探索者ギルド本部から今度は職業神の神殿へ向かう。
待合室にディザスターとフルールを待たせ、受付を通り、剣士系職業のクラスアップの部屋へと入る。
そして今回もまた、待っていた担当の職業神の巫女はフィーナだった。
「ここでお会いするのはお久しぶりですね。といっても、Lvも40を超えれば10上げるのに年単位でかかるのが普通なんですから、これでも異常な速さですけど」
自分の感覚の狂いに苦笑するフィーナ。
「またフィーナが担当か。何かもう、ここまで来ると、作為的なものを感じるな」
「あら?わたくしが担当ではご不満でしょうか?」
以前と同じ様な事を拗ねたように言うフィーナ。
スレイは苦笑する。
「恋人が相手で不満な訳が無いだろう。ただ、剣士系職業の担当の巫女は3人いるのだろう?3回ともフィーナが担当で、しかも俺の知り合いのクラスアップの際もフィーナが担当だったらしいしな。多少は作為的なものを疑っても仕方ないだろう」
「だとすれば、ダンテス様がわたくしに贔屓をしてくださったのかもしれませんね。しかし、知り合いとはシズカさんの事ですか?」
スレイは思わず驚いた声を出す。
「よくわかったな」
「ええ、まあ。シズカさんが色々と愚痴を零されているのを聞きまして。ああ、これはスレイさんの事だろうな、と」
「愚痴で俺の事だと分かるのか」
スレイはやや肩を落とす。
「ええ、それはまあ。色々と規格外で、しかも女にだらしない天然誑しで、駄目人間で……、他にもありますけど全部聞きます?」
「いや、止めておこう。非常に落ち込みそうな気がする」
「そうですか、まあともかく一言で纏めると、スレイさんは非常識な存在という事です」
あっさりと断言され、スレイはますます肩を落とした。
「なんだろうな、最近恋人達の最初の頃の優しさが恋しいよ」
「どっちかというとスレイさんが戦闘方面以外は駄目人間になっていってる気がするんですけど」
苦笑するフィーナ。
「それでもスレイさんを好きな気持ちが変わる事が無いんですから、スレイさんはやはり不思議な人ですね」
「やっぱり褒められてる気がしない」
「それは褒めてませんから」
きっぱり断言するフィーナ。
「やっぱり昔の優しいフィーナが懐かしい」
完全に肩を落とすスレイ。
「ふふ、すみません。それではクラスアップの儀式に入る前に、これはわたくしの我侭なのですが、今の状態で探索者カードを見せてもらっても構わないでしょうか?」
苦笑を深めたフィーナがどこかねだるような調子でスレイに頼み事をする。
「まあ、今更フィーナに隠す事でもないしな。それに恋人の我侭は出来る範囲であれば大歓迎だ。別に構わないぞ」
スレイはカードを取り出すと、そのまま全てを表示しフィーナに差し出す。
スレイ
Lv:51
年齢:18
筋力:S
体力:SS
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、誘惑耐性、霊耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:双刀“紅刀アスラ”“蒼刀マーナ”、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:5001 次のLvまで99
預金:90062コメル
「……予想はして、心構えもしていたのですが。あっさりとその上を行ってくれますね、スレイさんは」
絶句した後、なんとかそのように言葉を紡ぎ出したフィーナ。
表情は愕然といった様子である。
「能力値は元々異常なので良いとして」
「いや、元々異常って」
「実際そうでしょう?」
黙り込むスレイ。
少々不本意だが、大陸でも最高峰と呼ばれるような者達の能力値を見た事もある以上、それと比べて自分の能力値がやはり異常だというのは理解できている為、反論の言葉が思い浮かばない。
「虐殺者の称号、こんなの見た事無いです。いったい何をしたんですか?」
「まあ、ちょっと特別製な一騎当千のアンデッド兵の軍勢一万と、一人で戦ったぐらいだな」
「なっ」
またしても絶句するフィーナ。
だが今度は強い瞳で詰ってきた。
「なんて無茶をしているんですか!もっと命を大事にして下さい!!」
「いや、ほら。実際無事だったんだし」
「少しは心配する恋人の身にもなって下さい!!」
