職業神ダンテスの神殿。
その神殿騎士の宿舎。
ジュリアの元を訪れたスレイはそのまま二人で外へと繰り出していた。
ちなみに今日はディザスターも付いて来ている。
久しぶりに主であるスレイと共に出かけられて嬉しそうだ。
ただ神殿に入るとき、神殿を満たす神気が僅かに恐怖の波動を発したように思えたのだが。
やはり神も、顕現できないとはいえ自分を奉る神殿の様子は伺っているのだろう。
神が恐怖するとは流石は邪神といったところだろうか。
最近のディザスターはスレイにとっては賢い可愛らしいペットぐらいの認識だったので、ディザスターの邪神らしさを久しぶりに見た気分だ。
「なるほどね、ルーシーはそんな事になっていたのか。最近ルーシーの母親である友人が悩んでいるようだったんだけど、理由が分からなくってね。教えてくれてありがとう、助かったよ」
「ふむ、やはりジュリアも知らなかったのか、道理でな。知っていれば真っ先に動いていただろうからおかしいとは思っていたんだが」
スレイは今回の目的であるルーシーに関して、ジュリアに確認を取っていた。
彼女があの天魔病にかかり、二人で採って来た薬草で天魔病を治した少女で間違い無いと確信していたからだ。
そしてその確信は正しかった。
ただ、ジュリアもルーシーの変貌については知らなかったらしい。
どうやらルーシーの母親がジュリアには相談しなかったようである。
まあ、それに関しては正解だと思う。
ルーシーは単純に魔力だけならジュリアすら越えている。
自分は闘気術と魔力操作の併用での強化を用い、さらに思考加速と思考分割で無数の魔法の防御壁を生み出しルーシーの放った全力の魔法を正面から防いでみせた。
だが魔力の低いスレイがルーシーの魔法を正面から受けていれば、容易くやられていたであろう。
ジュリアとてただ威力が大きいだけの魔法なら、防ぐ手段はいくつも持っているだろうが、流石にあれほどの魔力とは想像していない可能性が高い。
もし仮にジュリアがルーシーの母親に頼まれ、ルーシーの改心の為に動いていれば、ジュリアがやられて、ルーシーがますます増長していた可能性もあり得ない事ではない。
だからスレイは初めからジュリアに情報を提供し、心構えをしてもらう。
「ちなみにルーシーの魔力はSSで、しかも魔法に関する特性を山ほど持っている。もし正面から挑むつもりなら、手加減などせず全力で叩きのめしてやるんだな」
「いや、友人の娘を叩きのめすとか、そんな物騒な」
「だが、今のルーシーの性格を考えれば、普通にそんな展開になると思うぞ?」
ジュリアは困惑した表情をする。
「素直な良い娘だと思っていたんだが、それほどに性格が変わっているのかい?」
「俺は元の性格を知らんので何とも言えないが、少なくとも素直な良い娘、なんて代物ではないな」
ジュリアは信じられないように頭を振る。
スレイもルーシーが以前はそんな『素直な良い娘』だったなどという情報に、驚きを隠せない。
そしてそのまま二人はルーシーが住む家へと向かう。
スレイが家庭訪問と称して、ジュリアに誘いをかけたのだ。
友人の娘で、自分も昔から良く知る相手だということもあって、ジュリアは二つ返事で了解していた。
ジュリアに案内され、向かった場所には、ごく普通の中流家庭らしいそれなりの家があった。
ジュリアが呼び鈴を鳴らす。
「はーい、どなたですかー?」
「私だ、ジュリアだ。今ちょっと良いだろうか?」
扉の中から聞こえてきた声にジュリアが答える。
答えを受けて扉はすぐに開かれた。
中から出てきた女性は明るい茶髪と蒼い瞳の、どこかふわふわとした雰囲気を漂わせる女性であった。
容姿としてはルーシーに似ているのだが、漂わせる雰囲気は正反対である。
「お久しぶり、ジュリア。来てくれて嬉しいわ。今日はどうしたの?」
ジュリアに嬉しそうに挨拶すると次にスレイに気付き視線を移す。
「こちらの彼はジュリアの恋人かしら?」
「なっ!?」
「ああ、そうだ」
いきなりズバリと切り込まれ、動揺するジュリア。
それに構わず、スレイは動揺することなくあっさりと肯定する。
「あらあら、ジュリアに恋人なんてお目出度いわね。お赤飯でも炊きましょうか?」
「ルミア!!」
「あら?怒っちゃった。ごめんなさいジュリア、ほんの冗談だから許して頂戴」
何というか、測り難い人物だとスレイは思う。
見事に手玉に取られたジュリアは、無理矢理表情を引き締めると、ルミアに対し単刀直入に切り出す。
「実は今日は、ルーシーのことについて話があって来たんだ」
とたん、ルミアは表情を重いものに変え、ジュリアを見返す。
「そう、今のルーシーの状況を知っちゃったのね?」
表情は変わっても、脱力するような緩い雰囲気は変わらず、自分が相手をしていたら、調子を崩されていたな、とスレイは思う。
「実は、こちらのスレイ君が、エルシア学園で臨時講師をしたフレイヤさんの助手として付いて行ったという事でね、その時のルーシーの様子を聞かせてもらったんだ」
