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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
4話
「ディラク島に、ですか?」
 不思議そうに呟くシズカ。
 あれから、シズカはディラク最大国家の国主の娘、スレイとしても今更始まりの迷宮のモンスターの換金アイテムから得られるような金額に興味は無かったので、探索者ギルドに換金には行かず、すぐさま職業神の神殿でシズカは剣士にクラスアップを果たしていた。

シズカ
Lv:6
年齢:18
筋力:D
体力:D
魔力:C
敏捷:C
器用:D
精神:D
運勢:D
称号:寵愛者、剣の巫女
特性:闘気術、魔力操作、思考加速、思考分割、剣技上昇、方術効果上昇、刀技上昇、二刀流
祝福:剣神フツ
職業:剣士
装備:ヒヒイロカネのディラク刀の小太刀×2、戦巫女の装束、ミスリル絹の足袋
経験値:563 次のLvまで37必要
所持金:0コメル

 担当が聞くところによるとフィーナだったのは偶然だろうか必然だろうか?
 クラスアップすると同時に、一気に称号が一つ、特性が六つも増えたのには流石に驚いたが。
「ああ、今回の話を受けたのもそもそもその心算だったしな。もともと俺はギルドマスターをおど……もとい交渉して自由な行動を認められてる身だからな、殆ど邪神対策の事については動いちゃいない。まあもともと自由は許されちゃいるし、当てにされてるのは俺の戦闘力だから、好きに迷宮に潜って鍛えろって事なんだろうけどな」
「あ、あの。それじゃあ今回の頼み事って」
「まあ、クロウもそれを分かってて断られる事を覚悟の上で頼んで来たんだろうな。過保護な話だ。だが、それでも今回の件を俺が受けたのは、あんたの飛翼の首飾りでディラク島に連れて行って欲しかったからだ」
 まあもっとも探索者ギルドの面倒な規則の話を知らなければ空を駆け、水上を走り、ディラク島に行ったんだが、などと内心思う。
 自らの速度を活かして、長距離の移動を行うのが禁止とは面倒臭い話だ。
 まあ、そんな規則、バレないならば無視すればいいだけの話だが、今回は目的が目的だけに、ちゃんとシズカに連れて行ってもらったという体裁を取らなければならない。
 全く面倒な話だ、と再度スレイは考え、溜息を吐いた。
「いったいディラク島に来て何をするつもりなんですか?」
「なんだ、何かあるのか?」
 シズカの態度がやや固さを増していた為、疑問に思い尋ねる。
「ええ、今少々ディラク島は厄介な事態になっているので、あまり他に騒動の種を持ち込みたくないんです」
 暗に、自分が騒動の種だと言われている事に気付き、頭を抱えるスレイ。
 何故自分の様な善良な一探索者が疑われるのだろうか?
 などとスレイは自らを弁えない思考をするスレイ。
「まあ、俺の目的としては神獣である九尾の狐の説得、引き込みと言ったところかな?まだあんたの国の連中も成功していないんだろう?」
「ええ、それはまあ。我が国の交渉の為の部隊も、樹海に施された幻術に惑わされ、交渉どころか九尾の狐の元へと辿り着けた者さえ居ませんが、何故九尾の狐の説得を?」
「それはまあ、面白そうだからかな?」
 なにせ人の姿では傾国の美貌を持つ美女という九尾の狐。
 さらに狐の姿ではもふもふできる尾が九つもあるというのだ。
 スレイにとってみれば垂涎の的である。
 シズカはそんなスレイの思考を感じ取ったように告げる。
「まあ、なにやら下心を感じますが、説得してくれるというのであれば、我が国にとっても、邪神対策としても有利な事ですから構わないのですが……」
「ところで、厄介な事態とはどのような事なんだ?」
 これまた好奇心満載で尋ねるスレイ。
「なんとなく、貴方という人が掴めてきました。ですがまあ、実力は本物ですし、役に立って頂けるかもしれませんしね」
 シズカはやはり呆れたような溜息を吐きつつも、どこか柔かく暖かい視線でスレイを見つめる。
 言葉の通り慣れてきたのであろう。
 スレイという男は、こと最近は、劇薬のような男であった。
 どこか世界とは隔絶した雰囲気を持ち、世界をまるで上から眺めるように俯瞰する。
