あれから暫く経ち、円卓は見事に埋まっていった。
まず最初に現れたのは黒髪黒瞳の壮年の威厳ある男と二人の絶世の美少女であった。
壮年の男が纏う圧倒的な威圧感に、スレイとディザスターとフルール以外は敏感に反応している。
そんな中、スレイは気にも留めずに出されたお茶のティーカップを傾け、お茶請けをつまみ、悠然としていた。
そんなスレイに男に連れられた少女の内、黒髪黒瞳のまるで強さをそのまま美に変えたような少女が呼びかける。
「おい、スレイ。久しぶりだな!」
「スレイ知り合い?」
「まあ、知り合いと言えば知り合いだな」
どこか気になったような女性陣を代表して聞いてくる真紀。
それに適当に答えるスレイ。
勿論スレイは少女の正体を知っていた。
闘竜皇女イリナである。
となれば壮年の男は竜皇ドラグゼス、もう一人の白髪赤瞳の少女は癒しの竜皇女エリナであろう。
アッシュの恋人ということで思わずまじまじと見てしまう。
アッシュには失礼だが、どう考えても釣り合いが取れていないと思ってしまった。
イリナは、そのままスレイの元へと歩み寄って来ようとするのを壮年の男に止められ、そのままノブツナ達を挟み、スレイ達とは反対の席に着かされる。
恐らくスレイに対し、イリナがつっかかってきそうな雰囲気から、ドラグゼスはわざとスレイと離れた席にしたのであろう。
「スレイ!あのふざけた手紙について後で話があるから覚えてろよ!!」
怒鳴ってくるイリナ。
そのイリナにドラグゼスは握りこぶしを落としていた。
「痛っ!!」
「どうもすまない、我が娘ながら不調法者で」
困ったように謝罪するドラグゼス。
イリナはどこか恨めしげな視線をスレイに向けながらも黙り込んだ。
恐らくふざけた手紙というのは、アッシュの事をエリナの恋人として認めてやれ、というあの手紙のことであろう。
前途多難だな、まあ自分で選んだ道だ、せいぜい頑張れ。
と、友人の男に心の中で無責任なエールを送っておく。
続いて現れたのは赤髪に茶瞳の壮年の明るい雰囲気の男とその娘らしき赤髪のポニーテールと茶色い瞳の明るい雰囲気の美少女、そしてその後ろに続く見た目はまだ二十代に見えるのに人生に疲れたような雰囲気を醸し出す黒髪茶瞳の男であった。
赤髪に茶瞳の父娘は何やらひどく興味深げな視線をディザスターとフルールに向けていた。
まるで目にお金のマークが見えそうな雰囲気だ。
そんな二人の雰囲気を感じてかますます黒髪茶瞳の男は人生に疲れたような空気を強くするのだった。
だがそのまま大人しく三人は席に着く。
次に現れたのは眩いばかりの黄金色の髪と瞳をした豊かな胸の絶世の美少女と、それに続く五人の男と一人のどこか暗い雰囲気を持った絶世の美女であった。
そのまま黄金色の少女が席に着く。
それを待っていたかのように後に続き席に着く他の一同。
その時僅かに悪戯気に黄金色の髪と瞳の少女がスレイに視線を送って来た。
それに気付き、金髪碧眼の美形の男がスレイに険しい視線を向けてくる。
そして真紀やセリカに出雲、マリーニアまでもがスレイに険しい視線を向ける。
やれやれ、とスレイはややこしい事にならなければいいがと溜息を吐く。
続いて現れたのはストレートの長い蒼髪と蒼い瞳の絶世の美少女と、それに付き従うように縦にロールした豪奢な金の髪と血のように深紅の瞳の絶世の美女、そして十メートル近い体長を持つ巨大な狼と、頭に三つの角を持つ大男が続いた。
その場にいた一同は、なんとか大きめの入り口から入って来た巨大な狼や三つの角を持つ大男よりも、蒼い髪と瞳の美少女と金と深紅の美女の二人の圧倒的な闇の波動に思わず身構える。
だがスレイは変わらず落ち着いてティーカップを傾け茶を楽しんでいた。
そんなスレイに気付いた蒼の美少女と金の髪と深紅の瞳の美女は面白げな視線をスレイに向ける。
そしてそのまま蒼い美少女と金と深紅の美女、そして三つの角を持つ大男は席に座り、巨大な漆黒の狼はその後ろに寝そべり侍る。
必要以上に巨大に造られた王城だから叶った事だろう。
そして最後に現れたのは、金髪碧眼の逞しい体躯を持った、二十代半ばに見えながら、紛れもない“王者”の“威”を纏った男と、縦ロールの金髪に赤い瞳の二十代前半に見える、同じく“王者”の“威”を纏った美女、そしてそれに従う四人の男と二人の女であった。
金髪に赤い瞳の“王者”の“威”を纏った美女、それに従う壮年の男の一人が、スレイに視線を向けて、目配せをしてくる。
軽く受け流すスレイ。
やはり真紀やセリカに出雲、マリーニアがスレイに冷たい視線を向けてくる。
全く動じず悠然とお茶を嗜むスレイ。
そのまま席に着く一同。
だが一人、“王者”の“威”を纏った男は立ったまま告げる。
