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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
17話
 クロスメリア王国最南端の迷宮都市アルデリアから、クロスメリア王国中央の王都サザンクロスに繋がる街道。
 20人は乗れるだろう巨大な幌馬車が、荒い気性を持ち強大な力を持つ聖獣ユニコーンに引かれ、その街道を進んでいた。
 聖獣とは神獣には及ばないまでも、特別な力を持った、それでいながら理性と知性を持つ、強大な獣の事だ。
 ユニコーンといえば、S級相当の力を持つと言われている。
 ある地方ではそれこそ崇められたりして特別視されていたりもするが、このように地方によっては平気で飼い慣らし、馬車を引かせたりなどといった労働に使っている。
 同じくS級相当の力を持つ聖獣にはペガサスもいる。
 ペガサスは空を飛ぶその速度が、ユニコーンはその力が強大だという事で、馬車を引くのはユニコーンの仕事だ。
 今回のように巨大な馬車であってもかなりの速度で進む事ができる。
 もっともユニコーンやペガサスなどを所持できるのは、よほどに権力や財産を持つ者だけだ。
 しかもユニコーンの場合、乗客の中に一人でも生娘が存在しなければ、まともに働いてくれないという欠点がある。
 幸いな事に今回の乗客の中には生娘が四人も居た。
 なのでユニコーンは張り切って馬車を引いていた。
 大陸には騎兵として、ペガサス騎士団や生娘だけのユニコーン騎士団などがあるが、それらの騎士団がユニコーンのこの姿を見ればやりきれなさに泣くかもしれない。
 巨大な幌馬車の中、そこに居るのはまずは馬車とユニコーンの持ち主である探索者ギルドマスター・ゲッシュ。
 続いてクロウ、サクヤ、ケリー、マリーニアという四人の師弟。
 そして真紀、出雲、セリカ、フルールといった三人と一匹の異世界からの来訪者。
 最後にスレイ、ディザスターの一人と一匹である。
 馬車の構造自体も特別性らしく、中にいる者達は殆ど揺れを感じる事は無かった。
 ちなみに御者はいない。
 ユニコーンほどの知性を持つ聖獣ならば目的地さえ理解させれば、御者などというものは必要ないのだ。
 異世界組の真紀、出雲、セリカの三人は、外を見てその速度に驚きを示していた。
「ずいぶんと速いのね、自動車よりずっと速いんじゃない?」
「それはそうだよ、何せユニコーンやペガサスの本来の速度は超音速だよ?これでも馬車を引いてる事と馬車を壊さないよう注意しての移動だから、大分速度は抑えられてると思うよ。それでもこの大陸は君達の世界の大陸よりも広大で道も悪いから、この小国クロスメリアでも、王都サザンクロスまでは三日はかかるんじゃないかな?」
 フルールが我がことのように自慢げに説明する。
 真紀はいつもの如くそんなフルールの首を絞めていた。
「ぐぇっ、いきなり何をするのさ!!」
「いや、あんたが得意気な顔をすると何故かムカついて」
 あまりに理不尽な真紀にフルールは真紀達の傍を離れると、スレイの元へとやってきていた。
「どうした?何故俺のところに来る」
「いや、君はとても興味深いし、それに君の傍なら真紀の矛先は君に向かうだろうから安全だろうと思って」
 自分が安全地帯呼ばわりされたことに少々腹を立てつつも、外を見て、スレイはやや億劫げに呟く。
「別に王都サザンクロスまで行くだけなら、俺とディザスターなら一瞬なんだがな」
『当然だ、我と主は特別だからな』
 そんな主従に苦笑して、ゲッシュが言う。
「ははは、君達なら確かにそうなんだろうが、流石に私達が居なくてはギルドの代表として訪問することはできないから、君達だけ先に行ってもらっても意味が無いからね。たまにはのんびりと馬車の旅と洒落込まないかい?スレイくんの場合、迷宮都市アルデリアに来る時は徒歩だったのだろう?」
「まあな、それでも移動速度は今のこの速度よりはずっと速かったがな、迷宮都市に着くまでにかかった時間の殆どは途中で巻き込まれた騒動が原因だ」
「なんというか、本当にスレイくんは、トラブルに巻き込まれる体質なんだね。流石は運勢:Gかな」
 ゲッシュには嫌味が無いので、軽く聞き流す。
 そしてスレイは先程までの会話、クロウとケリーとの会話に戻る。
「しかし、ケリーのそれはヒヒイロカネ製のディラク刀か。見せてもらってもいいか?」
「ああ、だけどクロウ様から与えられた大事なものだから、扱いには注意してくれよ」
「わかっているさ、いくら自己修復能力を持つヒヒイロカネ製とはいえ、俺達刀を扱う者にとって刀は自らの一部も同然だからな」
 そして渡されたディラク刀“桜花”と“散葉”を見て、その清冽な輝きに溜息を洩らす。
「なんじゃい、単純に力や価値ならお主の双刀の方がよほどに上じゃろうに、そんなに憧れるような視線で見て」
 クロウはそんなスレイの様子に呆れ顔だ。
 同じ刀を扱う者として、スレイはクロウとケリーと交流を深めていた。
 ケリーにしても真っ直ぐな気性の為、すぐにスレイの実力を認め、今では友人と呼んでもいい関係となっている。
 クロウについては流石に年齢が遠すぎる為、良き先達といった感じだが。
