「ところで先程は探索者ギルドの代表者達から先に紹介をしていたであろう。今度は逆に妾達から力を見せていくのはどうかの?」
「し、しかし力を見せるとはいったいどうやって?探索者でないあなた方は能力値を見せるカードなどは無いでしょう?」
ゲッシュの疑問にさもありなん、と頷いたシャルロットはその方法を語る。
「なに、先程そちらの欲望の邪神ディザスター殿がやってくれたように妾達も力の波動を解放してみせてはどうかと思ってのう。ここに居る者達ならばそれで十分妾達の力量を読み取れよう」
「あら、いいわね、ソレ」
サイネリアが面白そうに賛同する。
「ふむ、しかし力を見せると言っても我ら竜人族は竜化せねば本来の力を見せる事はできないのだが、ここで変化する訳にもいかんし、どうすればいいかね?」
「それでは城の練兵場に行きましょう。ドラグゼス殿達がこちらにいらした際も着陸に使っていただいた場所ですので広さに問題はありませんし、王都の民も王城に貴方達が滞在している事を既に知っていますので、竜の姿を見せても混乱を招くことは無いでしょうからね。もちろん一応知らせは出しますが。それにその後の手合わせにも丁度良いでしょう」
ドラグゼスの言葉にアルスが提案する。
そしてそのまま練兵場へと場を移して、力を見せ合う事になり、次々と室内から全員が退出していく。
そんな中一人スレイは侍女に向き合うと告げた。
「あんたの淹れたお茶、実に美味しかった。何よりあんたの仕事ぶりには感心した。もしここに来る機会があったら是非あんたの淹れたお茶をまた飲みたいと思う」
「は、はい!ありがとうございます!雇われている私などが本来言えた台詞ではありませんが、またのご来訪、是非お待ちしています」
良く見るとお堅い美人の風情を漂わせる侍女が、スレイの言葉に顔を明るくして嬉しそうに答える。
そしてスレイがそのまま室内から退出しようとすると、扉を出てすぐの所にいた、探索者ギルドの代表として来ている女性陣、真紀、出雲、セリカ、マリーニアなどが呆れた視線をスレイに向けていた。
「ん、なんだ?」
「いえ、あんたって人間がだんだんと分かってきてね」
「うん、スレイ、女ったらし」
「本当に、どんだけ女の扱いに手慣れてるのよ」
「そうやって犠牲者を増やしていくんですね、貴方の手口は良く分かりました」
次々と言われ、スレイは目を白黒させる。
「いや、お茶が上手かったし仕事も完璧だったから褒めただけなんだが」
だがそんなスレイの言い訳を聞く事なく探索者ギルドの女性陣もまた先を行く一同に急いで追いつきそのままついて行く。
スレイはのんびりと歩いてそんな一同について行きながら、本当に違うのに、と一人呟いていた。
王城内練兵場。
確かにそこは広かった。
巨大な竜の10頭くらいは軽く入りそうな規模である。
その中心に集まる一同。
そんな中、練兵場の外れから、兵士達が伺うようにこちらを見ている事にスレイは気付く。
「あいつらは、問題ないのか?」
「ああ、あの位置ならば特に邪魔になることもないし、色々と経験にもなるだろう。あのまま見物させてやってくれ」
「まあ、あんたが良いんなら俺は構わないが」
アルスに対しタメ口を聞くスレイに、ゲッシュは頭を抱えるが、アルスは別段気にした様子もなくにこやかに答える。
そしてまずは先程紹介のトリを飾った、闇の種族達がその力を見せる事になった。
「それではまず、不肖の身ですが鬼人族の長を務めさせて頂いている、私ダートから参ります」
堅い言葉遣いの、三つの角とその身体の大きささえなければ、真面目な青年にしか見えない鬼王ダートが一同の中心に立つ。
そしてその角が闇を纏い共振しながら闇の力の波動を大きくしていく。
周囲にかかる圧迫感。
職業:勇者の三人、それにゲッシュやエリナにアリサにアイスやシズカといった、高い戦闘能力を持たない面々は地に膝を着く。
遠く離れて見ている兵士達の中にも地に膝を着いている者達がいる。
ただ一人イリュアだけは、戦闘能力を持たない身ながら平然と立っていた。
それなりの能力を持ちながら、膝を着いてしまっている職業:勇者の三人の面子は丸潰れである。
わずかにアルスとカタリナそれにジルドレイが溜息を吐いていた。
そしてそのまま鬼王ダートは力の波動を治める。
今の力の波動で周囲の者達はだいたいダートの力を把握していた。
SS級相当の中堅あたり、そのぐらいの力であった。
「それでは次は我の出番かな?」
そういって10メートル近い巨体の黒い狼、魔狼王リュカオンが身を起こしダートと入れ替わるように中心に立つ。
今更ながらこれだけの巨体が平気で廊下を通れるのだからこの王城の規模の大きさが知れる。
そしてリュカオンはそのまま遠吠えを上げた。
その遠吠えで空の雲に穴が開く。
途端広がる闇の力の波動。
分かる者達にはSS級相当の上級あたり、先程のダートの力より一段上と感じられた。
先程と同じ面々が地に膝を着く。
そんな中、リュカオンにスレイが近付き尋ねる。
「なあ、身体に触ってみてもいいか?」
