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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
19話
 夕方。
 馬車を止め、一同は野営の準備をする。
 馬車に積んであったテントは小型のテントが二張、中型のテントが二張、大型のテントが一張。
 内訳としては、ゲッシュ一人とスレイ・ディザスター組がそれぞれ小型のテント一張ずつ。
 クロウ・サクヤの夫婦組とケリー・マリーニアの姉弟組がそれぞれ中型のテント一張ずつ。
 そして真紀・出雲・セリカ・フルール組が大型のテント一張といったところである。
 もっとも、昼の様子を見ると、フルールはスレイ・ディザスター組のテントに入ってくる可能性も大きいが。
 テントを張っていく男性陣。
 女性陣はそれを眺めながら料理の準備などをしていく。
 サクヤ、マリーニアの探索者組は当然キャンプ料理に慣れているが、真紀、出雲、セリカの異世界の勇者組もアラストリアでの魔王城までの強行軍でキャンプ料理はお手の物……と言いたいところだが、なんでも器用にこなす真紀と、そういう荒々しい料理に適性のあったセリカはともかく、知識面以外では非常に不器用な出雲は結局キャンプ料理すら身に付ける事叶わず、今も両方の作業を眺めているだけである。
 テントを手早く張り終わったスレイは、馬車を引いていたユニコーンを興味深げに見物する。
 ちなみにスレイが近寄った時には威嚇するように睨んできたユニコーンだが、ディザスターに睨まれあっさりと弱々しげな様子になってしまった。
 とはいえ、もし男が世話などしようものなら、ユニコーンがストレスで死んでしまいかねないので、ユニコーンの世話をできるのは、マリーニア、真紀、出雲、セリカの四人だけだが。
 ちなみに出雲がユニコーンの世話という仕事もしていないのは、当然出雲の不器用さを知っている真紀、セリカが止めたからである。
 そして夜。
 ユニコーンの世話も終わり、夕食もとり終え、焚き火を囲み、ゆったりとした時間を過ごす一同。
 ちなみにゲッシュは見張りの当番を決めないかと初めは言っていたが、探索者達も異世界の勇者達も、もし何かがあれば寝ていても気配で分かる、とあっさりと言ってのけた為その意見は取り下げている。
 そんな中、ディザスターを枕に夜空の星を眺めていたスレイの元へ真紀が神妙な表情でやってくる。
 スレイはどこかからかうように告げる。
「どうした?夜のお相手なら喜んで務めさせてもらうが」
 真紀は表情を変える事無くスレイに返す。
「そうね、是非お相手願えるかしら、コレで」
 そういって示すのは腰の正宗(+9)である。
 スレイはやれやれといった感じで起き上がると、真紀に告げる。
「まあ、構わない。ただし今回は双方共に強化などは無しで、ほんの手合わせといった感じでいいか?」
「別に構わないけど、どうして?」
「興味があるんだ」
 スレイは真剣な表情で真紀を見つめ告げる。
 真紀は、え、と思わず顔を赤く染める。
「あんたが使う異世界の刀術、それをじっくりと味わいたい」
 どこかおかしそうにしながらスレイが続きを告げた。
 からかわれたことに気付く真紀。
「あ、あんたねぇ~!!」
「そう怒るな、何故かあんたが相手だとどうしてもこういう調子になってしまってな、悪いとは思ってる」
 真紀は言葉に込められた意味をしっかりと読み取った。
「悪いとは思ってても改めるつもりは無いってこと?」
「ご名答」
 もうどうでもいいと言いたげに、頭を押さえて真紀は告げた。
「とにかく、条件はあんたの言った通りでいいから、お手合わせ願うわ。それとこれ以上からかわれるのは御免よ」
「わかった、わかった」
 立ち上がったスレイは、そのまま焚き火から離れ開けた場所へと歩いて行く。
 それに付いて行く真紀。
 そんな二人を見て、他の全員が物見高くある程度離れて見物人と化す。
「なんというか、本当に物見高いわね」
「まあ、仕方無いだろう。野営では、他に暇を潰すような娯楽も無いだろうしな」
 そうしてスレイは自然体で立ち尽す。
「構えないの?」
「必要無いからな」
 真紀の視線が厳しくなる。
