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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
エピローグ
「地に伏せろ」
 唐突に告げられる命令。
 場に満ちる圧倒的な邪気と神気、なによりも強大なエーテル。
 それは物理的な圧力となってその場に居る者達を地に這わせる。
 そしてそのまま押し潰さんばかりの負荷をかけていた。
「なっ!?」
「くぅっ!?」
 竜皇と魔王すらが。
「えっ!?」
「嘘っ!?」
「……!?」
 真紀達すら。
「なんとっ!?」
「こりゃあっ!?」
 クロウとノブツナも。
 また他の面々も誰もがただ一言の前に無力化される。 
 だがスレイはその中で平然と立っている。
 そしてジャガーノートの力の波動に反応し、スレイのエーテル強化は今までに無い程のレベルまで高い次元にスレイを押し上げ、光速の数百倍の思考速度と身体強化が自然と発動する。
 それを察し、当然のようにまだまだ余裕を持って、スレイと同様の領域まで思考を加速させたジャガーノートが面白そうに語る。
「へぇ、流石に神殺し(ゴッド・スレイヤー)の称号を持ち、神耐性の特性を持つだけはあるね。二重に被って全能耐性を持っているが故に“真の神”の言葉に従う事も無いか。流石“天才”というか何というか」
 ジャガーノートの言葉を聞き流し、平然とその場に立ちながらも、スレイは珍しく僅かに声を荒げ、ディザスターに問いかける。
「求道のジャガーノートだと!?上級邪神の復活はまだ当分先の話じゃなかったのか!?」
 スレイの瞳には闘争への期待の歓喜と、まだ早いという焦燥の二律背反があった。
 スレイにしてみれば、例え相手が自らよりも圧倒的な強者であろうと戦いは楽しめる、だがもっと自らも成長してからの方がより戦いを楽しめるだろうという冷静な計算で、この時点での上級邪神の到来はあまり歓迎できない事であった。
 それに何より贖罪を果たさぬ内に死ぬ訳にはいかない。
 その誓いだけは破る訳にはいかなかった。
 しかし闘争への本能は、そんな理性を無視してスレイを否応無く戦いに駆り立てる。
 自らすら意識せぬままに、スレイは構え、当然のように闘争へと備えていた。
 その主にやはり光速の数百倍の領域まで思考を加速させたディザスターは答えを返す。
『その通りだ主、まだ上級邪神の復活には早い。そこに居るのはジャガーノートの思念体だ』
「なっ!?」
「えぇ!?」
 流石にスレイは驚愕の声を洩らし、同時にスレイとディザスター以外にあと一匹この場のプレッシャーに耐え、何とか限界ギリギリで同等の速度域までついて来ているフルールもまた同じく驚愕の声を洩らす。
『ジャガーノートはシンプルな性分だからな、シェルノートのように回りくどい真似はしない。文字通りヴェスタの狭間の封印の一部を強引にこじ空け、自らの思念体を送り出したのだろう。そこのジャガーノートは本体と同期した思念体であり、ジャガーノート本体の一割程の力を持っている、しかもシェルノートが研究者肌なのに対しジャガーノートは実戦派だ。以前主が戦ったという、人間の身体にシェルノートの一部が取り憑いた者よりもよほど強力だぞ』
「なるほど、な」
 スレイはその場のジャガーノートの思念体から感じる力の圧力に納得したような表情をする。
 圧倒的な力の波動。
 しかしこれでも僅か一割程度。
 ならば本来の上級邪神とはどれほどの化物なのか。
 そう考えて、尚笑みが浮かんで来る事にスレイは自らの精神性に苦笑いする。
 そして。
『待て、主!!』
 ディザスターの静止を聞き入れる事無く、次の瞬間スレイの姿は消え、ジャガーノートの眼前へと到達していた。
 繰り出されるアスラとマーナの斬撃。
 エーテルと軽い概念操作により強化したその斬撃を、ジャガーノートはただ自らの身より発する力の圧力で止めてみせた。
 ジャガーノートに僅かに触れる事も敵わず、アスラとマーナの刀身は静止する。
「まあ、待ってよ。悪いけど今の君と戦う気はボクには無いんだ。さっき記憶を覗かせてもらったけど面白い成長をしているね。以前のオメガだった時よりもずっとボクのご主人様になる資格はあるよ。でも今はまだそのオメガだった時にすら及ばない。今の君じゃあボクのご主人様どころか、ボクの敵になる事すらまだ早い」
 悠長に告げるジャガーノートに、スレイは更なる怒涛の攻撃で以って答えを返す。
