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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
11話
 どこか白けた空気が漂う中困惑したようにマリーニアとエミリーが見つめ合う。
「そ、それじゃあ行くわよ“星詠み”さん」
「え、ええおいでなさい“勇者”さん」
 互いに挑発した事で、やっと我を取り戻すと、今度は睨み合い、そしてエミリーが思いっきり剣を振るった。
 まだ剣と盾と鎧に不思議な光は宿っている。
 マリーニアは横に大きく跳んだ。
 エミリーが振るった剣から直線上に際限なく底の見えないほど深い亀裂が走り、創られた地の果てまでもその亀裂は届く。
 途上にいた見物人達もその力を回避していた。
 先程見せられた物に比べれば見劣りするとはいえ、この“狭間”の力も十分以上に驚異的なものである。
 いやエミリーが未熟な為この程度だが、世界ヴェスタの“狭間”とは邪神すらも封印してのけた空間である。
 力の質という面で見れば、それは非常に優れたものであった。
 だがマリーニアが言ったように、どのような力も当たらなければ意味はない。
 次々と繰り出される狭間の力は幾つも底の見えない亀裂を作りながらも、マリーニアには決して当たらない。
 マリーニアは余裕すら持って躱し、のみならずその亀裂によって狭められる行動範囲さえ苦にしていないようであった。
 そして“狭間”の力を次々と繰り出した事で疲労によりエミリーの動きが衰えた瞬間。
 マリーニアはその思考の間隙を突き、一気にエミリーに詰め寄ると、それに気付きエミリーが繰り出した剣を躱し、背後に回り込む。
 そして杖の先端を、エミリーの首の後ろに当てていた。
 そこに込められた力に動けなくなるエミリー。
「アルス陛下」
 マリーニアの促す言葉に頷くと、アルスは決着を告げる。
「それまで!マリーニア殿の勝ちだ!」
 悔しそうに唇を噛み締めるエミリー。
 マリーニアは敗者に何を告げるという事もせず、ただ静かに探索者ギルドの陣営へと戻っていく。
 そしてエミリーも悔しそうな顔のまま、ヤンとライバンの元へと戻っていった。
 ヤンはエミリーに視線を向けず、ただエリナをぼぉーっと眺めていた。
 それに気付いたイリナが苛立たしげにしている。
 ライバンはやはり侮蔑の表情でエミリーを見る。
 本来ならば秘すべき“狭間”の力さえ使いながらも、破れたエミリーに対し、ただただ呆れた様子だ。
 職業:勇者が二人敗れた今、本来の“勇者”の力を示すのは自分しかいまい、という自負を抱きライバンは呼ばれる前から中心へと進み出て行く。
 と、気付くと地に走っていた筈のいくつもの亀裂が消えていた。
 他の者達も不思議そうな表情で地面を見ている。
「あ、地面の亀裂だったら僕が修復しておいたから気にしないで。地面にだったらいくらダメージを与えても僕が修復するから気にしないで戦ってね」
 思わず硬直する一同。
 何と言うか今日は常識外れの出来事ばかり体験して、全員が全員精神的な疲れを感じていた。
 そんな中気にせずスレイは、今度は茶菓子をディザスターに投げて受け取らせるという遊びをしている。
「あ、ずるい。僕もお菓子食べたいから混ぜてよー!」
 そんな一人と一匹の元へとフルールはパタパタと飛んで戻っていった。
 再び沈黙に満ちる空気。
「ごほんっ!それでは、次!ケリー殿とライバン」
 そんな空気を打ち消すように、アルスが大きな声で二人の名を呼ばう。
 ケリーが中心へと進み出て、既にそこに立っていたライバンと睨み合った。
「それでは、始め!!」
 開始の号令と共にケリーは魔力操作で雷速に至り、ライバンは闘気術と魔力操作の併用で亜光速へと至った。
 強化した今では、速度では完全にライバンが上を行き、他の能力値も互角かライバンの方が上である。
 能力値の差を利用し、連続で剣を繰り出し、思考分割で並行して短い呪文の魔法をも繰り出し怒涛の攻撃を仕掛けるライバン。
 しかしケリーはそれらを上手く受け流し、あるいは避け、二刀を活用することで速度差・能力差を覆し、何とか凌いでいた。
 ライバンは全力で攻めるも、ケリーは隠密行動により気配を消している為、目の前にいるのになにやら気配を捉え難いケリーに戸惑い、狙いがいい加減になる。
 何よりケリーの刀術には上手さがあった。
 やはり僅か一ヶ月とはいえクロウの薫陶を受けた身である。
 格上との戦いにも慣れているケリーは、寧ろライバンの未熟を突き、だんだんと攻勢に出るようになっていた。
 もちろんケリーの刀速程度、ライバンは容易く捉えて見せる。
 それでいながら、その二刀の変幻自在な軌道は、ライバンの予想を時に超え、だんだんとライバンを捉え始めていた。
