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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
12話
「ふむ、それでは次からは皆SS級相当以上ということになるかな?」
「だから俺はS級相当だと何度言えば……」
 アルスに突っ込みを入れるスレイ。
 だがアルスは相手にしない。
「やはりまずは我が近衛隊の者達の力を見てもらいたいと思うので、マリア!と、ふむフェンリル殿お願いしてもよろしいですかな?」
「はっ!私は構いません」
 生真面目に答えるフェンリル。
「どういう人選なんだ?フェンリルの方が能力値だけなら格上に見えたが」
「ふむ、そういう見方が多いだろうと思ってね。少しばかり称号:勇者の本領を見てもらおうと思ったのさ」
「ほう」
 アルスに対し、面白げに返すスレイ。
 そんなスレイのアルスと対等に話す姿にゲッシュはやはり胃をキリキリと痛めるのだった。
 中心に進み出るマリアとフェンリル。
 そこでフェンリルが述べる。
「マリア殿。今のままでは速度に差がありすぎる、加速魔法を使ってもらって構わないぞ?」
「へえ、余裕なのね。まあ遠慮無く使わせてもらうけど」
 そう告げて、加速魔法を自らにかけるマリア。
 しかもただの加速魔法ではなく、最上級に属する魔法だ。
 これでフェンリルと同じく超光速の世界へとマリアも突入することが可能となった。
「その魔法、流石は本職の魔術師と言ったところか。だがまあ、余裕という訳では無い、代わりに私も喚ばせてもらおうと思ってね。フルール殿、だったか?ここでは元の世界より召喚をすることは可能かな?」
「あー、大丈夫大丈夫、そういうのは全部繋げてあるから」
「そうか、では、『来い、フェンリル!!』」
 詠唱する事無くただ純粋に力有る言葉で自らの乗騎を呼ぶフェンリル。
 そして魔法陣が浮かび上がり、そこより新雪の如き白い毛皮の、全長5メートル程の巨大な狼が飛び出して来る。
 北の魔狼・フェンリル、だがその大きさは通常の個体のものではない。
「うわぁ、ねーねー見てよスレイ。あれ特殊個体だよ?グラナルって人のグリフォンとかブレイズって人のペガサスとかも特殊個体なのかな?」
「恐らくな、そうでなければ自ら走った方が速いのだから意味が無いだろう。しかし天狼ほどの迫力は感じないな」
「あたり前だよ、そんなの。神獣と他の聖獣・魔獣を同列に語る事自体が間違いだってば」
 フルールがはしゃぐのに冷静に返すスレイ、そこに更にフルールが突っ込みを入れる。
 あっさりとネタバラシをされ、どこか気まずそうにしながらも、フェンリルはマリアに語る。
「もう言われてしまったが、このフェンリルは特殊個体、元より光速での移動を可能とする。そこに私が魔力操作で干渉すれば超光速での移動も可能となる訳だ。だが、これだけでは無いぞ、『出でよ、氷精霊スレッジ!!』」
 途端また魔法陣が浮かび上がり、そこより氷が人型をとったような、僅かに女性的な曲線を描く存在が現れる。
「へえ、それが貴方に加護を与えている氷の上級精霊って訳ね」
「その通りだ、ついでに私のシークレットウェポンの効果を解説させてもらおう。まずこの氷剣アブソリュート・ゼロ、これは絶対零度の刃を以って敵を斬り裂き、更に周囲一帯の分子・原子運動すら停止させる事が可能な剣だ。そしてこの氷杖ステイシス、これは私の水氷魔法の効果を最大限高める力を持った魔導触媒たる杖だ」
「あら、そこまで解説するなんて、本当に余裕なのね?」
「先程も言ったと思うが、余裕という訳ではない。ただ、これは実戦でもなければ仕合でもない、力を見せ合う手合わせだ。力を出し惜しみなどされて終わってしまっては意味が無いだろう?」
 自らの能力を解説するフェンリルにマリアは呆れたような声を出す。
 しかし語られた理由に、やはり余裕じゃない、と肩を竦めながらも自らも杖を掲げて見せた。
「それじゃあ私も能力を解説しておこうかしら。と言ってもそのまま火炎魔法が得意ってだけで、別に特殊な特性も持ってないけどね。ただこの炎杖カグツチは別よ?」
 掲げた杖から漂う威圧感。
 思わずフェンリルは冷や汗を垂らす。
「この炎杖カグツチは、召喚した時に何故か既に死んでいた異界の炎の神の遺骸から、同じく異界出身の神である火神アグニが創り出したと言われる究極アルテマ級のシークレットウェポンよ。それこそその炎の威は神の如く、半径数十キロ四方を容易く炎で焼き尽くせるわ」
「それは大したものだね」
 ごくりと唾を飲みながら言うフェンリル。

 そんな中離れた場所では真紀がやや呆れたように呟いていた。
「というかカグツチにアグニって、異世界くんだりまでやって来て、元の世界の神話の神様の名前を聞く事になるなんてね」
「本当、節操無い」
 出雲も頷いて返した。

「さてと、お互い準備もできたようだし、そろそろ開始の合図をお願いできますか?アルス陛下」
 フェンリルにアルスは頷く、そして告げた。
