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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
10話
「どうしたのスレイ、つまんなそうな顔をしてさー」
『ふむ、主よ、本当に退屈そうな顔をしているな』
「ああ、まあな。祭りが終わった後は寂しいものだろう?それだけのことさ」
 フルールとディザスター。
 スレイが二匹の元に戻ると、二匹はスレイの内心を見透かしたように言葉をかけてくる。
 それにスレイはあっさりと答えると、どこか空虚な気持ちで空を見上げた。
 どこまでも広がる蒼天。
 大して知りもしない相手であった。
 邪神の力などに縋った愚かな男であった。
 だが先程までの戦いは、確かにスレイを満たしていた。
 ふと、思いついたようにスレイはディザスターに尋ねる。
「邪神の、力を借りた者の魂はいったいどうなるんだ?邪神のモノとなるのか?」
『いや、確かに我ら邪神、“真の神”ならば、今回のアンデッド兵達や邪神の使徒のように、他のモノが創った魂さえ自在に操り強化する事も出来るし、輪廻転生の輪に干渉しようと思えば干渉する事も可能だが、普通は自分が弄ったものであろうと、たかが人の魂程度にそれ以上わざわざ干渉するような真似はしないな。まあ、わざわざ自ら輪廻転生の輪に入った享楽ロドリゲーニみたいな変り種もいるが』
「なるほどな」
 ならばクランドの魂もまた、輪廻転生の輪へと還っていったのであろう。
 もしスレイの生きている内にその魂が再び人となり生まれてくるのならば。
 ならば今度は尋常の剣士として、ただ一人自らの前へと立って欲しいとそう思う。
 下らない自分勝手な感傷だと分かってはいる。
 だがその下らない感傷が現実になればいいと、そう思えてならなかった。
「ところでスレイ、レベルは上がったー?」
『うむ、そうだな。いくら魂の力が削られ、経験値になり難い邪神の尖兵といえども、敵将まで最短距離を突っ切ったとはいえ、千体程は倒していたであろう。それなりの経験値にはなったのではないか?』
「そうだな」
 スレイは頷くと自らの探索者カードを取り出し能力値を表示してみる。

スレイ
Lv:49 
年齢:18
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:EX
器用:SSS
精神:EX+
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、虐殺者ジェノサイダー、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、概念操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:双刀“紅刀アスラ”“蒼刀マーナ”、鋼鉄のロングソード×2、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー
経験値:4833 次のLvまで67
預金:562コメル

「ほう、これは惜しいな。あと一つLvが上がれば最上級職にクラスアップ可能だったのだが。しかしこの称号……虐殺者ジェノサイダーか。あまりいい感じはしないな」
「でもスレイ、それよりこの預金の少なさって」
『うむ、少々貧乏過ぎではないか、主よ』
 フルールとディザスターに預金について指摘され、冷や汗を垂らすスレイ。
「し、仕方が無いさ。女と付き合うのは一人相手でも相当金がかかるんだ。ましてや恋人の数が多ければ……。そろそろ本格的に迷宮探索に戻らないとな」
 なんというか感傷に浸っていたのが、最後の最後で一気に現実に引き戻された感覚を味わうスレイであった。

「さて、もう知ってるとは思うが邪神の尖兵を片付けてきたぞ。しかし見張りをつけるのならもっと優秀な見張りをつけたらどうかと思うのだがな。俺達はすぐに気が付いたぞ?」
 謁見の間。
 上座にあぐらを掻いて座るノブツナとその横にある妻と子供達。
 特にノブヨリに対し無造作に言い捨てるスレイ。
 おおっ、と家臣達にどよめきが走る。
 まさか、本当に、などと誰もが口々に騒ぐ。
 ただスレイの上方、天井裏から僅かに殺気がスレイに向けられる。
 殺気以上に恐怖の感情も多分に含まれてはいたが。
「ええ、お疲れ様です。たった一人でクランド軍一万を殲滅したという報告は確かに受けておりますよ。しかし、見張りに付けた忍にも容易く気付きますか。大陸の諜報員などとは比較にならないほど優秀だと大陸でも有名な筈なんですがねぇ」
 苦笑いしながら答えるノブヨリ。
 ノブヨリの言葉から、スレイの告げた事が事実であると知った家臣達がますますどよめく。
「でえぇーい!おめぇら、うるせぇぞ!!一々騒ぐんじゃねぇ!!」
 ノブツナの怒鳴り声に一気に静寂を取り戻す謁見の間。
 ほう、とスレイは感心する。
 どうやらノブツナが家臣達をきちんと掌握しているようだと感じた為だ。
 ノブツナはきちんと国の象徴たる国主として機能しているらしい。
 実務面ではノブヨリが仕切っているようだが、今の所、それも象徴であるノブツナが居てこそか、と納得する。
 まあ、家族の全てを仕切っているのは妻のトモエらしいが。
 何かを含んだような笑みを常に浮かべている女性を見て、スレイはそう思う。
 ちなみにシズカはスレイがこの場に現れてからずっと目を真ん丸にして凝視し続けている。
「さて、それじゃあ成功報酬は貰えるのかな?」
「ええ、もう条件は果たされました。九尾の狐との交渉、シズカを伴っていただいて構いませんよ」
「ぐぅっ!」
「うふふ」
「兄上……」
 スレイがさて、とノブヨリに確認すると、ノブヨリは容易く頷き、ノブツナは何故か以前よりもずっと苦々しげな表情で唸り、トモエは何か面白そうに笑い、シズカは何故か頬を染めている。
「ですが、まあ。激しい戦闘の後です、いくら貴方が強いと言ってもお疲れでしょう。今日は一日この城に泊まり、九尾の狐との交渉は明日という事でどうでしょう?」
「ああ、そうだな。確かに万全でない状態で交渉に行けるような相手じゃあないな。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうか」
 スレイがそういうと何故かますますノブツナは苦々しい顔をし、トモエの笑みは深まり、シズカの頬はより赤く染まり、ノブヨリは何か楽しげに笑うのだった。

