城のロビーに入った刹那。
スレイとディザスターにフルールは、シャルロットを置き去りに、光速の数百倍の領域へと突入していた。
そしてスレイは、突然左側から襲い掛かって来た巨大な刃を、軽々と左手の指先二本で受け止める。
何せ元々SS級の筋力を現在は純エーテル強化により+4ランク強化した状態だ。
それこそ“足場”が存在し“世界”が形を持って実体化しているのならば、神話の巨人の如く世界を支える事も容易く可能だろう怪力である。
並大抵の攻撃では重さを感じる事もない。
もっとも器用さはそれ以上に上がっているので、その筋力をも完璧に制御でき、どのような時でも最適な力のみを発動させる事が可能なのだが。
そしてスレイは悠々と自らを光速の数百倍の速度域で襲ってみせた相手を見る。
巨大であった。
武骨であった。
強度の非常に高い金属、つまりオリハルコンで全身が構成されている。
見たことも無いような、角ばっていながらどこか機能美を感じさせる巨体。
あえて述べるならゴーレムに近いだろうか。
だがゴーレムなどと比較するのは間違いだろうと思えるほどに洗練されていた。
何よりスレイに対して光速の数百倍の速度の攻撃を繰り出したのだ。
その能力からしてゴーレムなどとは格が違う。
ゴーレム?の目が光る。
そして発射される光速の数百倍の速度域のレーザー。
それをもスレイは悠々と右手で左腰に差したアスラを鞘から引き抜き、“反射”の概念で以って弾き返してみせた。
“反射”されたレーザーは、ゴーレム?の目へと正確に返り、ゴーレム?の目を、いや頭部を爆発させる。
そのまま背後へと倒れるゴーレム?。
スレイは当然既に左手の指先で受け止めた刃を離している。
完全にゴーレム?が沈黙すると、スレイとディザスターとフルールは通常の時間軸へと回帰する。
そして動き出すシャルロット。
始めは状況を理解できないようだった。
しかし目の前に倒れるゴーレム?の頭部を破損し沈黙した姿を暫し呆然と眺めると、状況を理解したのか突然騒ぎ出す。
「なーーーーっ!?わ、妾の傑作であるオリハルコン製の魔神兵がーーーーっ!!」
シャルロットはそのままスレイに詰め寄った。
「お、お主。何をしてくれるのだーーーーーっ!!」
その大声に耳を塞ぎながらスレイは答える。
「仕方無いだろう、いきなり襲い掛かって来たんだから。正当防衛だ」
「何!?」
驚いた表情をするシャルロット。
「馬鹿な!妾と共に入った者に攻撃するだと!?識別機能は付けてあるのだぞえ!?」
「それどころか、シャルロットさえ攻撃範囲に入っていたぞ。こいつも暴走してたんじゃないのか?」
最初の斬撃は、自分が止めなければ間違いなくシャルロットも真っ二つにされていただろう。
正直にそう告げるスレイ。
シャルロットは唖然とした表情をする。
「そんな!先に訪れた際は間違いなくこやつの識別機能は正常に働いていた筈!……いや、以前とそして先程の結界の違和感はそういうことかのう」
一人納得した表情で頷くシャルロット。
「そういうこと、とは、どういうことだ?」
勝手に納得されても困るので、スレイが尋ねる。
「つまり、侵入者がおる。ということだの」
「ほぅ」
面白そうに笑うスレイ。
「その侵入者は少なくともこの、魔神兵だったか?魔神兵よりは強い訳か?」
「いや、その可能性は低いのう」
淡々と告げるシャルロット。
「そこの、魔神兵の頭部の損傷はお主がやったのであろう?」
「まあな」
あっさり頷くスレイ。
「その頭部の損傷以外に目立った損傷は見受けられん。戦いに強いというよりは、その者も魔導科学に通じているのであろう。恐らくは識別機能を誤魔化したのであろうな」
「そうか」
やや残念そうなスレイ。
強敵と戦えるかと期待したが、どうやら敵はシャルロットと同じく魔導科学の専門家らしい。
真っ当な戦いでは敵にすらならないだろうと予想する。
「しかし、人間には知る者もいないだろう、書物でさえ見た事の無い魔導科学というのが、闇の種族の間ではかなり広まっているのか?」
「まあのう。殆どの闇の種族が生活において魔導科学の恩恵を受けておるぞえ」
「なるほどな」
裏の事までは知らないが、人間が表立って扱っている魔導科学の産物は、それこそ神々が遺した迷宮探索関連の装置ぐらいのものである。
どうやら人間は、闇の種族との交流を閉ざす事で、生活の利便性を得る機会をも失っているらしい。
まったく以って勿体無い話だ、とスレイは思う。
「なんにせよ、こいつクラスの化物が、城の中にはうじゃうじゃ居るのか?」
「いやそれはないのう」
「何?」
シャルロットはスレイの(スレイにとっての)希望的観測をあっさりと否定する。
「というか、よう考えてみい。こいつクラスの化物がそこらで暴走などしておったら、そもそも先に妾が訪れた時点で、妾は命を落としておっただろうに」
「そういえば、そうだな」
どこか残念そうに肩を落とすスレイ。
「お、お主は!妾が無事だったことをまず喜ばんかい!!」
「恋人が無事だった事は当然喜んでいるさ」
肩を竦めて飄々と言うスレイ。
あっさりと放たれた恋人という言葉に、寧ろシャルロットが顔を赤くする。
「だが、なあ。ただでさえ魂を持たない被造物では欠片も経験値にさえならない上、この城のものはシャルロットの所有物だから持ち出す訳にもいかんしな。その上戦いも楽しめそうにないとなると、本当に作業の様なものだと思ってな」
「お、お主という奴は……」
呆れたようなシャルロット。
スレイの発言は本気で戦闘狂じみていた。
「ま、まあよい。そういう事なら二つ朗報があるぞえ。まずこれから向かう先だが、地下にあるこの城の魔導科学の産物を全て制御している中央制御室となる。その中央制御室に以前向かわなかった理由が、お主のお望み通りのこやつ以上の戦闘機能を持つガード魔神兵が中央制御室をガードしておるからでのう。もしそやつが暴走していたら危険だと思ったので途中で引き返した訳だ」
「ほう、それは」
嬉しそうに笑うスレイ。
そんなスレイをディザスターとフルールは嬉しそうに見ているが、シャルロットは呆れるばかりである。
「次に、仕事は城の清掃兼暴走した魔導科学の産物との戦闘、として頼んでおるが、城内には清掃用の魔神も動作しておってのう。暴走しているそやつらを壊すことなく止めてくれれば、清掃はそやつらがやってくれるぞえ」
「なるほど、壊さず止めればいい訳だな?」
「うむ、暴走している今、並大抵のものにとっては危険な戦闘能力を発揮しておるが、お主ならばその程度楽勝であろうて」
「まあな」
スレイは楽しげに笑って肯定する。
「あー、それとだがのう。なるべくなら中央制御室前のガード魔神兵も壊さず止めてくれ。あやつも妾の傑作じゃからのう」
「まあ、鋭意努力はさせてもらおう」
スレイはどこか視線を逸らせつつ答えた。
「本当だな、絶対だな、嘘ではあるまいな!?」
必死なシャルロットを、スレイはどうどうと宥める。
「ところで、侵入者とやらはどうするんだ?」
スレイが話題を逸らす。
「そんなもの、遭遇してから考えるしかあるまい」
軽く答え、誤魔化されまいとスレイに視線を向けるシャルロット。
そうして疑惑の視線を向け続けるシャルロットに先導され、スレイ達は城の地下へと通じる通路へと向かうのだった。
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