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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
13話
 一部ではなく全身を覆う完全なる魔力の装甲化。
 それは双方共に魔闘術を極めている証であった。
 その姿は異形でありながら美しさすら感じさせる。
 互いの性質の差が出ているのか、オウルの装甲は優美な曲線が多い、しなやかさを感じさせる物であった。
 対しマグナスの装甲は鋭角的で、どこかがっしりとした質感を感じさせる。
 そして戦いが始まる。
 超光速の領域へと突入するオウル。
 対しマグナスは純光速の域にしか到達していなかった。
 オウルの時系列を無視した一方的な連撃がどんどんと当たる。
 しかし人体の急所を狙ったそれらの攻撃をマグナスの装甲は悠々と受け止める。
 そのまま関節技へと持ち込むオウル。
 だがマグナスの装甲はマグナスの動きを阻害しないようにしながらも、間接も完全にガードしていて、関節技を完全に決めても、ダメージを与える事はできなかった。
 筋力の差により強引に投げ飛ばされるオウル。
 しかしその衝撃を吸収し、化勁を以って投げ飛ばされた時の力を利用してマグナスを空中から蹴りつつ、オウルは悠々と地面へと降り立ち、またもマグナスには複数に分裂しているようにしか見えない時系列を無視した移動でマグナスの懐へと入り込む。
 懐へと入り込まれては、マグナス自慢のシークレットウェポン、神拳スパルタクスを繰り出す事もできなかった。
 スパルタクスの力を以ってすれば、オウルの魔闘術の装甲を容易く貫通し、ダメージを与える事ができる。
 しかし先程からオウルはその速度で以ってマグナスを翻弄し、決してその機会を与える事は無かった。
 そして瞬間。
 爆発したかのような振動がマグナスの腹に走り、そのままマグナスは吹き飛ばされる。
 オウルの寸勁である。
 零距離から打ち込まれた打撃でありながら、その衝撃は僅かにマグナスの装甲の奥まで届くほどの威力であった。
 吹き飛ばされながらも姿勢を立て直し、軽く着地するマグナス。
 途端、ゾッとするような感覚が背を走り抜ける。
 前方にたった今攻撃を繰り出したオウルが居るにも関わらず、後方からもオウルの気配が感じられる。
 感覚のままにその場から横へ跳ぼうとするも、そのまま後ろから衝撃が走り抜ける。
 物理的な衝撃と闘気の衝撃が、装甲を無視して完全に内部のマグナスへと届いていた。
 ゲホッと装甲の中で血を吐くマグナス。
 浸透勁。
 外部の防御を無視して相手の内部へと、物理的な衝撃と闘気の衝撃を“徹”す特性。
 闘気と魔力を完全に徹す聖拳スラッシュの力も利用して、完全にそれらの衝撃はマグナスの肉体に深刻なダメージを与える。
 そして前方のオウルも後方の気配も消え去る。
 マグナスはまたもオウルを見失っていた。
 この戦いを完全に見てとれる者達は、この一方的な展開に、オウルの圧勝を予測する。
 戦いが始まってから一瞬たりとて時は動いていない。
 光速というのはそういうものである。
 しかしその中でも一部のもの達はその静止した時の中の戦いを見てとっていた。
 だが。
「狙っているな」
 相変わらずお茶菓子を摘みながら、スレイはポツリと呟いた。
 それに同意するように膝の上のディザスターと頭の上のフルールが頷く。
 どれだけ攻撃を喰らっても握り締められたままのマグナスの拳。
 そこには、そこだけ装甲の外へと露出した、拳に巻かれたセスタス、神拳スパルタクスが存在している。
 一撃。
 ただの一打でもスパルタクスの拳撃を当てる事ができれば、劣勢から逆転できる。
 その確信の、自らの一撃に対する確信の元に、マグナスの瞳には諦めが浮かぶ事は無かった。
 だが無情にも、マグナスを囲むように三方に同時に現れたオウルが、三方から同時に浸透勁を以って攻撃を繰り出す。
 物理的な衝撃と振動、闘気の衝撃と振動、三方から繰り出されたそれらが、マグナスの肉体の内部へと同時に届き、その衝撃と振動を増幅させ、マグナスの内部を確実に破壊する。
 先程とは比較にならない程の量の血を吐血するマグナス。
 だが誰にも見えない装甲の中のその口元には笑みが浮かんでいた。
「ぬうっ!?」
 戸惑いの声と共に、拳を突き出したまま、動けぬ前方のオウル。
 三人のオウルはその正面のオウル一人へと収斂する。
 そのオウルの拳はマグナスの装甲の中へと食い込み、同化するように捉えられていた。
 マグナスは魔闘術により生み出した装甲の性質を変化させ、まるでとりもちのように、オウルの拳を捉えてみせたのだ。
 オウルは咄嗟に寸勁で以ってマグナスへと攻撃を加える。
 装甲へと食い込んだ拳からの爆発的な衝撃に更に吐血するマグナス。
 だがそのまま食い込んだ拳を放す事は無かった。
