探索者ギルド内鍛冶工房。
ダンカンの元を訪れたスレイは、以前鋼鉄のロングソード二本を鋳潰して作ってもらった小さな鉄球を、さらに多量に生産してくれるよう頼む。
「また、あれをか?」
どこか嫌そうな顔をするダンカン。
前回は、なんとかまけにまけてもらって500コメルで作ってもらったが、今回は材料費から払い、10000コメルで出来るだけの数を作ってもらうよう頼みこんだ。
ちなみに前回ダンカンは既にディザスターとフルールを見ているが、特に反応は無かった。
どうやら自分の仕事以外には興味が向かないらしい。
だがともかく、鉄球に関しては、迷宮で色々と使い方を試し、例えば“貫通”の概念を付与して弾いたりなど、非常に概念操作との相性が良い事が分かった為、幾つあっても足りないくらいである。
しかも多く作っても魔法の袋に入れておけば問題無い。
実に便利な道具だ。
そんなスレイに、ダンカンは武器でないものをこんなに作らされるなんて、とぶつくさ言っていたので、ダンカンにこの小さな鉄球の威力を見てもらい、納得してもらうことにする。
その為、何か試し撃ちにちょうど良いものが無いかと尋ねると、なんとダンカンはオリハルコンの盾を持ち出してきた。
しかも信じられない程分厚い作りの代物だ。
なんでも頼まれて作ったはいいが、そのあまりに大きく分厚いが為の重量故に、注文主には扱う事が出来ず、キャンセル料を貰った代物なので、そのうち鋳潰して、別の何かを鍛造しようと思っていたらしい。
なので、いくら傷つけてくれても構わないぞ、とたかが鉄球にその盾を傷つける事は不可能だと確信したような表情で告げてきていた。
「それじゃあ、ここじゃあ危ないから外に出ようか」
そのまま盾を置こうとするダンカンに、外に出ようと持ちかける。
このまま室内で使っては危険だからだ。
「本当に外に出なきゃいけないほどのことなのか?」
ダンカンは疑問顔だったが。
そして二人は外に出ると、そのまま誰もいない郊外まで出てきていた。
道程では、そのあまりにも巨大で分厚い盾と、それを軽々と持つダンカンに視線が集中していた。
ちなみにダンカンは、鍛冶工房に閉店の看板まで付けてきている。
そしてスレイは郊外で、ポツンと立つやや高めの木、その枝に盾を吊り下げてくれるよう頼む。
なにせそのまま真っ直ぐに飛ばしてしまうと被害が出るかもしれないので、上へ向かう角度で放つようにしたい為だ。
「はあ、用心深い事じゃな」
ダンカンは、やれやれと言った様子で注文に応えていた。
どうやらこの小さな鉄球が、オリハルコンの分厚い盾を傷つけるのは不可能だと、やはり今でも思っているらしい。
素材差や、その構造を考えればそれが普通かもしれない。
だが、少しばかりムッとしたスレイは、ちょっとした悪戯心で、“貫通”に加え“回転”“展開”の概念を付与、つまり概念の三重掛けをした鉄球で、指弾を放つことにする。
そして、ダンカンがスレイの言葉に従い、スレイの後ろに下がると、スレイは鉄球に“貫通”“回転”“展開”の概念を重ね掛けし、指弾を放っていた。
そして鉄球は盾を“貫通”し、“回転”しながらその貫通力を“展開”し、オリハルコンの分厚過ぎる程分厚い盾をずたずたに引き裂いて、空の彼方へと消えていった。
あとに残るのは粉々になったオリハルコンのもう盾とは呼べない代物だけである。
唖然と絶句するダンカン。
スレイはしてやったりと笑うのであった。
あれから、ギルド内の鍛冶工房に戻ったダンカンは、単純な構造のただの小さな鉄球を、それこそ山のように作ってくれた。
少々作り過ぎではないかというほどである。
しかし、それをスレイに強引に押し付けると、ダンカンは、今度は今回ズタボロになったオリハルコンを素材にして、オリハルコンの小さな球体を作ってみないかと持ちかけてきた。
