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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
24話
 仲間達の元へと戻っていく真紀。
 セリカと出雲は真紀を驚きを持って出迎えていた。
「驚いたわね、まさかアンタが負けるなんて」
「うん、真紀ちゃんが負けるなんて、びっくり」
 なんだかんだと言って二人とも、三人の中で最も強いのは真紀だと認めていた。
 だからこそ真紀の敗北は驚きを持って受け止められる。
 しかし真紀はさっぱりとした様子で告げた。
「まあ、仕方無いわよ。あんな勝負に乗ったのは自分だし、何より今でもまだあの攻撃に対する対処法は避けるぐらいしか思い浮かばないしね。まあ何れは何とかして見せるけど」
 真紀は敗北したからといって落ち込む事は無かった。
 敗北ならば異世界アラストリアにおける戦いにおいても何度も経験してきている。
 なればこそ、生きてさえいれば敗北は自らの糧とする事ができる。
 糧とした経験で以って何れは勝利すればいい。
 そういう信条をアラストリアでの戦いの中で自然と育んでいたのだ。
 だからこそ生き延びる事にだけは誰よりも拘るが。
 同じ経験を得て、その信条を共有しているセリカと出雲も納得したように頷く。
 そんな二人に真紀は告げた。
「それよりも次はスレイの戦いよ。私達のものがどれだけの男か、存分に見せてもらいましょうか?」
「そうね」
「うん」
 三人は未だ悠然と座り込むスレイを見やる。

 自らの配下達の元へと戻ってきたサイネリア。
「なんというかまあ、随分と大人げないことをしますのう」
 そんなサイネリアをシャルロットが呆れたような顔で出迎えた。
 リュカオンとダートは沈黙は金とばかりに口を噤み、静かに控えている。
「あら、どうして?私は普通に一発勝負を持ちかけただけだけど」
「何を仰るのかのう。あの一撃を防ぐ手段が相手には無いと確信した上であのような勝負を持ちかけたのであろう?しかも齢200を越える陛下がまだ10代の小娘相手にそのなさりよう。十分以上に大人げの無い真似でありましょうや」
 シャルロットに言われサイネリアはやや悪戯げに舌を出し笑ってみせる。
「あら、そうでもないわよ?ここ数百年闇の種族のどの種族の長も人に殺された事は無いから、あれに対抗できる闇殺し(ダーク・ブレイカー)の称号を持つ者は居ないと分かってはいたけど、彼女達は異世界の勇者さん達なんでしょう?もしかしたら、私の知らないなんらかの対抗手段を持ってる可能性だってあったじゃない。だからそれほど大人げない真似って訳でもないわよ。まあこれで、今のところ、私の闇を躱す事はともかく防げる存在はこの場には居ないって確信できたけどねー」
「さて、それはどうでしょうな?」
 思わせぶりに告げ、悠然と座るスレイの元へと視線をやるシャルロット。
「あら、またあの青年?スレイと言ったかしら、彼だったら私の闇を防げるとでも?確かにあのクロウとかって剣士と引き分けて、しかも邪神をペットにしてるし、色々と規格外な青年だけど、さっきも言ったように闇殺し(ダーク・ブレイカー)の称号を持つ存在は今は存在していないのよ?」
「さてはて、しかし先程戦いの中で陛下も仰っておられたように、“真の闇”を防ぐ手段はもう一つありましょうや」
「……シャルロット、貴女、正気?」
「陛下は失礼ですのう。まあ、丁度良くかの勇者王も面白いモノを持っておるようであるし、これからの戦いを見ていればわかることかと」
 どこまでも思わせぶりなシャルロットにサイネリアは面白そうに挑発的に微笑む。
「へえ、そう。それは面白そうね。それじゃあ私も期待して観戦させてもらうことにしましょうか?」
「ふふふふふ」
「あはははは」
 互いに視線を交わしながら笑いを零す二人。
 その間に火花が散っているようにさえ近くに居る者には感じられた。
