迷宮都市アルデリアの広場。
過去に様々な偉業を成し遂げた探索者達の名が記された碑。
その前で待ち合わせていたリリアが来るのを待ち、合流したスレイ。
そのまま2人は腕を組み歩き出す。
リリアとはこのように外で落ち合う事が多かった。
だがいつもとは違い今日のリリアは不機嫌そうである。
その理由である話題をスレイから切り出す。
「それで、“女帝”と“剣女神”と呼ばれるエルシア学園の生徒について調べはついたのか?」
スレイのデリカシーの無さに、リリアは腕を組んだままスレイの脇腹を抓る。
「いたたっ」
「全く、自分の恋人に他の女の事を調べさせるわ、折角のデートだっていうのにすぐにそんな話題を出すわ、スレイくん、男としてどうかと思うわよ」
「あ、ああ。すまないな、どうもこの間からそいつらの事が、女だからという訳じゃなく、戦う相手としてどうか、と気になってな」
「言い訳臭い」
リリアは口を尖らせ斬って捨てる。
そんな姿も可愛いと思える自分の脳の色ボケ具合に、自分は大丈夫だろうかと、真剣にスレイは悩みを覚える。
リリアは仕方が無さそうに切り出した。
「それで、エルシア学園生徒会長“女帝”エカティーナと、風紀委員長“剣女神”セリアーナについてだったわね。調べてみたら随分ととんでもない娘達みたいね」
「ほう、そんな名前だったのか」
自分が知りもしなかった相手の名前をあっさりと調べているリリアの手際に感心を覚える。
そんなスレイをじと目で見ながら、リリアは関係無い事を切り出す。
「そういえば、スレイくん。フレイヤさんの臨時講師の仕事に付いて行って、エルシア学園学年主席の3人に特別授業をしたんだって?」
「ああ、まあな。個人的な事情と、あとあのままじゃ勿体無いと思ってな」
なんてことも無さそうにそう言ってのけるスレイに、リリアは感心したような呆れたような溜息を零す。
「まあ騎士科でも2人しかいない既に騎士職に就いてるライオット・グレイブに関しては、グレイブ公爵はむしろ天狗になっていた自分の息子を鍛え直してもらって感謝しているみたいだし、魔術師科のルーシーって娘の両親も、ちょっと前に患った重い風邪が治ってから豹変しちゃった娘をどうにかしてくれるならありがたいって感じみたいだけど、闘士科のジーク・グランドに関しては後々問題に巻き込まれるかもよ?」
「ほう、どうしてだ?」
一番気に入っている生徒であるジークの姓が分かったのと、問題に巻き込まれると指摘されたのに対しむしろ好奇心が疼く。
「彼の家、グランド家って素手での戦闘術に関しては大家で、色々と分家も持つような家で、その総本家だからね。勝手にその家の嫡子に色々と教えられたりしたらそれは気に入らないでしょうね。まあ、本人は素直ないい子みたいだけど」
「なるほどな」
それはそれで面白そうだと、スレイは心の中で呟く。
「今、『それはそれで面白そう』とか思ったでしょ?」
「なんで分かった?」
いきなり自分の心中を指摘され驚くスレイ。
「そりゃそれだけ分かりやすく嬉しそうな表情してれば分からない方がおかしいわよ。そ、それに、わ、私はスレイくんの恋人だし」
前半は自信満々に、後半はどこか恥ずかしげに言うリリアを可愛いと思い、やはり自分の色ボケ具合が心配になるスレイ。
「まあ、ジークのことは置いておいてだ」
仕切り直すためにそう前置きし、続けた。
「調べてもらった“女帝”と“剣女神”って娘の情報を教えてもらえるか?」
「え、ええ、そうね。まずは彼女達の生まれなんだけど」
リリアも恥ずかしさを誤魔化すように話題に乗ってくる。
「これに関しては全然何も無かったわ、ごく普通の平民の中流家庭の生まれ、ただエカティーナって娘の父親は王都で官僚をしてて、セリアーナって娘の父親はこの都市で鍛冶師をやってるのが、環境という意味で、多少はその通り名に関係してるかもしれないけど」
「なるほどな」
父親が王都の官僚ともなれば幼い頃から様々な政治の知識に触れる事もあっただろうし、父親が鍛冶師なら幼い頃から剣に触れる機会も多かっただろう。
ある程度環境については納得できる。
「それでエカティーナって娘は父親は王都で官僚をしてるけど、彼女が住んでいる家はこの都市にあって、エカティーナとセリアーナは小さな頃から知り合いだったみたいね」
「ほう、そうなのか」
エルシア学園内で大仰な通り名を持ち、1年からそれぞれ学園内での役職を実力で奪い取ったという2人に繋がりがあったことに、なるほどと納得を示す。
リリアは話している内にどうやら興が乗って来たらしい、どんどんと饒舌に語りだす。
「それで2人共幼い頃からお転婆だったらしくて、学園生としては珍しい事に、学園に入る前から探索者としての登録をして、全て下級の迷宮とはいえ2人で数え切れないほどの迷宮を探索してたらしいわね」
