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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
15話
「ゴホンッ、それではだ」
 フルールにより地面のクレーターも消され元の状態に戻った現在。
 仕切り直すように咳払いをしてアルスが告げる。
「本来ならば私とスレイ君の手合わせと行く流れだが、それは最後の楽しみ、大トリに取っておかせてもらうとしてだ」
 ピクンと眉を上げるも特に何も言わずそのまま黙っているスレイ。
「グラナル殿とブレイズ殿」
 呼ばれて中心へと進み出る二人。
 互いに睨み合いながら距離を開けて立つ。
「二人には因縁があると私も伝え聞いている。だからこそこの対戦、楽しみにさせてもらうよ」
 そう告げるアルスに応えるよう、グラナルは獰猛な笑みをブレイズは爽やかな笑みを浮かべ、まずは互いに詠唱を行い、魔法陣を生み出す。
「さてと『来い!グリフォン!!』」
「それでは『来い!ペガサス!!』」
 鷲の翼と上半身とライオンの下半身を持つ魔獣と、翼持つ天馬の二匹が召喚されこの場に現れる。
 召喚されると同時二匹は互いに睨み合い獰猛に鼻息を鳴らしていた。

「うわぁ、やっぱりあの二匹も特殊個体だよー。ねーねー、スレイも何か特殊な乗騎とか持たないの?スレイくらいになれば、神獣を乗騎にして神獣騎兵ゴッド・ライダーとか格好良くない?」
『うむ、主は元々格好良いが、我も主のもっと格好良い姿が見たいぞ』
「と、言われてもな。特に当てもないしな。天狼を孤狼の森から引き摺り出すのも何だし」
 二匹の言葉にスレイは困ったようにそう返す。
「天狼じゃあ、あのフェンリルって人と被っちゃうから元々駄目だよ。あ、じゃあじゃあ、神峰アスール火山の創造と破壊の炎を纏うフェニックスとかどうかな?神獣の中でも更に特殊個体を乗騎にするとか格好良さそうだよ。それにフェニックスが自在に操れる炎はフェニックスの意思が無ければ対象を焼く事もしないから、触ってみると世にも不思議な感触らしいよ」
『不死鳥の特殊個体を乗騎とするか。やはり主くらいの者ともなれば、その位でなければな。今度生け捕りに行くか?』
「ふむ、世にも不思議な感触か」
 フルールの巧みな甘言に乗せられそうなスレイ。
 そのフェニックスの炎の触り心地を考え、興味が思いっきり湧き上がる。

 グラナルとブレイズは互いに不適な笑みを浮かべながら、挑発的に言葉を交わし合っていた。
「今まで戦場で散々邪魔をされた借りを返せる機会がこんな形で巡って来るとはな、完膚なきまでに叩き潰してやろう」
「それはこちらの台詞。貴方の戦場でのなさりようと、常に金におもねる姿勢には我慢がなりませんでした。今までの戦いでは我らの間に決着は付きませんでしたが、今日という今日は勝たせてもらいましょう」
 互いに自らの乗騎へと飛び乗る。
「どうやら互いにやる気は十分のようだな。それでは、始め!!」
 グラナルとブレイズは同時に闘気術と魔力操作を用いて自身を超光速の領域へと突入させると同時に、元々光速で駆ける事が可能な自らの乗騎、グリフォンとペガサスの特殊個体に魔力操作の影響を及ぼし、二匹も超光速の領域へと引き上げる。

 グラナルとブレイズが動き出すと同時、観戦していたスレイの脳裏にガチンと何かが噛み合ったような音が響き渡る。
 途端、自動的にスレイの思考速度は脳を構成する物理法則のメカニズムを改変し、光速を遥かに超えた圧倒的な超光速へと至っていた。
 思考加速とは実に便利な特性であると、スレイはこの特性を得てから何時も感じていた。
 自らの知覚範囲に高速で動く存在モノが入ってくれば、あるいは知覚範囲にある存在モノが突然高速で動き出せば、自動的に思考加速は発動し、無意識のままに、一気に自らの最高の思考速度、光速を遥かに越えた超光速の思考速度へと引き上げられる。
 もちろんその後自分の意思で任意に思考速度を調整する事も可能だ。
 先程からの超光速戦闘の数々も、このメカニズムにより、特に意識することもなく悠然と全て観戦し、自らに降りかかる火の粉には容易く対応していた。
 これは思考加速を持った探索者、或いは思考加速の特性を生まれ持った高位存在ならば当然のことらしい。
 そうでなければ思考加速の意味が無い。
 意識しなければ発動しないというのであれば、遠距離から、あるいは不意を打たれ、対応できずに容易く倒されてしまうという事も有り得るだろう。
 しかし思考加速にそのような隙は無い。
 その為、思考加速を持った上級探索者や、思考加速の特性を持った高位存在を、暗殺などの手段で殺すことはほぼ不可能とされている。
 そして今もまた、スレイは一気に引き上げられた思考速度で以って、悠然とグラナルとブレイズの戦いを観戦していた。
 その視野は、その超光速の、閉ざされた円環の時系列の領域の中に限定して、過去から未来までの時系列を俯瞰し、高位から低位の次元までをも捉えている。
 さらに思考分割、これもまた便利な特性だ。
 思考加速により加速された思考が、更に複数存在することで、並行してあらゆる情報をその光速を遥かに超えた思考速度で処理することができる。
 この組み合わせは、戦いにおいてひどく便利なものであった。
 自らの成長と共にその思考速度も、思考を分割できる数もどんどんと増えていく。
 そんな自分自身の能力の成長に、スレイは空恐ろしさを感じながらも、口元には笑みが浮かんでいた。