 リュカオンとダートはますます身を縮め、静かに景色に溶け込むようにたたずむのであった。
 
 突然、スレイはばねのように勢い良く跳ねて身を起こす。
 そんなスレイの動作に慌ててスレイの頭と膝に縋りつくフルールとディザスター。
「い、いきなり起き上がらないでよスレイ!!」
『ど、どうした主!?』
 そんな二匹をそっと抱き上げ地に降ろしながら、スレイは告げる。
「どうしたもこうしたも、散々待たされて、ようやく俺の番だろう。本気で待ちくたびれた」
 静かな口調でありながら、その声には熱が籠っていた。
 瞳には貪欲なまでの闘志が宿っている。
 その戦いに飢えた欲望は、凄まじい勢いでディザスターに流れ込み、ディザスターすら困惑させていた。
 圧倒的なまでの箍の外れた戦闘本能。
 それが主の本質と分かってはいても、これほどまでの戦いへの餓えは流石にディザスターも面食らう。
 それほどに、今までの戦いを見て、スレイは戦いに餓えていた。
 見ると、先程まで対戦者達に、毎回色々と調子を狂わせられていたようだったアルス王も、そんなスレイを見やり面白げな表情を浮かべている。
「それじゃあフルール、地面の修復を頼む」
「う、うん。わかったよ。まあ、確かに地面が闇球に多少削られてるし、何より真紀がやらかしたしね」
 そしてパタパタと飛んで行き、果ても底も見えない地面の亀裂をあっさりと修復するフルール。
「これは……真紀達もやっぱり成長してるなぁ。まあ、あの世界ヴェスタの中じゃあ、ヴェスタの成り立ち故に、あらゆる力を抑圧されて制限を受けてるんだから、その世界の外に出たら成長してるのは当然かぁ」
 呟くと、パタパタとスレイの元へと戻ってくるフルール。
「さて、それじゃあお前達はここで見物だな」
 そう言うとスレイは地面に刺していたアスラとマーナを引き抜き、一度振るう。
 アスラとマーナは主の飢えに応えるよう、禍々しいまでの深紅と蒼の波動を周囲へと波紋のように広げていった。
 その波動に当てられ、僅かに怯む周囲にいる全員。
 アスラとマーナはそれほどまでに主であるスレイにシンクロするようになっていた。
 そんなアスラとマーナを腰の鞘へと納刀するスレイ。
 そしてスレイにエールを送る二匹。
「スレイー、頑張ってねー。僕にヴェスタの寵児たる“天才”の本領を見せてよねー!!」
『主の事だ、心配は要らないだろうが、油断はしないようにな』
 二匹に見送られ中央へと進み出て行くスレイ。
 アルスも準備万端といった様子でスレイを待ち受けていた。
「さて、当然最後は私と君の戦いだが、誰か代理の審判は必要かな?」
「そんなものは必要ないだろう、俺とあんたが戦って、どちらが勝つかただそれだけだ。ルールも判定も何も必要無い。あんたの全てを俺に見せてくれ」
 爛々と戦いへの欲望に燃え上がるスレイの瞳。
 口元には笑みが浮かぶ。
 どこまでも戦いを求めるその姿にアルスも笑って応えた。
「いいだろう、私と君とどちらが勝つか。私もあらゆる手段を以って勝ちにいかせてもらおう、覚悟はいいかい?」
「覚悟とは何だ?悪いが俺は戦いに臨む際、敗北など考えた事も無くてな。それに今の俺は少々抑えが利かんようだ。せいぜい俺に殺されないよう気を付けてくれよ?」
 アルスの言葉にスレイはその表情に見合った凄まじく獰猛な笑みを浮かべて見せる。
 自らの力、それに“武具”に、絶対の自信を持つアルスだが、流石にそのスレイの笑みには僅かに気圧されたような様子を見せるも、すぐに笑い返してみせた。
「ふむ、大した自信だね。いいだろう、それではこれから私の“力”で君を捻じ伏せてみせよう。さあ、始めようか?」
「ああ、始めよう。勝つのは俺だがな」
 そして、戦いが始まった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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