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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
9話
 朝。
 心地よい感触と温度の枕の動きで目が覚める。
 勿論枕が動くわけは無い。
 動いたのは枕代わりにしていたディザスターだ。
 ディザスター自身の希望もあり、最近のスレイは毎日ディザスターを枕代わりに寝ていた。
『おはよう、主。今日は少し遅いお目覚めだな』
 目を覚ましたスレイは、ディザスターの言葉通りに既に日が昇り、普通の人が起きる時間帯である事に驚いた。
 いつもなら日も昇らぬ早朝に目を覚ましディザスターと共に鍛錬を積んでいるのだが。
 既に強大な力を持つ邪神であるディザスターだが、スレイの欲望を糧に、本来ならば真の神が行う事など無い筈の鍛錬を積み、中級そして上級の邪神に匹敵する力を身に付けようとしていた。
 さらにスレイに対しては、最上級の邪神すら越える力を身に付ける事を望んでいる。
 流石に真の神の1柱なだけはあり、時空間を歪めたりなど様々な特殊能力を用いてスレイの鍛錬を補助してくれている。
 スレイ自身の特性もあり、おかげでスレイの技量は日々別人の如く進化し続けていた。
 ただ、最近迷宮に潜っていないため、技量のみが向上し、Lvが上がっていないため、能力値の向上は殆ど無い状態だ。
 最近、色々とあった為、スレイがLvアップを可能とするような上級以上の迷宮を探索する暇が無かった為だ。
 鍛錬の時間を迷宮を潜るのに使えばいいとも思うのだが、何故かディザスターは能力値の向上よりも、まずは土台となる技量の向上を優先するようにスレイに進言し、スレイはディザスターが言うことならばと、それを受け入れていた。
 それはともかく、遅い目覚めとは言え、ひどく心地良い目覚めであった。
 やはり昨日がスレイにとって充実した日だったからだろう。
 ジークは喜んで、ライオットとルーシーは嫌々とだったが自らを先生と呼ばせ、昔の夢である教師の気分を擬似的にでも堪能できたし、その後に、埋め合わせのように宿の浴場を貸切にしてフレイヤと行った、少しばかり過激なプレイにも非常に満足していた。
 フレイヤとは同じ屋根の下に居ながらも、他の客やサリアに気兼ねしてなかなかそういう事をする時間が取れないので、昨日は思いっきり欲望を満たされた。
 主であるスレイが欲望を満たされる事でディザスターのより良い糧にもなるらしいので一石二鳥である。
 スレイは少しばかり昨日の出来事を回想した。

 あの後、【始まりの迷宮】で、他の生徒達にも実戦を積ませ、実習が終わり、迷宮を出た後。
 学園に生徒達を送り届ける役割をフレイヤに任せ、スレイはライオット、ルーシー、ジークの3人を連れ円形闘技場へと向かった。
 そして円形闘技場に着くと、まずは3人の能力値を確認した。

ライオット
Lv:16
年齢:17
筋力:C
体力:C
魔力:C
敏捷:C
器用:D
精神:E
運勢:D
称号:エルシア学園生徒、エルシア学園3年主席
特性:魔力操作、魔法上昇、戦技上昇
祝福:戦神アレス
職業:騎士
装備:アダマンタイトのツーハンデッドソード、アダマンタイトのプレートメイル、アダマンタイトの大盾、重量軽減のアミュレット
経験値:1586 次のLvまで14必要
預金:0コメル

ルーシー
Lv:10
年齢:15
筋力:E
体力:E
魔力:SS
敏捷:C
器用:D
精神:E
運勢:D
称号:エルシア学園生徒、エルシア学園1年主席
特性:魔力操作、思考加速、思考分割、魔法上昇、攻撃系魔法効果上昇、防御系魔法効果上昇、補助系魔法効果上昇、光系魔法効果上昇、高速詠唱、光属性
祝福:光神ヴァレリア
職業:魔術師
装備:魔女の杖、魔女の三角帽子、魔女のローブ
経験値:984 次のLvまで16必要
預金:0コメル

ジーク
Lv:11
年齢:16
筋力:E
体力:C
魔力:E
敏捷:B
器用:C
精神:C
運勢:F
称号:エルシア学園生徒、エルシア学園2年主席
特性:闘気術、格闘技上昇、寸勁、浸透勁、化勁
祝福:闘神バルス
職業:闘士
装備:ミスリル絹のセスタス、布の服、布のズボン、革のスニーカー
経験値:1024 次のLvまで76必要
預金:0コメル

