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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
14話
【欲望の迷宮】地下49階
 現在スレイは非常に金欠の状態にある。
 そして後一つレベルが上がればクラスアップ可能な状態だ。
 他の探索者達と違い、それほど探索の準備にお金を掛けないとはいえ、やはり最低限の準備は必要である。
 更に宿代の事もある。
 故にスレイは今この未知迷宮、【欲望の迷宮】を探索していた。
 なにせこの未知迷宮は、知られている範囲では最も直接的に財宝と呼ぶに値するようなものが出てくる迷宮だ。
 モンスターも割と金目のものを持っている。
 それにディザスターが封じられていた最奥の封印の地にも興味がある。
 だから今スレイはディザスターとフルールを伴い【欲望の迷宮】をひたすら降って来ていた。
 そう降って来ていただけである。
 数々のモンスターを倒し、換金できるアイテムは集まっているが、非常に直接的な金銭に結びつく宝箱などが多いというこの【欲望の迷宮】。
 この迷宮でさえ、スレイは一度も宝箱に遭遇する事が無かった。
 ディザスターも最短距離で封印の地から地上にやってきたらしいので、この迷宮の構造には詳しくないという。
 虱潰しに探せば見つかるのでは無いか、などという短絡な考えで一階層を丸々調べつくしてみたりしたのだが、何も見つからなかった。
 恐らくは何か仕掛けなどで開く部屋などが存在しているのだろう。
 だがヒントの一つすら得られる事無く、スレイはやむなく断念する。
 いったいどれだけ自分は迷宮の財宝に縁が無いのかと溜息を吐く。
 今のスレイの愛刀であるアスラとマーナ。
 この双刀もまた、アルス王が見つけ、ゲッシュに渡り、自分へと渡される。
 そういう経緯が無かったら手に入らなかっただろうと考えると、双刀を今この手にできている事に感謝する。
 双刀もまたスレイのそんな感情に同意するように震えてみせた。
 ここに来るまでに地下25階でSS級ボスモンスターと戦っているが、スレイはあっさりと一人で倒してみせていた。
 SS級ボスモンスターとはいえ、鍛え上げられた技能を持つSS級相当探索者に比べれば軽いものである。
 25階までの迷宮ではA級モンスターが、そこから先、今進んでいる場所ではS級モンスターが出てきているが、それらも容易く葬り去っていく。
 今もまた目の前には欲望で呪われた宝石を核とした、リビングアーマーの集団を相手にしているところだ。
 とはいえそもそもの速度が違う。
 技量が違う。
 経験が違う。
 力が違う。
 流石にS級相当だけあって、低位の“切断”の概念では断絶まではできないので、自らで相手をする。
 もう少し高位の概念を操作できるようになったら、自分の周囲を高位の“切断”の概念で覆えば勝手に自滅してくれるだろうが。
 だがまあ、戦いと呼べるほどのものにはならなかった。
 スレイはただ無拍子で構える事もなく最適動作を以って、心眼が導くままに、明鏡止水にして無念無想の境地にて歩き続ける。
 双刀は軽く振るわれたのみである。
 しかしスレイの進行方向にあったリビングアーマー達は軽くその鎧の身体を消滅させ、核の宝石のみを残し消えていった。
 スレイは宝石を拾い集める。
 あまりに強い欲望で呪われた宝石。
 このままではそれこそ裏の魔術師なら買い取って碌でもないことに使いそうだが、まともな相手には売れまい。
 スレイは“浄化”の概念を発動する。
 それらの宝石は一気に浄化され、清浄な輝きすら放っていた。
 やりすぎて“浄化”の効果すら付与してしまったのであろう。
 だが、これならば表立って売る事ができる。
 魔法の袋に宝石を仕舞い込むと、今度は欲望に取り付かれた元冒険者だろうレイス達が集団で集まって来ていた。
 スレイは軽く“浄化”の概念をアスラとマーナに纏わせると、十字にクロスするように双刀を振るう。
 広がりゆく深紅と蒼の光芒。
 だがそこにいつもの禍々しさは無く、“浄化”の概念を纏った清浄なオーラであった。
 一瞬にして昇天していくレイス達。
 残念ながらレイスが落とす換金用のアイテムは無い。
 しかしながらたった数時間でここまで辿り着き、スレイは一人で相当数の敵を片付けて来ている。
 ディザスターやフルールは何も手を出していないし、元々探索者ではないので、経験値が分割されることも無い。
 そろそろレベルは上がっているだろうかとスレイは見てみる事にした。
 と、その前に。
 スレイはポケットからパチンコ玉ほどの鉄球を取り出し、“浄化”の概念を付与した上で指弾で撃ち出す。
 この鉄球はなけなしのお金でダンカンに、何とかまけてもらい、鋼鉄のロングソード二本を鋳潰し作ってもらったものだ。
 鉄球が着弾し、天井に這っていた影が落ちてきた。
 天井下がり、これもディラク島の妖怪だった筈である。
 種としての天井下がり自体はそれほど強力ではない。
 だがこの個体は、並大抵の個体ではないようで、やはりS級のモンスターのようだ。
 ともあれ、“浄化”の概念を付与したのは間違いなかったようだ。
 妖怪ならば妖気を“浄化”されれば消え去るだろう。
 事実そのまま妖怪下がりは消えていった。
 周囲の、ただ岩盤をくり貫いたようなごつごつした壁や天井に床を見渡す。
 どうやらもう邪魔は入らないようだと確認すると、スレイは探索者カードを取り出し、能力値を表示してみる。

スレイ
Lv:50 
年齢:18
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者ジェノサイダー、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、霊耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:双刀“紅刀アスラ”“蒼刀マーナ”、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー
経験値:4901 次のLvまで99
預金:62コメル

「これでようやく最上級職にクラスアップできるな」
「おおー、おめでとうスレイ」
『おめでとう、主』
 スレイを祝福するペット達。
 だが。
「まあ、その言葉は後に取っておいてくれ。今日はまだ一仕事するつもりなんでな」
「一仕事?」
『まさか、主』
 疑問を浮かべるフルールと何かに勘付いたディザスター。
「ああ、今日はこのまま下の階層のボスと戦おうと思う。居るんだろう?異世界の神が」
 どこか楽しげに笑うスレイ。
「へぇー、そうなんだー」
 感心したようなフルール。
『まあ、そうだな。今の主でもギリギリといった所だが、いけない事はないだろう。いざという時のフォローは任せるがいい』
 考えた後、頷くディザスター。
 苦笑したスレイは告げた。
「それじゃあ、進むとするか」


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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