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  シーカー 作者:安部飛翔
第四章
1話
 会議の開催を宣言すると同時に今までより強く寄せられる視線に、ゲッシュはドッと冷や汗を流す。
 何せ会議の参加者は大陸中の主要な国家のトップ達に、大陸でも指折りの実力者達、そういった者達ばかりなのだ。
 ゲッシュは会議に参加している面々の顔を全て知っていた。
 探索者ギルドのギルドマスターなのだから当然の事である。
 だが今回はそれが災いした。
 あまりのプレッシャーに胃がキリキリと痛む。
 最近になってから胃薬の世話になりっぱなしのゲッシュである。
 だがそれでもギルドマスターとしての胆力を発揮し、まずはと続ける。
「それでは最初に、我がギルドの代表として参加して貰っているメンバーの紹介をさせて頂きたいと思います。まずは先程聖王猊下のご紹介に預かりましたので皆様既にご存じでしょうが、私、探索者ギルド・ギルドマスター、ゲッシュ・アルメリア」
 視線が更に強くなり胃がキリキリと痛むのを我慢しながらもゲッシュは続ける。
「続いて、死亡したと言われていたのが、つい最近現役の探索者として復帰して皆様を驚かせたと思います。あの“刀神”クロウ・シュテンとその奥方である“白姫”サクヤ・シュテン」
 クロウとサクヤが立ち上がり礼をして、席に再びかける。
 二人に視線が集まるが、ゲッシュに対しても、知っているぞ、お前が死亡した事にして情報を秘匿していたんだろう?と言わんばかりの意味ありげな視線が幾つも向けられ、更に胃がキリキリと軋む。
「次に、そのクロウの弟子であり我がギルドの特別工作員、S級相当探索者ケリー」
 ケリーが立ち上がり礼をして再び席に着く。
 刀神の弟子という言葉に多少の注目が集まるがそれだけであった。
「その姉であり、白姫サクヤの弟子でもある、やはり我がギルドの特別工作員、S級相当探索者“星詠み”マリーニア」
 途端、場がざわっと湧いた。
 皆“星詠み”の名に反応したのだ。
 その中で、どこか居心地悪そうにしながらもマリーニアは立ち上がり礼をして、再び席に着く。
 だが、まだ話し声は続いていた。
 当然かも知れない。
 “星詠み”という二つ名にはそれだけ大きな意味がある。
 数年前、まだ中央の中小国家群で戦争が頻繁に起きていた時。
 彼らは聖王の和平の言葉にすら耳を貸さなかった。
 その裏には死の商人と呼ばれる戦争を金儲けの種とする下種な連中の暗躍があったと言われている。
 戦争に次ぐ戦争で、中央の中小国家群はもはや財政は破綻しかけ、そのまま全ての国が共倒れするしか無いかと思われた。
 そんな時、聖王からの要請により探索者ギルドが動いた。
 とは言え、肝心のSS級相当探索者達でさえ殆どがその戦争に加担し、あるいは自国に籠り、探索者ギルドが子飼いにしていたのはS級相当探索者がせいぜい。
 探索者ギルドの介入でいったい何ができるのか、と全ての国は懐疑的であった。
 だがその後、僅か一年ほどで中小国家群の戦争は治まった。
 その時に活躍したのが当時十代半ばかそこそこの少女だった“星詠み”だと言われている。
 あらゆる戦争の火種を先読みして燃え上がる前に潰し、死の商人達の所在を突き止め彼らを捕縛し、中小国家の首脳達の不祥事すら利用して、戦争を叩き潰した。
 そんな“星詠み”の力による探索者ギルドの介入があって、今では中央の中小国家間での戦争は無くなり、せいぜい闇の種族のヘル王国との小競り合いが残るのみになったとされる。
 故に、“星詠み”の二つ名は、ここに居る者達にとってさえ特別な意味を持っているのだ。
 向けられる興味深げな視線に萎縮するマリーニア。
 ゲッシュは自分に向けられる視線の量が減った事で、僅かに胃の痛みが治まっていた。
 心の中でマリーニアに謝罪する。
 だが、ここからゲッシュにはさらに胃が痛くなるような展開が待っているのだ。
 一時の休息ぐらいは許してほしい。
 そしてゲッシュは続ける。
「続けて、異世界より来訪したという異世界の勇者、更科真紀、神代出雲、セリカ・J・スミス、それに世界を渡る力を持つという汎次元存在、時空竜フルール」
 真紀、出雲、セリカが立ち上がり、スレイの頭の上に鎮座していたフルールがパタパタと羽ばたき浮き上がる。
 そして礼をして、三人は席に着き、フルールはスレイの頭の上に戻った。
 周囲からはゲッシュに対し、何を言っているんだこいつは正気か?という視線が強く向けられ、やはり胃がキリキリと痛む。
 だがゲッシュは強靭な精神力を以って続ける。
「皆様がお疑いになるのも無理は無いと思います、しかし彼女達が異世界から来訪したというのは“星詠み”がその占術の力を以って確認し、事実だと判明したことです。そして彼女達は紛れも無く強い力を持ち、戦力となると判断し、この場に同席してもらっています」
 マリーニアをケリーとは分け一人で、三人と一匹の直前に紹介したのはこの為である。
 まだ懐疑的な視線を遺しながらも、“星詠み”の占術が事実と判断したのであれば、そういうこともあるのかも知れない、と場の空気が変わる。