「では、始め!!」
 途端、フェンリルは魔力操作により自らの跨る魔狼を超光速の世界へと突入させ、マリアもまた最上級の加速魔法の効果と魔力操作により超光速の世界に突入する。
 フェンリルは、まず氷精霊スレッジの力を借り、氷杖ステイシスで強化した氷魔法を限界まで多重魔法により重ねて、周囲一帯、干渉できる時系列全てを凍結させると、更に闘気術を以って自らのシークレットウェポン氷剣アブソリュート・ゼロを強化し、周囲一帯の原子運動を停止させ、上下左右といったあらゆる方向、過去・現在・未来といった超光速によって干渉可能になったあらゆる時系列、そして干渉可能なあらゆる位相の次元全てに絶対零度の刃を連続で繰り出した。
 対してマリアは、ただ炎杖カグツチを地面に突き、そのまま自らの火炎魔法を上乗せし、カグツチの力を解放する。
 途端、停止させられていた全ての時系列・次元の周囲一帯の原子運動は激しく活動を再開し、超絶的な高温が二人の周囲一帯を包み込む。
 それだけではなく超高密度の炎がマリアの周囲を包み、物理的な干渉力すら持って覆い尽くした。
 フェンリルが繰り出した絶対零度の刃は、マリアの周囲を覆った“炎の壁”によって全て受け止められ、マリアに届く事は無い。
 フェンリルはそのまま超光速の世界から通常の世界へとその存在を収斂し帰還を果たし、それに気付いたマリアも同様に通常の時系列に帰還を果たす。
 そしてフェンリルはアルスに宣言した。
「私の負けです、アルス陛下」
「ただ一度無数の攻撃を繰り出して防がれただけだったと思うが?」
 フェンリルとマリアが突入していた超光速の世界を認識し、観戦していたアルス王がフェンリルに尋ねる。
「ええ、その通りです。ただその攻撃を私は私自身の全力を以って繰り出しました。ですが彼女の、マリア殿の作り出した炎の障壁を突破する事はできなかった。だから、私の負けです」
「なるほどな、分かった。それではマリアの勝ちだ!!」
 アルスが宣言すると、マリアは拍子抜けしたような表情で肩の力を抜き、火炎魔法とカグツチによって作り出していた炎の領域と超高密度の“炎の壁”を解除する。
 周囲の見物人達はその熱量に暑さを感じ、汗を掻いていたため、ほうっと溜息を吐く。
「称号:勇者の本領、究極アルテマ級のシークレットウェポン、その力存分に見せてもらったよ」
「それじゃあまるで私がシークレットウェポンに頼ってるだけみたいじゃない。私の最上級火炎魔法、是非見せたかったんだけどね」
「ふふっ、そう聞こえたのならすまない。だが称号:勇者が伊達じゃないというのは存分に理解させてもらった。戦友としては頼もしく思うよ」
 フェンリルは乗騎たる魔狼と氷精霊を魔法陣を作り出し送還し、そのまま主君、アイスの元へと戻っていく。
 マリアもどこかしら憮然としながら、同じ称号:勇者、カタリナやジルドレイ、マグナスの元へと戻っていった。
「それでは続いて、オウル殿とマグナス!」
 おお、と場がざわめく。
 なにせ“拳聖”の二つ名を持つSS級相当探索者と、“闘仙”の二つ名を持つ称号:勇者の対決だ。
 その格闘戦に期待が高まる。
 中心へと進み出る二人。
「さて、儂もフェンリル殿に倣って解説でもさせてもらおうかの。とはいえ能力値に関しては見たままじゃしな。解説が必要なのはこのシークレットウェポンぐらいのものかの。とはいえこれも実に単純な代物でな、装備した者の闘気と魔力を完全に徹す、ただそれだけの代物じゃ」
「それは、所有者の力量が実に問われるシークレットウェポンですね」
 オウルの解説にマグナスが静かに返す。
「それでは私も私の能力について解説したいところですが。先程ご覧になられた通り、私の能力など貴方のように多彩な特性などありませんからね。能力値の解説は貴方とは違う意味で不要でしょう。ですので神拳スパルタクス、私のシークレットウェポンについて解説させて頂きます。これもまたある意味単純な能力です。敵のあらゆる防御をすり抜け、数十キロ先まで届く光の拳撃を放つ事ができる、そういうシークレットウェポンです」
「そりゃあ、なんとまあ。つまりお主の攻撃は受ける事なく完全に躱さなければいけないという事になるのう。苦労しそうじゃわい」
 マグナスの言葉に飄々と返すオウル。
 そのような事を言いつつも、ちっとも自分のシークレットウェポンの力を恐れているようには見えないオウルにマグナスは苦笑する。
「さて、双方準備はいいかな?」
「ええ、何時でも」
「おう、構わんぞい」
 アルスの声に同時に肯定の返事を返す二人。
 アルスは大きく息を吸い大声で告げる。
「それでは、始め!!」
 途端双方共に魔闘術を用いる。
 魔力が装甲化し身を覆っていく双方。
 そして魔力の装甲化は終わる。
 そこには異形の人型と化した、オウルとマグナスの二人が立っていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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