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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
20話
「ゴホンッ、それでは次にサクヤ殿、アロウン殿、前へ」
 出雲の一方的なあまりにも派手な魔法の絢爛な乱舞の後の、更に一方的な敗北宣言で終った戦い。
 どこか気を抜けさせるスレイの姿。
 いろいろな意味で抜けた気を取り直すように咳払いをして、アルスが次の対戦者達の名前を呼ぶ。
 そして互いに困ったような表情をしながら、サクヤとアロウンは前へと進み出た。
「いや、困りましたね。元々私は戦闘はそれほど得意ではないのですが。あのような魔法を見せられた後で、拙い魔法を見せなくてはならないとは。私の専門は時間魔法を使っての遺物の研究なのですが」
「あら?そのようなことを仰っても、その年齢で探索者として限界Lvまで到達しているんですもの、あまり説得力がありませんわよ。でも、あの魔法の後で戦うのがやり難いというのは同意致しますわ。私もそれほど戦いは得意ではありませんから」
 あはは、うふふ、と笑い合いながらも、二人は互いを牽制し合うようにそこだけは笑っていない目で、視線を交し合う。
 気が進まないような事を言いながらも何気に両者共に闘志は十分なようであった。
 裏で戦意をぶつけ合う、そんな二人にやや気後れしたようにしながらも、アルスは問いかける。
「二人とも、準備はよろしいですかな?」
「あはは、良くなくても戦わなければならないことに変わりは無いでしょう。ですから何時でも構いませんよ?」
「うふふ、そうですわね。準備ができていないと言っても、戦いを避けられる訳では無いでしょう?」
 暗に、この手合わせを提案したアルスに対し、どこか嫌味を言うような二人の会話に、やや引くアルス。
 だが気を取り直すとアルスは始まりを告げる。
「それでは、始め!!」
 同時であった。
「『時よ止まれ』」
 開始の号令と共に、アロウンはただ力有る言葉でそう告げる。
 言葉と共にこの世界の墓場全ての時は停止した。
 文字通り自ら以外の世界全てを停止させる時間魔法。
 時の魔法とはかくも規格外のものであると感じさせる威力であった。
 だがこの場に居る殆どの者が、自動的に発動した思考加速と各種強化により、時間の束縛すら受ける事はなかった。
 まさに規格外な化物たちである。
 そしてその化物の中にはアロウンの対戦相手であるサクヤも居た。
 この停止した“時”の中で確かに自らの時を刻み動いているサクヤに、やや驚いたようにアロウンは尋ねる。
「驚きましたね。貴女の敏捷の能力値は、闘気術と魔力操作の強化を併用した上で思考加速を自動発動しても、身体も思考もどちらも至れるのは純光速に過ぎない筈。決してこの静止した“時”の中で動けるランクでは無かった筈なのですが、いったいどんな手品を使ったのですか?」
「うふふ、私の場合は、普段から加速魔法を身体強化と思考加速と同時に自動発動するようストックしてありますの」
 平然と答えるサクヤ。
 だが魔法をストックし、自動発動するよう常に発動前の段階で備えておくなど、並大抵の技術では無い。
 更に身体強化や思考加速と同時に発動するようにセットするなど、信じられない程の超高等技法である。
「驚きました、流石は“刀神”の伴侶たる“白姫”と言ったところですか」
 そう言いながら、アロウンはサクヤの言葉に何かを思いついたような顔をして、その思いつきを告げる。
「しかし、“加速魔法”ですか。そうだ、いいことを思いつきましたよ。どうせ先程の絢爛たる暴虐の魔法の乱舞の後に、我々がちまちまとした駆け引きをしての魔法戦闘などしても、見物人の方々も退屈でしょうし、どうせですから互いに一発ずつの魔法勝負と行きませんか?私としては貴女に、私の数少ない直接攻撃魔法である、真の“加速魔法”で挑みたいと思うのですが」
「あら?それは面白いですわね。真の“加速魔法”ですか。まるで私の加速魔法が偽物みたいな言い方ですけど、時間魔法の使い手である貴方がそこまで言う魔法なら是非見てみたいですわね。いいでしょう、その勝負乗りましたわ」
