「これは」
「また」
『何と』
スレイ、フルール、ディザスターと呆れたような声が続く。
「ええーい、だから3000年放置していたのだと言うておろうが!!」
一人と二匹の反応に逆切れするシャルロット。
そんなシャルロットをどうどうとあしらいながら、スレイは目の前の城を見つめた。
スレイ達はシャルロットの飛翼の首飾りで、一先ずシャルロットの城の近くにあるという吸血鬼達の街へと転移した。
その中の一つの小屋にシャルロットは転移用のマーカーをしていたのだ。
スレイもこれからに備え、一応マーカーをしておく事にする。
街の者には後で話しを通しておくとシャルロットが言っていたので問題は無いだろう。
これで闇の種族以外は殆ど足を踏み入れる事のできないヘル王国にもスレイは出入り自由となったという事になる。
しかし、シャルロットが小屋から出ると同時に、普通に生活していた筈の街の吸血鬼達が全てシャルロットを崇めるように跪き礼をしたのにはスレイ達も流石に驚いた。
吸血鬼もまた、エルフの陽の雰囲気とは違う陰の雰囲気ではあるが、美形揃いの種族である。
夜の貴族とまで謳われ、闇の種族の中でも一、二を争う程の力を持った種族の者達が、一様にシャルロットに跪く様は荘厳なものがあった。
シャルロットは、その礼を当然のように受け取り、堂々と歩んで行く。
スレイ達もその後に続いた。
街の吸血鬼達はどこかスレイ達に疑惑の目を向けていたが、何せシャルロットが連れている客人である。
誰何することも失礼と考えたのであろう。
そのまま特に何も問題は起こらなかった。
しかし、事前に聞いていたとはいえ、街の様子には驚かされる。
時間帯は朝だというのに、夜の帳が街を覆いつくしている。
これもまた魔導科学の賜物らしい。
シャルロットが造り上げた結界装置だそうだ。
吸血鬼達は日の光に弱い。
吸血鬼の中でも高い能力を持った者達は、太陽の光を浴びても平気だそうだが、それでもある程度能力は落ちるという。
日の光を浴びても全く行動に支障がないシャルロットは、そういう意味でも特別であった。
そのまま街を出るとスレイ達はシャルロットに従い近くにあるというシャルロットの城へと向かう。
ちなみに街から出ると同時に、日の光が普通に当たり、シャルロットの造ったという魔導科学の結界装置の精度の高さには驚かされた。
ふと後ろを振り向くと、巨大な闇の円柱のようなものがそそり立っている。
先程までいた街とそれを覆う結界だ。
「どうした?早く行くぞえ」
暫しその闇の円柱に見入っていたスレイは、シャルロットに促され、フルールを頭に乗せ、ディザスターを従えてシャルロットの後に続いた。
そして話は冒頭に戻る。
城自体は確かにシャルロットの言っていたように綺麗なものであった。
3000年放置した、というにも関わらず、城の建材、それに塗装、何もかもが新品の城のようにさえ見える。
だからこそ周囲の様子が際立った。
城を覆う円形の範囲の中と外で、あまりに様子が違い過ぎる。
恐らくは城に張った形状維持の結界以外に、侵入禁止の結界でも周囲に張ったのであろう。
その円形の結界の内側は草が伸び放題、木々も好き勝手に立ち並び、酷い有様だ。
それに対し円形の結界の外側は綺麗なものであった。
恐らくは吸血鬼達が自分達の長の城の周囲を綺麗に保とうとしていたのであろう。
手入れが行き届いている。
「なんというかこれは、3000年云々以前に、自業自得じゃないか?」
「そうだよ、城の外の結界のせいで吸血鬼の人達も近づけなかった所為でこうなったんじゃない?」
『うむ、結界を張ったのが城のみであれば、恐らくは街の吸血鬼達が、城の周囲も綺麗に保ってくれただろうな』
「ぐぅっ!」
