「それは、ディラク刀か?」
やや違和感を覚えながらスレイが尋ねる。
刀身、柄、鍔、全てがほぼ同じ造りに見えながら、どこかディラク刀とは乖離しているようにも見える。
そんなスレイ達にすると不思議な刀だ。
「いいえ、これは日本刀っていうのよ」
「日本刀?」
「そう、その刀はディラクという国で……いえ、スレイとクロウのは神が作ったものらしいけど、基本的にディラクという国で作られた刀だからディラク刀なんでしょ?私の刀は私の世界の日本という国で作られたから日本刀、それも幻とされる正宗の銘が入った長物、しかも正真正銘の正宗作の刀よ」
「銘?正宗?」
スレイはどこか不思議そうに呟く。
「そう、私の国日本では伝説扱いさえされている名工よ。この世界のディラク刀にはそういうのは無いの?」
真紀も不思議そうに尋ねる。
「ふむ、そもそもディラク刀を作れる刀鍛冶自体がフツ神からその技術を賜った一部の刀鍛冶のみじゃからのう。ディラク刀を作れる者は全て名工。故に特に優れた傑作に刀の名前としての銘が与えられる事はあるが、刀工の名を刻むような習慣はないぞい。寧ろそういう習慣は大陸の刀剣類で見られるものじゃな」
「へえ、そうなの」
どこか面白そうな真紀。
元の世界との差異に興味を覚えているのだろう。
その時スレイの後ろからフルールが顔を出して告げる。
「ちなみに、いくら名工の作と言っても、ただの鋼の刀じゃアラストリアの魔物相手じゃすぐにボロボロになって使い物にならなくなっていただろうね。だから召喚してすぐにアラストリアの最高級の付与魔法で強化したから、この世界流に言うと“正宗(+9)”って感じかな」
「ふむ、ところでどうして日本刀というのはこんなにディラク刀に似ているんだ?」
なにげなくスレイが口にした疑問にフルールが答える。
「それはフツ神の出身と才能故かな」
「出身と才能?」
オウム返しに問い返すスレイ。
「そう、まずフツ神というのは真紀達と同じく異世界の日本という国の出身だ」
「私はアメリカ出身よ」
横からセリカが口を出す。
それを無視してフルールは続ける。
「だけどフツ神がこの世界に喚ばれた時点ではこの形での日本刀は存在しなかった。だけどフツ神は独力でほぼ現在の日本刀と同じディラク刀というものを完成させてみせたんだろうね。それが才能ってことさ」
「なるほどな」
スレイは頷いた。
クロウやケリーなども感心したように頷いている。
そしてスレイは再度真紀の正宗(+9)に目をやった。
あるいはクロウの双神刀よりも清冽な輝きを放ち神聖さを感じさせる刀身。
人の技術というのはここまでのものを生み出せるのかと感じ入る。
そこへセリカがつまらなそうに口を出す。
「ところでこの世界に銃は無いの?」
「銃というのは?」
スレイの疑問にフルールがまた顔を出し答える。
「火薬なんかで、小さな弾を高速で飛ばす武器の総称さ。まあ、この世界には無いね」
「ふむ、説明を聞いても良く分からんな」
そんなフルールとスレイの会話に、セリカがつまらなそうに口を尖らせる。
「つまらないの」
そして太ももの銃ホルダーから銃を取り出した。
瞬間スカートがめくれ見えた眩しい太ももに、スレイとクロウ、ケリーは視線を奪われる。
「熱っ」
そしてクロウのみがサクヤの火の魔法で軽く火傷を負っていた。
まあ、妻がすぐ傍にいたが故の不幸だ。
それはともかく、セリカが取り出した銃は実に武骨な鉄の塊であった。
巨大で、造りも実にごつい。
片手持ちの拳銃のようだが、拳銃としては実に規格外である。
もっともそのような事、銃を知らないスレイ達には分かりようも無かったが。
「それが銃というものか?」
「一応そうなんだけど、これ私の世界のものじゃないし、撃ち出すのは魔力なのよね」
スレイの質問にセリカが返す。
そこでまたスレイの後ろからフルールが顔を出す。
どうやら安全地帯ということで、スレイの後ろが気に入ったようだ。
そんなフルールに、スレイの膝の上のディザスターがやや険しい視線を向けている。
ディザスターの視線にややビビリながらもフルールは説明する。
「セリカの銃はアラストリアの魔導銃だよ。魔力そのものを弾丸として撃ち出す代物だね。魔法という形を取らない魔力の塊を撃ち出し、さらにセリカ自身の意志の力を込めることで、ある意味では魔法を超えた威力を生み出すし、速射・連射も可能な優れものさ」
フルールの説明にややセリカが得意気に胸を突き出す。
その豊かな胸にまた視線を奪われる男三人。
「痛っ」
そしてまたクロウのみが、今度はサクヤの魔法で打ち出された土の礫でダメージを受けていた。
刀神の名が泣きそうな醜態だ。