 それにスレイは勘違いに気付き、訂正の言葉を放つ。
「ああ、あんたがどうと言う訳じゃなく、構えるまでも無く既に臨戦態勢なんだ、俺は。クロウも無拍子の特性を持っていたし、同じだと思うんだが、戦った事は無いのか?」
「あるにはあるけど、途中から乱入された感じだったから、既に刀を抜いていたわよ」
 なるほどな、とスレイは得心する。
「それじゃあ、始めようか、何時でもかまわないぞ?」
 そのスレイの言葉に、真紀は不適に微笑むと、刀を正眼に構え、そして次の瞬間には亜光速で、コマ落としのように一瞬でスレイの眼前へと現れていた。
 素のままの速度なら現時点のスレイより速く、そのまま刀が振るわれる。
 しかしスレイは真紀に速さの及ばない雷速ながらも、既に心眼で以って限定的な未来予知すら行い、無拍子でもって真紀に気付かせることすらなく右手の刀を振り上げていた。
 ぶつかり合う刀同士。
 アスラに押し負け、わずかに正宗(+9)の刃が刃こぼれする。
「正宗が?!」
 しかし瞬時に正宗に掛けられている常時修復魔法により、刃こぼれは修復される。
 そのまま怒涛の如く仕掛けられる真紀の亜光速の連撃。
 だがスレイは遥かに速度の及ばない雷速でありながら、心眼の限定的な未来予知と、無拍子による無駄を省いた最適解の動作と、無念無想の思考すら越えた動作により、二刀を以ってそれら全てを防いで見せる。
 そうしながらも、スレイの加速し分割された思考は、洗練された真紀の刀術に驚き、それらから技を盗み、自らの経験ものとしていく。
 力無き者が振るう為、ひたすらに磨き上げられた刀術。
 真紀のそれは美しささえ感じさせ、スレイの目を捉えて離さなかった。
 スレイと真紀の踏むステップは、複雑な舞の如き様相すら呈し、極小さな空間に留まりながらも、その動作量は凄まじいものとなっている。
 二人で踊る刀の舞踏。
 何時の間にやら真紀の頬は紅潮し、まるでスレイに恋い焦がれるように瞳は潤む。
 スレイもまた同じであった。
 戦いながら目と目で通じ合う二人。
 そんな芸術の如き舞踏を見て、同じ剣士として、クロウとケリーが声を上げる。
「ほう」
 クロウは単純に感嘆の声を。
「くっ」
 ケリーは自らが届かない高みに居る二人に対しての嫉妬と羨望の声を。
 そしてケリーはその舞踏を目に焼き付けようとする。
 いつか自分もその高みに立つ、その為に。
 美しい刀の舞踏を踊り続ける二人だが、二人の体力も無限ではない。
 まして真紀は常に最高速度で動き続け、スレイはそれに加えて速度で劣る現状を様々な特性で補っている。
 二人に限界が訪れ、動きが鈍ってくる。
 そして訪れる刀の舞踏の終焉。
 それは真紀の動きのほんの僅かな綻びであった。
 それをスレイは見逃さず、一気に攻勢に打って出る。
 交わる刀と刀、視線と視線。
 そしてスレイの右の一刀は真紀の刀と鍔迫り合い、左の一刀が真紀の首筋に当てられて、二人の舞踏は終焉した。
 それでも絡み合い、決して離れる事の無い二人の視線。
 寸止めされたとはいえ、マーナから迸るのそ蒼い光芒により、真紀の首筋には僅かに傷が付く。
 それに気付いたスレイは慌てて双刀を引いて鞘に納めた。
 真紀もまた自らの刀を引き鞘に納める。
 そんな真紀に近付くスレイ。
 スレイの手が真紀の首筋に伸ばされる。
 何事かと真紀は訝しむが、決してその手を避けようとはしない。
 今の仕合いにより、真紀の中にはスレイに対する信頼すら生まれていた。
 そのままスレイは真紀の首筋に手を当てると呪文を唱え、治癒魔法を発動する。
 首筋の傷が塞がり、それにより違和感に気付いた真紀が首筋に手をやると、その手には傷が塞がる前に流れ出た僅かな血が付いていた。
「ありがとう」
「いや、俺が付けた傷だしな」
 自然に零れる真紀の礼の言葉。
 それにスレイは僅かに照れたように視線を逸らす。
 そんな二人に拍手しながら近付いていく見物人達。
「ふむ見事だった、私にはとても目で追いきれなかったが、実に美しい戦いだった」
「ええ、本当。素晴らしかったわ」
「本当に綺麗でした」
 ゲッシュとサクヤとマリーニアが、二人の刀の舞踏の美しさに賞賛の言葉を送る。
「見事な戦いじゃった、正直血が疼いたぞい」
「本当に凄かったよ」