 これで第一関門はクリアした、とゲッシュはとりあえず汗を拭う。
 だが、まだ問題は残っている。
 ここからが勝負だ。
 そしてゲッシュは続ける。
「続いて市井のS級相当探索者、“黒刃”スレイ」
 スレイはディザスターを抱き上げ立ち上がると礼をし、席に座り直す。
 礼をした瞬間にはフルールが頭にしっかりとしがみつきどこかコミカルな印象が漂った。
 市井のS級相当探索者という事で、どこか場違いな者を見る視線が大半だが、一部の者達はひどく意味ありげにスレイに視線を向けていた。
 そんな視線をものともせず悠然とお茶のおかわりを侍女に頼むスレイ。
 その実に泰然とした様子に、周囲の視線も、こいつは場の空気も読めない大馬鹿なのか、場の空気すら気にする必要さえない大物なのか、判断に困るといった物に変化する。
 ゲッシュはそんな周囲を物ともしないスレイを羨むように見ながら続ける。
「何故市井のS級相当探索者をこのような場に連れてきたか、と皆さん疑問に思われているでしょう。当然です。私とてとある事実とある要素が無ければ彼をこの場に連れて来る事は無かったでしょう。まずある事実を話させて頂きます。今回この会議の席が設けられる事になった理由、それは邪神がそのごく一部とはいえ復活し、封印が解けかけている事が判明したからなのは皆さんご存じの通りです。その邪神の一部、それを葬り去った探索者が彼なのです」
 途端、どっと場が湧く。
 様々な会話が交わされ、スレイに対し疑惑の視線が向けられる。
 落ち着いているのは極一部の者だけだ。
 そんな中でも悠然とティーカップを傾けるスレイ。
 ゲッシュは大声を上げ告げる。
「皆様!静粛に!!これは彼女“星詠み”マリーニアも確認した紛れも無い事実です。間違いなく彼が邪神の一部を倒しました。ですが、それだけではありません!!」
 ゲッシュの“星詠み”が確認したという言葉に疑惑の視線はやや減るが、やはり場は騒然としたままである。
 そんな中、まだ嘘臭いような事実を話さなければならない事にゲッシュはやはり胃が痛むのを感じた。
「これもまた“星詠み”マリーニアが確認し、事実と判明している事だと前置きさせて頂きます。今より二年以上も前に、実は別の邪神が既に復活しています。人の輪廻転生の輪に入る事で勇者達の封印から逃れた邪神が居るのです。彼、スレイはその邪神、ロドリゲーニの覚醒する前の人間時代の幼馴染だったそうです、そして彼はロドリゲーニを倒す為に探索者に成ったと聞いています」
 また場が騒然とする。
 今度は先程落ち着いていた者達も驚いたようにスレイを見つめていた。
「ちなみに、S級相当探索者という事で、彼の実力を軽く見たり、彼に倒されたという邪神の一部を軽く見る方もいらっしゃるかもしれませんので言わせて頂きます。彼、スレイは私達の前で刀神クロウと戦い、引き分けています」
「うむ、儂とそこのスレイが戦い引き分けたのは事実じゃ。手加減など欠片もせんかったわい、スレイは実に強いぞ?」
 ゲッシュが話し、クロウが肯定した事実に、もはや抑えきれない程に場の喧騒は高まっていた。
 スレイに向けられる視線は様々だ。
 だがスレイはやはり悠然とお茶菓子を摘んだりなどしている。
 ゲッシュはやっとここまで来たかと、汗を拭い、胃を抑える。
 あと残る紹介は一匹だけ。
 だがその一匹が問題であった。
 正直、このことは話さずに済ませたいとすら思ってしまう。
 だがそういう訳にもいかないだろう。
 ゲッシュは覚悟を決めて告げる。
「そしてそのスレイの膝の上に居る蒼い狼。紛れも無くスレイのペットなのですが。その狼の正体は欲望の邪神ディザスターです」
 場が静まり返った。
 何を言っているんだこいつは?という視線がゲッシュに集まる。
 何処か可哀想なものを見る視線すら集まっていた。
 胃がキリキリと痛むゲッシュ。
 だがここで引く訳にはいかない。 
 ゲッシュはスレイに目線で合図する。
 スレイは面倒くさそうにしながらも、ディザスターを円卓の上に乗せ、ディザスターに耳元で何か告げた。
 円卓の上に乗せられたディザスターと乗せたスレイに対し何処か馬鹿にしたような視線が向けられる。
 だが、次の瞬間。
 場が、先程までの静寂とは違う真の意味での静寂に包まれた。
 圧倒的なプレッシャー、物理的な圧力すら持ったそれが場の一同を襲う。
 誰もがそのプレッシャーに押し潰されそうになりながら驚愕の視線をそのプレッシャーを発しているディザスターに向けていた。
 ただ一人スレイのみが、そんなプレッシャーすらものともせず、お茶を飲もうとして、ディザスターのプレッシャーによって割れてしまったティーカップに気付き、侍女に替えを頼もうとするも、侍女が気絶し倒れている事に気付き、どうしたものかと言った困った表情になる。
 あまりにも場違いな光景。
 そしてディザスターがプレッシャーを消しスレイの膝の上に戻るも、場の一同が平静を取り戻すのには、かなりの時間がかかるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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