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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
14話
 ダートの三本角。
 闇の種族の中の一種族、鬼人オーガ族にとってはそれは特別なものである。
 本来鬼人族が持って生まれて来る角の数は一本か二本。
 そして一本よりは二本持っている者の方が力が強いとされる。
 更に角の大きさもまたその者の力を現している。
 そんな中で、ダートは三本の角、しかも誰よりも大きな角を持って生まれてきた。
 そんなダートが成長しまだ鬼人族としては若いにも程がある100歳という年齢で鬼人族の長“鬼王”となったのは必然であった。
 そして50年。
 未だダートはまだまだ若造に過ぎない。
 だが“鬼王”として、鬼人族の中で誰よりも強い力を見せ付けて来たダートを、鬼人族は皆、長として認め敬っていた。
 まぎれもなくダートは鬼人族の長であり、最強の鬼人オーガであった。
「おぉぉおぉーーーっ!!!!」
 叫び声と共にダートの三本角が共鳴し、力を増幅させていく。
 周囲に闇の鬼気が満ちる。
 そしてダートの瞳は理性を失った鬼の眼となる。
 そんな鬼気を浴びながら、ジルドレイはこれは良いと心地良く感じていた。
 以前に“遊んだ”スレイ。
 彼の能力値を見て、是非本気で戦ってみたいと惹かれるものがあったが、どうやら彼はアルス王の、主の獲物のようだ。
 残念ながら今回は戦う機会は無いだろう。
 だが、どちらかと言えば自らと性質たちの似たこのダートという鬼人との戦いの方が、自分にとっては面白い事になるだろうという確信が今生まれた。
 そしてジルドレイもまた特性:狂化を、×5、つまり最大限まで一気に発動させる。
「ぐぉぉおぉぉーーーーっ!!!!」
 響き渡る叫び声。
 完全なる狂化によりジルドレイの瞳は理性を失い、ただの戦闘本能の塊と成り果てる。
 それだけでは無い。
 抜き放っていた風剣ミストラルが半径百キロに及ぶ空気を、風を支配する。
 どうやらあの白い小竜が創ったというこの舞台は、少なくとも半径百キロ以上の広さを持っているようだ。
 支配された風が、ジルドレイの狂気によって“狂い”暴れまわる。
 周囲の見物人達は自分自身でその風から身を守るか、あるいは力無い者はその保護者が護っていた。
 ならば遠慮はいるまい。
 最後に僅かに残った理性でそう考えると、ジルドレイはそのまま理性を思考を閉ざした。
 そしてそこには鬼気に染まった鬼人オーガと狂気に染まった狂戦士バーサーカーが睨み合って立つ。
 そして二者は同時に超光速の領域へと突入していた。
 物理法則を“狂”わされ、超光速の空間でさえ当然のように暴れ狂う風。
 その風の刃がダートを切り裂いて行く。
 だがダートは圧倒的な自己回復能力で傷を癒し、傷口から蒸気を上げながらジルドレイへと突撃してくる。
 そしてまた物理法則を超越し、空より超光速で落ち来たる雷が、ダートへと無数に降り注ぎ、その三本角がその雷を吸収する。
 鬼気を以って暴走し、時系列を無視して無数に分裂するダート。
 ジルドレイもまた狂気を以って狂い、時系列を無視して無数に分裂する。
 ぶつかりあう二者。
 そこに巧みな技は無かった、心理を読み合う駆け引きもなかった、ただ力と力、速さと速さ、鬼気と狂気、それらが正面からぶつかり合い、静止した時の中で無数の拳が蹴りが爪が剣が互いに襲い掛かる。
 加減もなにも無い。
 最初から最後まで全力全開で以ってぶつかり合う二者。
 故にその決着は早い。
 なにより互いに体力が保たない。
 踊り“狂う”半径百キロ四方の風は、“鬼”気にも染まり、周囲を席捲する。
 泥臭いまでの原始的な戦い。
 だがそこに見物人は、単純な戦いの真髄を見た気すらしていた。
 どこまでも単純な戦いの真理。
 ただ力の強い者が勝つという単純な現実。
 そして二者は最後の一撃を繰り出し時が収斂する。
 動き出す静止していた時間。
 その中で中心の二者のみがその動きを止めていた。
 互いの頬に喰い込む互いの拳。
 僅かに理性を取り戻した二者の瞳が互いに見つめ合い笑い合う。
 そしてそのまま二者は同時に後ろへと大の字になって倒れていた。