 アロウンのやや皮肉気な挑発の言葉に、やはりサクヤは笑顔でありながらも目だけは笑わっておらず、その挑発に乗ってくる。
 そして二人は距離を取り身構える。
 そしてまずはアロウンが力有る言葉で魔法を発動させる。
「それでは行かせて頂きますよ?『風よ吹け』『時よ全ての終わりを刻め』『融合せよ』【吹け!終焉ほろびの風よ!!】」
 アロウンは融合魔法の特性を用いて、宣言通りの“加速魔法”を風の魔法に融合させて解き放った。
 【終焉ほろびの風】は触れた物、全ての時を加速させ、その終焉の時まで強引に時を進め、全てを風化させ滅ぼしていく。
 風の触れた地面の土が、風の触れた空間が、確かにその存在の終焉まで時を加速し進められ、滅びの時を刻んで行く。
 慌てて護るべき者達を護りながら、距離を取る見物人達。
 相変わらずスレイはアスラとマーナで創った結界の中で悠然と茶菓子を食べるのと、ペット達を愛でるのに勤しんでいたが。
 そんな中、サクヤの元へと届いたアロウンのその魔法は、数え切れない程無数に張られた、サクヤの常時魔法結界を次々と侵食し、今にもサクヤ本体へと届きそうになる。
 その中で、サクヤは平然と笑みを浮かべていた。
「あらあら、なるほど。確かにこれは時間魔法の使い手である貴方にしか使えない、紛れも無い“真”の“加速魔法”ですわね。でしたら私は終焉ほろびの無い“永遠”の“虚無”を以って対抗させて頂きましょうか」
 そしてサクヤは自らもアロウンに対抗する為の魔法を融合魔法の特性で創り出す。
「『正なる流れの魔力よ』『負なる流れの魔力よ』『融合せよ』【生まれ出でよ!永遠なる虚無よ!!】」
 正の流れの魔力と負の流れの魔力を融合魔法により対消滅させ、虚無ゼロ領域フィールドを生み出したサクヤは、紛れも無くそこに何も存在しない虚無の空間で終焉ほろびの風を食い止め、そのまま虚無で世界を侵食していく。
 そして今度はその虚無が、アロウンの無数の魔法結界を喰らって行き、そのままアロウンへと届かんとその猛威を振るう。
 次々と魔法結界を修復し増加して、何とか防ぎ続けるアロウン。
 そうやって耐えながら、あっさりとアロウンは両手を挙げた。
 降伏のポーズである。
「参りました。私の負けです」
 途端解除され消え去る両者の魔法。
 サクヤはやや困惑したように、アロウンに問いかける。
「あらあら、随分と諦めが早いのね。もうちょっと何か無いのかしら」
「先程も申しあげましたが、確かに私もSS級相当探索者としてそれなりに腕に自身はありますが、どちらかというと研究の方が得意分野でして。本当に直接的な攻撃魔法は少ないんですよ。他にも幾つかは持ち合わせはありますが、この魔法を容易く破られてしまうのであれば、それらを試しても同じ事でしょう。私は無駄は好きではないんです、素直に敗北を認めますよ。それに何より、両者共に一発限りの魔法勝負だと最初に言ったじゃありませんか?【終焉ほろびの風】が貴方の魔法に喰らわれた時点で私の負けは決定しているかと」
「あら、そうなの?まだ貴方には何かありそうだとは思うのだけれど、それじゃあしょうがないわね」
 二人は淡々と会話を進め、そのまま互いで勝手に納得してしまう。
 そんな様子にアルスは困惑したように問いかけた。
「あー、すまない。これで終わり、なのかね?」
「ええ、そうですが、何か?」
「言った通り勝負は付いた訳ですけれども、何か不都合でもありますかしら?」
 あっさりと告げる二人。
 そんな二人に困惑し、どこか物足りなさを感じながら、アルスは勝負の結果を告げる。
「それでは、これまで。サクヤ殿の勝利だ」
 やはり、今の淡々とした、互いに魔法を一つ撃ち合っただけの勝負にどこか見物人も拍子抜けしてしまう。
 もっともごく一部の者達は、今のただ一発ずつの魔法がどれだけ高度なものなのかは十分に理解していたが。
 そうしてサクヤとアロウンの勝負は、サクヤの勝利で幕を閉じるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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