本気で怒鳴るフィーナ。
小柄で儚げな身体で精一杯に大声を出すフィーナ。
思わずスレイは笑みを浮かべてしまう。
「何を笑っているんですか!?わたくしは真剣に、んむぅ」
唇で唇を塞ぎ黙らせるスレイ。
そして唇を離すと告げる。
「いや、フィーナが俺の事を本気で案じてくれているのが分かって嬉しくてな、思わず笑みが浮かんでしまった。本当にすまない。これからも無茶はしないとは約束できないが、必ず生きのびると、これだけは絶対に約束する。それで許してくれないか?」
「本当に仕方の無い、それにずるい人ですね。でも逆らえないです。本当に惚れた弱みって厄介ですね」
またしても苦笑したフィーナはカードの続きに目をやる。
「……概念操作って何ですかこれ?」
「言葉通り、概念そのものを操れる能力だな。今の所まだ低位の概念しか操作できんが」
「本気で無茶苦茶ですね」
もうスレイに関しては諦めたと言わんばかりに諦観の表情を見せるフィーナ。
「それと、霊耐性はともかく、誘惑耐性って……誘惑、されたんですか?」
その時、恐怖を既に感じない筈の自分が、何故か冷や汗を掻いている理不尽に驚くスレイ。
「ああ、まあ。迷宮で異世界の女神にな。というか恋人が複数いる身の俺に、今更そこで反応されても」
「それは、そうですね。すみません、まだまだ未熟なもので感情の制御が下手で」
「まあ、そういう嫉妬も可愛くて嬉しいものだけどな」
軽く告げるスレイにフィーナは頬を赤らめ強い語調で言う。
「そういう事を平気で天然で言えるスレイさんの女っ誑しっぷりが全ての元凶だと思います」
ふぅ、と溜息を吐くと続けるフィーナ。
「それに九尾の腕輪ですか。見た時から神気が立ち昇っていて不思議な腕輪だと思いましたが、九尾の狐に会ったんですか?」
「ああ、まあな。ギルドに対する協力の約束を交わしてきた」
「九尾の狐といえば、傾国の美女だそうですね」
見破られている。
何故かそう思うと、恐怖はとっくに存在しないスレイなのに、やはりまた冷や汗が吹き出てくる。
いったいこれはどういう事だろうとスレイは再度疑問に思った。
そしてフィーナは諦めたような表情でスレイに告げる。
「まあ、それはいいです。スレイさんの女性に対する手の早さは、もう諦めました。それでは、そろそろ魔法陣の中央に立ってもらえますか?」
フィーナの言葉に若干傷つきつつ、スレイは探索者カードを一度しまい込むと、言われたままに魔法陣の中央に立つ。
3回目ともなれば慣れたものである。
「それでは今回のクラスアップでは、今までの2回以上の激痛を感じる事になりますが。まあ、スレイさんなら心配ないですね。それでは始めます」
フィーナは機械装置を軽く操作して祈る体勢を取る。
果たして信頼されているのか粗雑にされているのか、恋人の言葉に複雑な笑みを見せるスレイ。
そして儀式が始まった。
魔法陣が光輝くと同時にスレイの全身に激痛が走る。
確かに今までの比ではない。
まるで細胞一つ一つに痛覚が生まれ、細胞の一つ一つがすり潰され、新しく作り直されているような激痛だ。
スレイですら思考が空白に落ちた程のその激痛が数秒間続き、そして収まった。
儀式が終わり、祈りの姿勢を解いたフィーナがやはり呆れたように告げる。
「本当に凄いですねスレイさん。まさか今回も微動だにすらしないなんて」
「いや、今回に関しては痛みで何も出来なかっただけだ。正直これほどとは思ってなかった」
スレイはそう答えるがフィーナは続ける。
「それでも凄いですよ、意識が無くても他の方は身体が勝手に反応して暴れ周りますからね」
「なにっ!?それでフィーナは大丈夫なのか?」
自らを心配するスレイに嬉しそうに笑うとフィーナは頷く。
「ええ、儀式中の私の周囲にはダンテス様の結界が張られていますから」
「そうか、良かった」
安堵の吐息をするスレイにフィーナは告げた。
「それじゃあ、探索者カードがどうなったか確認してみませんか?私にも見せてもらえると嬉しいです」
「わかった、構わない」
そうしてスレイは探索者カードを取り出した。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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