 そしてマグナスは自らの右拳をオウルに向かい繰り出した。
 とたん迸る光芒。
 それはオウルの装甲を貫き、オウル自身をも貫き、更にその後方へと奔っていく。
 ちょうどその直線上に居たスレイは、面倒臭そうにしながらも、アスラを抜き放ち、そのあらゆる防御を無視する筈の光の拳撃を“斬り”裂いてみせた。
 そんな光景に僅かに唖然としながらも、マグナスは拳に確かに感じた手応えに笑みを浮かべる。
 そしてオウルは吐血し、くず折れるかに見えた。
 だが。
 オウルの瞳に剣呑な色が宿りマグナスを睨みつける。
 あらゆる防御を貫く、しかも究極アルテマ級のシークレットウェポン、神拳スパルタクスのその威力を完全に受けた筈のオウルは、だがその体勢を立て直すと、またもやマグナスの装甲に食い込んだ拳から爆発的な打撃、寸勁を放ってみせた。
 ガハッと吐血するマグナス。
 紛れも無くマグナスの攻撃はオウルを捉え、ダメージを与えた筈だというのに、先程までと全く変わらない威力のその一撃に、マグナスは再びスパルタクスの拳撃を放とうとする。
 だがオウルはそれを許さない、再び爆発的な威力でマグナスにダメージを与える寸勁。
 オウルは止まらない。
 放たれる寸勁、寸勁、寸勁、寸勁……。
 オウルにとっては連続で繰り出しているだけだが、時系列上は全くの同時に繰り出されるその爆発的衝撃は重ねられ、増幅し、どんどんと威力が増していく。
「待て!オウル殿、そこまでだ!!」
 マグナスが既に意識を失っていることを見てとった、オウルと同じく超光速の領域にいるアルスが止めに入るまでそのオウルの攻撃は続けられた。
 ふっと我に返ったようにオウルが連撃を止めると、とうに意識を失い、甚大なダメージを負っていたマグナスの装甲はオウルの拳を解放し、そのまま解け崩れ、そして生身となったマグナスがその場にバタリと倒れこむ。
 そして神拳スパルタクスの拳撃により、確実にダメージを負っていたオウルも、自ら装甲を解くとその場に座り込んだ。
 純光速以上の領域に居る者達以外は静止していた時は動き出し、その場に倒れこんだマグナスと座り込んだオウルのダメージを見てとったエリナは二人に慌てて駆け寄り治癒魔法を施す。
 深いダメージこそ負えども、決して致命的ではなかったオウルはともかく、もはや命すら危ないところまでダメージを受けていたマグナスの傷をも一瞬で癒し、エリナはそのまま父と姉の所に戻っていく。
「これまで!オウル殿の勝利だ!!」
 戦いの結果を宣言するアルス。
 しかし勝者であるオウルは、どこか罰が悪そうに頭を掻いていた。
 ダメージを喰らい、我を忘れて暴走してしまった自分に、年甲斐も無いと、オウルは自省していた。
 そしてオウルは、マグナスのダメージが完全に回復していることを確認すると、マグナスを気付けする。
 目を覚ますマグナス。
 そのまま暫し目の前のオウルをぼんやりと見ていたが、慌てて身を起こすと周囲を見渡す。
 そしてぼんやりと呟く。
「負け、ましたか」
「ふむ、すまんのう。年甲斐も無くムキになってやりすぎてしまったわい」
「いえ、むしろ加減などする方が失礼でしょう。勝者が敗者にかける言葉としては適切ではないと思いますよ。この敗北は私の未熟故です」
「そうか、そうじゃの。余計な事を言った忘れてくれ。いい勝負じゃった、久しぶりに全力でやれたわい、またお主とは戦いたいのう」
「ハハハッ、その時までにはもっとやり合えるように精進しておきますよ」
 そうして二人は言葉を交わすと、強く握手をして、そのまま自らの元居た位置へ戻っていった。
 どこかまだ熱気が残っている場にアルスの声が響き渡る。
「それでは続いて、ダート殿とジルドレイ!」
 アルスの言葉に従い進み出る、三本の角を持った闇の種族の一つ、鬼人オーガ族の長と、狂化を極めたバーサーカーであり、風剣ミストラルの主である為に、“狂風”の二つ名で呼ばれるクロスメリア王国の近衛隊・副隊長。
 二人は中心へと進み出ると睨み合う。
 オーガとバーサーカー。
 どちらも戦闘本能に関しては筋金入りの二人だ。
 双方共にどこか楽しげにその瞳は光り、笑みを浮かべていた。
「我々も互いに能力の紹介などしますかな?」
「いや、そんなもん戦いの中で全てを見せればいいだけの話だろう?」
「それもそうですな」
「ああ、そうだろう」
 ダートの申し出をジルドレイが否定し、互いに楽しそうに語り合う。
「それでは、双方共に準備はよいかな?」
 アルスに対し頷く二人。
 その肉体は戦いの予感に打ち震え、今にも弾けんばかりであった。
 その様子を見て取ると、アルスは良く通る声で宣言する。
「それでは、始め!」
 宣言と共に二人は身構えるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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