「そうなのか、探索者になるのにどうやって親を説得したんだ?自分の娘をそんな危険に曝すのは反対すると思うんだが」
「そこはまあ、エカティーナがよっぽど弁舌巧みだったんでしょうね。セリアーナは寡黙らしいし、多分セリアーナの親もエカティーナが説得したんじゃないかしら」
「なるほど、しかし既に探索者だったのなら何故エルシア学園に入ったんだ?そのまま探索者を続けてた方がよほど効率が良くないか」
「まあ、始めっから桁外れの能力値を持ってて、個人的に優秀な指導者に付いて知識や技量を蓄えてたスレイ君には分からないだろうけど、エルシア学園卒業生って肩書きや学園で習える知識や技能は、この都市で探索者をやっていくのには、結構都合が良いものなのよ」
「ふむ、なるほどな」
「だからまあ、それまで探索者として下級の迷宮ばかりに潜っていた彼女達が、次の段階に行く前に学園に入ったのは賢い選択だと思うわ。まあ尤もそれ以前に、学園に入る前の年齢の女の子が既に探索者になってるなんて状況自体が珍しいことだけどね。……ただ貧しい家の子や家の無い子は幼い頃から探索者になって生存率が低いという悲しい現実もあるんだけど」
「……そうか」
「もう!さっきからスレイくんってば『なるほど』とか『そう』とか相槌ばっかり、もうちょっと色々と喋って自分の恋人を楽しませる工夫をしなさいよ!」
しんみりした空気を打ち消すようにリリアがスレイに突っ込みを入れる。
「すまないな、俺はそれほど喋る方じゃないんだ」
「嘘ばっか、自分の好きな事ならやたらと言葉数が多くなるじゃない、色々説明したりとかそういうの、少しはそういうのを甘い愛の言葉とかに変えてみたら?」
「……すまん、無理だ」
空気はしんみりとしたものから、どこかコミカルなものに変わる。
色々と悲しい現実はあれど、自分達にそれを変えるだけの力が無い事は2人共分かっていた。
片やは探索者ギルドのギルドマスターの娘とはいえただのギルドの一職員、片やは将来有望とはいえただの一探索者。
そういう世界の事情といったものを変えていくのは“王”たる者の仕事であり、彼らが手を出せる分野ではない。
リリアは強引に脱線した話を元に戻す。
「それで、2人の能力値なんだけど。ごめん、流石にそこまでは調べられなかったわ」
「そうか、まあ能力値なんて易々と人に見せるものじゃないしな。まあ尤も俺が今まで会った相手はあっさりと見せてくるような相手ばかりだったが」
「それはスレイくんが会った相手が特殊な相手ばかりでしょう。だけどまあ、全くの無収穫という訳でも無いわよ。エカティーナの職業が騎士系、セリアーナの職業が剣士系で、2人とも2回クラスアップしてる事までは調べられたわ」
「十分以上の収穫じゃないか。なるほど、2人共中級職で、なおかつLvは2人が同じぐらいのLvと考えると、聖騎士の必要Lv40と剣聖の必要Lv50の間と考えられるから、だいたい俺と同じくらいのLvか」
「そうね、そういえばそうだったわね。まだスレイくんって3回目のクラスアップもしてなかったんだもんね。スレイくんが今までやった色々なことを考えると正直もうSS級相当探索者以上と言っても過言じゃないから、そんなこと忘れてたわ」
「いったい俺のことはどこまで調べがついてるんだ?」
「それは秘密」
さて、とリリアは一度スレイと組んでいた腕を離すと、背伸びをするように両手を組んで上にあげ、そのあと身体の後ろで手を組み、スレイの方を振り向き告げる。
「それじゃあ情報屋リリアさんの仕事はここまで、ここからは楽しい恋人同士のデートね、情報代に見合うような楽しいデートを期待してるわよ?」
「ああ、分かった。せいぜいリリア姫の機嫌を損ねないよう努めさせてもらうさ」
そして2人は再び腕を組み歩き出す。
スレイはリリアだったら既に知っているだろうとは思いつつも、新しく仕入れた穴場のデートスポットとして、雰囲気の良い喫茶店や、可愛い物の揃ったアンティークの店、それに景色の良い公園などを巡り、恋人らしく注文したものを仲良く食べさせ合ったり、自分のセンスで選んだものを買ってプレゼントしたり、公園のベンチで語らったりと、リリアを楽しませるよう出来得る限り努める。
そしてそのまま最後はリリアを宿屋の自らの泊まる部屋まで連れ帰ると、ディザスターにはちょっと出掛けてもらうように頼む。
空気の読める邪神ディザスターは、スレイの頼みに従いそのまま外に出掛けていく。
そしてスレイは、じっくりととろかすような甘い言葉と愛撫でもってリリアの身体を開かせて行き、そのまま朝まで2人は体力の限界まで睦み合うのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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