まだ日も昇らぬ時間帯。
昨日よりも早く目を覚ましたスレイは隣で眠るセリカに目をやる。
隣に眠るセリカは、夜は実に従順であった。
痛みに耐えながらスレイのどんな要求にも応え、様々な反応をして見せた。
その見事な肢体を味わい尽くしたスレイは、そんなセリカの疲れたような表情に釣られ、髪を梳き撫でる。
気持ちがよさそうに手に頬を寄せてくるセリカ。
可愛いものだと思いながら、スレイは起き上がると、テントの外へと出た。
と、テントを出てすぐ、入り口の前に、真紀が立っていた。
スレイは驚くも、大して動揺もせずに平然と言ってのける。
「どうした、真紀?随分と今日は早いんだな」
「ええ、ちょっと気になることがあってね。セリカが何処に行ったか知らないかしら?」
「セリカか?さて知らないな」
平然とすっ呆けるスレイだが、真紀は疑惑の視線を向けたままだ。
「実は、ついそこで貴方のペットの狼とフルールが居るのを見かけたんだけど、何で外で寝てるんでしょうね?」
「さて、テントの中より外の方が気に入ったのかもしれないな」
スレイは表情一つ変える事もない。
そんなスレイに僅かに戸惑いを覚えながらも真紀は言う。
「ちょっとテントの中を見せてもらってもいいかしら?」
「なんだ、俺の温もりが恋しかったか?まだ他の者達も起きてきていないようだし、なんならその短い時間でスリル溢れる体験でもするか」
真紀は疑惑を薄れさせ、今度は慌てたように赤面して叫ぶ。
「馬鹿!なんてこと言うのよ!」
「そう叫ぶな、他の者達はまだ寝てるんだ、静かにしておけ」
「貴方が馬鹿な事を……」
スレイが平然と返し、それに真紀が噛み付こうとした時、真紀の言葉は尻すぼみに消えていった。
「なぁにぃ~?朝からうるさいわよ~」
テントの入り口が空き、中から掛け布団で身体を包んだのみのセリカが姿を見せた。
凍りつく空気。
真紀が静かに告げる。
「さて、誰が何を知らないですって?」
「ふむ、なんのことやら」
「このっ!!」
瞬時に鞘から抜かれ、振り下ろされる真紀の刀。
感情任せで精彩に欠くそれを、スレイは右手の指先二本で受け止めてみせる。
「いきなり危ないじゃないか?何をする」
「黙れ!この女の敵!!」
「俺の女性関係については納得したんじゃなかったのか?」
「流石に昨日の今日で、しかも自分の友人に手を出されるなんて思うわけないでしょうが!!」
流石にこの騒ぎに他の者達も起き出してくる。
そうして三日目の朝が始まった。
「なんというか、もう。呆れてものも言えんわい」
「言ってるじゃないか」
「本当に本気で、姉さんにだけは手を出さないでくれよ?」
「あの様子だったらその心配は無いんじゃないか?ほら、思いっきり睨まれてる」
「流石に旅程の中で1日ごとに新しい女性を増やすとは。今日もまた増えるんじゃないだろうね?リリアに何と言えばいいやら、胃が痛くて仕方無いから頼むから少しは自重してくれたまえ。明日の朝にはサザンクロスに到着するんだ、せめて今日だけは頼むよ」
「まあ、善処する」
どんどんと繰り出される男達の苦言に、スレイは平然と答を返す。
我が事ながら、恐怖の欠如というのはどうやら戦闘関係のみならず、女性関係にも関わりを持つものなのだな、となんとなくスレイは理解した。
恋人が既に複数いながらも、恐怖が無い為その反応を恐れず、新しい女性に躊躇いなく手を出してしまう。
まあもっとも、恐怖が無いだけでその手の早さは説明がつかないので、スレイ本人の女好きで優柔不断な気質も十二分に関係しているだろうが。
朝食を取った後の暫くの休息の時間。
クロウはただ呆れた表情をしているのみだが、ケリーは本気で心配気な表情でマリーニアとスレイを交互に見やり、ゲッシュに至っては胃薬を飲んでいる。
やはりスレイの膝の上にはディザスターが、頭の上にはフルールが居た。
二匹は、セリカの来訪を予期してテントに戻らなかっただけはあり、特に何も言ってくる事は無い様だった。
ただいつも通りにディザスターを撫で、毛並みの感触を楽しみ、顎の下を擽っているスレイにフルールが言ってくる。
「あ、いいなソレ。僕にもやってよ」
スレイは頭の上からフルールを降ろすと、ディザスターの背中の上に乗せ、ディザスターと同じように身体を撫で、顎の下を擽ってやる。
ディザスターも主のすることなら、と特に何も言ってこない。
フルールに、楽しむような毛並みはなかったが、その鱗はひんやりとして別の意味で気持ち良かった。
身体を撫でられ顎の下を擽られるフルールはやはり気持ちよさそうにしている。
さて、肝心の女性陣だが、マリーニアは昨日より遥かに険しい視線でスレイを睨んできていた。
サクヤに至っては、もうどうしようもないとばかりに呆れた視線でスレイを見やっている。
もはやそのような視線には昨日一日で慣れたため、スレイは特に何とも思わない。
ちなみにユニコーンに至っては昨日スレイに睨まれた恐怖を覚えているのか、初めからスレイに視線を向けていなかった。