 クロウとケリーが剣士として、両者の技量を褒め称える。
 それらの言葉に二人は手を振って答え、それぞれ自分を待つ者の元へと戻っていく。

『主よ、実に見事な刀術だった。だがまだまだだ、主にはもっと高みを目指してもらわないと困る』
「ああ、分かっている」
 ディザスターに賞賛と更なる精進を促す言葉で迎えられたスレイは静かに頷く。
「本当に凄いや、強化無しじゃ明らかに真紀の方が総合力でSSS級相当、速度はEX級相当で君より上なのに、そのままで勝っちゃうなんて。流石“天才”だね!」
「というか何故お前がこっちに居る、お前が居るべきなのは向こうじゃないのか?」
「君の傍だと本当に安全だし、なんか落ち着くから気に入っちゃったんだよね」
 フルールがこちらに居る事に疑問を投げかけ返ってきた言葉に、スレイは僅かに溜息を付いた。

「ふふふ、真紀、今の自分の顔見たら驚くと思うわよ。鏡でも見てみたら?まるで恋する乙女みたい」
「本当、なんか真紀、色っぽい」
「そうかもね」
 セリカと出雲に対し、落ち着いて答える真紀。
 セリカと出雲はその素直さに驚いたような顔になる。
「本当に最高だったわ、良い男ね、アイツ」
 そしてまるで発情した獣のような目でスレイを見やった。

 夜中、気配に気付いてテントの中で起き上がるスレイ。
 何故か枕にしていたディザスターと胸の上に乗っていたフルールが、気を遣うようにテントの外へと出て行く。
 代わりに入って来たのは真紀だった。
「どうした?何か用か」
 スレイの疑問の声に答えず、真紀はスレイを押し倒した。
 特に抵抗なくそのまま倒れるスレイ。
 そしてスレイは荒々しく唇を奪われ、そのまま舌を絡ませ合い、唾液を交感する。
 唇が離された後、唾液が糸を引き垂れて行く。
 スレイは、落ち着いた声で聞いた。
「いきなりどうした?」
「ふふっ、どうやら先刻さっきの戦いで、私あなたに惚れちゃったみたい、散々からかわれたけど、本当にこっちでもお相手願えないかしら」
「戦いで負けて惚れるなんて、まるで獣だな」
「ええ、そうね。私ってそういう性質たちの女だったみたい」
 真紀の年齢には見合わぬような凄絶な色気。
 まるで獣の雌のようにスレイを見やる瞳にゾクリと背筋があわ立つ。
「一つ言っておくが、俺は色んな女に手を出してるぞ?」
 何時もの事ながら良い訳がましいな、と自覚しつつスレイが言う。
「別に構わないわ、私があなたを欲しいんだから、そんな事どうでもいいもの」
 対して真紀は単純明快だった。
 スレイはどこか負けた気分になる。
「わかった、お相手しよう。だが、俺は責められるのは主義じゃなくてな」
 そう言うと、スレイは真紀を押し返し、体勢を変え、自らが真紀を押し倒した状態になる。
「あら、責められるのは嫌い?」
 瞳はどこまでも情熱的だが、落ち着いた雰囲気を漂わせる真紀に、スレイは頷く。
「ああ、場合にもよるが、基本的には責める方が好きだな」
「ふふふ、いいわよ?好きに責めてちょうだい」
 艶然と笑う真紀に、スレイは飲まれそうになりながら、関係無い事を呟く。
「そういえば、ユニコーンというのは、処女が誰かと交わろうとする時、邪魔に入って来るらしいが、そういう気配は無いな」
「それはそうよ、いくらユニコーンだって、私とあなたの邪魔をするなんて命知らずな真似はしないでしょう。それとも私が処女じゃないとでも疑ってるの?」
「いや、それは無いな。あんたが処女なのは分かってる」
 スレイは真面目に答えるとそのまま真紀を愛撫しながら服を脱がせていく。
「綺麗だな」
 今の真紀にはその強さと興奮故の、凄艶な美しさが感じられた。
「ふふ、あなたに褒められると何か嬉しいわね。こんな感情初めてよ」
 スレイは真紀の服をある程度はだけると、次は自らの服を脱いでいく。
「あら、完全に脱がせない方がお好みなのかしら?」
「まあな」
 スレイは自らもある程度服を脱ぐと、そのまま真紀の上に覆いかぶさっていく。
 そして二匹の獣の交わりが始まるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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