そんな中、話に交じれないのと、魔導銃が魔法を超えたと言われた事に、出雲が不機嫌そうな顔をしている。
アラストリアでの経験からの悲しい習性か、そんな出雲の顔色を読んだフルールは、すぐさま出雲のフォローに走る。
「ちなみに出雲はアラストリアの魔法大系の全てを極めた大魔導師だよ。この世界の魔法大系とは全くの別物だけど、一つの世界の魔法大系を完全に極めているのは出雲の優れた才能があってこそだね。君達だってこの世界ヴェスタの魔法大系を全て極めた魔術師なんて聞いたことも無いだろう?」
「ふむ、確かにな」
「そんな魔術師は伝説にも聞いたことが無いよ」
「サクヤでさえそこまでではないな」
男三人が感心したように頷くのに出雲は得意気に胸を張る。
ちなみに目を奪われる程の胸の起伏が無い為、今度はクロウがダメージを負う事は無い。
それに気付き、出雲はまた不機嫌になる。
そんな出雲を無視して真紀がスレイ達に再び話しかける。
「それで、さっきは議論が白熱していたようだけど何の話をしていたのかしら?」
「ああ、刀術で一番重要な要素は何か、という議論をしていたんだ。ちなみに俺は速度を推しているんだが」
そんなスレイに呆れ顔を向ける真紀。
「それは貴方程の桁違いの速度があれば、速度で全てを圧倒できるでしょうけど、あまり一般的じゃないと思うわよ、ソレ」
自分の考えが否定され、やや不機嫌になるスレイ。
「それで、他の二人はそれぞれ何を推していたのかしら?」
すぐに答えたのはケリーだった。
「俺は技量、技が一番重要な要素だと推していました」
「儂は精神性かの、どんな状況でも常に変わらぬ精神力、それを推しておったわい」
そんな二人に、真紀はまた呆れたように言う。
「本当に極端ね貴方達。私は正直総合力と言いたいけど、総合力でクロウに勝ってても勝負には負けたからね。どんな時でも実力を出し切れる精神力は大前提として、速度と技量と経験、それらの総和が重要なんじゃない?」
そんな真紀に、スレイが異議を述べる。
「いや、全て重要な要素だと分かった上で、中でも一番重要な要素はって議論をしていたんだが」
「なによそれ、そんなの答えなんて出る訳無いじゃない。答えの出ない議論なんて楽しいの?」
言われてどこか罰の悪そうな表情を浮かべる男三人。
実はその答えの出ない議論を楽しんでいたので、何も言い返す事はできない。
そんな様子に気付いた真紀は、呆れたような顔をして、次に真剣な表情でスレイに顔を向ける。
「ところで、ユニコーンの体力も無限って訳じゃないから、夜はキャンプを張って泊まるのよね?その時私の相手をしてくれないかしら?」
途端セリカと出雲が顔を赤く染めてキャーッと騒ぐ。
「ちょっと聞いた?夜の相手をしてくれって」
「うん、真紀ちゃん、だいたん」
それにクロウとケリーまでが乗る。
「ほう、スレイお主、女性に手が早そうだとは思っていたが、やはりの」
「姉さんには手を出すなよスレイ」
真紀は顔を真っ赤にしながら出雲とセリカに言い返す。
「あんた達!分かってて言ってるでしょう?刀の相手よ、刀の!!」
「さて、俺としてはどちらの相手でも構わないが」
スレイはただ飄々と受け流し相手にしない。
「お主、ノリが悪いのう」
「もうちょっと反応とかしてやるべきじゃないか?」
クロウとケリーが、真紀に同情の視線を送る。
そんな様子にますます腹を立てたように真紀はスレイに怒鳴るように告げる。
「ともかく!夜に仕合ってもらうわよ!!いい!?」
「まあ、俺としても異世界の刀術とやらに興味はあるから構わないが」
スレイが頷くと、真紀は納得したように、元々自分が座っていた席に戻っていこうとする。
出雲とセリカもその後へと続く。
そんな背中にスレイがすっ呆けた様子で声をかける。
「ところで、もう一つの夜の相手はいいのか?」
瞬間、真紀がとって返し、鞘に入ったままの正宗(+9)を上から振り下ろす。
それを軽く受け止めたスレイを睨みながら、真紀は告げる。
「夜、覚悟しておきなさいよ?」
「どっちの意味でだ?」
どこまでも落ち着いて返すスレイに、真紀は疲れ果てたような溜息を吐いた。
そしてそのまま出雲とセリカを従えて戻っていく。
真紀の後に続きながらも、出雲とセリカは振り返り、どこか感心したようにスレイを見ていた。
そんな2人の内心を代弁するようにフルールが告げる。
「あの真紀を翻弄するなんて、君ってすごいなあ」
「まあ、慣れだよ慣れ、色々経験を積めばあの程度はな」
そして再びスレイはクロウとケリーとの会話を続けるのだった。
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