【欲望の迷宮】地下51階
『この迷宮にボスモンスターはあと一体、地下100階に居る神だけだ。ヴァナディースとは同郷の神になる。我が狼だからといういい加減な理由で番人にされた神だが、かなり高位の神で今の主でも勝つのはまだ難しいだろうな。まあ高位の神を二柱も用意したからこそ、ここの迷宮にはボスモンスターが三体しか居なかった訳だが』
「それで俺達はいきなりあんな強敵にぶち当たって死に掛けた訳か」
ディザスターの言葉に答えたのは何故かホークだった。
スレイは指先でこめかみを押さえながらホークに問い質す。
「それで、なんであんた達は、俺に付いて来ているんだ?」
「いやー、この隙にここ51階にマーカーしておこうと思ってな。さっきの女ボスモンスターはとんでもない化物だったけど、今ちょっと戦った限り、この階層のモンスターならオグマが居ればなんとかなりそうだし、ちょうど良くレベル上げできそうだぜ、サンキューな」
調子良く告げるホークにスレイは眉間に皺を寄せる。
確かにこの階層のモンスターはまだS級の上位と言ったところであった。
一人一人ならともかく、鷹の目団全員で当たれば万が一もあるまい。
それだけに先程のヴァナディースの場違いさが際立つが。
「以前もディザスターがあの女神を葬ったらしいが、何故その時にマーカーしておかなかったんだ?」
どこか面倒臭そうに嫌々尋ねるスレイ。
そんなスレイにホークはますます調子良く答える。
「いやー、あの時はビビっちまってそれどころじゃなくすぐ脱出したからなー。ホントあんたが来てくれて助かったぜ」
スレイの眉間の皺がますます深くなる。
なんというかスレイはホークとは相性が悪いようであった。
そんなスレイの様子に気付きオグマがすまなそうに告げる。
「うちのリーダーが済まないな。これでも本当に感謝してるつもりなんだ。多目に見てやってくれると助かる。それと本当に助かった感謝する」
「いや、まあ、いいんだが……」
オグマの真摯な言葉に口ごもるスレイ。
そんなスレイに鷹の目団のメンバーが次々と声を掛けてくる。
「でも本当にスレイって凄いのねー。その狼さんを連れてるのも納得よ」
明るく軽く告げてくるリリィ。
「得物がディラク刀というのはいただけんが、相当の剣士なのじゃな。戦いを見る事ができなかったのが残念じゃ」
超高位の領域に突入して戦っていたスレイの戦いを見れなかった事を残念がるダイン。
だがやはりドワーフらしく、得物がディラク刀というのは気に入らないようである。
「ところでスレイって、年上のお姉さんに興味あったりしないかしら?」
スレイにこなをかけてくるレイナ。
「誰がお姉さんだ、オバさんの間違いだろう?だいたい彼は僕より年下だぞ?本当に君は凄いな、その年であの化物を倒す戦闘能力。どうだろう?今度、軽く稽古などつけてくれないだろうか?っていだだだだっ!」
「誰がオバさんですって~~?」
レイナをけなしつつスレイを褒めるクルト。
平然と女性にオバさんなどと言ってのける度胸にはスレイも感心した。
しかも年下の自分に稽古を付けてくれなどと言ってくる度量の広さも中々のものだ。
だがやはりレイナに締め上げられてる姿を見て、女性に関して年齢の話はタブーだと思い知る。
「おーう、クルト、そりゃ良い考えだ。どうだいスレイ、俺達に今度稽古とか付けちゃくれないか?もちろん礼金はたーんと弾むぜー」
リーダーのホークにしてからが軽く年下の自分に稽古を付けてくれなどと言ってくる。
これが鷹の目団の気風なのだろう。
器が大きい事である。
しかも先程見せられた預金額、そこから礼金を弾むという言葉に思わず反応しかけるスレイ。
「スレイ」
『主』
ペット二匹に声を掛けられ、我を取り戻す。
どうもいけない。
女性関係で金銭的に火の車な所為で、ついついお金には釣られかけてしまう。
だが良く考えれば預金が壊滅的な状態になったのは探索をサボっていたからでもある。
今回の探索で大分懐は暖まるだろう。
そう考えればそうそうお金に釣られてる訳にもいかない。
「いや、俺も色々と忙しくてな」
「そうかい、それじゃあ今度暇な時でいいから考えといてくれ」
どこまでもホークは軽い調子で告げた。
「ところでスレイ、あんだけとんでもないのを倒したんだ。Lvはどうなってる?見せてくれないか?」
「まあ、構わないが」
相変わらず軽い調子で聞いてくるホークに、スレイも自分でどうなっているか興味があったので、探索者カードを取り出し能力値を表示してみた。
スレイ
Lv:51
年齢:18
筋力:S
体力:SS
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、誘惑耐性、霊耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:双刀“紅刀アスラ”“蒼刀マーナ”、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー、九尾の腕輪
経験値:5001 次のLvまで99
預金:62コメル
「あれだけ強い敵を倒したのにあまりLv上がってないわねー」
リリィがどこかがっかりしたように告げる。
「それはそうじゃろう、儂等があれからLvを上げるのに、何泊の間この迷宮の地下50階で寝泊りして戦い続けるなんて無茶をしたと思っておる。しかも、たまたまとある迷宮で手に入れた、経験値を、魂の吸収効率を一時的に急激に上げる、超稀少なアイテムまで全て使い果たした上でじゃぞ?Lvも40を過ぎれば10上げるだけで年単位というのが常識じゃろうが。いくら強いボスでも一体倒しただけでそんなにLvが上がってたまるかい」
ダインが遠い目をして言う。
この質実剛健そうなドワーフの青年がそのような目をするとは、一体どれだけ無理をしたのだろうか?
ややホークという鷹の目団のリーダーの青年に対する見方が変わる。
「でも、誘惑耐性なんて特性が増えてるわね」
レイナが興味深そうに見つめながら言う。
パーティのお色気担当らしいから気になるのだろうか?
しかし誘惑耐性……。
ヴァナディースの誘惑を跳ね除けて見せたから取得したのか、誘惑された時に取得したから誘惑を跳ね除けられたのか。
ヴァナディースに大きな事を言った手前、聞いていただろうフルールやディザスターに対しやや気まずい思いがする。
「まあ、何はともあれ、スレイもこの階層にマーカーしているところを見ると、今回の探索はここまでなんだろう?俺達は暫くこの階層でレベル上げしてると思うから、タイミングが合ったら一緒に探索してくれないか?」
「まあ、そのぐらいなら構わないが」
スレイはリリィを見つめながら言った。
「?」
リリィは疑問顔をしている。
だが運勢:SSSの小妖精と共に探索するというのはスレイにとっても魅力的な提案であった。
そして、まだ暫く残って経験値稼ぎに勤しむという鷹の目団を残し、スレイは迷宮を飛翼の首飾りで脱出していた。
ふと思いついてディザスターに尋ねる。
「ところで、二柱の神に門番の意味というのはあったのか?お前にあっさり殺されたんだろう?」
『門番といっても外からの干渉を防ぐという意味合いだからな』
「ロドリゲーニはあっさりとお前の封印を解いてしまったんだろう?」
『あれは例外だろう、人間の肉体に転生したとはいえ、仮にも上級邪神だぞ?』
なるほど、それもそうかとスレイは納得する。
そして今回のスレイの迷宮探索は終わりを迎えたのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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