 あれから豪華な食事を振る舞われ、湯浴みをしたスレイは、広い一室で浴衣姿で月など眺めながら団扇を扇いでいた。
 異世界の住人である真紀達ならば不思議に感じるだろうが、この世界の住人にとっては当然の事として、一部の特殊な地域を除いて、世界中どこも常に人が過ごしやすい気候となっている。
 一部の特殊な地域というのは、例えばシチリア王国内に存在する永久凍土の地域だったり、あとは大陸中央の神峰アスール火山近くの常に熱帯の地域だったりする訳だが。
 ともあれ、その為に、この世界の住人には四季という感覚が無い。
 そんな訳でスレイは軽く月見などと洒落込んでいるわけだが。
 ちなみに、ペット扱いされてる筈なのに、フルールとディザスターには何故か近くの別室が一室宛がわれている。
 そしてスレイの居るこのどこか豪華な一室には、何故か大きな布団に枕が二つ並んでいた。
 なんとなくスレイがある予感を感じていると。
「失礼致します」
 そのような言葉と共に障子が開けられ、シズカが室内に入り、そして障子を閉めると三つ指を突いてスレイに礼をした。
 ああ、やはりか。
 スレイは得心する。
「どうしたシズカ。何か用か?」
「本日の夜伽の相手を務めさせて頂く為に参りました。どうかお情けを頂戴したく存じます」
 スレイの問いかけに対し、どこか固い声で答えるシズカ。
 ふむ、とスレイは頷くと、シズカの傍に近寄り、手を掴むと強引に抱き寄せる。
 そして襟元から手を差し込み胸を揉みしだくと同時に、唇を重ねる。
 そのまま強引に口を開かせると舌を絡ませ、それと同時に内腿へと手をやり、奥を弄る。
 シズカは抵抗せずに受け入れた。
 そのまま唇を離すと唾液の糸が二人の唇を繋ぐ。
「ふむ、抵抗は無しか。これはノブヨリ辺りが仕向けたと思うんだが、どうだ?」
「それは……、その通りです。あとはお母様も……」
 どこかはっきりしない口調で答えるシズカ。
「それでだ、俺は据え膳は遠慮無く喰ってしまう男な訳だが、シズカはそれでいいのか?」
 尋ねるスレイにシズカは答える。
「私は……もし嫌だったら断っています。兄も母も私の意思を尊重してくれますし」
 そして息を飲み続ける。
「はっきり言って貴方は駄目な人だと思います」
「本当にはっきり言うな」
 思わず苦笑するスレイ。
「でも駄目な人だからこそ私が何とかしなくちゃって気がして、気になって仕方が無い人です。それに強いです、その強さには惹かれます、この国にとっても有用な人だと思えますから。あとはやっぱり、貴方が女ったらしなので私も誑されちゃったんだと思います」
「何というか、俺の駄目なところと強いところに惹かれて、って本気で俺が駄目人間みたいだな」
「実際それが事実だと思います」
 あっさりと断言するシズカ。
 やはり苦い笑いを浮かべるスレイ。
「まあ、いい。理由はどうあれシズカは本気で俺に抱かれに来てるんだから、俺としては躊躇うつもりは無い、本気で抱くぞ?」
「え、ええ。でも、始めてなので優しくしてください」
 そういう事を言うと普通だったら男の理性を飛ばして逆効果なんだがな、と苦笑しつつもスレイは決してがっつくことなく、シズカの身体を優しく愛撫し開かせていく。
 そして夜は更けていった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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