「ふむ、どうやら一同全て集まっているようだな」
そして男は、静かでありながら広く通る美声で、会談の始まりを告げる。
「それではこれより、各国の代表が集まっての初めての会議、封印が解けかけているという邪神対策の為の会議を始めたいと思う。議長はこのクロスメリア王国国王、アルス・クロスメリアが務めさせて頂きたいと思うが如何か!?」
その言葉に異議を唱えたのは一人であった。
黄金色の髪と瞳を持った美少女のすぐ隣に座っていた金髪碧眼の美形の男が、アルス国王の宣言に喰い付く。
「少々お待ち頂きたい!!この各国の首脳を集めての初めての会議。議長を務めるべきは、誰よりも権威を持つ、我が剣の主にしてヴァレリア教の最高司祭、聖王イリュア様こそ相応しいと申しあげたい!!」
だが、その青年の言葉を否定したのは、当のその聖王イリュアであった。
「待ちなさいヴァリアス!!この会議には我が神ヴァレリアと対を成す、闇神アライナの祝福を受けた王、魔王サイネリア様もいらっしゃるわ。私がこの会議の議長を務めるのは不適切よ」
「し、しかし」
主の否定の言葉に惑うヴァリアス。
でも、とイリュアは続ける。
「失礼ですが、一国の国王であるアルス陛下がこの会議の議長を務めるのも不適切に感じます」
「ほう、それではどなたがこの会議の議長を務めるべきだと聖王猊下は仰るのかな?」
興味深げに聞き返すアルス。
それにイリュアはあっさりと答えた。
「簡単な事です、この国に存在しながら、決してこの国の勢力下に入っていない、一都市でありながら独立性を保った都市、迷宮都市アルデリアが探索者ギルドのギルドマスター、ゲッシュ・アルメリア様を推させて頂きます」
「ほう、なるほど」
その場に集う一同全員から視線を向けられるゲッシュ。
流石にここに集まった面子に一斉に視線を向けられ、冷や汗を流すゲッシュ。
だが既に断れるような雰囲気では無かった。
襲い来る胃の痛みに、また胃薬が必要かと、ゲッシュは考える。
「それでは、ゲッシュ殿、貴殿にこの会議の議長を務めて貰っても構わないだろうか?」
問うアルスに、ゲッシュはヤケになったように返事をする。
「はっ、それではこの会議の議長の大役、身に余る役目ですが、私が務めさせて頂きたいと思います」
そしてゲッシュは大声で告げる。
「それでは、これより、対邪神対策の会議を始めます!!」
こうして、セレディア大陸とディラク島の最高権力者達と最強の実力者達がほぼ全て集まった会議の幕が上がった。
【???】???“???”???
「へえ?」
『どうした?』
『何かあったか?』
『特に何もないようだが?』
「いや、まあ。外界でちょっと面白そうな事になってるなぁ~って思ってね。絶望のはまだ動いてないみたいだし、何をしてるんだか」
『ほう』
『お主』
『ここから外界の事を見れるのか?』
『この全ての過去を見通し』
『全ての現在を見通し』
『全ての未来を見通す』
『三柱にして一柱たる』
『我らが眼ですら阻まれる』
『このヴェスタ世界の歪の中から』
「まあ、見れるって訳じゃないけど、なんとなく感じるんだよ。この人間の身体になってから手に入れた特殊能力のおかげでね」
『ほう』
『それは』
『なかなかに興味深い』
「う~ん、君達が喋る時ってややこしいなぁ。誰が誰だか分からないや」
『それは当然の事』
『我らは三柱にして一柱たる神』
『我らは別神でありながら同神である者』
『故に』
『我らに区別は無く』
『我らは同じもの』
「まあ、それは分かってるんだけどね」
『それで』
『我らが封印は』
『あとどれほどで解けるのか?』
「う~ん、そう急かさないでよ。いくら特殊な能力を手に入れたっていってもこの封印は特別製だ、なかなか解除には骨が折れるんだよ」
『そうか』
『まあ今更僅かな時など』
『我らにとっては意味もない』
『数千年の時を』
『この無の空間で過ごして来た事を考えれば』
『その程度の僅かな時間気にもならぬ』
「そういってもらえると助かるよ」
『それでは我らは』
『この解放までの暫しの時を』
『我らを封じた愚かな勇者達を』
『殲滅し』
『滅殺し』
『滅ぼし尽くす事を考えて過ごすとしよう』
「うわぁ~、君達って物騒だなぁ」
『何を言う』
『人心を弄び』
『人を操り喜ぶお主の方が』
『我らより』
『何倍も』
『性質が悪いではないか』
「うーん、それを言われると弱いなぁ」
『さて』
『それでは』
『解放までの一時』
『我らは』
『勇者達を殲滅する』
『一時の夢を見ながら過ごさせてもらおう』
「うんそうすると良いと思うよ。さ~て、封印解除、頑張るとしようか」
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