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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
3話
【始まりの迷宮】地下1階
 ふと、スレイは自分が迷宮都市に来てから探索した迷宮の数の少なさに思い至る。
 しかもその殆どの割合の探索が、この初心者探索者用の【始まりの迷宮】だという有様だ。
 なんというか自分が寄り道が過ぎる事を自覚する。
 そろそろ本腰を入れなきゃいけないな、と何と言うか最近希薄になりつつある責任感や罪悪感に火を入れて、気合を入れなおす。
 強くなればなるほど、何というか自分が戦闘以外の方面では駄目な人間になっていっている気がする。
 そんな自分に危機感を募らせるスレイであった。
 ……いくら初心者用とはいえ、迷宮の内部でそんな事を悠長に考えている事自体が緊張感が無いと言わざるを得ないところだが。
 そんなことを考えながらも、自らに向かってくる“敵性存在”を“切断”するという低位の概念操作を行っているため、自然とスレイに向かってきたモンスターは、その存在そのものを切断され消滅していっている。
 ちなみに“切断”の概念を選んだのは何となく一番使い易かったからである。
 過去に闘気と魔力の融合、つまりエーテル操作の特性を取得した時得た知識によると、自分の終着点たる終なる“絶対概念”は“切断”の“絶対概念”を持つプリマ・マテリアの剣らしいので、おそらくは低位の概念操作であっても“切断”の概念は相性が良いのであろう。
 無意識のまま無数のモンスターを倒していくスレイ。
 もっともあまりに低ランクのモンスター過ぎて、いくら倒しても小数点以下何桁なのかも分からないような劇的に少ない経験値にしかなっていないが。
 そんな感じで考え事をしながらスレイは迷宮の中をシズカの後に続き進んで行く。
 しかし相変わらず舗装された通路に、石壁や天井もしっかりとした作りで、光源が不明の明るさも丁度良く、ひどく進み易い迷宮である。
 初心者用とは言えあまりに手軽すぎるのではないかと思う。
 ちなみにディザスターはスレイの隣を歩き、フルールまでスレイの頭の上に乗ってついてきている。
 はっきりいってこんな初心者用の迷宮に有り得ないような布陣である。
 そんな彼らが見守るシズカの戦いは、父である“鬼刃”ノブツナや母の“鬼姫”トモエにでも幼い頃から仕込まれたのだろうか?
 迷宮探索者に成り立てとしては実に見事なものであった。
 今も相手が最低のGランクモンスターである粘液状のモンスター、ただのスライムとは言え、その粘液状の体内にある小さな核を、初心者探索者どころか殆どの下級探索者であっても剣の平で打つなど、面の攻撃で破壊して倒すところを、きちんと刃筋を立てた線の攻撃で、二刀小太刀で見事に斬り裂いて倒していってみせている。
 実に見事なものである。
 おぉーっとディザスターとフルールと一緒に拍手などするスレイ。
 そんなスレイをシズカがどこか呆れたようにしながらもキッと睨む。
「何の嫌味ですか?貴方達のような存在にこの程度で褒められても皮肉にしか感じられないのですが」
「ふむ、大人になるとは悲しい事だな。素直に人の感心を受け止められないとは」
「全くだね」
『主の言うとおりだと思うぞ』
 そんな三人の息の合った様子にますます疲れたような呆れたような様子を強め、溜息を零すシズカ。
 既に諦めの境地にすら達しているように見える。
 なにやら、まさかこんな人だったなんて、などという呟きまで聞こえてきた。
 だがスレイは続ける。
「まあ、はっきり言わせてもらうと、確かに単純な戦闘能力という面では正直俺達からすれば見るべきところは無いな」
「ほ、本当にはっきり言いますね……」
 流石にシズカが顔を引き攣らせる。
「だが感心したのは本当だ。強さとかではなく、戦いそのものがまるで美の女神の舞いを見ているかのように美しかった。本気で見惚れてしまったぐらいだ」
「なっ!?」
 真剣な顔で、どこまでも真摯に言葉を紡ぐスレイ。
 真正面からの、歯の浮くような賛辞に、シズカは思わず頬を赤く染める。
「お、お爺様から女ったらしだとは聞いていましたけど、本当にその通りですね。そんな台詞をよくも恥ずかしげもなく!」
「そうだよねぇー、ほんとスレイって誑しだよね」
『主のソレはもう病気の領域だな』
 今度はシズカだけでなく、ペット二人からまでシズカに対し援護射撃が入り、口撃されて、スレイは飼い犬に手を噛まれた気分になる。
 まあ、飼い犬ではなく飼い邪神に飼いドラゴンと言ったところだが。
 しかし、自分で言っておいてなんだが、今、“美の女神”という台詞を言った時に何かが頭の片隅に引っ掛かった。
 しかも背筋まで寒くなった気がする。
 恐怖を感じない自分が背筋を寒くするとは何事だろうかと疑問に思うスレイ。
 暫し考え込むが、答えは見つからず、スレイはそのまま気の所為だろうと言う事ですませることにした。
 しかし三度のメシとオヤツと、戦いと美女・美少女と、可愛いペットと子供が好きな男スレイ。
 並び立てるとますます完全に駄目人間である。
 そしてそのまま二人と二匹の珍道中は続くのだった。