 グラナルとブレイズの二人を乗せて空へと駆け上がっていく二匹。
 超光速での空中戦が始まった。
 天を、次元を、時系列を、縦横無尽に自在に駆け回る二匹。
 それは両者を無数に居るように見せていた。
 そのまま互いにぶつかり合う二者。
 グラナルのランスをバックラーで弾き返すブレイズ。
 ブレイズのロングソードの一撃をツーハンデッドソードで、或いは大盾で受け止めるグラナル。
 武器も戦術も、その場その場で変えて、無数のぶつかり合いを同じ時系列上で演じる両者。
 それはまるで神話上の光景のようで、幻想的な雰囲気を漂わせていた。
 両者は互いに笑い合う。
 今までの戦場では、決して全力でぶつかり合う事ができなかった両者。
 それがこの場では全力を出しても問題無い。
 互いにライバルと言っても過言ではない両者は、全くしがらみの無いこの戦いを心から楽しんでいた。
 両者のぶつかり合いで生まれた衝撃波が、地面のあちこちにクレーターを作り上げる。
 もしこれほどの戦いを戦場で繰り広げていれば、敵も味方もなく、その被害は甚大なものとなり、地形も変わり果てていたであろう。
 それ故にこの戦いは両者にとって特別であった。
 因縁深く常にぶつかり合いながらも決して全力で決着を付けれなかった二人。
 両者共に、この場で全力を出し尽くし、今までの因縁を全て清算しようという心積もりさえ持って戦っていた。
 ペガサスとグリフォンがその翼を触れ合わんばかりに交差し、ロングソードとツーハンデッドソードで鍔迫り合いする二人。
「おぉぉぉぉぉおぉーーーー!!」
「はぁぁぁぁぁあぁーーーー!!」
 闘気と魔力。
 臨界まで高めたそれらがぶつかり合い、周囲一帯に衝撃波が迸る。
 そしてそのまま互いに弾き合うように離れる二人。
 いつの間にか無数に見えていた両者はただ一人ずつへと収斂し、距離を取り睨みあっていた。
「ふふん、なかなか楽しかったが、次で最後にしようか?」
「ええ、そうですね、次で決着を付けましょう」
 グラナルの誘いに乗るブレイズ。
 グラナルはツーハンデッドソードに闘気を全力で込め全開の魔力でコーティングする。
 ブレイズもロングソードに闘気を全力で込め全開の魔力でコーティングした。
 そのまま光速を遥かに超えた超光速のトップスピードでグリフォンをペガサスを突撃させる二人。
 そのまま交差するグリフォンとペガサス。
 互いの全力全開の一撃がぶつかり合う。
 そしてそのまま両者は互いに吹き飛び空中へと投げ出される。
 慌ててその嘴でその口で自らの主の服の襟を掴み、そのまま地上へと運ぶグリフォンとペガサス。
 そのまま地上に主達を横たえる。
 アルスが確認すると両者は共に力を出し尽くし気絶していた。
「これまで!引き分けとする!!」
 そういうと同時にエリナが二人に駆け寄り治癒魔法をかける。
 二人が回復したと見てとるとアルスは二人を気付けし、目を覚まさせた。
 はじめはぼんやりとしているが、ハッと意識をハッキリさせる二人。
 そして互いに見つめ合い、それぞれの状況を見て、勝負の行方を理解する。
「引き分け、か」
「決着は付きませんでしたね」
 そう言いながらもどこか可笑しそうに笑い合う二人。
 長年のライバルともなれば、完全に決着が付いてしまうのもそれはそれで寂しいものなのだろう。
 それが先延ばしにされたことを僅かに喜んでいる。
 もちろん決着が付かなかったことを残念だと思う気持ちも当然あるが。
 そういう心理は複雑なものであった。
 両者は立ち上がると互いに何も言う事無く元の場所へと戻っていく。
 余計な言葉は必要無い、その程度に戦いの中で両者は通じ合っていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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