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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
17話
【欲望の迷宮】地下50階
 悠然と最奥の広間へと足を踏み入れるスレイ。
 その後にディザスターとフルール、そして何故か鷹の目団のメンバーまでもが続いて入って来る。
 スレイは仕方無さげに肩を竦めるとディザスターとフルールに言った。
「何故ついて来るんだかわからんが、仕方無い。ディザスター、フルール、そいつらに防護の結界でも張ってやれ」
「うん、いーよー」
『承知した』
 入ってすぐにスレイはEX級ボスモンスター・ヴァナディースを視認する。
 流石は異世界の美神にして戦女神といったところだろうか。
 スレイは脳裏に浮かんだ情報から考える。
 その顔の彫りは深く、肌は白すぎるが、決してタマモにも負けないほどの美貌を備えている。
 と、いうより美神と同等の美貌を備えているタマモが異常なのであろう。
 まあ、タマモの方がよほどスレイの好みではあったが。
 などと、呑気に考える。
 しかし、またしても、スレイは美神という言葉に何故か既視感を覚えていた。
 だがその様な場合では無いとすぐにその思考を閉ざしヴァナディースを観察する。
 するとその表情は一点を見つめ恐怖に歪んでいた。
『お、お主は。また……』
 視線の先を見るとそこにはディザスターがいる。
 そういえばヴァナディースに殺されかけていた鷹の目団を助けたという話だったな、とスレイは思い出す。
 確か瞬殺したと言っていたか。
 だがそれだけではないな、とスレイは思いなおす。
 異界の神々といえば邪神との戦いの戦力として召喚された者達だ。
 ならば邪神、“真の神”の力も良く知っている事だろう。
 ヴァナディースの恐怖の感情を分析するスレイ。
 なので述べる。
「安心しろヴァナディース。ディザスターは今回手を出さんさ。お前の相手は俺だ」
 初めてスレイに視線を向けるヴァナディース。
『な、なんじゃと?』
 最初訝しげな表情を浮かべていたが、スレイの言葉の意味を悟ると、安堵と驚愕の表情を浮かべる。
 ディザスターが手を出さないという事に対する安堵の感情。
 そしてディザスターを呼び捨て、命令できるかのような事を言うスレイに対する驚愕の感情。
 スレイは告げる。
「と、言う訳だ。手を出すなよディザスター」
『承知した。主がヘマをしない限りは手を出すつもりは無い』
「言うなぁ」
 苦笑するスレイ。
 そのやり取りから、確かにディザスターに言う事を聞かせている、いやそれどころか主などと呼ばれて従えている事に尚驚愕の表情を浮かべるヴァナディース。
「さて、それじゃあ神狩りを始めようか」
 悠然と告げるスレイ。
 だがヴァナディースは計算を巡らせ艶やかな表情を浮かべた。
『青年よ、そうア荒ぶるでない。どうじゃ?戦いなどと無粋な真似はやめ、妾と夢のような一時を過ごさんか?』
 スレイを懐柔すれば、ディザスターもどうにかなると考えたのだろう。
 秋波をスレイに送ってくるヴァナディース。
 いや秋波などといったものでない。
 誘惑の魔法。
 テンプテーションの類だ。
 それもとびっきりに強力な誘惑の術。
 しかしスレイはびくともしなかった。
 ただ鋭く強い眼差しでヴァナディースを睨みつける。
『なっ!?妾の誘惑が効かぬじゃと?!』
「残念だったなヴァナディース。事、戦いの場で、しかも精神攻撃の一種としての誘惑ならば、俺に効果を発揮する事などないさ。もしお前が褥で、ただ単純にその美貌で以って本気の誘いをかけて来ていればそれこそ我を忘れただろうけどな」
 そう、タマモの時のように、と心の中で呟く。
『くっ』
 悔しげに表情を歪めるヴァナディース。
「おいおい、あんたは異世界の美神であるだけでなく、戦女神でもあるんだろうが。そう連れなくせず遊んでくれよ」
 ニヤリと口元を吊り上げ笑い、スレイは言ってのける。
『ほざいたな!その口上、後悔するでないぞ!!』
 荒々しく告げるヴァナディース。
 その表情もまた荒々しいモノへと変わっていた。
 やれやれ、と肩を竦めたスレイは、次の瞬間エーテル強化を用い、一気にその身と思考を光速の数百倍の領域へと突入させていた。
『なんと!?』
 ヴァナディースも同時にスレイと同等の領域へと加速している。
 周囲の全ては静止する。
 二人の動きを視認できているのは。
 つまり同じくこの領域、閉ざされた円環の時系列、その中でもより高みの領域へと突入できているのは、ディザスターとフルールぐらいのものであろう。
 鷹の目団ではズバ抜けていたオグマという名の男も、完全に静止していた。
『お主、本当に人間か!?』
 生み出した無数の光球を、光速の数百倍の領域の中で尚高速で繰り出すヴァナディース。
 スレイはそれらの光球を、“消滅”の概念を付加したアスラとマーナを振るい容易く消し去り、または次元を渡り時系列を前後しあらゆる空間を軽い概念操作で“蹴り”跳ね全て躱し、ヴァナディースへと容易く近付いていく。
「失礼な女神ヤツだ。俺が一体人間以外の何に見える?」
『たかが人間が、それほど圧倒的な力を振るえるものか!!』
 頭の中に響き渡る必死なヴァナディースの叫び声。
 だがスレイは止まる事は無い。
 ヴァナディースの眼前に瞬時に現れると、面白そうに笑い告げる。
「ふん、それじゃああんたはその“たかが”人間に殺される訳だ。覚えておくんだな、ディザスターのような“真の神”という格上の相手でなく、格下の“人間”に殺されるこの瞬間ときを。どうせあんたは神々の仕掛けで生き返るんだろう?」
 もっとも、それもエーテル強化と概念操作を最大限に使えば、復活できないように完全に滅ぼす事も可能だろうが、と双刀を繰り出しながら内心で呟く。
『そんな、そんな!!妾がたかが人間に破れるじゃと!?そのような理不尽……』
 スレイの双刀の攻撃をなんとか凌ぎながら、叫んでいたヴァナディースがふとその言葉を止める。
『まさか、貴様。いや、間違い無い。人の身でありながらその圧倒的な力は、前期対邪神殲滅兵器てんさいか!!』
「例えそうだとしても、俺が“たかが”人間な事と、その俺にお前が殺される事は変わらんさ」
 尚楽しげに笑うとスレイはエンジンを上げる。
 加速する双刀の舞。
 “消滅”の概念で削り取られていくヴァナディースの身体。
『お、おのれ天才め!!』
「それじゃあ、縁があったらまた会おう。とりあえずはさようなら、だな」
 どこまでも楽しげにスレイは告げると、エーテル強化のリミッターを外し、ヴァナディースでさえ付いて来れない領域、光速の数千倍へとその速度域を引き上げる。
 そしてヴァナディースは、それ以上の言葉を残す事無く“消滅”していった。
 もっとも“消滅”といっても低位の概念だった為、神々の仕掛けで一日経てば甦るのだろうが。
 そのまま通常の時系列へと回帰するスレイ。
 周囲の時間が動き出す。
「え?あれ?」
「奴が、居ない?」
「えー、なんでー」
「まさか、倒したというのか?」
「というか、何で彼はいきなりあんな所に居て、あのババァは消えているのよ」
「ババァって、レイナよりも見た目は若かったと思うけど、痛っ!」
 どんな時でも変わらず騒ぎ出す鷹の目団に、スレイとディザスターとフルールは苦笑を零すのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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