【始まりの迷宮】地下10階(最下層)“試練の間”
 あれから、無職のままでありながら、やはりシズカはとても初心者探索者とは思えない力を見せつけて一気に最下層まで突き進んで来ていた。
 自分も同じ事をやりはした訳だが、ノブツナやまだ会った事も無いその妻トモエは、いったいどんな教育をしたのかと流石に呆れてくる。
 今もまた、高速で動き回る小柄な蝙蝠型のモンスター、キラーバットの集団を、相変わらず美麗な舞の如き洗練された二刀の小太刀捌きで、あっさりと葬りさっていった。
 そして、スレイにとっては色々と印象深い場所であるこの迷宮の最奥の広間へと辿り着いていた。
 そしてそこには、巨大な、実に巨大な粘液状の塊が鎮座していた。
 自然に頭に情報が浮かぶ。
 スライム・アーク。
 Eランクボス級モンスター。
 この迷宮の真のボスである。
 始めてこの迷宮の真のボスを目にした事に不思議な感動すら覚えるスレイ。
 そんなスレイをシズカがどこか訝しげに見ている。
 スレイは僅かに咳払いすると、シズカに尋ねる。
「どうする、力を貸そうか?流石にあの巨体相手じゃ、ディラク刀とはいえ、小太刀二本じゃリーチ的に厳しくないか?」
「いえ、結構です。手段はありますので」
 つれなく断るシズカ。
 あまりに素気無い言葉に、スレイは少しばかり項垂れた。
 スレイを無視して懐を漁り、複数の札を取り出すシズカ。
 ちなみにスライム・アークはまだ鎮座して、静止したまま動かない。
 そしてシズカは、スレイが聞いた事も無い言葉で呪文を唱えると、札を空中に放り投げる。
 最後にシズカが力強くその聞いた事も無い言葉で何かを叫ぶと、札は複数のディラク刀に見える刀身だけの刃の群れと化していた。
「方術か」
 流石に見るのは始めてだが、本や伝え聞いた話などで存在自体は知っている。
 そしてその刃は一気にその巨大なスライムアークの中心の核目掛けて高速で飛翔し、そのままスライム・アークへと突き刺さった。
 その巨大さのみが武器で、弱点がはっきり見えているスライム・アークだが、あれで中心の核まで届く攻撃を繰り出すのは、初心者探索者には難しいと聞く。
 初心者探索者の最初の関門である由来だ。
 だが、シズカの方術により作られたディラク刀の刀身のみの刃は容易く全てがスライム・アークの核に到達し、スライム・アークはその形を崩し、ただの粘液へと成り果てる。
「剣神を信仰する寵愛者、か」
 その意味が僅かばかり理解できたスレイであった。

シズカ
Lv:6
年齢:18
筋力:D
体力:D
魔力:C
敏捷:C
器用:D
精神:D
運勢:D
称号:寵愛者
特性:刀技上昇、二刀流
祝福:剣神フツ
職業:無職
装備:ヒヒイロカネのディラク刀の小太刀×2、戦巫女の装束、ミスリル絹の足袋
経験値:563 次のLvまで37必要
所持金:0コメル

 そして、シズカの始めての迷宮探索は、無職のまま、初心者用とは言え迷宮をあっさりと一日で踏破して終わってしまったのであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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