たとえ強引にその時を終焉へと加速され、終焉を迎えた空間。
或いは永遠なる虚無により喰らわれた空間であろうと、辺りに漂う完全に破壊された世界の元の構成要素から再び舞台を創り上げるフルールにとってみれば、修復するのは然程の手間ではない。
あっさりと侵食された空間と地面を修復すると、フルールはスレイの所へ戻っていき、茶菓子をねだる。
明らかに周囲から浮いているその光景を誰もが呆れたように見る中で、アルスはやや白けた場の空気を引き締め直すように、喉を鳴らし次の対戦者達を呼ぶ。
「それでは、クロウ殿、それにノブツナ、前へ」
「ふむ、やれやれ。久しぶりに馬鹿息子を揉んでやるとするかのぅ」
「おい、アルス!親父をクロウ殿なんて呼んで、俺を呼び捨てとはどういう事でぇ!あと親父、俺を昔の俺と同じと思うんじゃねぇぞ!!」
呼ばれてやや億劫そうに、先の戦いから戻って来ていたサクヤの傍から中心へと進み出て行くクロウ。
対して、アイスとフェンリル、そして娘のシズカの傍から、アルスとクロウに対し因縁を付けながらノブツナが中心へと進み出てくる。
そんな父の態度と言葉に頭を抱えるシズカ。
「やれやれ、年長者を敬うのは当然の事だろう。何より私と君の間で敬称など付けて呼ぶなどそっちの方が不自然だろう」
「全く、一々下らんところに噛みつきおって。我が息子の事ながら頭が痛いわい」
肩をすくめてノブツナに返すアルスとクロウ。
本気で呆れたようなその様子にノブツナは顔を引き攣らせてこめかみに青筋を立て、怒ったように怒鳴る。
「なんでぇおめぇらは!俺を責めるのに一々息を合わせやがって、グルなんじゃねぇのか!?おい!!」
そんなノブツナにますます呆れたように溜息を吐く二人。
ノブツナはますます表情を引き攣らせる。
「ま、まあいい。いぃ機会だ。俺が既にクソ親父を越えてるって事を思い知らせてやろうじゃねぇか」
「ほう、それは楽しみじゃのう。この爺をせいぜい驚かせて見せてくれ」
「ああ、思いっきり驚かせてやろうじゃねぇか!」
クロウの言葉にこめかみの青筋を増やしつつ、ますますいきり立つノブツナ。
ノブツナの様子にやはりやれやれと肩を竦めて見せるクロウ。
二人の様子をやはり呆れたように見ながらもアルスは開始を告げる。
「それでは、始め!!」
言葉と同時に元々EX+を誇る敏捷のランクに、闘気術と魔力操作の併用による強化で+2ランクの強化を果たし、光速の数十倍の領域へと突入するクロウ。
そして敏捷のランクではEXと劣るノブツナだが、奥の手を使い、クロウと同じ速度域へと到達してみせる。
「『剣神フツよ、我にその力を貸し与え給え!!』」
言葉と同時に眩いばかりに光り輝く降神刀フツノミタマ。
そしてどこからか剣神の神気が流れ込み、ノブツナの全能力値は+3ランクの強化を果たしていた。
クロウとノブツナは同時に互いに対し一気に走り寄る。
交わされる刀と刀。
互いに心眼を以って時系列すら無視した相手の動作を完全に見切り、全てを躱し、自らの攻撃を相手に当てようと心見る。
しかしどちらも心眼による限定的な相手の行動に対する予知で、決してその刀が相手に触れる事は叶わない。
ほんの僅かな円の内側で、光速の数十倍の速度域であらゆる時系列と次元を行き来し、どこまでも続く刀の舞踏。
互いのソレは全くの互角に見えた。
事実クロウは全能力値を引き上げる事により、敏捷以外の能力値は自らよりも上となったノブツナの攻撃を警戒し全てを躱す。
同様にノブツナは、自らが持たない合気の特性を持つクロウと直接刀を交える事を警戒し、クロウの攻撃を全て躱す。
更には無拍子と明鏡止水の特性により、どこまでも無駄なく最適化された二人の動作は、どこまでも美しく感じられた。
更にはクロウの鋼属性は刀を振るうクロウに高い補正を与え、同様にノブツナの神属性は元々高位の属性だけあり刀を振るうのにも高い補正を与えている。
出雲が行った魔法攻撃のような派手さは無い。
だがそこにはそれ以上に高度な駆け引きと、技術がぶつかり合っている。
光速の数十倍という速度域は、流石にその場に居る者達にとっても、その動きを完全に追うのは難しかった。
故に、クロウとノブツナが、互いに何重にも重なり合い、それら全てが違う動作を行っているという矛盾した光景が見えている。