「あら、そうなの。ごめんなさいね、スレイさん、でいいのかしら?」
「ああ、構わない」
「本当にごめんなさいね。あの娘ってば、天魔病が治ってから手に入れた大きい魔力に溺れちゃって、本当に自信満々で。だけど学園での実習で鼻っ柱を折られたらしくて、今はその相手に報復する為とか言ってますます魔法にのめりこんじゃってるのよ」
「そ、そうか」
「あら、そういえば、ルーシーの鼻っ柱を折ったのもスレイって名前の人だったわね。もしかして同一人物かしら?」
「まあ、そうなるな」
なんというか、自分に報復するなんて話を、その相手の親から聞かされて、スレイとしては複雑極まりない気分である。
「しかし、何で相談してくれなかったんだルミア?」
「ごめんなさいね、流石に今のあの娘をジュリアに見せたくは無くて」
「すまない、一つ聞いていいだろうか?」
「あら、何かしら?」
横から口を挿んだスレイに、ルミアが続きを促す。
「ルーシー程の大きな娘が居るってことは、ジュリアとは結構年齢が離れてると思うんだが、どういう知り合いなんだ?」
「ふふっ、ジュリアのことが気になるのかしら?可愛い恋人さんね」
「ルミア!」
ジュリアの怒鳴り声を意に介さずに、ルミアは続ける。
「昔、私が結婚したりジュリアが職業神の神殿に入信する前は、隣同士の家に住んでてね、良く私がジュリアの面倒を見てあげていたのよね」
「なるほど」
そういう関係ならば、ジュリアの過去を色々と聞けるか、などとスレイが考えると、その考えを読んだようにジュリアが告げる。
「スレイくん、ルミアから私の昔話を聞くなんて事はやめてくれよ?女性の過去を詮索する男は嫌われるぞ」
「あら?男っ気なんて全く無い過去なのに、恋人に知られて困ることなんてあるのかしら?」
ルミアのある意味酷い言葉にジュリアはガクリと項垂れて返す。
「……確かに私の人生に男っ気など無かったが、色々と知られたくない事ぐらいあるさ」
「ふふ、ごめんなさい。ほんの冗談よ」
完全にジュリアが手玉に取られてるのを見て、スレイは何となく二人の関係を理解した気になる。
「ところで、肝心のルーシーに会いたいんだが、今、家に居るだろうか?」
「ごめんなさい、あの娘、最近はエルシア学園の図書館に入り浸りで、夜遅くまで帰って来ないのよ」
スレイは思わず『図書館』という単語に反応し、エルシア学園を訪れる機会があれば、かならずそこに立ち寄ろうと考える。
「それにあの調子じゃ、多分憧れのジュリアの言う事でも聞いてくれないわね」
「そうか」
僅かに項垂れるジュリア。
どうやらジュリアはルーシーに懐かれている自信があったようだ。
それでも駄目だと言われ落ち込んだのだろう。
「だから、スレイさん。ルーシーの事をお願いね?」
「俺が?」
「ええ、エルシア学園での実習で、ルーシーと他二人の子を自分が面倒を見るって言って、先生って呼ばせているんでしょう?今のルーシーでも全く歯が立たないらしいし、だから貴方だったらルーシーの性格を元に戻してくれるんじゃないか、って期待してるの」
「そうか、分かった。ジュリアのこともあるし精一杯努めさせてもらうさ」
「すまないスレイ君、私からも頼む」
「そうか、恋人からの頼みとあっては張り切らなくてはな」
その後ルミアは二人に家に上がるように促し、リビングルームでそのまま暫くジュリアとルミアが歓談し、その後ルミアの家を辞す。
帰路でスレイはディザスターに先に宿に戻っていてくれるように頼む。
『またか主よ。最近は留守番が多くて酷くつまらないぞ』
「まあ、そう言わないでくれ、今日もお土産を買って帰るから」
『ふむ、それじゃあ今回も何か甘いお菓子をたっぷりと買ってきてくれ、ケーキなどがいいな』
狼だがディザスターは極度の甘党であった。
僅かに苦笑しつつスレイは頷く。
そしてディザスターは先に宿へと戻っていく。
スレイはそのままジュリアと共に、職業神の神殿騎士の宿舎のジュリアの個室までやってきた。
部屋に入ると同時にスレイは後ろからジュリアを抱きすくめる。
「す、スレイ君!?」
「どうした?何を驚いてる。俺は今日ジュリアの所へ来た時からこういう展開を期待していたんだがな?」
「わ、私もそうだが、その前に色々と準備というものが」
「悪いが今すぐがいい」
そしてスレイはジュリアの胸を揉みしだきながら、衣服を脱がせていく。
「きゃっ!」
そのままジュリアを軽く横抱きにすると、ジュリアが常に無い可愛い悲鳴を零す。
それに笑みを深めながらスレイはジュリアをベッドに横たえ、自分はその上に覆いかぶさっていく。
そして唇を重ね、そのまま恋人同士の秘め事に溺れるのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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