三人の正論に、反論できずシャルロットは黙り込む。
「と、いうか城を見に来た時に何故城の周囲の結界を解かなかったんだ?」
「言うたであろう、今城の中はトンデモない事になっておると。今度は侵入ではなく、外に被害が出る事を避ける為に結界を解除できんかったのだ」
「ふむ」
スレイの疑問にシャルロットが返した答え。
確かに理屈は通っている。
「しかし、外から見る範囲では、どうトンデモない事になってるかすら分からんが」
「ならば入って確かめればよかろう」
どこか挑発的にシャルロットが言う。
自分の不手際を指摘され悔しかったのだろう。
そんなシャルロットが子供のようで可愛いなどと感じる自分の感性に疑問を覚えるスレイ。
「そうさせてもらうさ。だが、その前に、城の周囲の邪魔な草木の類は全て片付けてしまって構わないか?」
「?まあ、どうせ外観を整えるのも一からやり直さねばならぬだろうから、特に問題はないがのう」
「そうか」
それじゃあ、とスレイは告げ、炎の精霊王の加護を最大限に活用し、炎の魔法を十数個同時に発動させ、多重魔法で重ね掛けする。
「なっ」
スレイが炎の精霊王の加護に加え多重魔法で、超巨大な、超高温の蒼白い火球を一つ出現させたのに驚くシャルロット。
「何を考えておる。それではやりすぎであろう!?」
だがスレイは構うことなく続いて蒼白い火球を巨大な竜の姿へと変化させる。
そして蒼白い炎の竜に、概念操作で一時的に“生命”を付与する。
それにより、蒼白い炎の竜は一時的に一個の生命体と化す。
更に加えて“範囲選択”の概念を付与し、城の周囲の無駄な草木のみを対象とする。
そして“透過”の概念も付与し、結界も無視できる様にすると、そのままスレイは炎の竜に命じた。
「行け!!」
瞬間、炎の竜は刹那で己が役割を果たすと、そのまま一時的な擬似の“生命”を終え、消え去っていた。
「うわぁ、スレイ今の格好いいね。またやってよ」
『うむ、流石主だな』
気楽に騒ぐペット達。
だが、シャルロットはそれどころではなかった。
「な、な、な、何をしたのだぞえ、これは!?」
シャルロットが見ているのは城の周囲の結界の内側だ。
地面が光沢を放ち、その表面が磨きぬかれた硝子のようになっている。
対象を完全に指定し、完璧に制御していたにも関わらず、あまりの高温に地面が融解し、結晶化したのだ。
「あ~、ちょっとやり過ぎたかな?」
頭を掻きながら気まずげに言うスレイ。
「ちょ、ちょっとどころではなかろうがーーー!!」
そうして騒ぐシャルロットを、スレイとペット二匹は暫く宥め続けるのだった。
「はぁ、はぁ。ま、まあよい。それでは行くぞえ」
暫く宥められ、ようやく落ち着いたシャルロットがそう告げる。
「?」
だが結界を通り抜ける時、シャルロットは僅かに不思議そうな表情をした。
「どうした?」
「いや、以前もそうだったが、今回も結界に何か違和感を感じてのう」
スレイの質問に答えるシャルロット。
「ふむ、完全に結界を“透過”させた筈だが、何か影響があったか?」
「いや、そういう感じでは無いのう。それに以前もと言ったであろう?」
暫し不思議そうにしていたシャルロットだが、まあよい、と疑問を置き去りに城へと歩み寄っていく。
そして、何かの仕掛けを操作し城の扉を開こうとする。
ふと、スレイ達を振り返ると、シャルロットは告げた。
「よいか?油断はするでないぞえ。入ったその時から戦場と覚悟を決めて入るのだぞえ?」
仰々しく告げると、シャルロットは、城の仕掛けを発動する。
巨大な扉が軋み声を上げながら開いていった。
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