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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
2話
「スレイくん、君はいったいディザスター殿に何を言ったのかね?」
 ゲッシュがこめかみに青筋すら浮かべてスレイを問い質す。
 あれから暫く経ち、流石は各国でも有数の者達だけあり、なんとかこの場は一部を除き落ち着いたのだが、むしろ城に務める者達が、この部屋から発せられたプレッシャーに当てられ、城の機能が停止するような状態になっていた。
 ちなみに一部とは三人の職業:勇者達で、彼らはその場にいた侍女と同じ様に気絶するという無様を晒していた。
 その為、今はスレイとディザスターに恐怖と同時に、恥をかかされたという憎しみの視線を向けている。
 スレイもディザスターも全く気にしてはいなかったが。
 ともかく、事態に気付いたアルス王が慌てて出て行き、城の機能を正常化させる為に走り回り、そしてやっと城も落ち着きを取り戻した現在。
 気絶から回復した侍女にティーカップの替りを頼み、他の者達のティーカップと一緒に新しいティーカップと、砕けたお茶菓子の替りの新しいお茶菓子が出されて、ティーカップを傾け、お茶菓子を摘むスレイ。
 恐怖もあるだろうに黙々と仕事をこなす侍女。
 まさにプロフェッショナルである。
 しかし先程の事態の原因でありながら、関係無いとばかりに悠然とお茶を嗜むスレイに、流石のゲッシュも怒りを隠せなかった。
 そんなゲッシュにスレイはあっさりと答える。
「『この場の分からず屋どもに、ちょっとお前の力を見せてやれ』こう言っただけだが?」
 僅かの反省の色も無いスレイ。
 それどころかゲッシュが何を怒っているのかと疑問の視線すら向けてくる。
 そんなスレイにゲッシュは諦めたような表情で首を振ると、周囲に視線を移した。
 アルス王も城を正常に機能する状態に戻すと席に戻って来て、今はきちんと全員揃っている。
 流石に先程の事態に、今でもディザスターに対して警戒を隠せない一同だが、ディザスターのスレイに撫でられ擽られ心地良さそうにしている様子を見て、なんというか判断に困る表情を浮かべていた。
 どう見ても主人に甘えるペットにしか見えない。
 さらにスレイの頭の上に鎮座するフルールが、スレイの周囲一帯をコミカルなものに変えてしまっている。
 周囲の困惑も仕方あるまいと思いながら、中断してしまった会議を続ける為、ゴホンと咳払いをしてゲッシュは告げた。
「えー、アクシデントもありましたが、我ら探索者ギルドの代表の紹介は以上です、それでは次にホストであられるこの城の主、アルス陛下とご息女、その臣下の方々の紹介をして頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
 そしてゲッシュが座り、代わりにアルスが立ち上がった。
「それではまず私から自己紹介させてもらおう。私はアルス・クロスメリア、このクロスメリア王国の国王であり、称号:勇者である者だ。故に“勇者王”などと過分な二つ名で呼ばれる事もあるね」
 落ち着いたにこやかな表情で告げるアルス。
 周囲の視線を気にすることもない。
 流石に勇者で国王ともなれば、いくら周囲の者達が特殊だとはいえ、その視線に萎縮することも無いのだろう。
 羨ましい限りだとゲッシュは内心思う。
 ただ、アルスの視線はどうやらスレイに集中しているようである。
 先程の事態を引き起こしたスレイの膝の上のディザスターではなく、スレイ自身に向けられたどこか面白そうな視線。
 それに何か厄介事の種を感じ、ゲッシュは頭が痛くなる。
 運勢:Gというのは、こういう厄介事も引き寄せるものなのだろうか、などと疑問に思う。
「さて、続いて私の娘を紹介させてもらおう。実にお転婆極まりなく、18歳で王城から出奔し迷宮都市アルデリアで探索者となり、たった5年で勇者の称号を得て城に戻って来て近衛隊の隊長となった、才能だけなら私以上の化物と言っても過言ではない、世間では“姫勇者”などと呼ばれているカタリナ・クロスメリアだ」
「どうも、皆さん、カタリナと申しますわ。お父様の戯言は本気にせず、よろしくお願いしますわね」
 カタリナがこめかみに青筋を浮かべながら立ち上がり礼をすると席に着く。
 どうやら父親の言葉に相当異論があるようだ。
 だがその瞳が向いている先にゲッシュは気がつく。
 カタリナの視線は情熱的な色で以ってスレイに向けられていた。
 なんとなく、ああまたか、とゲッシュは諦めた心地になる。
 どうやら王女とまで何時の間にか“そういう”関わりを持っているようだ。
 スレイという青年に関しては、そういう方面でも、もはや何があっても驚くまいとゲッシュは強く決心する。
「続いて、同じく称号:勇者にして、まあその内カタリナに抜かれるだろうが、今の所は私に続く二番手の実力者、近衛隊副隊長“狂風”ジルドレイ・アステッド」
 ジルドレイはやや呆れたような表情で主を見て立ち上がり、一礼して座り直す。