「うむ、構わんが?」
肯定の返事を聞くとスレイは思いっきりリュカオンの巨体に抱きついた。
そしてその毛皮でもふもふとする。
どうやら毛皮の感触が気に入ったようで、スレイは暫くそのままリュカオンに抱き付いていた。
リュカオンはどこか困ったような表情をしているように見える。
スレイの後ろから、ディザスターの唸り声が上がった。
主の関心を奪われて嫉妬しているようだ。
そしてようやくスレイはリュカオンから身を離すと告げた。
「うん、良く手入れされたいい毛並みだな。すごく気持ち良かった」
そうして満足げに元の位置に戻るスレイの腕にディザスターが飛び込み、フルールが頭の上に乗った。
どうやら二匹は今のスレイの行動にお冠のようである。
そんな二匹を宥めるスレイ。
そんなスレイを周囲の全員が呆れたように見ていた。
それでも周囲を気にしないスレイは紛れも無く大物であった。
というより探索者になってからの今までの経験が経験なので、スレイはもはや力ボケを起こしている。
恐怖という感情が失われている事もあり、並大抵の力では全く動じる事は無く、平気で場違いな行動をやってみせるようになっていた。
「そろそろ、いいかね?」
そう告げるとリュカオンは力の波動を治めた。
そして元の位置に戻るとのそりと寝そべる。
「それでは次は妾の番かのう」
そう言ったシャルロットが中心へと進み出た。
「それでは行くぞえ?」
前置きを告げ、そして深紅の闇の波動が迸った。
今度は先程までの面々に加え、ケリーやマリーニアまでもが膝を着いていた。
周囲の兵士達は離れた場所にいるのに全員が膝を着いている。
シャルロットの力の波動はSS級相当でも最上級、もはやSSS級相当に後一歩で踏み込めるほどの領域に達していた。
そんな中でスレイはぼんやりと、なんとなくこの深紅の波動はアスラに近いかな、などと考える。
と、そんな主の考えにプライドを傷つけられ、自分の方が上だと反論するように、左腰のアスラが震えた。
スレイは分かっているというように、そんなアスラをポンポンと叩く。
そしてシャルロットは力を治め、元の位置に戻っていった。
「それじゃあ闇の種族の最後はわたしね」
にこやかに告げてサイネリアが中心に進み出る。
「それじゃあ行くわよ?ちゃんと心構えをしてないとどうなっても知らないからね?」
告げるとサイネリアの周囲が一瞬沈黙に包まれた。
そして瞬時に広がる闇の波動。
物理的な圧力すら持って周囲を席捲する。
先程まで膝を着いていた面々は当然そのまま跪き、地に手すらついて伏せる。
SS級相当探索者や称号:勇者の面々も危ないところであった。
もし先程、ディザスターのプレッシャーを一度経験していなければ彼らとて跪いていたであろう、それほどの力である。
まぎれもなくSSS級相当の力であった。
全く反応を示していないのはスレイぐらいのものであろう。
竜皇とイリナ、サイネリアの配下である闇の種族達に、そしてイリュアも冷や汗を掻いていた。
そしてサイネリアは力の波動を治める。
「まあ、こんなものかしら。これがわたし達、闇の種族の力よ」
そうどこか誇らしげに告げると、サイネリアは元の位置に戻っていった。
「それじゃあ次はわたくし達ですね?」
イリュアが告げる。
「聖王猊下は戦闘能力は無いんじゃないのか?」
恐れを知らないスレイが軽く言い放った。
「まあ確かに戦闘能力は無いのですが、その代わりに、わたくしの持ってる力を見せますね?」
そして中心に進み出るとイリュアは祈るような姿勢になった。
するとイリュアを中心として光の波動が広がっていく。
それは戦いの猛々しさとは関係の無い柔らかな波動であったが、圧倒的な影響力を持ってその場に居た人間族の者達に内側から湧き上がるような活力を与えていく。
だがスレイは特に何も感じていない。
同じく竜人族の面々は何も感じていないようであるし、闇の種族の面々はどこか不快そうに表情を歪めている。
暫くしてイリュアが祈る姿勢を止めるとその波動は消え去った。
「これが光神の祝福。ヴァレリアの神子であるわたくしだけが使える、代々聖王が引き継いできた秘儀。周囲の光神の被造物である人間族を、それこそ軍勢単位で力を増幅して強くする、秘中の秘です」
人間族の力を増幅する筈なのに、自分が特に何も感じなかったのは何故だろうか、とスレイは疑問に思うも、特に大した事とも思わなかったので、そのまま忘れる事にした。
「それでは、ここからは探索者カードを見せる場面ですね。ヴァリアス、あなたからお見せなさい?」
「はっ!」
イリュアの命令に素直に従いヴァリアスが中心に立った。
周囲の者達はカードの表示を見る為にヴァリアスにやや近付く。
そしてヴァリアスはカードを取り出し能力値を表示してみせた。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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