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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
4話
「さて、まずは現状の確認をしたいと思います。現在、邪神の封印が解けかけているのはご存じの通りです。ただ封印が解けかけているといっても、本来ならば最上級の邪神であと1年、下級の邪神に至ってはあと数十年は封印は保つ筈だったので、何とか封印の地を見つけ封印を再度強化すれば良いはずだったのですが……」
「『だった』?そういえばそこの邪神ディザスター殿は邪神としては何級なのかね?」
 歯切れの悪いゲッシュにアルスが問う。
「ディザスター殿は邪神としては下級になります」
 ざわっと場がざわめく。
 先程圧倒的なプレッシャーで以って、自分達を圧倒してみせたディザスターが下級の邪神ということに誰もが驚きを隠せないでいるのだ。
 まあ、肝心のディザスターは主の膝の上を満喫中で、その主に至っては一人ティータイムと洒落込んでいるが。
「待ちたまえ、先程下級の邪神の封印は数十年は保つ筈だったと言ったね?それならば何故ディザスター殿はここに居るのかね?」
 ドラグゼスが質問する。
 ゲッシュは一息吐くと答えた。
「実は、これはディザスター殿から齎された情報なのですが、先に申しあげた約二年前に復活した、そちらのスレイの幼馴染だった邪神ロドリゲーニが封印を解除して回っているらしいのです。ディザスター殿もロドリゲーニによって封印から解放されたそうです」
 やはり場にざわめきが巻き起こる。
「ふむ、それでは既に最上級の邪神や上級の邪神の封印が解かれているかもしれないという事かね?」
 落ち着き払った無表情のままでアイスが訊く。
「いえ、それは無いそうです。最上級の邪神は1年もかければ力尽くで封印を解除でき、上級の邪神達も先の一件のように自分の一部を外へと送還するなど自ら封印を解除する特殊な試みをしているらしいので、ロドリゲーニとしては彼らに干渉するつもりはないようです」
「その情報もディザスター殿から?」
 アルスの問いにこくりと頷くゲッシュ。
 僅かに場の空気が弛緩する。
 だがすぐに場の空気を引き締める質問がイリュアから飛ぶ。
「つまり残り二柱の下級の邪神と三柱の中級の邪神は既に封印が解かれているかもしれない、という事ですね?」
 再び場が緊迫した。
 先程思い知ったディザスターの力と同格の敵が二柱、それより上の敵が三柱も既に封印を解かれているかもしれないと考えれば当然である。
「まず一つ訂正させて頂きます。下級の邪神はディザスター殿以外にあと二柱でなく一柱。もう一柱はかつての聖戦において滅ぼされたそうです」
 邪神が一柱滅ぼされていたという事実にまた場がざわめく。
 ただ一人シャルロットのみはわかりきった事実だというように頷いていたが。
「そして中級の邪神は三柱にして一柱たる存在。実質一柱と考えて構わないそうです。その分強力な力を持つが故に中級な訳ですが」
 やはり場がざわめき、シャルロットのみが落ち着いている。
 いや、スレイとその周囲の空間だけは最初から場違いに落ち着いていて変わらないのだが。
「それで、結局もう下級の邪神と中級の邪神の封印は解かれたと考えていいのかしら?」
 今度はサイネリアが質問した。
「ディザスター殿」
『ふむ、下級の邪神、絶望クライスターの気配は感じるが、中級の邪神、三位一体トリニティの気配は感じない。どうやら現在まだ中級の邪神の封印の解除中といったところのようだ』
「だ、そうです」
 ゲッシュが促しディザスターが告げた言葉に場の空気は微妙になる。
 中級の邪神がまだ復活していないのは歓迎できる事実だが、下級の邪神が既に復活しているのだから素直に喜びようもない。
「ちなみにですが」
 ゲッシュは続ける。
「本来ロドリゲーニは上級の邪神だそうですが、人の身に転生することで下級の邪神よりも弱くなっているそうです。それでもEX級相当の力を持つということですが。それと弱くなった代わりに封印解除などの特殊な力を幾つか手に入れたという事らしいです」
「ふむ、なるほど、その力によって封印を解除している訳か。ところでディザスター殿は本当に味方と考えていいのかね?彼もまたロドリゲーニが解放したのだろう?」
『我は主に従うのみだ、主が望むならお前達が相手でも、イグナートが相手でも戦ってみせよう』
「という事だそうで、スレイが居る限り心配は無いでしょう」
 アルスの問いにディザスターが答えゲッシュが補足する。
「それでは結局私達はどうするべきなのかな?」
 カイトが結論を尋ねる。
「そうですね、まず既に復活している邪神、絶望クライスターに関しては、なんとかディザスター殿を中心に討伐し、次に中級と上級と最上級邪神の封印の地を探し出し、ロドリゲーニを討伐後、職業:勇者様達の封術で封印を強化する、これが最善だと思います」
「なるほどね」
 ゲッシュの答えにカイトや他の者達も納得したように頷く。
「それで邪神達はどこに封印されてるんでぇ?」
「それが何処かの未知迷宮の最奥としか……」
「はぁ?」
 ノブツナの問いに対するゲッシュの答えにノブツナは呆れたような声を出す。
「それじゃあ何も分かってねぇのと一緒じゃねぇか?」
 その通りなのでゲッシュは何も言えない。
「まあ落ち着けクソ息子」
「なんだとこのクソジジィ!」
 クロウが乱雑な言葉でノブツナを嗜めノブツナが思わず反応する。
「ゲッシュ殿を責めても仕方あるまい、それよりはもっと建設的に物を考えるべきじゃろう?」
「うぐっ」