 そんな三人の話題が刀の事に偏るのは当然であった。
 サクヤやマリーニアはどこか呆れたようにそんな三人を見ている。
 三人共、まるで玩具を前にした子供のようである。
 玩具というにはあまりに物騒すぎるが。
 そんな二人の視線には気付かずに三人は会話を続ける。
 ちなみにディザスターは主の膝の上を満喫しながらも、決して三人の会話を邪魔しないように大人しくしている。
 実にペットとして出来た邪神であった。
「俺の双刀は、神の創ったものだというのに、もはや妖刀・魔刀の類だからな。あんたの双神刀もそうだが、こういう清冽な美しさを持ったディラク刀には、それは憧れるさ」
 そういって、僅かにアスラとマーナを抜くスレイ。
 僅かに見えた刀身は、相変わらず凄まじいまでの禍々しい波動を放っていた。
 馬車にいた他の者達がその力に当てられる。
 特に双刀をスレイに与えた筈の元の持ち主のゲッシュなどは顔色を蒼くしている。
 すぐさま双刀を納めるスレイ。
「確かに、凄まじく美しいけど本当に禍々しい波動だな」
 ケリーが同意する。
「まあ、なにせ刀の持つ能力が、片やは敵の血を啜って、片やは敵の精神を喰らって成長していくなんて刀だからな。それはそれで仕方ないのだろうが」
「それは、なんというか。凄い能力だな」
「今よりどんどん成長して行くとは、最終的にどんな代物になるのか、想像するだけで恐ろしいのう」
 ケリーとクロウがやや引いたように言う。
「ところでクロウの双神刀の能力はそれぞれどういうものなんだ?」
「ふむ、まあお主やケリーになら教えても良いかの。まず神刀アマノムラクモ、こいつは天候を自在に操る力を持っている、お主との戦いで落とした超自然の雷などもその力で生み出した特別性の神雷じゃな。ただの雷では遅くて話にならんが、超光速の雷などを創ることも可能じゃからあの世界でも通用した力じゃの」
「ふむ、そのアマノムラクモで俺の魔法をあっさりと薙ぎ払ったのもその刀の力じゃないのか?」
「ほう、良く見ておるのう。まあその通りじゃ。アマノムラクモという名は元は剣神フツの故郷である異世界の刀の名ということでの、その世界の神話で草を薙ぎ払い炎を防いだなどという逸話があって、それが原因で敵の魔法攻撃も草を刈るように容易く薙ぎ払って消し去る事ができる能力を付けたらしいの」
 本来のこの世界の人間が知る事などできぬ知識だが、シークレットウェポンの真の主となったものは、そのシークレットウェポンについての知識を自然と脳裏に刻まれるので、クロウが異世界について語れるのも不思議なことではない。
「次に神刀アメノハバキリ、こいつの能力は強力な対竜種能力じゃの。この名の元となった刀は元の異世界で竜を倒したという逸話もあるらしいしの」
「それだけか?あの超光速の戦闘で、一撃で八つの斬撃を放っていたと思うんだが」
「それもその逸話が原因での、倒した竜というのが八つ首の大蛇だったらしい」
「なるほど、八つの首を同時に落とす為の一撃での八つの斬撃か」
 感心したように頷くスレイ。
 ケリーも師が明かす師の武器の能力に驚いたような表情を浮かべている。
「じゃが、これでシークレットウェポンとしては神話ミソロジー級じゃと言うのじゃから、馬鹿息子や勇者王アルスが持つという究極アルテマ級のシークレットウェポンがどれだけとんでもないものじゃか見てみたいのう。まあ成長する能力を持ったお主の双刀はある意味では究極アルテマ級以上じゃろうが」
 流石に、自ら成長を果たす刀などというものは、最終的な到達点を考えれば、規格外の代物だ、そんな双刀をクロウがやや畏怖したように見やる。
「ところで、お主も居合いでとんでも無い威力の二つの斬撃を放っていたが、あれはなんじゃ?流石に刀だけの力とは思えんが」
「ああ、あれは鞘の力だな。鞘には双刀の成長と合わせて硬度がどんどんと成長していくという能力があるから、鞘に双刀を納めたまま力を最大限に込めて圧縮し、居合いで一気に解き放ったんだ」
「なるほどのう、鞘もまた規格外か。本気でお主には驚かされるわい」
 一通り武器の話が終わると、三人は今度は刀を使った戦闘談義に戻ろうとする。
 なにせそれぞれが刀術で一番重要な要素というものに別々な意見を持っているので、議論も白熱するというものだろう。
 ちなみにスレイが最も重要だと推しているのは速度である。
 そんな三人に横合いから声がかけられた。
「あら、武器の話だったら私達も交ぜてもらえないかしら?私達も貴方達の武器に興味があるわ」
 真紀と出雲とセリカが、何時の間にか席を移動し近付いて来ていた。
 フルールは慌ててスレイの後ろに隠れる。
 そんなフルールを呆れたように見ながら、真紀はスレイ達の得物を見る。
 その瞳には強い好奇心が浮かんでいる。
「特に私は、そのディラク刀という代物には非常に興味があるのよね」
 そして真紀は自らの得物を差し出し抜きはらった。
 それはまるっきりディラク刀と同じ形状の刀であった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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