔神達のスレイ達を狙う様子は、暴走というより何者かにそれを指示されているようでさえあった。
城のロビーで襲い掛かって来た魔神兵に関しては、中央制御室の制御を離れていた為、以前は襲って来なかったのだろう、とシャルロットはスレイに推測を語る。
恐らくは以前シャルロットが訪れた為、また訪れる事を予想し、手動でわざわざロビーの魔神兵は暴走するように弄られたのだろうと。
そしてこの様子ならば、恐らくは侵入者は中央制御室に居るだろうと、シャルロットは断定した。
そのまま通路を進んでいくスレイ達一同。
確かに、様々なタイプの魔神が襲ってきてはいたが、シャルロットの言った通りであった。
全て戦闘能力という意味では物足りない。
まあ、わざわざ雑用をさせる為の装置に、戦闘能力を与える変わり者など、普通は居る訳もあるまいが。
そういう意味ではシャルロットは常識的だったという事であろう。
それでも下級の探索者程度ならやられていたかも知れない。
その程度には高性能な魔神達であった。
ふと、シャルロットがスレイを呆れたように見ている事に気付く。
「なんだ?」
スレイがシャルロットに疑問を投げかける。
そんなスレイにシャルロットは本気で呆れた声で告げた。
「いや、お主。んんっ、いやスレイと呼ばせてもらおうか、恋人だしのう」
頬を赤らめて言うシャルロット。
「恥ずかしいんなら無理しなくてもいいぞ、シャル」
「し、シャル!?」
声を上擦らせるシャルロット。
「ああ、恋人同士と言われたからな、適当に愛称など付けて呼んでみた訳だが、問題があったか?」
「い、いや。問題はないぞ、スレイ。これからはそう呼ぶとよいぞえ」
んんっと喉を鳴らし、火照った顔を冷まし、自らを落ち着かせるシャルロット。
「誑しだね」
『誑しだな』
何やらペット二匹が呆れたように言ってくる。
それを無視してスレイはシャルロットに尋ねる。
「それで、シャル。どうかしたのか?」
「ああ、まあのう」
シャルロットは一拍置くと、やはり本気で呆れた声で告げる。
「スレイは本気で何でもありだと思うてのう」
「そうか?」
疑問の声を上げるスレイ。
スレイとしては、自らはまだまだだと断じているので、当然の疑問だ。
もっとも、スレイの基準としては、未だ下級邪神のレベルにさえ届いていない、という事で自らをまだまだと断じているのだが。
つまり一般的な常識とは逸脱した基準な訳である。
「俺なんて、まだまだだと思うがな」
正直に答えたスレイにやはりシャルロットは本気で呆れた視線を向ける。
「スレイの基準はどうなっておるのだ?」
「どうなってるも何も、未だ下級邪神にすら届いていないからな。少なくともロドリゲーニは俺がこの手で倒さないとならない訳だし。それ以外にも何故か俺は上級の邪神達から狙われている訳だし、この程度の強さじゃ話にならないだろう」
「な、なるほどのう」
確かにそういう話は会談でしていたし、さらに求道のジャガーノートという上級邪神がスレイ目的で思念体を送って来たという事実を思い出し、一応の納得を見せるシャルロット。
だがスレイの話は続く。
「なにより邪神どもとの戦いは楽しいからな、いずれは全ての邪神、それこそ最上級邪神と言われる憤怒のイグナートとも戦ってみたいな。あとは下級邪神と同格だという破壊と創造の炎を持つ神峰アスール火山の不死鳥とも戦ってみたいと思う。それにジャガーノートが言っていたように【邪龍の迷宮】に潜り、中級邪神に匹敵するという失われた名持ちの邪龍、奴の言う所の死を呼ぶ蛇とも戦ってみたいな」
「……」
「流石スレイ」
『それでこそ主だ』
絶句するシャルロット。
逆にペット二匹はそんなスレイを賞賛していた。
「す、スレイ。お主、本気で戦闘狂だのう」
「かもしれないな」
あっさりと返すスレイ。
もう諦めたような顔でシャルロットは続ける。
「まあ、それについてはもうよい、諦めた。しかし妾がスレイが何でもありと言ったのは概念操作とやらについての話だ。城の外では炎の魔法に一時的に“生命”を与えるなどという真似をやらかしておったし、城の魔神達を止めるのに使っているその鉄球を用いての概念操作など、便利過ぎて反則であろう?」
「さて、どうかな?」
軽く肩を竦めてみせるスレイ。
「今のところ俺が操作できるのは所詮は低位の概念に過ぎないから、ある程度以上の力を持った相手なら軽く破る事が可能だし、それに邪神相手じゃ全く通じないだろうさ。まあ、邪神相手であっても、自分自身を概念で強化するのは、役に立つだろうけどな」
「邪神を基準にしてる時点で、スレイの基準はおかしかろうて」
ますます呆れた表情になるシャルロット。
だがスレイは続ける。
「もっとも、これから成長すれば、中位の概念操作くらいなら全般的に使えるようになるようだし、それ以上に、俺の場合は“切断”の概念に限定すれば、いずれは上位の概念操作、そして最終的には終なる“絶対概念”であるプリマ・マテリアの剣の創造にまで至る事が可能らしいから、邪神にも通用するようになるだろうけどな」
淡々と自らの中に刻みこまれた知識を披露するスレイ。
スレイは恋人相手には特に隠し事をするつもりは無かった。
「ぜ、“絶対概念”とは何なのだ?」
「まあ、あらゆるモノに対し、“絶対”に“優先”される“概念”のことかな?俺自身も良く分からないんだが」
軽く告げるスレイ。
補足するようにペット二匹が語る。
「まあ、絶対無敵の超強い概念ぐらいに考えておけばいいよ」
『まあ、全高位多次元全能すらも遥かに越えた、究極の一能と言ったところだろうな』
「ますます分からんぞえ」
混乱するシャルロット。
「まあ、あまり考えすぎないことだ」
軽くスレイは流す。
「スレイ、お主、自分のことであろうに」
やはり呆れるシャルロット。
「まあ、何はともあれだ」
ふと、スレイが足を止める。
続いてシャルロットとペット二匹も足を止めた。
「あそこが中央制御室とやらだろう?」
スレイが目線で先を示す。
そこには巨大な扉があった。
「う、うむ。その通りだのう」
頷くシャルロット。
「さて、それじゃあガード魔神兵とやらは何処にいるのかな?」
「確かに、姿が見えないのう」
疑問の表情を浮かべるシャルロット。
刹那、スレイとペット二匹は、一気に光速の数百倍の速度域へと突入していた。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。