 しかしその圧倒的な強さという蜜は、この戦いがありふれた世界にとっては、人を惹き付けてやまない。
 実際シズカも、その人格には呆れながらも、迷宮探索の間に見せ付けられた、何もせずとも容易くモンスターを屠っていく力、それにごく当たり前のようにかけられた自らを賛美する言葉にややスレイという男に傾いている自分を自覚する。
 まあただの好奇心であろうと何だろうと、役に立ってくれるのなら使えばいい。
 そのような結論に辿り着いたシズカはスレイに告げた。
「最近、ひどく強力なアンデッドの集団を使役して、我が国に対抗する国が現れたんです。国主の名はクランドというのですが、確かに我が国以外では最も大きな勢力ではあったのですが、我が国と比べれば雲泥の差でした。しかし突如どのような方法でかアンデッドの集団を使役するようになった後は、我が国を脅かすほどの勢力となっています。なにせアンデッド一体一体が一騎当千の強さを発揮し、それが無数に居るので」
『ほう』
 どこか関心を持ったように反応したのはディザスターだった。
「どうした、何かあるのか?」
 自らのペットの発した声に質問を投げかけるスレイ。
『いや何、人に信じられないほど強力なアンデッドを無数に操れる力を与えて自らの尖兵とするというやり口を、昔絶望のクライスターがやっていたのを思い出してな』
「なるほど、絶望のクライスターと言えば既に復活を果たしている邪神だったな。今回の事は邪神の手による可能性があるという事か」
『まあ、そういう事だな』
 暢気に会話する主人とペット。
 だが、自らの国を襲う事態が、邪神の手によるものかも知れないと聞かされたシズカはそれどころではない。
「なっ、そんなっ!?」
 驚愕の声を上げ、呆然と黙り込むシズカ。
 だがスレイとディザスターはそのまま会話を続ける。
「クライスターというのは良くアンデッドを使うのか?」
『ああ、死者の絶望を喰らい、更にその死者達に絶望を振り撒かせる。割と良く使う手段の一つではあるな。もっとも実際にアンデッドを使役しているのはそのクランドという男の可能性が高いが。邪神によって直接力を与えられた者を邪神の使徒という、それこそ少なくとも一騎当万の強敵だ。もっとも人間にわざわざ力を与えるなどという迂遠な事をするのは我と同じ下級邪神、それに中級邪神のトリニティぐらいで、上級邪神や最上級邪神はやらない事だがな』
「へぇー、恐らくはそのクランドという男は、少なくともSS級相当探索者並の力はある可能性が高い訳か。しかも一騎当千の、つまりS級相当探索者並のアンデッドを無数に使役するなんて、本当に厄介だねぇー」
 フルールがやはり緊張感無く横から口を出す。
 聞かされるあまりの事態に顔を蒼褪めさせるシズカ。
 そんなシズカの頭をポンポンと叩くスレイ。
「い、いきなり何をするのですか!!」
 途端顔を真っ赤にしてスレイに噛み付くシズカ。
「まあ落ち着け、九尾の狐の説得に、そのクランドという男の国の殲滅。なかなか面白そうじゃないか。全部俺が何とかするさ」
 不適に笑うスレイ。
 笑みにさえ力と自信が溢れ返ったその表情に思わず見惚れるシズカ。
 だがふっと我に返ると、そんなスレイに呆れたような声を出す。
「どれだけ自信家なんですか貴方は」
「さて、どうだろうな?最近は自分で自分の事も分からない有様でな」
 どこかふざけたように返しながら、何時の間にか辿り着いていた探索者ギルド本部を見上げる。
「それじゃあ、まあ。まずはクロウに、次はギルドマスターのゲッシュに報告と言った所かな?その後はディラク島までの転移を頼むぞ?」
「準備は整えなくていいのですか?」
「何、戦う準備ならいつでも整っている」
「そうではなく、ディラク島での一時的な生活の準備とか、そういうものを」
「それはあんたの国の客人の扱いに期待しておくさ」
 どこまでも楽しそうに笑うスレイ。
 実に厄介な客人だと思い、シズカは、今日何回目になるか分からない溜息を吐くのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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