完全にその動きを追えているのはエーテル強化を果たしたスレイと、元々より高次の存在であるディザスターとフルールくらいのものであろう。
それほどに、二人の戦いは高度なものであった。
技と技、速さと速さのぶつかり合い。
魔王や竜皇ならばこの二人よりもより強くはあるだろうが、この二人程の高度な戦いはできまい。
それほどに、二人の戦いの“質”は高いものであった。
「おおぉぉぉぉおーーーーー!!」
「ぐっおぉぉぉおーーーーー!!!!」
クロウのアメノハバキリより繰り出される光速の数十倍の速度域ですら全くの同時に繰り出される八閃と、アマノムラクモによる全てを薙ぎ払う斬撃。
そしてそれをノブツナはフツノミタマ一刀を思いっきり振るうことにより弾き返してみせる。
流石にノブツナの今の自らより力を持ち、更に自らより上の器用さで以って完全に操作された一撃の力を合気により利用し、自らの攻撃へと上乗せすることは、クロウをしても不可能であった。
だがそのままその場で力を受け流し、決してその互いの制空圏から出る事は無く、その小さな空間での刀の舞踏をそのまま続ける両者。
互いに決して引く事は無く、永遠に続くかのように思われる舞踏。
両者の力は完全に拮抗していた。
それ故に互いに互いの力を引き上げ、今までよりも高い領域へと、その戦いのステージは昇華されていく。
「素晴らしい戦いだな」
スレイはその戦いを観戦し楽しみながらも、その目は両者の技術を写し取り、自らの物とするように脳裏へと刻みこんでいく。
「流石は最高の剣士と名高い二人だね。これだけの名勝負は滅多に無いんじゃないかな?今までの戦いが色褪せて見えるよ」
『確かに素晴らしい戦いだが、主ならもっと凄い戦いができるさ』
フルールの言葉にディザスターは主だけは別だと主張する。
そんな二人の言葉を聞き流しながら、どこまでも悠然と、しかし真剣に、スレイは二人の戦いから盗める技術を盗み尽くそうと、その視線を一瞬たりとも外す事は無かった。
「くそ、やるじゃねぇかクソ親父!引退してたロートルのくせに全然腕が落ちてやがらねぇ」
「そっちこそやるではないかクソ息子!確かに儂が知っておるお前とは全然違う、成長したのう!」
戦いながら言葉を交わす二人。
だが、流石に両者共にその限界が見えていた。
光速の数十倍という速度域、そして時系列と次元を超越した機動。
更には互いに自らの持つ特性を完全活用しての戦闘。
これほどの無茶をすればいくら高い体力を持っていても、続くはずが無い。
体力そのものは強化によってノブツナの方がクロウより高かったが、クロウはノブツナ以上の積み上げた経験の多さによってその差を埋めている。
互いに互いの限界を感じ、両者は最後の力を振り絞り、自らの最高の攻撃を繰り出す事にする。
「いくぞ爺、これで決めてやる」
「それはこちらの台詞じゃ、これで終いじゃ!!」
そして繰り出される双神刀と降神刀。
クロウのそれは限界まで闘気が注ぎ込まれ魔力でコーティングされ、ノブツナのそれには限界いっぱいまで神気が注ぎ込まれ神気によって覆われている。
交差する二人。
クロウの双神刀はノブツナの首筋と心臓の位置に当てられ、ノブツナの降神刀はクロウの首筋へと当てられていた。
「ひきわけ、か」
「そのようじゃのう」
一見刀を二箇所に当てているクロウの方が有利に見えるが、両者の攻撃の急所への到達は同時であった。
そしてそのまま両者の刀が振るわれていれば、攻撃を当てた場所など関係無く、両者共に死に至っていたであろう。
互いにどこか困惑したような表情の二人。
両者にとってはスッキリとしない終わり方であった。
しかし結果は結果である。
「それまで!両者引き分けとする!!」
そして動きだす通常の時間の流れ。
そのまま両者は刀を引き、鞘へと納める。
「ちぃ、次こそ決着を付けてやらぁ」
「それはこちらの台詞じゃ」
そして見ていた全ての者に感動すら感じさせた美しい戦いを演じた二人は、互いに捨て台詞を投げ合うと、元居た場所へと戻って行く。
やはり父子という事であろうか、その大人気の無さは、両者共にそっくりであった。
こうして刀神と鬼刃、最高峰の剣士二人の戦いは終結したのであった。
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