 全く動かない二人。
 慌ててエリナが駆け寄るも、その二人の表情を見て僅かに眉を顰める。
「どうした、エリナ?」
 疑問に思い、尋ねるドラグゼス。
「お二人とも、笑いながら気絶しています」
 呆れたような声で答えるエリナ。
 それを聞いた周囲の者達もまた呆れ果てる。
 周囲一帯は二者の力の波動と、暴れ“狂った”風により散々な有様となっている。
 そんな地面を修復するフルール。
 一瞬で荒れ果てた大地が元の綺麗な状態に戻るのに、フルールに対しても呆れたような視線が集まる。
 そしてそんな中、エリナはダートとジルドレイに治癒魔法を掛け、完全回復させると、何処か怒ったように頬をはたき二人を気付けして、二人が意識を取り戻すと、そのまま父と姉の方へと戻っていった。
 相変わらずそんなエリナをぽーっと見つめているヤン。
 目覚めたダートとジルドレイは立ち上がり握手など交わしている。
「いや、いい戦いでした。また貴方とは戦いたいものです」
「おう、俺も“狂って”たから良く覚えてはいないんだが、すごい爽快な気分だ。俺もまたあんたと戦いたいぜ」
 そうして二人は笑い合うとそのまま自分の陣営へと戻っていく。
 そんな二人をやはり周囲は呆れた視線で見つめていた。
 最後にアルスが告げる。
「そこまで!この勝負引き分けとする!!」
 アルスの声にも呆れの色が混じっていた。

「次、ミネア殿とカタリナ!」
 アルスが告げると、ミネアは面白そうな顔をし、中心へと進み出る。
 だがカタリナはさーっと顔を蒼褪めさせると父であるアルスに詰め寄った。
「ちょっ、ちょっと正気ですのお父様!?む、娘を毒殺させるつもりですか!?」
 流石のカタリナも、ミネアのその毒には恐怖を禁じえない。
 故に反論するが、アルスは一顧だにしない。
「なーに、多分エリナ殿の治癒魔法ならミネア殿の毒でも大丈夫だろう、気にせず逝って来い」
「ちょっちょっと、治癒魔法をかけてもらう前に即死したらどうするんですの!?というか今“い”って来いの意味が違いませんでした?!」
 半ば悲鳴じみた声を上げるも、アルスに強引に押し出されミネアと対峙するカタリナ。
「はははっ、気持ちは分かるけどねぇ、そんなにビビる必要は無いよ。ちゃんと私が自分の血から作った解毒薬を持ってるからね。まあ解毒薬で解毒しても、何故か私の毒には誰も耐性が全く出来ないんだけどね」
 にこやかに告げるミネアに僅かに安堵の表情を浮かべるカタリナ。
 しかし後半の物騒な台詞にやはり顔を蒼褪めさせる。
 だが次のミネアの言葉で、その表情が変わった。
「まあ、だけど安心するといいよ。あんた相手に毒を使う必要は無いだろうしね」
「あら、わたくし嘗められているのかしら?少々今のは頭に来ましたわね」
「ふふん、だったらビビってないで私をその気にさせてみな。さもなきゃ嘗められても仕方無いんじゃないかい?」
「ええ、そうですわね。少しばかり腹が立ちましたので、その気にさせてさしあげますわ」
 睨み合う二人。
 ミネアはどこか可笑しげに、カタリナは本気で怒りの表情で。
 そして戦う空気が出来上がった事を感じ取ったアルスは開始を宣言する。
「それでは、始め!!」
 両者同時に闘気術と魔力操作の併用で超光速の領域に突入する。
 静止する周囲の時間。
 一部の者達が思考を加速し、物理法則を書き換えた超光速の知覚で以って、その戦いを見物する。
 そしてミネアに向かい真っ直ぐ駆けていくカタリナ。
 やや拍子抜けしながらも、ミネアは自らの意思のままに動くオリハルコンの糸を伸ばしカタリナに絡ませようとする。
 と、その時であった。
 まるで見えない階段を上るように空を蹴り高みへと駆け上がっていくカタリナ。
 シークレットウェポン、フェザーブーツの空を駆ける能力である。
 オリハルコンの糸は誰もいない空間を通り過ぎる。
 僅かに驚くもそのまま意思のままにオリハルコンの糸を操り空を駆けるカタリナを追わせるミネア。
 しかしそのミクロ単位の細さの糸が見えているかのようにカタリナは避けると同時に、空中を駆け降りるようにミネアへと上空から襲いかかる。
 振り上げられる巨大な斧槍ハルバード
 慌ててその場を飛び退くミネア。
 カタリナの振り下ろした聖十字斧槍ホーリー・クロスストライクの一撃は数キロ四方のクレーターを築く。
