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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
9話
 片やはシークレットウェポンの中でも等級を測る事さえ難しい双刀を操るスレイ。
 片やはヒヒイロカネのディラク刀、その大業物、しかも長大な太刀を操るクランド。
 戦いは続く。
 頭上から一直線に、スレイを真っ二つにせんとばかりに振るわれる長大なヒヒイロカネの太刀。
 込められた力は爆発的で、それこそ容易く海すら割るだろう。
 その力を左手のマーナで受ける。
 そのまま化勁を以って力の流れを操り右手へと伝え、その力を利用し下から跳ね上げるようにアスラを振るう。
 容易く躱すクランド。
 どちらも死力を尽くし互角。
 しかしどこかどちらとも相手がまだ完全な全力では無いと、リミッターすら外し己が限界を越えてはいないと悟る。
 刀での語り合いはどこまでも深く正直であった。
 まるで互いの全てを分かり合うかのような交流。
 スレイはクランドの絶望を知る。
 クランドはスレイの渇望を知る。
 均衡は崩れない。
 互いに自身のリミッターが外れて行く事を悟る。
 スレイはエーテル強化が更に一ランク上がる。
 クランドは邪神より与えられた力が活性化し一ランク強化される。
 光速の数百倍の領域。
 世界の法則を改変していなければ、一体どれほどの破壊が振り撒かれたことであろうか?
 それだけではなく、もしこの世界でなければそれこそ星ごと叩き割っても不思議ではない純粋な力の奔流。
 だがこのヴェスタという世界においてはそれだけの力でさえ抑制され、許容される。
 故に出来上がるクレーターの規模が更に大きくなり、地形が変わっていく程度でその破壊は収まる。
 それこそ、ヴェスタ以外の世界であれば、無数の星々を破壊するような力が互いの間を行き来する。
 互いに止まらない。
 いや止まれない。
 あまりに甘美であった。
 自らの全てを出し尽くす死闘。
 刀に自らの全てを乗せての交流。
 スレイは望んでいた自らの限界を超えた戦いに歓喜を抱く。
 クランドは久しく忘れ去っていた、ただ一人の剣士としての戦いに狂喜を抱く。
 どこまでも、どこまでも続くかのような戦い。
 スレイの研ぎ澄まされた心眼はクランドのミクロ単位の筋肉の動きすら見切り、全てを回避する。
 クランドに与えられた邪神の力は、スレイの力の流れをその一筋一筋に至るまで読み切り、全てを回避する。
 互いに何もかもを忘れ去り、その思考はどこまでも純化する。
 この戦いだけが。
 現在イマだけが互いの全てのように感じられる。
 刹那の永遠。
 だが、そのどこまでも続くかのように思われた戦いにも終焉は訪れる。
 理由は単純なものであった。
 スレイはリミッターすら外して限界まで引き上げてエーテル強化されたその力を完全に制御していた。
 流石は“天才”という事であろう。
 感性センスがずば抜けていた。
 更に器用さも強化され超絶的な高みへと至っていた。
 しかしクランドは違った。
 どれほどに強力だろうと与えられた力である。
 いや強力だからこそ、与えられただけの立場のクランドにはそれを扱いきる事ができなかった。
 只人ただびとの手には余る強大すぎる力。
 クランドの肉体はそれに耐え切れず僅かずつ崩壊を始める。
 身体中の毛細血管が破れ血を噴出す。
 目から血の涙が流れる。
 内臓がぐちゃぐちゃになり吐血する。
 それでも、与えられた力は強引にその肉体を修復していった。
 修復するだけではなく、その肉体はより戦いに適した形へと強引に作り変えられる。
 軋む肉体。
 変化する構造。
 人の姿を喪っていく。
 怪物のような醜悪な姿へと変わっていく。
 ただ刀を振るう腕、それのみを残し、刀をより効果的に振るう為だけの肉体へと変わっていく。
 脳の構造すらも強引に変えられていく。
 ただ刀を振るう為、その為だけに。
 クランドとしての意識は失われていく。
 そして肉体が、脳の構造までもが、完全に作り変えられる。
 そこにいるのはかつてクランドだった化物に過ぎなかった。
 ただ刀を振るう為の、有機物で構成された機械のようなものである。
 そしてクランドという名の存在は戦いながら死を迎えたのであった。
 後に残るのはかつてクランドであったモノだけ。
 クランドは最後の望みであった戦いの果ての死を迎えられたのであった。

 振るわれる刀から込められていたクランドの意思が消える。
 ああ、とスレイは悲しみと納得の声を上げた。
 最後にクランドは全てに満足したような表情と意思で以って消えていった。
 遺されたのはかつてクランドであったモノと、クランドの敵手であったスレイのみ。
 残されたスレイはただ一人、かつてクランドであったモノと戦う。
 だがそこに先程までの昂揚は無かった。
 意思無く振るわれる刀にどれほどの意味があるのか?
 確かに先程までよりも動きとしては洗練されている。
 その異形は先程までよりも戦いに適した構造となっている。
 しかし先程までスレイを満たしていたモノは喪われていた。
 魔物でさえ、そこには醜悪なモノとはいえ意思がある。
 だが目の前のソレは、その全てを喪い、ただの生体で構成された機械と変わらぬモノと成り果てた。
 スレイは自らがまた餓え渇くのを感じていた。
 先程までと比べてなんとつまらない戦いだろう。
 目の前の異形の攻撃を避けながら、どこか白けた思考でそう思う。
 そして、ふと立ち止まると、目の前の異形の攻撃を容易く受け止めて見せる。
 理屈ではない。
 先程までよりも力はあったが意思チカラが無かった。
 故にその刀には重さが無い。
 つまらない、とスレイはただ繰り返す。
 だから終わらせる。
 現在イマのスレイにはまだ“切断”の“絶対概念”は操れない。
 だからアスラとマーナにありったけの低位の“切断”の概念を重ね掛けする。
 “切断”“切断”“切断”“切断”“切断”“切断”……。
 そして双刀を同時に振るった。
 容易く敵を斬り裂くのみならず、その存在を、あらゆる意味で“切断”なさしめる。
 その異形が備えた再生能力が働く事は無い、再生能力も“切断”されているのだから。
 その異形が動くことももう無い、動く為の全てが“切断”されているのだから。
 その異形が死体というモノすら残す事は無い、存在そのものを“切断”されているのだから。
 アンデッド兵達も、自分達を統べていた存在の消滅により、塵と化し消えていく。
 そこに残るのはただ一人スレイと変わり果てた地形、そして墓標の如く突き立つクランドのヒヒイロカネの大太刀のみであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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