 探索者養成学園の名門エルシア学園の各学年の主席というだけはあり、3人共、なかなかに優秀な能力だった。
 ライオットは英才教育を受けてきただけあり、Lvも高く、堅実に纏まった能力値だし、ルーシーは予想通りに桁外れの魔力と魔法の特性を持っていた。
 だがやはりスレイはジークに一番注目する。
 戦いにおいて、スレイが最も重視している速度、敏捷がBということで、能力値も惹かれるものがあるし、スレイが知らないような特性まで備えていた。
 “寸勁”と“浸透勁”。
 寸勁とは零距離で、肉体の力と闘気の力を最大限に活かし、爆発的威力の攻撃を放てる特性で、浸透勁とは敵の内部に物理的衝撃と闘気の衝撃を防御を無視して徹す攻撃が放てる特性らしい。
 ジークに聞くとすぐに答えてくれた。
 やはり一番の期待が持てるのはジークだな、とスレイは思う。
 尤も、自分と同じ黒髪に黒い瞳に、そのやや幼く見える容姿、そして向けられる憧れの眼差しに、まるで弟のように感じられるので、その贔屓目もあるかもしれないが。
「それじゃあお前達、今日から俺の事は先生と呼べ」
「はい、先生!」
「はぁ!?」
「ふざけるな!何故お前などをっ!」
 一瞬、軽く振るわれた剣の軌跡がライオットとルーシーの間を通り抜け、深い溝を作り上げる。
 ライオットとルーシーは顔を蒼白にし、ジークはますますスレイに尊敬するような視線を向けてきた。
 スレイは何事もなかったかのように繰り返す。
「さて、いいかお前達、今日から俺の事は先生と呼べ」
「はい、先生!」
「わ、わかりました、せ、先生」
「ぐぅ、わ、わかった、せ、先生」
 スレイは満足したように頷くと、やや感慨深げな視線になる。
「さて、今日は少しばかりお前たちに自分の実力というものを思い知ってもらおうと思う。3人全員で俺にかかってこい」
 その言葉に、ジークは瞳を輝かせ身構え、他の2人は蒼白な顔色のまま及び腰に身構える。
 そして数秒後、3人全員が地に倒れ伏せていた。
「す、すごいです先生。僕達とそう年も変わらないのにこんなに強いなんて」
 ジークはそれでも憧れの視線をスレイに向けている。
 他の2人は何も言えず、ただ地に伏せていた。
「さて、これでお前達も自分の身の程というものが分かったと思う。俺のような若輩者にさえ3人がかりで勝てないんだ。学園の中で強いからと言って天狗になるな。特にルーシー、お前だ。偶然大きな力を手に入れたからといって、扱いこなせなければ何の意味も無い、そこを少しは考えるんだな」
 その後、倒れたままの2人を尻目にスレイはジークと少しばかり世間話などする。
 そして面白い事実を知った。
 どうやら各学年の主席とは言っても表での話で、裏を含めると彼ら3人がエルシア学園最強という訳では無いらしい。
 授業にも実技にもほとんど出ず、だけど実力は折り紙付きで、3人でも相手にならないような、裏で学園最強と呼ばれる生徒が2人程いるそうだ。
 1人は生徒会長“女帝エンプレス”、もう1人は風紀委員長“剣女神ソードゴッデス”。
 学園内での通り名とは言え随分と大仰な通り名である。
 特に“女神”の名を冠するなど、“刀神”クロウじゃあるまいし、学園内だけであれど、随分と不遜な通り名だ。
 ひどく興味をそそられ、会ってみたいものだと思う。
 暫く経ち、ライオットとルーシーの2人がようやく起き上がれるようになったので、3人を解散させる。
 最後に、次からもフレイヤの臨時講師の際は、3人だけ自分の特別授業を受けさせるという事を告げる。
 ジークは目を輝かせて喜びの表情をし、逆にライオットとルーシーは絶望すら感じさせる顔をしていた。
 その後、自らも帰路につき、宿に戻ったスレイはフレイヤに引き摺られるようにして浴場まで連行された。
 どうやらせっかくスレイと存分にイチャつくつもりだったのが、色々と予定が狂って不満な様子だった。
 そして1時的に貸切にされた浴場で2人は過激なプレイに興ずる。
 そんな密度の濃い時間を過ごし宿の自分の部屋に戻ったスレイははしゃぐディザスターに迎えられ、そしてそのままディザスターを枕にして眠りについた。

 昨日の回想を終えたスレイは、ライオット、ルーシー、ジークに対しての態度を冷静に思い返し、僅かに羞恥を覚える。
 一方的に力で叩きのめして説教とは、何と言うか自分が恥ずかしくなった。
 昨日は先だっての刀神クロウとの戦いで浮かれた気分がまだ続いていた上、夢だった教師の真似事ということもあって少しはしゃぎすぎていたと反省する。
 確かにルーシーの増長は自分にも原因があることだが、同じ教えるにしてももっと他にやり方があっただろうと自分に対して頭を抱える。
 そしてこの日は、スレイは羞恥の感情に何もする気が起きず、せっかくの迷宮探索ができる貴重な時間を無駄にしてしまうのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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