 慌てて見物人達は力無い者達を護りつつ、そのクレーターの範囲から飛び退る。
 そして、クレーターを築くだけでなく、四方へと広がる十字型の閃光。
 あらゆる防御を透過するその閃光は受ければ致命的なダメージを受ける事は必定。
 慌ててその閃光も力無い者達を護りつつ避ける見物人達。
 だが一人スレイのみは、自分の元へと伸びて来たその閃光を、今度はマーナで以って“斬り”裂いてみせる。
 その様子を視界の片隅に捉え、相変わらずの無茶苦茶さに僅かに驚きと微笑を浮かべるカタリナ。
 そんな中、閃光の一筋は着実に飛び退いたミネアを捉えようとしていた。
 今度は横に跳び、その閃光を避けるミネア。
 そのまま追撃をかけようとするカタリナ。
 しかし咄嗟に後ろへと飛び退る。
 カタリナが立っていた位置に、僅かに何かの煌きが走った。
 オリハルコンの糸である。
 ミネアは攻撃を避けながらもオリハルコンの糸は意思で操作し続け、カタリナの隙を狙っていたのだ。
 背筋をゾクっと震わせながらも、そのままオリハルコンの糸を避け、ミネアへと突撃していくカタリナ。
 そしてこの超光速の領域でのみ可能な時系列を無視したステップで無数に分裂し、それぞれ別の構えでストライクを振るおうとする。
「まあ、なかなか楽しめたけどこんなものかねえ」
 と、ミネアが余裕の表情で呟いた。
 ミネア自身はその場に立ち尽くし、カタリナのように時系列を、あるいは次元を無視したステップを踏む事は無い。
 だがその意思によって操作するオリハルコンの糸はあらゆる時系列・次元のカタリナが持ったストライクを何時の間にか全て絡めとっていた。
「踊りな!!」
 言うと同時、オリハルコンの糸は振動し、時空を次元すらをも振動させる。
 そしてストライクはボロボロになり弾き飛ばされていた。
 それと同時にカタリナもその衝撃に吹き飛ばされ、一人へと収斂し、地面を転がされる。
 その先には何時の間にか移動していたミネアが待っていた。
 そして吸血のレイピアをカタリナに触れないように突きつける。
 ほんの僅かに触れただけで、カタリナを殺してしまうほど、ミネアの毒は強力なのだ。
 そして二人と見物人達は超光速の領域から、通常の時系列へと還り、周囲の時は動き出す。
「それまで!ミネア殿の勝ちだ!」
 アルスの宣言にただ呆然とするカタリナ。
 自らの状況を理解し切れていないのだ。
「まあ、見所のある嬢ちゃんだけど、まだまだ経験が足りないさね。精進することだね」
 告げるとそのままレイピアを引き、元の位置へと戻っていくミネア。
 カタリナは呆然としたままボロボロになった自らの武器ストライクを見る。
 神々に創られたシークレットウェポンだけあって、ボロボロになりながらも見る見る間に回復していくストライク。
 しかしカタリナのプライドは傷ついたまま回復することは無い。
 そんな娘にアルスが問う。
「悔しいか?」
「ええ、悔しいですわ」
 僅かに瞳に涙さえ浮かべながらカタリナは答えた。
「ならばミネア殿の言ったように経験を積め。お前は天才肌で今まで順調に来ていたからな、いくらLvが上限の99になったとはいえ、まだまだ磨けるものはある。技を磨け、経験を積め、駆け引きを覚えろ、そして先を見据えろ。そして再戦し勝利すればいい、幸運な事にお前は生きながらにして敗北を知れたのだからな」
「はい、分かりましたわ!」
 僅かにカタリナの瞳に輝きが宿る。
 それにアルスは満足したように頷くと、カタリナに場を退くよう促した。
「それでは、次の勝負があるから、ジルドレイ達の元に戻っていろ」
「はい」
 そうしてカタリナは立ち上がり自らの陣営へと戻っていく。
「はいはい、それじゃあみんなー、一度クレーターの外に出てー。地面を元に戻す時に地面と混ざっちゃっても知らないよー」
 どこかコミカルな様子で物騒な事を叫ぶフルールにその場の一同は慌ててカタリナの作ったクレーターの中から外へと飛び出した。
 そしてフルールによって地面は元の状態に戻されるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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