 しかし刀身の先、ほんの僅かにすらもジャガーノートに刃は届く事無く全て力の波動のみで静止される。
 そんなスレイに呆れた表情をしながら、ジャガーノートはスレイの腹に掌を当てた。
「ちょっと静かに話しを聞いてくれるかな?」
 瞬間、直感的にスレイは自らのエーテルを全てジャガーノートの掌が触れた部分に集中させる。
 そして爆発するジャガーノートの力。
 圧倒的な衝撃でスレイは吹き飛ばされていた。
「さてと、挨拶はこのくらいにしておこうかな。君だったらいずれボクのご主人様になれるかもしれないし、期待はしているよ?ただその前に、まずは【邪龍の迷宮】で、彼の死を呼ぶ蛇と戦い死を超越し、ロドリゲーニから恐怖を取り戻して恐怖すらも超越してほしいかな?恐怖を喰らい失わせたのは暴走を抑えるリミッターにはなって今の成長の速さには役立ってるけど、何れは恐怖を取り戻し、それを超越してみせてこそ“天才きみ”の真の完成形があるとボクは思ったからね」
 そして姿を薄れさせていくジャガーノート。
「待て!どこへ行く!!」
 咄嗟に起き上がりまたも双刀を構え問いかけるスレイ。
「どこって、本体の元に戻るのさ。元々ちょっとボクのご主人様候補である君にちょっかいをかけたかっただけだしね。本当に完全なる前期対邪神殲滅兵器きみの完成は邪神達ボクらは全員意味は違えど期待しているからね。それじゃあ、これで」
「そう連れない事を言うなよ。せめてもの土産だ、持っていけ」
 再び時系列など無視してジャガーノートの眼前へと現れるスレイ。
 そして振るわれる双刀。
 双刀を叩きつけるように交差させる。
 響合い、共鳴し、深紅と蒼のオーラを撒き散らす双刀。
 だが呆れたようにそのまま力の圧力のみで双刀とオーラすらを軽く止めてみせるジャガーノート。
 だがスレイはそのまま双刀を押し込み、咆哮を上げていた。
「おおおおぉぉぉぉおーーーーーー!!!!」
 概念操作によりジャガーノートの力の圧力に直接干渉し、それを『砕いて』みせる。
 咄嗟に軽いステップを踏み、次元の位相と時系列をずらし回避するジャガーノート。
 その頬には一筋の浅い傷跡が一本残っていた。
「へぇー、これは」
 楽しそうに笑うとジャガーノートはそのまま更に姿を薄れさせていく。
「君なら本当にボクのご主人様になれそうだ。期待しているよ?」
 嬉しそうに捨て台詞を残し、そのまま完全にジャガーノートの姿は消えていった。
 途端、その場に倒れ伏すスレイ。
「ちょっ、ちょっと大丈夫スレイ!!」
『どうした主、大丈夫か!!』
 フルールとディザスターが心配して声を掛けるが、スレイはそのまま仰向けになると、思いっきり笑いはじめた。
 驚いたように目を瞬く二匹。
「はははははっ、楽しいな、ちくしょう。アレが俺の“敵”か。最高じゃないか!!」
 その口元は歪み、どこまでも楽しそうに瞳は輝いている。
 倒れ伏していた周囲の者達が、ようやく力の圧力から解放され、身を起こしていく中、仰向けに寝たまま思いっきり笑い続けるスレイを、二匹は呆れたように見つめるのだった。

【???】???“???”???
「うわっ、ジャガーノートの奴、勝手にスレイにちょっかいを出したな!!」
『どうした』
『その程度』
『想定内であろう』
『汝ら』
『上級邪神ども』
『それに』
『彼の最上級邪神イグナートが』
『皆』
『彼のただ一人遺った前期対邪神殲滅兵器てんさいに』
『拘り』
『期待し』
『完成を望んでいるのは既に知れていることだろうに』
「それはそうだけどさー、勝手にちょっかい出されるとやっぱムカつくなー。それに僕のスレイに対する干渉に否定的な事を言ってたし」
『何を』
『今更』
『お主とて』
『いずれその恐怖』
『彼の“天才”に』
『還すつもりだったろうに』
「まあねー、だけど失敗みたいに言われるとやっぱムカつくよ、現にスレイは前世のオメガなんて比較にならない成長速度を見せてるのに。しかも自分のご主人様候補とか言っちゃって。やっぱアイツとは何れ決着付けないと」
『全く』
『御主等上級邪神は』
『度し難いな』
「うるさい、えーい、もう決めた、この封印解いたら僕もスレイの所に行ってやる!」
『全く』
『どこまでも』
『呆れることよ』


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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