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  シーカー 作者:安部飛翔
第五章
2話
 会議の終了後、各国の代表達は自らの国へと帰還していった。
 その際、スレイはフェンリルに、故国であるシチリア王国に仕官するよう散々に誘いをかけられたが、何ということも無く聞き流し断っていた。
 今のスレイにとっては故国といえども大して重要ではなく、仕官する意味を見出せなかったからだ。
 そのまま迷宮都市アルデリアへと帰還したスレイだったが、帰還までかかった日付を考えると正味一週間ほどアルデリアを離れていた事になる。
 暫くの間は不機嫌になったサリアのご機嫌取りや、恋人達への埋め合わせに時間を取られる事になった。
 特に、今回の旅路で、また恋人を増やしていた事の言い訳などもあり、スレイとしては散々な数日であった。
 そして現在、スレイはクロウに呼ばれ、探索者ギルド本部へと訪れていた。
 何せ刀術について語り合う相手としては、あれ以上の相手はいない。
 それにその弟子のケリーとはクロスメリア王城への旅路の始まりから既に友人であったが、旅路の中で尚親交を深めている。
 スレイとしては、今回呼び出されたのを良い機会として、以前の引き分けに終わった勝負のリベンジなども考えていた。
 このところLvアップどころか、経験値すら全く稼いでおらず、そういう意味では成長は停滞していたが、ほんの僅かな質の高い戦いで、エーテル強化の段階も上がり、またアルス戦においてだろう、探索者カードを見たところ、新たな特性として概念操作すら得ていた。
 今の自分であればクロウにも完全に勝利できる気がしていた。
 それにケリーあたりと、それにアッシュを誘ってどこか適当な迷宮探索をしてみるというのも良いのではないかと考えていた。
 なにせ最近は恋人達のご機嫌取りで大変だった。
 なのでクロウ達と同じくギルド本部に仮住まいしている真紀達の事は考えない事にしていた。
 道を歩くスレイの背後にはディザスターが続き、頭の上にはフルールが居座り、周囲の注目を思いっきり集めていた。
 何時の間にやらフルールまでもスレイのペットのような扱いになり、スレイの宿の部屋へと付いて来て住み着いてしまっていた。
 いまではすっかりスレイの頭の上が定位置だ。
 サリアなどがひどく触りたがっていたが、ディザスターと同じく中々スレイ以外の人間には触れさせようとはしなかった。
 何か自分には本気でこういう特殊な存在を惹きつけるものでもあるのかと真剣に悩むところだ。
 もっともどちらもその触れた感触に癒されるので、嬉しい悩みではあったが。
 そうして辿り着いた探索者ギルド本部で、受付の者に取り次いで、クロウを呼び出してもらう。
 そしてやってきたクロウであったが、サクヤだけが同行し、ケリーとマリーニアの姿は見当たらない。
 代わりに予想外の人物がそこに居た。
「ふむ、よく来てくれたのうスレイ」
「ああ、呼ばれたからな。あんたとは話が合うし、それにまた勝負して今度こそ完全に勝利してやろうなんて考えていてな。ところでケリー達はどうした?それに、ノブツナやシチリア王国のアイス王やフェンリルと一緒に北方に帰った筈のあんたの孫が何故ここにいるんだ?」
 そこに居たのはクロウの孫でありノブツナの娘であるシズカであった。
 仮にもディラク島で最大の勢力の国主である自分の父を軽く呼び捨てにし、生きながら伝説となっている祖父のクロウをあんたと呼び捨てるスレイにやや眉を寄せている。
「そのことじゃがな、ケリー達ならマリーニアの占術で以って、無数の未知迷宮に関して色々と探っておるところじゃ。やはり戦力アップの為には神々が創った修練場であるこの迷宮都市の迷宮ほど適したところは無いしの。色々と成果も上げているようじゃ。その内その情報をあの会議に集まった者達に伝え、戦力アップの為の迷宮探索など始まると思うぞい」
「ほう、それは」
 やや驚いたように相槌を打つスレイ。
 確かにマリーニアの占術であれば、迷宮の深くまで潜る事も無く、その迷宮に隠されている様々な要素を確認することも可能であろう。