ちなみに他の女性陣は、真紀とセリカが険悪なことに……。
という事も無く、なんだかスレイの悪口で盛り上がっているようだ。
しかも結構下ネタまで入っている。
やれスレイは気遣いが足りないだの、やれスレイは手が早すぎるだの。
それこそ幾つもスレイに対する文句を真紀とセリカは言い合っているようであった。
そんな中、話に混じれない出雲がスレイをぼんやりと見ていた。
「?」
スレイが視線を返すと、そのままそっぽを向く出雲。
そうしてそのまま暫く過ごすと、馬車に乗り、一同は王都サザンクロスへ向け出発するのだった。
馬車の中、スレイは両脇を真紀とセリカに固められ両腕を取られ、正面には何故か出雲が座り、周囲を固められた状態である。
ディザスターは定位置のスレイの膝の上に、フルールもそろそろ定位置と化したスレイの頭の上に乗っているが、他の男性陣、女性陣はややそんな四人と二匹から離れた位置に座っている。
それこそ20人乗りの巨大な幌馬車だからこその座り方だ。
両脇を取った真紀とセリカは甘えるように擦り寄って来る、正面の出雲は何故かそんなスレイを興味深げな強い視線で見つめてくる。
他の男性陣と女性陣の視線が痛い。
恐怖を感じないとは言え、この居心地の悪さは流石に針のむしろのようであった。
昨日のライナのように、野盗でも襲って来ないかと期待するが、流石にユニコーンが引き高速で走る馬車に襲いかかれるような野盗は限られている。
その為順調に旅程は進み、そのまま夜になるのであった。
夜。
夕食も終わり、食後の休息も終えて、それぞれのテントの中に入って行く一同。
真紀とセリカは互いに牽制し合うようにしながらテントの中に入って行ったので、今日のおとないは無いと思われる。
しかし何故か今日もまたディザスターとフルールはスレイのテントの中に入って来なかった。
暫く経ちその理由を知る。
テントの入り口から出雲が入って来たのだ。
出雲は入って来るとただ座ってじーっとスレイを見つめ続ける。
何を言う事も無く、微動だにせず、ただ見つめ続ける出雲に、スレイは仕方なく口を開いた。
「どうした、何か用か?こんな所にいると怖い真紀とセリカに襲われるぞ」
自分の女達にこの言い草、実に酷い男である。
「大丈夫、真紀ちゃんもセリカちゃんももう寝た、というか眠らせた、魔法で」
出雲のやってることも友人に対し随分と酷かった。
「そ、そうか。それで俺に何の用なんだ?」
「スレイ、私も抱く」
「は?」
呆然とするスレイ。
そんなスレイに出雲は続ける。
「真紀ちゃんやセリカちゃんだけ大人になったのずるい、だから私も抱く」
「いや、いやいやいや。それは違うだろう。ちゃんとそういう関係は好きになった相手とだな?」
「大丈夫、ちゃんとスレイが好きな相手。私、自分より強い相手が好き。真紀ちゃんとセリカちゃんと同じ」
スレイは出雲が本気でそういう感情を理解しているのかと疑惑の視線で見つめる。
だが出雲の瞳からは何も読み取れなかった。
“心眼”の特性を持つスレイをして何も読み取れないとは、本気で謎の少女である。
「それにそろそろ、スレイ、我慢が利かなくなる筈」
「はっ?」
再度呆然とするスレイ。
その出雲の言葉通り、突然熱い血潮が体中を駆け巡り、激しい性衝動が巻き起こる。
「こ……れは?い、ったい」
「食事に混ぜた媚薬の効果、だからスレイの分だけ私が運んだ」
その言葉に、不器用で料理ができず、そういう作業から隔離されていた筈の出雲が、何故か強引にスレイの料理を運んでいたことを思い出す。
「ちなみにその媚薬、性欲を我慢しようとすると、頭が狂いかねないから注意、魔法による解毒も不可の特別性」
もはやスレイは唖然とするしか無かった。
完全にペースを握られ、全く自分のペースに持ち込む事ができない。
ここまで女に翻弄されたのは初めての経験である。
そして、理性がどんどんと薄れていくのを感じる。
スレイの強大な精神力さえ容易く蝕む媚薬の強烈な効果にスレイは驚きを感じる。
それでも何とかその精神力で以って告げる。
「おい、あんたのその華奢な身体じゃ、俺の本気の行為に耐えられるとは思えん、さっさと逃げろ、それで魔法を解いて真紀とセリカを起こして連れて来い」
その台詞に出雲は口を尖らせると告げる。
「真紀ちゃんとセリカちゃんは関係無いから起こさない。大丈夫、今の私は魔法で肉体強化と自動回復をかけているからどれだけ凄い行為でも問題ない」
なんというか、真紀、セリカ、出雲の三人の中で、一番トンでもないのは出雲なのではないかとスレイは思った。
だがそれを最後にスレイの理性は切れ、意識は失われる。
そして獣と少女の交わりが始まるのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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