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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
16話
「それではフルール殿、地面の修復をお願いできるだろうか?」
 アルスに頼まれフルールは地面を修復する。
 そして地面が綺麗に戻った後、アルスは次の二者を呼んだ。
「それではヴァリアス殿、ダリウス殿、前へ!」
 呼ばれて進み出て行く二人。
 ちなみにフルールは地面を直した後、すぐにスレイの元へと飛んで行き、ディザスターと一緒にスレイに魔法の袋に溜め込んだ茶菓子をせがんでいた。
 まるで餌付けするように二匹に茶菓子を与えていくスレイ。
 そこだけ何やら別の空間のように浮いていた。
 視界の隅に映るその光景に、僅かに汗を流しながらも、懸命に無視をして、ヴァリアスはダリウスに語りかける。
「ふむ、貴殿が相手か。相手にとって不足は無さそうだ。全力で挑ませていただこう」
「いやいやいや、そんな事言わずに、手合わせなんだし肩の力抜こうぜ?」
 生真面目にダリウスを見据えるヴァリアス。
 それに対しどこか不真面目に返すダリウスは、本人に言ったら全力で否定するであろうが、間違いなく雇い主である父娘の悪い影響を受けていた。
 そのまま剣を構える両者。
 それを見てとりアルスは大声で始まりを告げる。
「それでは、始め!!」
 アルスの開始の号令と共に両者は闘気術と魔力操作により超光速へと突入する。
 そして一気にダリウスへと詰め寄ったヴァリアスはそのまま真っ直ぐに斬り下ろすよう剣を振るった。
 それを気軽に正面から受けようとするダリウス。
 だがそんなダリウスの剣を、まるで実体が無いかのようにヴァリアスの剣はすり抜け、そのままダリウスの頭上へと迫る。
「うぉっ!?」
 慌てて後ろに跳び回避するダリウス。
「なんだ、今のは!?」
 ダリウスの驚愕の声。
 のみならず周囲でこの超光速の戦闘を観戦できている者も僅かながら驚きを顔に宿していた。
「聖剣技が一の太刀、“透過剣”。一瞬、純粋に光となり、物理的に干渉できなくなったこの剣を、受けに回りながら初見で躱したのは貴殿が初めてだ。流石だな」
「おいおい、冗談じゃないぞ。聖剣技ってのはそんなトンデモ技が幾つもあるのかよ?」
「いや、それほど数は多くないな。一つ一つが一撃必殺の威力と性質を持つ、必殺の剣が五つ、ただそれだけだ」
「そんだけあれば十分以上じゃねえか!」
 思わず叫ぶダリウス。
 そんなダリウスに構わずその場を動かず軽く剣を振るうヴァリアス。
 背筋に悪寒を感じてまたダリウスは跳び退る。
 ダリウスが元居た位置に剣風が巻き起こる音が聞こえた。
「聖剣技が一つ、二の太刀“跳躍剣”。魔力の斬撃や闘気による衝撃波を飛ばすのとは違う、文字通り斬撃を、空間を跳躍させ思った場所を斬り裂く剣技。これもまた初見で躱したのは貴殿が初めてだな。本当に大したものだ」
「ははは、冗談じゃねぇっつの。どれもこれも本当に必殺狙いじゃねぇか。当たってたら治癒魔法で回復どころじゃなく、即死だっての」
「当然だ、聖剣技とは至高の座にある聖王様を守護する為の剣技だからな。だが貴殿とは全てを出し合い戦いたいので、我が聖剣技の全てを伝えておこう。まず三の太刀、時系列と次元を無視して、刃を文字通り分裂させ、全ての敵を一振りで斬り裂く“無斬剣”。次に四の太刀、聖王様と私自身の周囲に無数の斬撃を、そのままに留める“斬撃結界”。そして最後についの太刀、文字通り単純明快に一撃必殺の、この超光速の領域でさえ尚捉えきれぬ程の速度の斬撃を放つ“一閃”。聖剣技はこの五つのみで構成される剣技だ」
「そんな解説しちまっていいのかよ」
「知っていようが知っていまいが、躱せる者は躱せるし、躱せない者は躱せないからな。私があと貴殿に向けるべき剣技は“一閃”。ただこれのみだ。貴殿がこれを躱せるか躱せないか試させて頂こう」
「いや、悪いが、もうあんたに攻撃はさせない」
 ふっとダリウスの気配が変わる。
 そしてヴァリアスへと突撃してくるダリウス。
 そのまま正面から剣を振るう。
 それをあっさりと受け止めるヴァリアス。
 だが。
「なっ!?」
 まるで山そのものを剣に乗せられたような重さに耐え切れず、足を地面に食い込ませながらも、なんとか剣を受け流し、そのまま後ろに跳び退るヴァリアス。
 ダリウスは自らの剣を示し語る。
「あんたが自分の技を解説してくれたんで、俺もこの神剣マルスについて説明しておくと、こいつは持ち主にとっては羽のように軽く自在に振るえ、受ける者にとってはまるで山のような重さの斬撃を繰り出すって剣だ。シンプルだが実に効果的だろう?」
 ダリウスの説明に冷や汗を垂らすヴァリアス。
「ああ、実に恐ろしい剣だな。ましてそれを貴殿ほどの剣士が振るうとなれば」
 そんな事を言う間にも、ダリウスは再度ヴァリアスに迫る。
 その剣を躱すヴァリアス。
 だがダリウスは攻撃の手を緩めない。
 それこそその二つ名の“閃光”の如く無数の斬撃が、この超光速の空間でさえ同時に繰り出されているのではないかというほど、一気に襲い掛かってくる。
 しかもその一撃一撃が変幻自在。
 単純にダリウスの剣技は巧みであり、奥が深かった。
 ディラク島の刀術のように洗練されてはいないが、単純明快かつ実用重視の大陸の剣技を、ダリウスは完全に極めていた。
 慌ててヴァリアスは時系列を無視したステップを踏み、超光速の領域へと突入することで閉ざされた、この円環の時系列の中で、過去・現在・未来と、そして次元間を自在に動き回り、ダリウスの攻撃を躱し、距離を取ろうとする。
 だがそんなヴァリアスのステップをすら全て読み取り、ダリウスはヴァリアスに密着し続け、決して逃す事は無い。
 三次元に限らず、更に広い移動の選択肢を持った戦いの舞台。
 その中で自由自在に動き回るヴァリウスを、だがその動きを全て読み取り、ダリウスは完全にヴァリアスの動きを見切っていた。
 振るわれる剣。
 それを必死に躱し続けるヴァリアス。
 その剣の単純だが故に対処し難いその威力はただの一撃で十分以上に思い知っている。
 受ける訳にはいかない。
 だがダリウスの猛攻は止まらない。
 振るわれる剣は二つ名の通りまさに“閃光”。
 どこまでも敵を追いつめる計算された足運び。
 その巧みさには深い経験が感じられる。
 もはやヴァリアスがダリウスの攻撃を躱せているのは奇跡に近かった。
 純粋に剣士としての格が違っていた。
 戦いの中でそれを思い知らされるヴァリアス。