 その情報を元にすれば、あの場に集まった既に自らの限界の高みまで到達している者達であっても更なる成長を望めるかもしれない。
 もっともスレイに関してはまだまだLv限界も程遠く、ジャガーノートに示唆された【邪龍の迷宮】に潜るという明確な目的もあるので、今の所は要らぬ情報だが。
 流石にスレイも、自分にLv限界が存在しないという事までは知らない事であったが。
「それでシズカの事じゃがの、ゲッシュ殿が特別製の飛翼の首飾りを渡していたであろう。一度故郷に帰りあれで自分の部屋にマーカーした後、探索者になる為に、このギルド本部の転移の間へ転移してきたのじゃよ」
「随分と早いな?」
 やや訝しげなスレイにシズカが答える。
「馬車を引いていたのはフェンリル殿の魔狼でしたから」
「なるほど」
 納得したように頷くスレイ。
「しかし何故探索者に?」
「私には兄のように国を自在に動かすような智謀はありませんから、せめて父母のように戦える力だけでも手に入れようと思いまして」
「まあ、そういう事じゃな。ノブツナが国主ではあるが、あのディラク島の最大勢力である国は、実質ノブヨリの奴が全てを動かしてるようなもんじゃからの」
 ほう、と頷き、やや訝しげにスレイは問いかける。
「それで、結局俺は何で呼ばれたんだ?」
「ふむ、お主にはまだ探索者に成り立てのシズカが【始まりの迷宮】の探索をサポートしてもらいたいと思ってな、既にシズカは探索者になる肉体改造を受けておる。じゃがまだLv1の無職じゃからな、儂としても心配でのう」
 クロウの孫が可愛くて心配で仕方無いといった様子に、サクヤが呆れたような溜息を吐いている。
 またシズカもその過保護にやや辟易としているようであった。
「と、いうか。そんなに心配ならあんたがサポートしてやればいいんじゃないのか?」
 至極当然のスレイの疑問。
 だが答えはあっさりと返ってきた。
「こう見えて儂も過去の力在る知人達にコンタクトを取るのに忙しくての、これやってお主を呼んだのもギリギリのスケジュールの間を縫っての事じゃ。じゃから頼む、シズカのサポートをお願いできないじゃろうか?」
 サクヤやシズカが呆れているのも分かった気がした。
 だが、スレイとしては僅かにこのクロウの孫であのノブツナの娘であるシズカに興味が湧く。
「ふむ、まあいいぞ。少々興味が湧いた、その頼み引き受けよう」
「おお、ありがたい。じゃが、シズカに手を出したりすれば分かっておるじゃろうな?」
 威圧するように告げてくるクロウ。
 だがスレイは逆に瞳を輝かせる。
「また、あんたとやれるってことか?それは願ってもない話だな」
 瞳に、最近どんどんと強くなっている戦いに対しての餓えを覗かせ、スレイはクロウの瞳を見やった。
 それにクロウは失敗した、という顔をする。
「ところで、探索者になったばかりという事なら、今のステータスを見せてもらえないか?」
 そんなスレイの言葉にシズカは僅かに緊張した表情で自らの探索者カードを取り出して見せた。

シズカ
Lv:1
年齢:18
筋力:E
体力:D
魔力:D
敏捷:C
器用:D
精神:D
運勢:D
称号:寵愛者
特性:刀技上昇、二刀流
祝福:剣神フツ
職業:無職
装備:ヒヒイロカネのディラク刀の小太刀×2、戦巫女の装束、ミスリル絹の足袋
経験値:0 次のLvまで100必要
所持金:0コメル

「なっ!?」
 流石にスレイが驚愕する。
「探索者に成り立てでこのステータスで、これだけ称号や特性まで持っているのか」
「お主が言えた義理かい。どうじゃ、頼めるかのう?」
 スレイはどこか面白そうな顔で答える。
「いいだろう、俺も本来は自らを鍛え上げる必要があるんだが、少々興味が湧いた。その頼み、引き受けよう」
 こうして、探索者に成り立てのシズカと一緒に、スレイは【始まりの迷宮】を探索する事になるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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