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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
8話
 通常の時系列では完全に時間が静止している中で、スレイの感じる刻は進み続ける。
 大量のS級相当の力を持ったアンデッド兵達。
 ソレらもまた、スレイにとっては静止しているに等しい。
 そして通常の時系列からは外れた円環の時系列の中で、スレイはどんどんと軍勢を喰らい、敵を消滅させ突き進んで行く。
 まるでアンデッド兵で構成された海を中心から割るかのような真似。
 最初からスレイは全力であった。
 求道のジャガーノートと戦った時のようにエーテル強化のリミッターを外し、限界すら超えれば、今より更に上、もう一ランク強化し、その強さを、速度を上げることも可能であろう。
 しかし時系列を無視するほどの強化をしているとはいえ、いや、しているからこそ。
 通常の時間は止まっていても、スレイの感じる時間は常に動き続けている。
 そしてスレイの主観時間においてかなりの時間を全力を出し続けるということ。
 さすがのスレイを以ってしても、その体力の消耗は避けられない。
 相変わらずの超高位多次元機動により、通常ではありえない機動で敵を葬り去っていくスレイ。
 だがこのまま敵の総大将、邪神の使徒たるクランドとの戦いというメインディッシュが最後に待っている。
 故に体力も強化されているとはいえ、消耗の激しさ、その早さを考えれば、決して無駄な事はできない。
 だからクランドまで一直線。
 数多の特性を用いて、動作の無駄を一切省く。
 目指す敵までの最短距離。
 見据えたその敵クランドは、自らのアンデッド兵達を怒涛の勢いで倒していくスレイに対し、何か喜びすら宿した視線を向けてくる。
 自然スレイの顔にも笑みが浮かぶ。
 邪神の使徒クランドとの戦い。
 ノブツナとも対等に戦ってみせ、アンデッド兵達の力もあるとはいえ、退かせてみせたその力。
 如何ほどのものであろうか?
 刀を交えるその瞬間。
 力と力でぶつかり合うその時。
 待ち遠しくて仕方が無い。
 無数に分割した思考の一つでそのように考えながら、決してスレイの動きは止まる事は無い。
 一体どれだけの敵兵を倒したのか。
 スレイの加速され分割した思考を以ってしても覚えていられない。
 どこまでも分厚いその軍勢をただ一人突き進み、決して刀の舞が止まる事は無く。
 アンデッド兵達という壁はスレイにより削られていく。
 どこまでも突き進む。
 笑い嗤う。
 さあ、俺にお前の力の全てを見せてくれ。
 スレイはただクランドを見据え、もはや無意識のままに無数のアンデッド兵達を滅ぼしながら、クランドと熱い視線を交し合う。
 感じる力の波動。
 流石にこの世界の神々など比較にならないほど圧倒的な力を持った“真の神”。
 邪神から与えられたその力。
 それはノブツナやクロウよりも単純な力においては上回っていた。
 ますます笑みを深めるスレイ。
 そして剣神を崇め、ディラク刀を己の魂とする剣士の島ディラク。
 剣神への信仰を捨て邪神に降ったクランドという男。
 果たしてその刀術はどれほどのものか?
 全てが楽しみで仕方がない。
 決して止まらず突き進むスレイ。
 クランドの元に辿り着くまでは後半分。
 エンジンを引き上げるスレイ。
 アンデッド兵達の壁を削り取るそのスピードは更に早まっていた。

 黒の青年と視線が合った。
 自然と浮かぶ笑顔。
 黒の青年もまた笑っていた。
 闘争の予感がクランドを昂ぶらせる。
 クランドとて仮にもこの剣神を崇める島に生まれ、幼い頃より自国の未来の国主として刀術については徹底的に仕込まれて来た身だ。
 青年の並はずれた刀術。
 自らの刀術とどちらが上か。
 その戦いが待ち遠しくて仕方が無い。
 黒の青年は、アンデッド兵達の先頭から、クランドまでの距離が半分になった時点で更にその動きを洗練させ、突き進んで来る速度が跳ね上がった。
 自らに迫る黒の青年。
 決戦は近い。
 あと四分の一
 尚速度が跳ね上がる青年。
 あと僅か。
 クランドは刀を抜く。
 ヒヒイロカネ製のディラク刀。
 クランドの家に代々伝わっていた宝刀である。
 かの鬼刃ノブツナの降神刀フツノミタマと打ち合いながら、決してその刀身に傷が無い事からも業物だということは見てとれる。
 もちろん僅かに刃が欠けたりなどはしたが、次の瞬間にはすぐにその刃こぼれは修復されていた。
 ヒヒイロカネの自己修復能力を極限まで高められた大業物だ。
 そして最後の一歩。
 クランドの制空圏へと踏み込む青年。
 刀がぶつかり合った。

 敵の制空圏へと踏み込んだ。
 その確信を得たと同時にアスラを振るうスレイ。
 アスラと敵の刀がかち合う。
 そのままスレイはマーナで刺突を放つ。
 後ろへ飛び避けるクランド。
 と、そのまま信じられない跳躍力で空へ跳ねるクランド。
 身を捻るようにして一回転すると、空に魔法で足場を作り蹴り、そのまま突撃し刀を繰り出してくる。
 アスラを振るうスレイ。
 しかしその持ち手を蹴りで以って押さえ付けられた。
 焦る事なくマーナを振るうスレイ。
 マーナと敵の刀がぶつかり合う。
 そして咄嗟に飛び離れる二人。
 アスラとマーナが触れた敵の刀は刃こぼれを起こしている。
 しかし次の瞬間にはその刃こぼれは修復されていた。
 この光速の数十倍の速度域の空間で脅威の再生速度である。
 刀もまた自らの肉体の延長として、光速の数十倍の速度域へと強化する。
 スレイも同じ事だが、刀を自らの魂とするディラク島の剣士ならば当然の事だろう。
 互いに笑みが浮かぶ。
 そのまま空を蹴り、次元をシフトし、時系列を無視し、とことんぶつかり合う二人。
 超高位多次元機動戦闘。
 この領域まで到達するには戦う両者がどちらも圧倒的な力を備えていなければならない。
 どちらもが容易くその条件を満たす。
 周囲には無数の巨大なクレーターが出来、周囲のアンデッド兵達を巻き込み消滅させ、それでも止まる事無く続けられる二人の戦い。
 もはや互いに互いの事しか見えていなかった。
 剣士、というにはあまりに常軌を逸した戦闘。
 ぶつかり合う絶対的な力と力。
 どこまでも続く刀の舞。
 二人で踊り狂う。
 誰にも邪魔できない不可侵の空間。
 どちらの頭の中にも、この今一時、戦いの事しか浮かんではいない。
 無数に思考を分割させているにも関わらず、スレイのその無数の思考は全て戦闘に費やされる。
 あらゆる特性を用いて、場を把握し、更には無数の加速された思考であらゆる展開を計算する。
 その速度と数により、この時系列を無視した領域の中でさえ限定的な未来予知を可能とするスレイの思考。
 技巧はスレイが勝っていた、だが邪神に与えられた力、その全てを解放したクランドは、SS級相当、そのような枠で括れるような存在ではなかった。
 死力を尽くしての戦いは続く。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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