 ジルドレイの視線もスレイに興味深げに向けられるのを見て、いったいスレイは何をやらかしたのかとゲッシュは胃に痛みを感じる。
「さて次に、同じく称号:勇者であり、近衛隊所属、“闘仙”マグナス・スライカン」
 30代ほどに見える、落ち着いた風貌の、スキンヘッドの黒い瞳の男が立ち上がり、一礼して席に着く。
「続いて、また称号:勇者であり、近衛隊所属、“炎姫”マリア・フレイム」
 燃えるような赤い髪に赤い瞳の挑発的な視線をした20代後半に見える美女が立ち上がり一礼して席に戻る。
「次に、生まれついての職業:勇者、近衛隊所属、ヤン・ブレイブ」
 茶髪茶瞳のプライドが高そうな10代後半の青年が立ち上がり礼をすると何かを言おうとするが、アルスが視線に力を込めると口を噤み席に戻る。
「続いて、同じく生まれついての職業:勇者、近衛隊所属、エミリー・ブレイザー」
 軽いウェーブがかかった茶髪茶瞳の周囲を蔑むような眼をした10代後半の美少女が、立ち上がり礼をして、彼女もまた何か言おうとするが、アルスが鋭い視線で制すると、そのまま席に着く。
 先程から何なのだろうか、とゲッシュは気になるが、生まれついての職業:勇者の三人について、集めた情報から、きっとろくでもないことを言おうとして、それをアルス王が制しているのだろうと判断する。
 別の意味での問題児を抱えているゲッシュは、なんとなくアルス王に共感を覚えた。
「最後に、また同じく生まれついての職業:勇者、近衛隊所属、ライバン・クロステッド」
 金髪碧眼の傲慢そうな10代後半の青年が立ち上がり、彼もまた何かを言おうとして、アルスの険しい視線に黙り込んだまま、席に座った。
「さて、以上私も含めて八名が邪神対策における我が国の代表と考えて貰って構わない、よろしく頼むよ」
 そう告げると、アルスは席に座る。
 再度ゲッシュが立ち上がり、ゴホンと咳払いをする。
 そして悩みながらも次に話を振る相手を考え、そして意を決して告げる。
「それでは、次に、この場に最初にいらっしゃいましたシチリア王国とディラク島の方々にご紹介をお願いします」
 あくまでこの場に来た順番であると告げる事で、ゲッシュは何とか角を立てずに話を振る。
「ふむ、ノブツナ殿。私達から自己紹介を始めさせてもらっても構わないかな?」
「ああ、順番なんか気にしちゃいねぇから構わねぇぜ」
 ノブツナの了承を取ると、灰色の短い髪に碧眼の無表情な壮年の男が立ち上がる。
「それではまず私から自己紹介をさせて貰おう。私はシチリア王国国王アイス・コルデリア。何故か理由は分からないが“氷王”などと呼ばれているらしいな。よろしく頼む」
 淡々と無表情なままに告げるアイス。
 全くといっていいほどその表情は動かず、視線は絶対零度の冷たさを感じさせる。
 その視線に職業:勇者の三人が何処か怯えたような表情になる。
 もっともアイス自身に自分がそのような視線をしているという自覚は無いのだが。
 周囲からいくら見られても全く動じた様子の無いその様子に、ゲッシュは羨ましく感じる。
「そして、我が国の宮廷騎士団長と宮廷魔術師団長を兼任する、我が国の要、“魔狼”フェンリル・ノースエッジ」
 自らの主の言葉と共に灰色の腰まである髪と灰色の瞳を持った美女が立ち上がり礼をするとそのまま席に着く。
「以上、私を含めて二名が我が国の代表となる」
 そしてそのままアイスは席に着くとノブツナに告げる。
「それではノブツナ殿、続いて頼む」
「おう」
 ノブツナは軽く返事をすると、そのまま立ち上がる。
「俺はノブツナ・シュテン、“鬼刃”ノブツナなんて呼ばれてるな。そこのガキみたいななりしたクロウって爺の息子で、一応ディラク島でも最大勢力の国の国主をやってるからディラク島代表と考えて貰ってかまわねぇ」
 伝法な口調の自己紹介に一部の者が眉を顰めるが殆どの者は気にした様子も無い。
 名指しされたクロウなどはやれやれといった様子である。
 だがノブツナの隣に座る美少女は恥ずかしそうに身を竦めていた。
「次に、俺の娘のシズカ・シュテン。特に戦える訳でもないのに何故かついて来ちまったんだが、よろしく頼む」
「どうも、シズカ・シュテンです。父が大変不調法ですみません。父に代わって謝罪させて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします」
 ストレートの黒髪に黒い瞳の雪のように白い肌の美少女が立ち上がり礼をして、ノブツナの不作法を詫びる。
 その台詞に、一同は何故シズカがノブツナについてきたのか、つまりシズカの役割がノブツナの手綱を引く事だと悟った。
 そのまま恥ずかしそうに席に座るシズカ。
「まあ、以上二名がディラク島の代表ってことで、よろしく頼むわ」
 告げて、ノブツナは荒々しく席に座った。
 そんなノブツナを睨むシズカ。
 その様子にまた、なんとなく共感を感じてしまうゲッシュであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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