 クロウのもっともな意見に唸り黙り込むノブツナ。
「ふむ、それではクロウ殿はこれからどうするべきだと思いますか?ご教授願いたい」
 賢者アロウンが興味深そうにクロウに視線を向ける。
「まあ、まずせっかくSS級相当探索者がこれだけ居るんじゃ、未知迷宮を虱潰しに探索して封印の地を探し出すべきじゃろう」
「まあ確かにな、未知迷宮を最奥まで探索できる可能性があるのなんて俺達SS級相当探索者ぐらいだろうしな、だが報酬は出るのかい?」
 クロウの言葉を肯定するグラナルだが、報酬の話を持ち出す。
「この阿呆。未知迷宮を探索すればそれだけで十分以上の収入があるじゃろう。さらに報酬を求めるなど馬鹿かお主は」
 オウルに叱責され、グラナルは罰が悪そうな顔になる。
「しかしいくらこれだけのSS級相当探索者が居るとはいえ、封印の地を見つけ出せるかどうかは賭けになると思いますが」
 ブレイズが真面目な表情で意見を述べる。
「そうさねぇ、私らだって最奥まで探索できるかどうか分からない迷宮だって存在するんだ。それこそ数をこなすのなら戦力を分散させなきゃいけないが、分散させ過ぎても最奥まで辿りつけなきゃあ意味がない。いったいどうするんだい?」
 どこか意地悪気に告げるミネア。
「申し訳ないが、私は聖王猊下の傍を離れるつもりは無いので協力できない」
 ヴァリアスが一人反論する。
「それを言うなら俺だってカイトのおっさんの傍を離れる気はないぜ?」
 ダリウスも告げた。
「それなら私もそれほど国を空ける訳にも行きませんが」
 フェンリルまでそう言い出す。
「あらあら意思がバラバラね?かつての聖戦時、協力せずに傍観に徹していたが故に今でも差別を受ける我が闇の種族としては、この状況は納得できないわね」
「むぅ」
「うぐっ」
「くっ」
 サイネリアの皮肉に、三人は思わず黙り込む。
 そんな中、何かを考えていたシャルロットが告げる。
「ふむ、妾はただ封印の地を探すだけではなく、いざという時に備え戦力の増強を図るべきだと思うのだが、どうかのう?」
「戦力の増強と言っても、既にここに居る殆どの探索者が限界Lvまで到達し、そうでないのは職業:勇者の方々やケリーとマリーニア、それにスレイぐらいのものだと思いますが」
「ふむ、そうだのう。その五人には普通に迷宮を探索すると同時にLvを上げてもらうとして、他の探索者達は技量の底上げかのう?」
「それだけで劇的な戦力の増強が図れるとは思えませんが」
「まあ、仕方あるまい。後は各地の神獣などと交渉し助力を頼み。封印が破れた場合は封印の維持から解放された神々の助力もあると、期待するしかあるまいて」
 ゲッシュに対し暢気に返すシャルロット。
「ついでに、もしかすると武器などの面で戦力の増強が図れるやもしれんから、我ら闇の種族はとりあえず最初に【闇の迷宮】に挑ませてもらおうかのう」
「なっ!?未知迷宮について知識をお持ちなのですか?!」
「ああまあ、これも年の功というものかのう。【闇の迷宮】には異界の闇の神々が封じられているであろう?闇を扱う我ら闇の種族にとっては興味深い事この上あるまいて」
 ほう、と興味深そうにドラグゼスが尋ねる。
「それでは我々竜人族が最初に探索するべき迷宮なども心当たりがおありかな?」
「うむ、御主等竜人族は【竜帝の迷宮】に挑むのが良いとおもうぞえ。異界の竜の神々が封じられておるらしいからの」
「なるほど。ゲッシュ殿、【竜帝の迷宮】についての情報をもらえますかな?」
「え、ええ。構いませんが」
 ゲッシュは流されるように頷く。
「ついでに、聖王猊下、お主も光神ヴァレリアの神子故に、肉体の改造は受けれない身であろうが、異界の光の神々が封じられし【光の迷宮】に挑めばお主も何か戦う術を得られるかもしれんぞえ」
「なっ!?戦う術の無い聖王猊下に迷宮探索に挑めと!!」
「その為のお主であろうが?」
 シャルロットの指摘にうぐっと黙り込むヴァリアス。
「さて、それでは他に何かあるかのう?」
 何時の間にか場はシャルロットが仕切っていた。
 これも年の功というものだろう。
「神獣の助力を願う交渉は誰が行うんだ?」
「それはまあ適時、適当にのう」
「いい加減だな」
 呆れたようにスレイがぼやいた。
「そうそう、お主には【邪竜の迷宮】に是非挑んでもらわねばな」
「俺が?何かあるのか?」
 スレイの問いに、シャルロットはただ微笑を浮かべて返す。
「まあ、あの迷宮に関しては邪神が封じられてる事は有り得んから、何時でも構わんがのう。あそこを攻略できるようになるのはお主くらいであろうし、それに攻略できるようになってもらわねば困るからのう」
 周囲の一部から何か反論したげな空気が漂うが、シャルロットが軽くひと睨みすると黙りこんだままで声は上がらない。
「私からもいいかね?」
 そこへアルスが口を挿む。
「ふむ、何かのう?」
「いや、ここに居る全員の現在の力をこの眼で確認してみたいと思ってね、探索者に関してはカードを見せてもらうのは当然だが、能力値だけでは力を測り切れないだろうし、探索者でない者はそもそも能力値が見えないから、あとは軽く適当な組み合わせで手合わせなどしてみたいと思ってね?」
 そう言いながら、アルスの視線は強くスレイに向けられていた。
「ふむ、なるほどのう。それは良い考えかもしれんの」
 シャルロットも賛同し、まずは探索者達が能力値を見せ合う事になるのであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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