だが、概念操作に関していえば、素材などは関係ないので、その旨を説明して、ダンカンに思いとどまらせる。
ダンカンは素直に、ならこのオリハルコンは別のものに使うか、と告げる。
「それじゃあ、その鉄球が不足したらまた儂のところに来るんじゃぞ?武器の製造は何時でも大歓迎じゃからな」
そして、スレイは鉄球を大量に確保すると、ギルド内の鍛冶工房を後にするのだった。
しかし、とスレイは思う。
確かに鉄球を概念操作で強化し弾くのは便利で楽だが、今度は魔法と概念操作の組み合わせも探っていかねばな、と思う。
特に炎の魔法に関しては誰よりもアドバンテージを持つ身だ。
それに昔は読書少年で、しかも村に居た元宮廷魔術師の所持していた大量の書物を殆ど全て読み尽くした程である。
知識だけあって、魔力が足りず使えなかった上級魔法や特殊魔法の類も今なら使えるのではないかと思う。
それに概念操作を融合すれば、どのようになるか実に興味深い。
そのような事を考えながらも、スレイは一応の報告に、今度は探索者ギルド本部に向かう。
受付に繋ぎを取ってもらうと、スレイはすぐにギルドマスターの個室へと案内された。
最近はもう顔パスと言っていいほどの待遇である。
そしてギルドマスターの個室で、スレイはゲッシュにホーク達鷹の目団の事を説明していた。
「特にあの獅子王オグマという男。あれは並大抵のSS級相当探索者になら匹敵する力を持っているぞ。狂獣王だったか?狂化と獣化を極めたライカンスロープのバーサーカーなど、それこそアイツぐらいなものじゃないか?」
「ああ、鷹の目団、というより特に獅子王オグマに関しては将来有望な探索者として既にリスト入りしている。邪神との戦いで戦力になるだろう一人だ。なので、また【欲望の迷宮】を探索する際は、彼らに協力して、特にオグマの成長を促してやってくれないだろうか?」
既にオグマがリスト入りしているというゲッシュの言葉には、やはりな、と思う。
だが自分がその成長を促すとは。
「俺もまだ、S級相当探索者に過ぎんのだがな」
「それこそまさかだ。君は規格外の存在で、ギルドでも縛る事は出来ん。だからこそ命令ではなく頼んでいるんだ。君も自分の規格外さを自覚するべきだと思うよ私は。今回も異世界の女神を容易く倒したのだろう?」
ゲッシュの言う事を否定できず黙り込むスレイ。
やはり自分のことをただの探索者というのは無理があるらしい。
「まあ、まだ探索の途中だし、いずれまた、今度は最深部に居るという異世界の神と戦いに【欲望の迷宮】を探索する事もあるだろう。その際に奴等がまだ居れば、面倒を見るのも吝かじゃない」
「そうか、その時はよろしく頼むよ。ところで大陸中央の中小国家群の中に、君がディラク島で戦ったという邪神の尖兵らしき者達が現れたなどという報告があるのだがね」
「大陸中央には現役のSS級相当探索者が何人も居るだろう、あいつらに任せればいいことだ。もし、あいつらで無理だというなら、その時は俺が出張ってやる」
そう言い、溜息を吐くスレイ。
「まあ、確かにね。とりあえずは彼らに任せて様子を見ようか」
「そうしてもらうと助かる、それじゃあ、俺はこれから職業神の神殿に行くのでな」
そう告げて、スレイはそのまま踵を返し部屋を出ようとする。
「ほう、職業神の神殿とは、クラスアップをするのかね?」
「まあな」
そんなスレイにゲッシュはどこか楽しげに声を投げかけた。
「君もようやく最上級職か、いったいどんな探索者になるのやら、本当に末恐ろしい限りだよ」
スレイは答えを返す事なく肩を竦めると、そのままギルドマスターの個室を出て行くのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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