 ライバンは困惑を感じる。
 今まで格上の相手に敗れる事はあっても、格下の相手は能力差で強引に押し込み勝利してきた。
 格下の相手がここまで自らとやり合った経験など一度も無かったのだ。
 対し、ケリーは、クロウの一ヶ月の薫陶に加え、幼少期から探索者ギルドの子飼いとして色々と経験を積んでいた。
 その経験がクロウとの一ヶ月の修練により洗練され、そしてここに来て丁度絶妙に自分より僅かに格上の相手と戦う事で花開いてきた。
 とたん、より刀が手に馴染み、一体感を感じさせ、二刀をバラバラにそれでいてより繊細に緻密に振るえるような感覚がその身を走り抜ける。
 そしてケリーはより変幻自在となったその二刀の軌道で、ライバンを翻弄し、攻勢に転じてみせた。
 ライバンはその事実に驚き、剣技に乱れが出る。
 その隙を更にケリーが突く、とケリーにとっては最善の展開で事は循環していく。
 攻められているという事実についにライバンが焦れて、“狭間”の力を使おうとするも、その為に引こうとしたのが更に隙を生み、そのまま“狭間”の力を使う余裕など与えずケリーは怒涛の如く攻め込む。
 本来ならば速度差で引き離せる筈が、近接での斬り合いで僅かの隙も見出せず、引く為の隙が見つけられなかった。
 更に困惑し戸惑うライバン。
 もはや流れは完全にケリーにあった。
 そんな中、見物していたクロウがポツリと呟く。
「ほう、こりゃあ化けたかの?」
 弟子の成長に、僅かに嬉しそうな口調であった。
 そのままケリーはライバンに流れを変える間を与えない。
 そして、ここだ!と機を得ると、ケリーは瞬間限界以上の力を発揮して見せた。
 怒涛の如き二刀の連撃がライバンを翻弄する。
 そして次の瞬間。
 二人は静かに動きを止めていた。
 ライバンの剣がケリーの首筋に当てられ、ケリーの二刀がライバンの首筋と心臓に当てられていた。
「これは、引き分けかな?」
「いや、俺の負けだ」
 ケリーに対し、ライバンが自らの敗北を宣言する。
「お前の刀が俺の首筋と心臓の位置を捉える方が、俺の剣をお前の首筋に当てるよりも早かった。完敗だよ」
 ライバンはどこか爽やかな顔でそう告げた。
 その表情には先程までは無かった明るい笑顔がある。
 そしてアルスが結果を告げる。
「それまで!ケリー殿の勝利だ!!」
 ライバンは剣を引くと右手をケリーに差し出した。
 ケリーも答え二刀を引くと、右手を差し出す。
 そして二人は握手を交わし、笑い合うとそのまま振り返り背中を向け合い各陣営へと戻っていく。
 その時ライバンに、アルスが声をかけた。
「ほう、いい顔をするようになったな」
「ええ、ライバルが出来ましたから」
 嬉しそうな顔で告げるライバンに、自らの、“勇者”であることに奢った表情は無くなっていた。
 これは上手く化けたな、とアルスは嬉しげに笑う。
 一方ケリーはクロウから思いっきり背中を叩かれていた。
「ようやったのう、ケリー」
 嬉しげなクロウだがケリーはそれどころではない。
「ちょっ、いた、痛いですってば。強く叩きすぎです」
「いやあ、すまんすまん。弟子の成長が嬉しくての。カードを見てみるといいぞい」
「カードをですか?」
 疑問の表情を浮かべながらも、ケリーはカードを取り出して見る。

ケリー
Lv:79
年齢:19
筋力:SS
体力:SS
魔力:C
敏捷:SS
器用:SS
精神:SS
運勢:A
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、探索者ギルド特別工作員
特性:魔力操作、隠密行動、思考加速、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性
祝福:戦神アレス
職業:剣皇
装備:ヒヒイロカネのディラク刀“桜花”“散葉”、オリハルコンのロングソード×2、オリハルコンのブレストプレート、ミスリル絹のシャツ、ミスリル絹のズボン、翼竜の革の靴
経験値:7802 次のLvまで98
預金:123060コメル

「これは!?」
 ケリーは「刀技上昇」「二刀流」と二つの特性が増えている事に驚きを感じる、と同時に納得もしていた。
 戦いの最中、突然湧き上がった今までに無い感覚、それはこの二つの特性を得た事によるものだと。
「だがまだまだ未熟なのは変わらん、これからもビシビシ鍛えてやるから覚悟しておくのじゃぞ?」
「は、はい!!」
 師の言葉と、先程出来たライバルの存在に、ケリーは満面の笑みを浮かべるのであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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