「ほう」
 ディザスターとフルールを餌付けしながら、自らも茶菓子を摘み、どこか暢気に見物していたスレイ。
 そのスレイが剣士としての興味を刺激されダリウスを見つめる。

「ふむ。やるのぉ、あやつ」
 サクヤと、サクヤに加速魔法を掛けてもらい何とか観戦しているケリーとマリーニアと共にいたクロウが感心した声を出す。
 その瞳は獲物を見つけた肉食獣のようだった。

「へぇ、クソ親父以外にあんなのがいるとはな」
 静止している娘のシズカを何時でも庇える位置に立ちながら、感心したような声を出すノブツナ。
 彼もまたダリウスのシンプルでいながら完成されたその剣技に興味を示す。

 恐らくはこの場にいる中でも、いやあらゆる世界を見ても、最高の剣士と言って過言ではない三人がダリウスを同格の相手と認めていた。

 ダリウスの猛攻はどこまでも続く。
 それでいながら疲労し、汗を掻き、動きが鈍っていくのはヴァリアスのみだ。
 ダリウスはむしろさらに剣速を増し、そのステップはまるで踊るかのように、どこまでも激しく、繊細で、美しかった。
 そしてとうとうヴァリアスはダリウスの連撃を躱しきれず、自らの剣で以ってダリウスの一撃を受けてしまう。
 一瞬。
 その衝撃はまるで山が超光速で突撃してきたかのようであった。
 意識を失いながら真っ直ぐに吹き飛ぶヴァリアス。
 その両腕はへし折れ、脳に走った振動と、身体中に走った痛みにより、完全に意識を失ってしまっている。
「やべっ!」
 ダリウスは咄嗟にそのまま正面へと走り寄ると、ヴァリアスが地面に叩きつけられる前に何とか受け止めていた。
 そしてそのまま時は収斂し、超光速の領域に到達した者だけが立ち入れる円環の閉ざされた時系列から、現実の時系列へと回帰を果たす。
 同じく思考の加速を止め、超光速の領域から回帰したアルスが宣言する。
「それまで!ダリウス殿の勝ちだ!!」
 ダリウスとダリウスが抱えたヴァリアスの元へと走っていくエリナ。
 ダリウスの軽傷と、ヴァリアスの重傷を、同時に一瞬で治癒するエリナに、ダリウスは分かっていたこととはいえやはり驚きを隠せなかった。
 そして父と姉の元へと戻っていくエリナ。
 ダリウスはヴァリアスを気付けし、覚醒させる。
「う……む……」
 覚醒したヴァリアスは最初ぼんやりと周囲を見回すが、すぐに状況を理解し項垂れた。
「私の、負けか」
「ああ、だけどあんたの技には驚かされた。良い勝負だったと思うぜ」
 そんなダリウスの慰めの言葉に反応せず、そのままとぼとぼと聖王の元へと戻っていくヴァリアス。
 聖王イリュアはそんなヴァリアスに声を掛ける事はない。
 仮にも肉親、妹である。
 兄であるヴァリアスが今慰めの言葉など欲していない事を理解しているのだろう。
 ダリウスは僅かに肩を竦めながらもカイトとアリサの元へと戻っていく。
 カイトとアリサはダリウスに対し特に褒め言葉をかける事も無かった。
 と、いうか二人ではその戦いを見る事すらできなかったのだから当然である。
 その事実に気付き、ガクリと肩を落とすダリウス。
 とても勝者とは思えない様子であった。
 そんな中スレイの元から飛んでいき、再び地面を修復するフルール。
 そして次の戦いの準備が整えられた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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